民間軍事会社"鎮守府"   作:sakeu

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めりくり、めりくり!っと言うわけでクリスマス回です。

しかしながら、クリスマスという日はどうして浮ついたカップルが多発するのでしょうか?こんなクソ寒い中、わざわざ外に出てイチャイチャと…………ん?羨ましいだけだろって?まさか。私は熊野のサンタコスを拝めるだけで満足です。
とおおおおおおお↓おおおおおお↑おおおおッ!





閑話3"めりくり"

 

 

 

 

「めりくりめりくり!提督めりくりだよー!」

「…………めりくり?栗の一種か何かか?」

 

 駆逐艦たちによって、華やかに飾られた執務室にサンタのコスチュームでやってきたのは鈴谷だ。もうすでにめりくりの正体など分かっている俺ではあるが、ここはあえてとぼけてみせた。

 そんな俺に、鈴谷はむーっと不満げな顔をしてみせる。

 

「冗談だ。メリークリスマス、の略なんだろ?」

「そうそう!あとは何をすべきかは分かっているよね?」

 

 不満げな顔から一転、何かを期待する眼差しをこちらに向ける。しかながら、鈴谷のコスチュームは肩を大胆にも露出しており、真冬のこの季節にはいささか寒そうである。

 

「何をすべき、とは?」

「もう…………鈴谷にプレゼント、ちょーだい?」

「…………今日は何日か分かっているのか?」

「嫌だなー、分かってるよ。12月24日でしょ?」

「そうだな。イエス・キリストの誕生日の前夜祭だ」

 

 一週間ほど前から、鎮守府では少しずつクリスマスムードになり、前日の今日は明日に向け、駆逐艦の娘たちと準備をした。クリスマスツリーもあらかじめ注文しておいたものを設置し、いたるところに飾りつけがなされている。料理は間宮さんと鳳翔さんが腕を振舞ってくれるらしく、俺も楽しみにしている。

 さらに、俺は授業を使い駆逐艦たちにサンタさんへの手紙を書かせて、欲しいものを把握し、先程長門と買いに行ったばかりだ。浮かれた顔でイチャつく、若いカップルの中を行くのはいささか不本意だったが、駆逐艦たちのためだ、しょうがない。

 そんな感じに、すっかりクリスマスムードだが、今日はまだクリスマスじゃない。明日は一日中仕事が出来ないため、その日の依頼は全て断り、一週間かけて、その日の分の仕事を消化している。今とて、執務の真っ只中であり、ここ一週間の平均睡眠時間は3時間は切る。そこにクリスマスの準備も重なり、大変疲れている。それはもう、過去最高クラスに。

 今朝も叢雲に

 

「死人の顔をしてるわよ」

 

 と言われてしまった。"死にそう"からついに死んでしまったのである。

 そんな中に、鈴谷が来たのである。それもプレゼントをせがみに。勘弁して欲しい。

 

「鈴谷、イエス・キリストの誕生日の前夜祭を世間では何というか知ってるか?」

「え、クリスマス・イブでしょ?」

「正解だ。とういうことは今日はクリスマスではない。だから、今日めりくりと言って、プレゼントをせがむのは間違いだ」

「えー、いいじゃん。細かいことを気にし過ぎだよー」

「そもそも、上司にプレゼントをせがむとはどういうことだ」

 

 変人などと呼ばれているが仮にも社長なんだぞ。

 あー…………筋トレもできていないし、仕事も捗らないし…………最近はミスが目立つから、俺の疲労の酷さが伺える。

 人を死人と呼んだ叢雲が本気で俺を心配したくらいだからな。

 と行った矢先からミスに気づいた。この一文全て書き直しだ…………俺は舌打ちして、バックスペースキーを長押しする。

 

「ぬぉ!?あぁ…………消さんでいいところも消した…………」

「もう、仕事ばっかりしないでさぁ、提督もクリスマスモードに入っちゃなよ!」

「そういうわけにもいかん。というわけで、早とちりしたサンタさんはお引き取りください」

 

 ぐぬぬ、と何か言いたげな顔でこちらを睨むが、放っておいて俺は執務に集中だ。とっとと終わらせて早めに寝ないと、明日は死に顔のままクリスマスパーティーに参加しなければならなくなる。

