艦これに疎い頃から加賀さんだけは知ってたんですよ。いや、きっかけはプロ野球の加賀さんからなんですけどね…………
加賀はムエンゴとお友達…………
加賀、加賀、加賀、加賀繁とか言ってますけど加賀さんは出ません。加賀ファン、加賀繁ファンの方すいません。むしろ天龍回です…………
「艤装の修理は終わりましたし、調整も終えました。問題ないですよ」
工廠の技術者である橘さんはこの道30年越えの超ベテランである。どんな時でもどんな艤装でも修理や調整、果てには改良までしてくれる。さらに凄いのは1人1人の体格や運動能力データからそれぞれにフィットした艤装に仕上げてくれるのだ。ちなみに、橘さんが手がけた艤装には橘の花のマークが刻まれている。
「鈴谷さんの握力が分からないもんですから推測で調整してあります。合わなかったら私まで、と言っといてください」
「感謝いたします。修理だけでも充分ですのにわざわざ調整までしていただいて…………夜中にご苦労かけました」
俺は直立して頭をたれた。
今は夜中の3時。普段からさまざまな装備で仕事が大変なのにもかかわらず、鈴谷の装備の調達までしてくれた。
橘さんは普段と変わらぬニコニコ顔のまま、ずらりと置かれた鈴谷の装備を一瞥したのち、俺を顧みた。
「久々、ど派手に壊してきたもんですねぇ」
俺は黙ってうなずいた。
橘さんは沈黙したまま、装備を再び見た。
「もう装備に関しては問題ないでしょう。でも、ほかにもっと大事なことがあります」
「装備よりも大事なことですか?」
橘さんは顔を変えず、
「提督さん、兵士にとって装備が一番大事だ、なんていうのはただの幻想です。そんなことよりも大事なものなんていくらでもあります」
橘さんはふいにかがみ、艤装をコンコンと叩いた。その艤装は壊れた面影はなく、新品同様だ。
「艤装はこんなにも立派に役目を果たしてます。でも、この持ち主が死を望むのであれば、これもただの鉄の塊です」
少しの間をおいて、ため息とともに言葉を吐き出した。
「艦娘は機械じゃないんです」
艤装は、問題ないですよ、静かにそう告げ、橘さんはそのままふらふらと立ち去った。
残された俺はただ黙って鈴谷の艤装を眺めた。
その後、天龍の方から話がしたいと申し出たのは、それから2日後のことだった。
執務室に入ってきた彼女ら元来勝気な性格からは想像がつかないほど物静かな顔で、ぽつりと呟いた。
「この前は悪かったな…………」
「おいおい、らしくないな?それにこの前の件は俺からふっかけたんだ。君が悪いというのはドアを壊したことくらいだろう」
無論、ドア代は天龍の給料からきっちりと差し引かせてもらった。
「そうか…………」
それだけ言い、あとは沈黙が残った。ここまで天龍が暗くさせるのは、何か原因があるのだろうか?しかし、俺からは口を開かず相手から話すのをひたすら待った。
「あのさ、オレ別のことで謝らないといけないことがあるんだ」
「謝ること?酒を飲んで暴れん限り、天龍が謝ることはないぞ」
「そんなことしねーよ」
天龍は苦笑いしながら言った。
「でも、提督…………」
「まだ納得しないのなら俺がいくらでも相手してやる。だが、周りに迷惑かけるの良くないぞ?」
俺の言葉に天龍は小さく笑った。
しかし、その笑いはどこか無理矢理作られたような気がした。
ーーーー
互いに口も開かず、張り詰めた空気のまま20分は過ぎただろうか。今日とて俺には仕事があるが目の前の彼女を放っておいてまでする気はさらさらない。そんな中、叢雲が客を連れてやってきた。
紫がかった黒のセミロングヘアー、すらりとした身体、大人びた雰囲気に髪と同じ色の目は魅惑的な女性、である。
執務室に入ってくる姿は気品すら漂い、どこぞの重巡も真っ青なくらいの淑女だ。
あの晩、隼鷹が言ってた人物か。
「初めまして、龍田だよ」
おっとりゆったりとした口調から思わず天龍の姉妹であることを忘れそうになった。