 

「いい加減にしろ鈴谷。提督も明日のために頑張ってるんだ、その気持ちくらい汲み取ってやれ」

「そうですわよ。大のレディがプレゼントをせがみませんの」

 

 ここに来て、長門と熊野が注意した。2人に言われてしまっては鈴谷もこれ以上、駄々をこねるわけにはいかないようだ。

 その2人も心なしか浮かれている気がする。長門はきっと明日のクリスマスパーティーに胸が熱くなっているのだろう。イベント時の子供のはしゃぐ無邪気な姿に。熊野に至っては鈴谷と同じくすでにサンタコスである。だから、一足早いって。

 

「むー、そういう熊野だって地味にサンタコスに着替えてんじゃん!」

「プレゼントを貰いに来たあなたと一緒にしてもらっては困りますわ。わたくしは提督にプレゼントを渡しに来ましたのよ?」

「…………サンタって夜にひっそりとプレゼントを置いていくものじゃないのか?」

 

 このサンタは白昼堂々とやって来てるんですが。それに、プレゼントも見当たらない。

 

「提督、おっしゃってる意味を分かって言ってるんですの?」

「はぁ?」

「レディに夜、自分の部屋に来い、と言っているようなものですわ。わたくしからしたらかまいませんけど」

「そこはかまえよっ、とそれはいい。その前にまず君の言うプレゼントやらはどこにあるんだ?」

「わたくしと一緒に過ごす、ということですわ。この上ない贈り物でしょう?」

「…………」

 

 ここまで、自信を持って言われては突っ込む気も失せる。突っ込む気力があるのなら仕事に回せ、と言う話なんだけどな。

 

「何か言いなさいな」

「…………君と一緒に過ごせて光栄だ。なんなら執務を手伝ってくれるとなお嬉しい」

「それは遠慮しますわ」

 

 あっさりと断られてしまった。サンタをやるのならもう少し徹底してほしいものだ。

 ちなみにご丁寧にも俺用のサンタコスまで準備してある。こちらは熊野や鈴谷のようにサンタ風コスチュームではなく、本物に忠実なスタイルのコスチュームだ。白髭まで用意されてる。つまりは、夜、駆逐艦たちの部屋にプレゼントを置く際、着ろということだ。

 

「とにかく、仕事を手伝う気がないのなら出てくれ。もう一度言うが、今はクリスマスじゃない。クリスマス・イブだ。俺とて暇じゃない」

「ぶー、ならちゃんとプレゼント用意してよね?」

「わたくしの分もお願いしますわ」

「どこまで図々しいんだ!お前らは!」

 

 熊野に至ってはさっき、自分からせがむのはレディじゃないとか言っただろ。

 ともかく、俺は1日早まったサンタ2人を執務室から締め出した。

 

「はぁ…………これでやっと落ち着く」

「それだけクリスマスが楽しみなんだよ」

 

 長門もな、と言いかけたが自分もそれなりに楽しみにしているので言うのをやめた。子供時代はともかく、軍隊に所属しているときはクリスマスパーティーなどしたこともない。それは艦娘たちも同じだろう。

 

「そのために明日は全面的に休暇としたんだからな。俺もゆっくりとできる」

「ああ、その前に最後の一仕事を終わらせよう」

 

 と、長門はラッピングし終えたプレゼントを手に取った。妙に静かだと思ったら、ラッピングをしていたのか。プレゼントそれぞれにわざわざ小さな手紙まで添えてある。

 

「…………なぁ、暁や夕立ならともかく、不知火や時雨とかはサンタを信じているのか?」

 

 同じ駆逐艦と言えど、全員幼いというわけではない。時雨や不知火を代表したが、響のように大人びた娘がいれば、白露や村雨などのように見た目も大人びた娘がいる。彼女らがサンタの存在を信じているか疑わしい。

 ちなみに自分は6歳の頃にクリスマスパーティーのとき、サンタの格好をした施設の人に出くわすまで信じていた。その人に出会った瞬間の衝撃は今でも忘れられない。

 