「天龍ちゃんがご迷惑をおかけしました」
「別に迷惑だとは思っていません。本人も反省してるようですし、謝る必要もないと話してばかりです。今日、親交を深めるためにも彼女に食事でも誘おうと思っていたところです。龍田さんがよろしければ、誘おうと思うのですが」
そんな俺の言葉にも龍田という艦娘はおっとりとした笑顔を絶やさず、
「天龍ちゃんを呉鎮守府に連れ帰ろうと思っているの〜」
この時、俺は初めて彼女が呉鎮守府に元々所属していたことを知った。
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この鎮守府に所属する方法はいくらかある。1つは別の鎮守府の提督さんから預かって欲しいと依頼され、ここにやってくる。この場合、ほとんどが艦娘たちの方から提督に願い出て、依頼してもらうのが一般的である。それに対して、直接こっちに来て雇って欲しいと願い出る者も少なからずいる。そんな艦娘は大体、無所属で行き場のなくなった者ばかりだ。
天龍は後者にあたる。ある日突然やってきて、「オレを雇え」と言ってきたのが記憶に新しい。面接では無所属と言われそのまま納得していた。
「オレ、呉鎮守府を抜け出してきたんだ」
静かにそう言った。
叢雲はギョッとしたように見えた。
「オレ、深海棲艦をぶっ倒すために必死に努力して強くなろうとしたんだ。でも、オレは遠征要員止まり。みんなはどんどん最新の装備を貰ってるのに、遠征要員のオレはいつまでも旧式。それが嫌になって飛び出してきたら、なぜかここに流れ着いたんだ」
自嘲するような乾いた笑みのまま、視線を落とした。
「でも、今思えばオレは遠征要員で妥当だったんだな」
吐き出された言葉は、痛切なものだった。
「お袋には会ってもいないし、連絡もしてねぇ。多分、お袋はオレが呉鎮守府で前線で頑張っていると信じて…………実際は遠征ばっかりで、挙げ句の果てに飛び出して…………」
語尾が震えていた。
「…………いつか、頑張ってるオレの姿を見せて喜ばそうって思ったのに…………」
気づけば天龍は泣いていた。
「もう戻ろう?天龍ちゃんは頑張ったわ」
静まり返った執務室に嗚咽のみが漏れた。
かつての強気な彼女はどこにもなく、今はこのまま消えてしまいそうなほど弱々しかった。
「それで、どうした?」
ふいに俺は口を開いた。
「天龍、君が無所属ではなかったことくらいとうの昔に知ってるさ。君の持ってきた装備に呉鎮守府のロゴがついてんだ」
天龍は少し驚いたように顔を上げた。
「だが、それがどうしたってんだ?君の努力の成果は、肩書きでもなければ出たと言えないのか?遠征要員?構わん、戦場で遠征だって必要不可欠だ。心待ちにしてる母がいるなら、胸を張ってそのことを言えばいい。何で恥ずかしがる必要がある?」
「…………でも、嘘は嘘だ。お袋を裏切ったうえに提督たちまで騙した」
「たしかに俺たちに嘘をついた。だが、母を裏切ってなんかいない」
俺は自分で自分の饒舌さに驚いた。全員びっくりしてこちらを見ている。
「裏切ってなんかいない。君の頑張りは事実だ。呉鎮守府を抜け出していようが、剣術に通じ、実力も高く、戦地に出れば必ず素晴らしい戦果をこの"鎮守府"で上げてきた。そのことはここの提督である俺がよく知ってる」
こんな分かりきったことが分からんのなら、全部俺が言うまでだ。
「笑いたいなら笑えばいい。だがな、君はたしかに前進してきた。俺が保証する。そもそも笑うやつなんかほっとけばいい。大切なのは体裁ではなくて熱意だ」
俺の言葉に再び沈黙が訪れた。
天龍の涙はいつのまにか乾いている。
俺は明日の予定表を取り出し、天龍の枠内に「3日間休み」と書き加えた。
「休日をやるから、胸を張って一度母に会ってこい。もちろん、有給だから安心してくれていい」
天龍が頭を垂れた。
「…………おう、ありがとな。提督…………ほんと…………」
そして、そのまま痛々しい声を絞り出した。
「お袋、先日死んだんだ」
俺は、自分の思慮の浅さに言葉を失った。
ーーーー
間抜けもここまで極まれば、笑うに笑えない。
執務室で俺は苦々しい顔で頭を抱えていた。
天龍にあの行動をさせた最大の原因は、母の死だった。
娘が頑張っている姿を心待ちにしたまま、真相も知らないで病気に倒れた母。しかし、天龍は秘密を抱えており、見舞いにも行けず、そうこうしているうちに母は他界してしまったのだ。自責の念にかられた天龍は、せめて葬儀は出て欲しいという姉妹の声も拒絶し、罪悪感を重ねたまま日々を過ごしているうちに、せめての償いとして活躍しようとしたのだろう。案じた龍田がわざわざ出向いてくれたが、かえって天龍に厳しい現実を叩きつける結果になってしまった。
そんなことも知らず、俺はあたかも分かっているように「母に会いに行けばいい」と。
何でそんな気遣いもできないのか、と頭の中で自分をどれだけ責めたところで、俺のやるせない気持ちがなくなるわけでもない。
ああ、と髪をぐしゃぐしゃに掻き毟るが毛が何本か抜けただけだ。1、2本白髪が混じってた。
「何やってるのよ」
しばらく、俺を眺めているだけだった叢雲が業を煮やしたのか目の前に立った。
この艦娘驚くほど働き者だ。俺を眺めつつも執務をこなしていた。
「見たまんまだ。自暴自棄になってるだけ」
「天龍のこと?」
「ああ」
俺は抜けた毛たちを疎ましく睨みつけてから、ゴミ箱に捨てた。
かっこよく天龍を励ましてたつもりが、知ったかぶりの的外れな説教に過ぎなかった。よくこんな奴が提督をやってるもんだ。
「大切なのは体裁ではなくて熱意だ」
叢雲が唐突に、俺のモノマネをしてみせた。まったく…………
「悪くないわ」
「…………何が?」
「だから、あのセリフよ。悪くないと思うわ。あんたの言葉もたまには役に立つわね。私は少し勇気をもらったような気がしたわ」
「君に勇気をやっても意味がないだろ」
「天龍も励まされたと思うわ。ちょっと的外れだとしても、あんたの情熱は伝わってるわよ」
なんとまぁ、叢雲が俺を励ましてくれてる。
珍しいこともあるもんだ。
「何が狙いなんだ?」
「素直じゃないわね。たまには素直に励ましを受けなさい。コーヒー飲む?」
叢雲は苦笑しながら返事を待たずして、カップを2つ並べた。
「もらうよ」
俺は素直に白旗を揚げるしかなかった。
ーーーー
鈴谷の出撃禁止令が解除された。
怪我も癒え、橘さんによって修理された艤装を見に纏い演習にも参加するようなった。
幸いあれから、前のような行動はしていない。ただ、ときどき海の水平線をぼーっと眺めているときがある。
何を考えているのだろうか?深海棲艦?家族のこと?鈴谷の横側からは何も分からない。
「海、好きなのか?」
ふと聞いた俺に、鈴谷は首をひねった。
よく分かんない、あの人といつも眺めてたから、と。
俺は長門からある程度話を聞いており、あの人すなわち鈴谷の恩人である兵士のことは知っている。
「その人ね、とても真面目な人だったんだ」
そう言い鈴谷は思い出話をしてくれた。
鈴谷は捨て子であった。孤児院でしばらく孤独に暮らしていた。
「いっつも1人でぼーっとしてさ、友達もいなかったんだ。別にそれが寂しいなんて思ってなかったけど」
自分から話しかけないし、話しかけられても少し話して終わりだったと言う。
「それでも、鈴谷は運が良かったよ。ちゃんとご飯食べさせてもらって、生活できてたし。そんな中でね、兵士さんが来たの」
鈴谷はどことなく楽しそうに話す。
俺は黙って聞き入った。
「同じ孤児院の出身の人だったんだ。
本当に優しい人で…………本当に兵士なの?ってなぐらい。だからさ、いつも1人でいる私構って…………孤独に慣れていたのに、むしろ望んでたのにね。そのせいで誰かを思いやることなんて煩わしくなって…………
そんな私にね兵士さん、"僕らはよく似ている"って。急にだよ?普通に考えたらキモいと思うじゃん?