「提督、子供というのは案外信じているものだ」

「そうかなぁ…………」

 

 現代の子供は現実的だと聞いてるが…………

 

「ちなみに私は18までは信じていたぞ」

「君って、意外とそういうところあるよな…………」

 

 華やかな戦歴を誇り、ほかの艦娘たちからも絶大な信頼を得ている長門であるが妙に子供っぽいところがある。駆逐艦と触れ合いすぎて長門まで子供になってしまったのか。

 

「まぁ、何にせよ、久しぶりのクリスマスだ。楽しもうじゃないか」

「そうだな。クリスマスパーティーは何年振りかなぁ」

「ああ、胸が熱いな」

「羽目を外しすぎないようにな」

「それはそうと、提督これを着るつもりはあるのか?」

 

 と、俺の後ろにぶら下がる、サンタコス一式を指差しながら言った。これを用意したのはたしか熊野だった気が…………もしかして、あいつはこれをプレゼントというわけじゃないだろうな。

 ちなみに、俺がサンタコスを拒否でもしたらトナカイコスとなり、熊野に顎で使われる羽目になったらしい。今更だが、賢い判断ができたと思う。

 

「まぁ、楽しむには形から入るのもいいだろう。今夜からにも使わせてもらう予定だ」

 

 使う理由はもちろん、プレゼントを置くときにだ。これでもしもの場合にも対処できる、かもしれない。

 

「だが、その仕事を終えないと話にならないぞ」

 

 長門は苦笑しつつ言った。

 楽しい話でこの辛い状況をごまかそうとしたのに…………これでは再び憂鬱な気分に戻ってしまうではないか。

 

「分かってる、サンタも大変なもんだ…………」

 

 眼前のモニターに目を向けつつ、俺はボヤくように言った。

 こうして、俺はアホのように多い仕事に再び取り掛かることになった。

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

「提督、準備はいいか?」

 

 深夜、サンタコスを身に纏いプレゼントを抱える、長門は小声で言った。

 

「随分と楽しそうだな…………」

「当たり前だ、駆逐艦たちの可愛い寝顔姿を見れると思うと胸が熱くなる。彼女たちは天使だからな…………」

 

 放っておくといつまでも駆逐艦たちの良さを言い続ける勢いである。彼女を尊敬する者がこの姿を見たらどう思うだろうか。

 

「早く行こう。俺ももう限界だ…………眠ってしまわないうちに終わらせてくれ」

 

 平然としているように見えるが結構疲れがきているのだ。ジッとしていたら寝てしまう。

 

「そうだな、だがくれぐれも駆逐艦たちを起こすなよ?バレたりでもしたら、子供の夢を壊すことになる。大人としてそういうことはあってはならないんだ」

「分かってる、分かってる。俺が力つきる前に始めてくれ」

 

 俺の体がいい加減、時間外労働でストライキを起こしそうだ。しかし、そんなときに限って長門は饒舌になり、熱く駆逐艦のことを話すからたまったもんじゃない。

 

「そうか…………提督、ヒゲが取れてるぞ」

「ん…………これでいいか?」

「ああ」

 

 このヒゲにこだわる理由が分からないが、そんなことを聞いて時間をかけるわけにもいかない。

 

「よし、行くぞ」

「おー」

 

 勇み足で先頭を行く長門に俺は覇気のない声とともに後に続いた。

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

「ふぅ…………意外と疲れるな」

 

 あらかたのプレゼントを配り終え、俺は軽く息を吐いた。

 この任務、駆逐艦たちを起こさないようにかなり神経を使うので精神的に疲れる。元の仕事柄上、夜目はかなりきくのでうっかり、なにかを落とすという失態は起こさない。まぁ、昔は物音を立てれば死が来るという状況に幾度も立たされているので、今回の任務も朝飯前といえば朝飯前だが、こちらは子供の夢を抱えている。下手に手抜きもできない。

 

「それにしても、不知火は意外だったな…………」

 

 不知火のベッドにはご丁寧にも大きな靴下がぶら下げられていた。案外、そういうのを信じているのかもしれん。

 

「むっ…………」

 