私は兵士さんから逃げたんだよ。
でも、どれだけ逃げても逃げても…………変わり者の兵士さんは着いてきたんだよ。今じゃ、不審者だよね」
ふっふっと鈴谷は笑う。
初めて鈴谷が心から笑ったような気がした。
「今考えるとね、兵士さんから逃げたのは兵士さんの優しさと温もりが信じられなかったのかなって思うの。
でも、そうこうしているうちに兵士さんと一緒に過ごすようになったの。その兵士さんいっつも絵を描いて、青い絵ばっかり。海ばっかり描いて。海好きなのって聞いたら
"大嫌い"って。意味わかんないよね?でも、そのときはなんだが妙に納得しちゃって」
だんだん聞いているうちに俺の心の中に引っかかるものが出てきた。
「まぁ、その兵士さんのお陰で熊野にも出会えたりしたんだけどね」
鈴谷は目を細めて、幼き日の記憶を思い出して楽しんでいるようだった。
しかし、次の言葉を言うとき鈴谷は暗い顔になった。
「提督、あの日って知ってるでしょ?」
「…………ああ。軍人の俺には忘れられない日だ」
「私のいた孤児院、被災地にあったの。今でも思い出すのは怖いけど、兵士さんがいたからいくらマシかな。
そのとき、私、熊野とクローゼットの中でビクビクしながらいたら、急に兵士さんがやって来て、
"大丈夫か!?"って。
頭から血流してそっちの方が大丈夫なの、て聞きたいぐらいだったよ。でも、怖さで泣くことしかできなかった私たちを見てね、"逃げるぞ"って、言って私を背に熊野をお腹に抱えて飛び出したの。やっぱり軍人なだけあって2人抱えても顔色変えずに走って」
深海棲艦の目を掻い潜りながら、彼は走ったと言う。
「ずっと泣いてる私たちを"大丈夫だ、俺が守るから"ってずっと言ってくれて。全然大丈夫じゃない状況だったけど、彼が大丈夫だって言ったから本当に大丈夫なような気までしちゃった」
鈴谷は1度言葉を切り、ゆっくり息を吐いた。
「そしたら、本当に助かっちゃった。群をなしても勝てなかった深海棲艦の群れから。救助隊の船にたどり着いたら兵士さん、私たちを下ろしちゃって。私、離れたくないってずっと泣いてたら、"大丈夫、ちょっと友達に会ってくるだけ"って。そう言われても、私は泣き止まないから、今度は懐中時計取り出して"お守りだ。また、会ったら返してくれよ?"そう言って飛び出したの」
本当に幸せそうな顔を鈴谷はしている。こんな豊かな感情をしている鈴谷は初めてだ。
「で、その兵士さんは?」
「死んじゃったって、兵士さんの知り合いから聞いた。なんでも、1人、深海棲艦襲われているのを助けようと突っ込んだら、返り討ちにあって…………馬鹿だよね。普通の人間は1つの深海棲艦でさえ脅威なのに、たくさんの深海棲艦に1人突っ込んで…………」
ぼんやりとしていたものが少しずつ形あるものへと変わっていっていた。しかし、特定にまでは至らない。
「なーんて、思ってたら生きてた。私が艦娘になりたての頃に、部隊の隊長さんとしてね?」
そう言い、ニヤニヤしながら俺の方を見た。
なるほど…………そういうことか。
「また、再び会ったら提督にまでなっちゃって、ね?」
「…………これまた、立派に成長したもんだ。無愛想な娘かと思ったらただの泣き虫で、今となっては命令違反もするような娘になって」
「そういう提督こそ、優しい人だったはずなのに、死神って呼ばれて、そしたら軍神と崇められ、今は変人と呼ばれてる」
鈴谷は、いたずらっぽく笑みを浮かべ言った。
俺も笑い返した。
馬鹿にされてるはずだが、不思議と嫌な感じはしない。ついさっきまで自己嫌悪していたのを忘れるそうになる。
「やっと、思い出してくれた?」
「ああ、わざわざ俺の真似までして…………俺にそんなに会いたかったのか?」
俺の言葉に一瞬不思議そうな顔を浮かべるが、すぐに
「そうかも。提督も命令違反の多さで有名だったからね。だということはあの日の約束も覚えてるんだよね?」
「約束…………?」
逆に俺が不思議そうな顔をすると、鈴谷はたちまち不機嫌な顔に変わった。
「ま、いいよ。ちゃーんと思い出してよね?」
鈴谷は再びいたずらっぽい笑みを見せて、海を眺めた。その海はいつもよりか穏やかに見えた。
ーーーー
「やっぱり戻るのか?」
俺の声に、天龍は静かにうなずいた。
「そりゃあ、寂しくなる」
俺はそれ以上言葉もなく、黙って武道場をぐるりと見回した。