 ふと、俺は胸元にあるペンを取り出し後ろに投げた。何かに当たるとともにイテッという声が聞こえた。

 

「誰だ?」

「あちゃー、バレた?気配消したつもりなのになぁ…………」

「…………川内か。問題に問わないからさっさと部屋に戻れ。あと、いくら言っても夜戦の回数は増やさんぞ」

「ち、違うよ、提督。夜の散歩をしてたら、変な人物がうろちょろしてるのを見つけて追跡してただけ」

 

 今気づいたが、俺はかなり不審者だ。何せ、サンタコスで真夜中の駆逐艦寮をうろついている。

 

「っと、思ったら提督だったんだけどね。何してるの?」

「見ての通り、サンタとしての仕事を全うしているだけだ。分かったならさっさと部屋に戻れ」

「へぇ…………私たちにはないの?」

「そういう歳でもないだろ?むしろ、俺がプレゼントを置きに部屋にでも入る方が問題だ」

「えー…………私もプレゼント欲しいなぁ」

「明日、やるから我慢しろ」

 

 駆逐艦はサプライズ形式でプレゼントを渡すが、それ以外は普通に手渡しだ。そもそも、ここ全員分のプレゼントを配り回るとか大変過ぎる。

 

「それにしても、提督よく気づいたね。夜の行動はバレないって自信があったのに」

「あれで隠密行動してるつもりなら甘いな。気配が消しきれていない上に物音を立て過ぎだ」

「え?物音なんてほとんど立てていないつもりなのに…………」

「俺は昔の職場上、音にはかなり敏感なんだよ。言っておくが、お前よりもプロだと思う」

 

 自分よりも強大な敵に立ち向かうには方法は2つ。より強大な武器を得るか、奇襲だ。奇襲は少数でも多数の軍勢を全滅させることすらできる。しかし、こちらはバレたりでもしたらあっという間に全滅する危険性が常にある。

 

「本当!?提督も夜戦が好きなの?」

「うるさい!…………好きではない。だが、仕事上夜戦が多かった、それだけだ。分かったら寝ろ」

 

 そう言い、俺は最後のプレゼントを片手に第六駆逐艦のいる部屋へ向かおうとした。しかし、裾を掴まれた。

 

「ねぇ、私にその極意教えてよ」

 

 声は小声だが、明らかに期待が含まれていた。振り返ると、目をキラキラさせて、羨望の眼差しを向ける川内の姿があった。この時、俺は口が滑ったということを今更気がついた。疲れているときは言わなくてもいいことを言ってしまう癖が出てしまった。

 

「断る。強いて言うなら、夜戦をすることがないというのが最大の極意だ」

「なにそれ、つまんないなぁ。私に物音を立て過ぎだって言ったんだからには、物音を立てない方法でも知ってるんでしょ?」

「そんなのは知らん。だから、さっさと寝ろ」

「教えて」

「断る」

「教えて」

「断る」

「お・し・え・て」

 

 なんとも、非生産的な掛け合いが続く。しかし、こちらが折れてしまえば、夜にまで借り出されてしまうという事態になりかねない。ただでさえ、今の執務にいっぱいいっぱいなのに、これ以上仕事を増やしたくない。

 

「…………!川内、静かにしろ。誰か来る」

「え?」

「いいから、静かにしろっ」

「えっ…………ふぐっ!?」

 

 廊下の向こう側から気配を感じた俺は、川内の口を手で塞いだ。

 

 コツ…………コツ…………

 

 やはり、気のせいではないな。徐々に足音が近づいて来る。音が少し軽いから、駆逐艦か?

 

「すごいね!あんな遠くから来た足音に気づくなんて」

「だから、うるさいと言ってるだろ!」

「誰…………?」

 

 思わず声を荒げてしまった。お陰で、気づかれてしまった。

 

「ん…………あ、サンタさんだー…………」

「暁?」

 

 足音の正体は暁だったか。トイレにでも行ってたのだろうか。眠そうな顔を擦りながら、覚束ない足取りでこちらに駆け寄った。

 普段の暁は、自らを"一人前のレディ"と言い、それらしい行動を心がけている。しかし、それははたから見れば背伸びをする子供のそれであり、非常に微笑ましい。

 暁は子供扱いされることを嫌がるが、こちらからすれば思わず子供扱いしてしまう。

 夜1人でトイレに行けずに俺を起こしに来ることが度々あるなどやはり子供だ。だが、俺の部屋まで来れるのにトイレには行けないというのはいささか謎であるが。

 

「サンタさん…………暁ねぇ…………1人でトイレに行けたんだよ…………えらいでしょ?」

「…………ああ、偉いぞ」

 

 俺はしゃがみ、暁の頭を撫でた。普段は嫌がるこの行為だが、今回の暁は嬉しそうに微笑んだ。

 

「じゃあ、暁はプレゼント貰えるの?」

「ああ、もちろんだとも。サンタさんは君がいい娘だということを知っているからね」

 

 四姉妹の長女として、まとめ役をしっかり務めていることを俺は知っている。

 彼女ら四姉妹には親がいない。それ故に暁は長女として親の代わりになれるように努力しているのだろう。そのことは決して馬鹿にできない、むしろ大人である俺が尊敬してしまうほどだ。

 

「本当?」

「本当だ」

 

 すると、暁はこちらに抱きついた。

 どうやら限界だったらしい。スヤスヤと可愛らしい寝息をたてて寝てしまった。そんな彼女を俺は抱き上げると、より一層抱きしめる力が強くなった。

 

「…………川内、暁のためにも今回のことは後にしてくれ」

「分かった、それじゃあ私はドロンするね」

 

 そう言い、川内は自分の部屋へと帰っていった。それなりの配慮はできるらしい。

 

「スー…………スー…………」

 

 幸せそうに眠る、暁を見ると思わず微笑んでしまう。

 父性というやつなのだろうか?まぁ、自分が親代わりにでもなれるのならいくらでもなってあげれる。いや、そんなことくらいしか彼女らにできることがないのかもしれない。

 こんな幼い娘たちを戦地へ出すということに対して、俺が返してやれることはあまりにも不釣り合いなものだ。しかし、こんな変人な俺だからこそ、やってあげれることがある。

 

「…………よいしょっと」

 

 ベッドに暁を下ろし、それぞれの枕元にプレゼントを置いた。サンタが俺だということを除けば、きっと素晴らしいクリスマスとなることだろう。

 小さな兵士たちを後に、俺は部屋を出た。

 

 

 

 ーーーー

 

 

 

「めりくりめりくり!提督めりくりだよー!」

「…………めりくり」

「…………」

「おい、のってやったのにその反応はなんだ」

 

 今日こそ正真正銘のクリスマスだから、ちゃんと返事してやったのにその変な奴を見る目をやめろ。

 

「まぁ、そこは置いといて…………鈴谷にプレゼントちょうだい!」

「置いとくな、プレゼントなら…………ほい、ありがたく受け取れ」

「お?本当に貰えるの?やったー!」

 

 プレゼントの入った包みを受け取り喜ぶ鈴谷。きっちりと感謝してほしいものだ。

 

「あら、提督、わたくしにはありませんの?」

「ほら、君の分もきちっとある」

「ありがたく頂戴いたしますわ。ところで、サンタコスは着てなくて?」

「一応、昨日の晩は着たぞ」

「わたくしとしては今、着てほしいですわ」

「白昼堂々と歩き回るサンタもどうかな、と思ってだ。それにサンタは3人もいらないだろ」

「そうですの…………ならちょうどトナカイ役が空いていますわよ」

「上司に何を着せようとしてるんだ…………」

「ちゃんとソリも用意してますわよ?」

「さらにタチが悪いじゃないか!」

 

 雰囲気でもう分かるかもしれないが、今日はクリスマスである。キリスト教においてイエス・キリストの降誕祭であるが、日本では宗教的側面が完全に払い除けられただの祭りごととして、一つのビッグイベントとして楽しまれている。ただ、そこにカップルとの関連性があるのかは分からない。

 

「おはよう、司令官」

「おう、叢雲か。メリークリスマス」

「はいはい、メリークリスマス」

「ねぇ、叢雲、ノリ悪いよ?」

「子供じゃあるまいし、そこまではっちゃける気はないわ」

 