ここはだれも使わない建物であったが、天龍がきてから天龍専用の修行部屋と化していた。唯一の使用者がいなくなるのだから、またここも寂しくなるな。
天龍が胸の内を吐露してくれた日から2日後の夜だ。
天龍は最初ほどの威勢ではないものの、少しずつ元気になった様子だったが、色々あった末、呉鎮守府に戻ることが決定した。
「明日の朝、龍田が迎えにくる。今日が最後の務めだな」
静かな声が、武道場に響く。武道場も、新たな主人が立ち去ってしまうのを惜しんでいるようだ。
天龍とは1、2ヶ月ほどの付き合いではあるものの、共に過ごしてきたことはたしかだ。
「短い付き合いだったな、天龍」
こういうときに、俺は気の利いた言葉が出てこない。
俺は余計な言葉を取り繕うのを諦め、右手に持っていた木刀を天龍の前に置いた。
「この前の決着、着いてなかったな?」
「え?」
「今生の別れとうわけではないが、次に会えるのがいつになるのか分からん。今のうちに着けてしまおう」
「…………おう、いいぜ」
天龍の手が、古びた木刀に触れた。かつての軍人たちが鍛錬に使ってきた代物だ。
「さぁ、いつまでもかかってこい」
俺の声に天龍はうなずき、一歩を踏み出した。
木刀の先端が脇を掠める。前の時よりも格段に鋭くなっている。
「どうした?提督、動きがぬるいぜ!」
「ハハ、ならこれはどうだ!」
すかさず手首を掴み、そのまま背負いこむように投げた。
しかし、天龍は空中でバランスを取りそのまま着地し、木刀を俺に突きつけた。
「!!」
「は、甘いぜ」
「あー…………俺も老いたな」
心臓に木刀を突きつけられた俺は両手を挙げ降参した。
すると、天龍も木刀を下ろしその場に座り込んだ。
「スッゲーな。提督」
「おいおい、敗者に言うセリフか?」
「オレは勝ったとは思わないぜ。でも…………ありがとな」
「感謝されるようなことはしとらん。いや、ありすぎて困る、か?」
俺の戯言に天龍は笑った。いかにも天龍らしい豪快な笑いだ。
あとは武闘派のバカの話だ。
俺が体術を語れば、天龍は剣術を語る。ならばと俺は部隊の頃の話をする。
平和主義を語る日本では疎ましく思われるだろう。しかし、俺らはそんなことしかできない不器用な奴らだ。
笑いたければ笑えばいい、でも不器用な俺らは、笑われたこれで前に進む。
話していくうちに、俺らは武道場で眠りについた。
ーーーー
太陽の光で目が覚めた。
朝だ。
驚いて武道場を見渡せば、天龍はいなかった。慌てて、軍服を着て外に出ると天龍は龍田と共にいた。他の娘たちに挨拶回りしてたのだろう。
駆逐艦たちは泣きながら、天龍に抱きついている。
提督として恥ずかしい話だが、天龍がここまで駆逐艦に懐かれてるとは知らなかった。
「ここは来るものばかりだったが、そればっかりではないようだ。来るものが居れば去るものもいる」
急に後ろから長門にそう言われたからたまったもんじゃない。
「驚かすなよ。まぁ、そうだな。だが、去るからといえども、天龍にとっては新たな一歩だ。華々しく応援しようではないか」
天龍には明るく見送った方がいい。
すると、
「提督!」
「ん?」
「オレ、決めた!」
「なんだ?」
「ぜってぇ、提督を驚かすほど強くなってやる!」
「そうか、ならこちらも鍛錬を怠れないな」
「だから…………オレは…………」
「この鎮守府に残るぜ!!」
一瞬にして、周りは驚きのあまり絶句した。長門なんか目をまん丸にしてる。
「クッ…………アッハハ!そうか!君はそう決めたんだな?」
「ああ!」
「ちょ、ちょっと、天龍ちゃん!?」
「天龍さん、残るっていったの?」
「そうなのです!」
俺の笑い声を皮切りに、皆がざわつき始める。
「おい!それでは呉鎮守府の提督に…………」
「安心しろ!呉鎮守府の提督は俺の元部下だ。俺から話をつけてやる」
「だが…………」
「断っても、無理矢理認めさせてやるから安心しろ!ハハ!」
久々に腹から笑った。あまりにも笑いすぎたせいか、周りに引かれているようだ。
構うものか。
「なら、再び言おう。ようこそ、民間軍事会社"鎮守府"へ!」
俺の声に天龍は大きく笑ってみせた。
天龍と龍田は姉妹って設定してますが今後、龍田の登場が怪しいのであまり気にする必要はないと思います。
次回は正月SPをなんとか作りたいと思います!