 しかし、俺は知っている。彼女は間宮さんが今日の日のために作ったケーキが楽しみだということを。他の人からは分からぬかもしれぬが、いつもより顔が緩んでいるのだ。無論、そんなこと言ったら今後のコーヒーが長門ブレンドに差し代わる可能性が高いので言わないが。

 

「叢雲、はい」

「ん、プレゼント?わざわざ準備してくれたの?」

「当たり前だ。皆の分を準備して叢雲だけ準備しないということをするわけがないじゃないか」

「そう…………ありがと」

 

 ひさびさに叢雲の感謝の言葉を貰った気がする。こういう叢雲が見れるのもクリスマスのおかげかな?

 

「あれ、長門は?」

「今は駆逐艦たちと一緒だ。あとで駆逐艦たちとこの部屋に来るらしい」

 

 今頃はプレゼントに大喜びしている頃だろう。プレゼントを開け、満面の笑みを浮かべる姿が容易に想像できる。しかし、こんなことを考えると自分ももう大分大人になってしまったんだなぁと思わず感慨深く思ってしまう。

 昔は誕生日が来るのを楽しみにしていたが、三十路を迎える恐怖のカウントダウンになりつつある。

 

「それにしても、あんた顔色がマシになったわね」

「顔色が悪い奴と一緒にクリスマスパーティーをしたいとは思わんだろ?」

「そうね」

 

 今日の朝は目覚まし時計もかけず任意の時間に起きることができた。仕事がない日がこんなにの素晴らしいとは。

 

「はぁ…………こうゆっくりできると逆に落ち着かないな」

「ワーカーホリックってやつかしら?ま、コーヒーでも飲んで一息つきなさいな」

「ありがとう。世界一うまいコーヒーが飲めて光栄だ」

「お世辞を言っても何も出ないわよ」

「お世辞も何も俺の中では叢雲が世界一だ」

「そ、そう…………ありがと」

 

 なぜか感謝された。

 叢雲はそっぽを向いて、コーヒーを渡した。耳がほんのり赤い気がする。

 

「提督、熊野の紅茶も美味しいですわよね?」

「ん?そうだな」

 

 いきなり、熊野にそう言われて、とっさに適当な返事をしてしまった。しかし、俺は紅茶派ではないので美味しいかと聞かれてもよく分からない。

 

「わたくしが世界一ですわよね?」

「なんでそんなことを聞くのだ?」

「いいですから!」

「そ、そうだな。熊野が世界一だ」

「そうでしょう?」

「一体なんなんだ…………なぜ、俺を蹴った叢雲」

「別に?」

 

 今度は蹴りですか。朝から理不尽なこったい。

 

「メリークリスマスっぽいー!」

「提督、メリークリスマス」

「おう、めりくりだ」

 

 執務室のドアから出てきた2人組。夕立と時雨だ。

 夕立は謎の語尾「ぽい」が特徴的な娘だが、一言に言うのなら犬っぽい。あ、俺まで感化されてしまってる。

 その犬っぽさは性格的にも外見的にも表されており、犬のようにじゃれついて来たりする。また、見た目はアホ毛が犬耳のように見え、より犬っぽさを促進させている。

 それに対して時雨は物静かなタイプである。確かな実力を持つものの、大変謙虚で一歩引いた娘だ。ちなみにこちらもアホ毛が犬耳のようになっている。

 そんな2人だが、この鎮守府で唯一改二まで改装されている艦娘である。2人は海軍の最前線として戦っており、その戦闘力は駆逐艦の中では突出しており、どうしてこの鎮守府に来てくれたのか分からないほどである。

 あ、蛇足かもしれんが俺は残念ながら猫派だ。それがどうしたかと言われても全く関係ないとしか言えないが。

 

「提督さん!プレゼント貰ったっぽい!」

「良かったな。いい娘にしていた証拠だ」

「そうっぽい!」

「時雨も貰えたか?」

「うん、お陰様でね」

「うんうん。君もいい娘だからな」

「ふふ、ありがとう」

 

 夕立はともかく、時雨は最近笑顔をよく見せてくれるようになったなと思う。ここに来た当時は妙に取り繕った表情が多かったが、今は心から笑えってくれるようになった、気がする。

 

「まぁ、2人ともパーティーを楽しんでくれ…………って、もう楽しんでるか」

 

 俺は苦笑しつつ、時雨の頭にあるサンタ帽に目を向けた。

 

「あっ、これは…………」

「起きた時からこの格好っぽい!」

「そうか、そこまで楽しみだったか」

「ち、違う…………わけじゃないけど、これは…………」

「別に恥ずかしがることはないだろう」

 

 と頭をポンポンと叩く。普段は滅多なことがない限り同様を見せない時雨が顔をサンタ帽の色と同じく赤くなる。

 まぁ、時雨も難しい年頃なのだろう。思いっきり楽しみたいけど周りの目もきになるような頃だろう。夕立は違うかもしれんが。

 

「間宮さんがクリスマス料理を用意してるぞ。もう、長門たちもそこにいるだろうから早く行かないと無くなってしまうぞ?」

「それなら早くしないと!時雨、行くっぽい!」

「う、うん」

 

 と夕立は慌てて執務室を出た。元気なやつだ。

 

「時雨?行かないのか?」

「行くよ、でも、その前に」

 

 と時雨は顔を近づけ耳元で

 

「プレゼントありがとう、提督」

「お、おう…………他の娘たちには秘密にしてくれよ?」

「分かってるさ。それじゃあ、また後で。メリークリスマス」

 

 そう言い残して、時雨は執務室を去った。やっぱり、時雨は分かっていたか。きっと優しい彼女だ。わざわざ言いふらして夢をぶち壊す真似をするまい。

 

「相変わらず、駆逐艦にはだだ甘ね」

「だだ甘とは?俺は1人の大人として子供たちの未来を守っているだけだ」

「はぁ…………でも、あんまり子供扱いするのもよくないわよ?」

「そうだな。時雨とかはいい加減鬱陶しく思い始めるかもしれんな。と思ったが君も駆逐艦じゃないか」

「そうね。でも、ここの駆逐艦の中じゃ最年長だし、もう大人よ?」

「…………そうだな」

「何よ。何か言いたげね」

 

 叢雲が大人だということは元々知っている上、立ち振る舞いからしても察することはできる。ここまで冷静沈着な子供なんていたら逆に怖いくらいだ。

 まぁ、どことは言わぬが時雨や夕立の方が大人だったりする部分があるが。

 

「失礼なこと考えてたでしょ?」

「まさか。非常に頼りになる部下だと思っていただけだ」

「あんた、顔には出ないけど嘘は下手ね」

「…………もう、この話はやめだ。とにかく、クリスマスパーティーを楽しもうではないか」

 

 今更気がついたが、鈴谷と熊野がいない。あいつらどこに行きやがった。執務室で好き放題していたかと思えば消えよって…………

 

「鈴谷と熊野は?」

「あんたが夕立と時雨に夢中な間に食堂へ向かったわ」

「食い意地のはったやつらめ」

「早くしないとその食い意地のはった娘たちに食べ尽くされてしまうわよ」

「それは良くない。なら、さっさと行かないとな」

「分かってるなら、早くしてちょうだい」

「いや、熊野から貰ったサンタコスの帽子が見当たらないんでな」

「コスなんて着ないって言ったじゃない」

「帽子だけでも被って、雰囲気を楽しもうと思ったんだが…………仕方ない、行くか」

 

 昨日のサンタ執務は疲労の極みでフラフラしながらやっていたものだから、落としてしまったのかもしれん。

 

「あ、そうだ。叢雲」

「何よ?」

「めりくりだ」

「…………メリークリスマス、ね」

 

 およそ数人で始まったこの鎮守府。しかし、一年近く経つうちに立派な鎮守府と変わった。今日くらい、羽目を外しても誰も文句は言うまい。

 この日、鎮守府に依頼の電話が一度もなかったのはサンタのプレゼントなのだろうか。そうなのなら、俺はありがたく貰おう。




次回からは本編へと入っていきます。その間もリクエストは受けるので活動報告にてリクエストください。

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