その日の夜遅く、世界に“謎の光”が落ちてきた。まるで雪のように舞い落ちる“光”に人々は目を奪われた。
だが、人々は知らない、この“光”が人類に“災い”をもたらす事にーーーーーー
ー武志sideー
同時刻、鎮守府提督 春日野武志大佐は謎のエネルギー反応が出た事を聞いて、帽子を被り、ガウンを着て指令室に入ってきた。既にそこにいた秘書艦の長門と秘書艦補佐の陸奥、そしてサポート艦娘の大淀がいた。
「大淀、状況は・・・?」
「はい、未知のエネルギー反応が現れ、更に“謎の光の粒子”が都心部に現れ、強い光を放って都市を破壊しそのまま消えてしまったそうです・・・・」
大淀の報告を聞いた武志提督は思案の表情を浮かべると、武志提督の後を追ってきて同じようにガウンを着た、少々ほでったような雰囲気の翔鶴と瑞鶴が指令室に入室した。
「「「(あ、今日は翔鶴と瑞鶴か・・・・)」」」
昼間あんなにドタバタをした二人(主に瑞鶴)との事があったので、長門と陸奥と大淀のジト目になるが、武志提督は構うことなくこの場にいる艦娘達に指示を飛ばす。
「大淀、追跡は出来るか?」
「あ、はい、只今・・・」
「長門、陸奥」
「「ハッ/ハイ」」
「大淀の報告が上がったら赤城や加賀、金剛達や妙高達に、明朝、全艦娘に戦闘配備で待機を伝えてくれ」
「全艦娘に、ですか・・・?」
「杞憂だったらそれで良いが、いざって時の為にな・・・」
「「了解」」
「翔鶴、瑞鶴」
「「はい!」」
「工房にいる明石と“妖精”達に通常武装と、“L武装”の整備と準備を通達してくれ」
鎮守府に存在する不可思議な存在『妖精』、彼女達は武装の整備と準備、果ては武装の開発から艦娘の建造までこなす鎮守府の心強い存在なのだ。
「“L武装”を、ですか・・・」
「“陸”に上がる準備をしろって事・・・?」
「もしもの事態に備えて、だよ・・・・」
言い淀む提督だが、こう言う“シリアス顔”の提督の“もしも”は大抵当たるのを知っているので、翔鶴と瑞鶴は頷く。
「提督、追跡結果が出ました。“鏑矢諸島”です・・・」
『っ!!』
大淀からの報告に武志提督は渋面になり、長門達は驚愕に染まる。
「この鎮守府から約100キロ離れた、“怪獣保護区域 鏑矢諸島”か・・・」
「狙いは保護されている怪獣達かしら?」
長門と陸奥が難しい顔を浮かべ、武志提督は翔鶴と瑞鶴に指示を出す。
「翔鶴、瑞鶴、妖精達にジェット機の準備もしておくように通達してくれ」
「「了解っ!」」
武志提督の指示を受けて、翔鶴と瑞鶴は指令室を出て工房に向かった。
「提督が赴くのですか?」
「俺なら保護管理センターの人達に顔が利くからな」
「唯でさえ国防軍と保護管理センターは犬猿の仲だものね、提督くらいしかあの人達も安心できないでしょう」
陸奥の言葉に全員が苦笑いを浮かべる。国連軍は“怪獣の殲滅“を考え、鏑矢諸島に保護されている怪獣達を快く思っていない、あわよくば軍事的に利用しようとする事も考えるてる程だ、だが、そんな軍部の中でも怪獣との共存を考える派閥もあり、国連軍は殲滅派と保護派に別れ睨みあっていた。武志提督は23歳と言う若輩でありながら艦娘達と積み重ねてきた“実績”がありこの『特殊任務』も兼ねた鎮守府の提督を任されているのだ。
「提督、私と陸奥も・・・」
「いや、君たちまで居なくなったなら指揮系統が動かなくなる。長門は俺が不在の間の指揮を、陸奥は補佐を任せた」
「「了解っ!」」
「では提督、誰と誰を護衛に付かせますか?」
大淀からの質問に武志提督は頷き。
「うん、まだ鏑矢諸島に行ったことの無い“睦月”と“夕立”を連れて行こうと思う」
「あの二人を、ですか・・・・」
「ん? あの二人じゃ不満かい?」
「不満と言う訳ではないですが・・・」
「この鎮守府の“任務”の中には“怪獣達の保護”も入っているんだ、丁度良い所だろう」
実際、鏑矢諸島に赴いた事がある長門と陸奥と大淀も苦笑いを浮かべて頷いた。
ー後日・鏑矢諸島上空ー
「どうだ? 睦月に夕立、お空から見る海の景色は?」
「凄く綺麗です提督!」
「でも二人乗りのジェット機に無理やり夕立と睦月ちゃんが乗ってるから少し窮屈っぽい・・・」
「ハハハハ、夕立も睦月もチャーミングだから少し窮屈で済んでるんだよ、長門や陸奥じゃこうはならないからな♪」
武志提督は通信機を操作し管理センターに連絡を取る。
「イケヤマ管理官、応答願います。イケヤマ管理官、応答願います!」
《武志大佐か? 何だまた可愛い艦娘ちゃんを連れてデート気分で来たな~、あぁ、羨ましい!》
「ハハハハ、まぁそう言わないでくださいよ、これも任務の内ってヤツです♪」
以前からの友人である『イケヤマ管理官』と他愛ない話をする武志提督。
「て、提督! 後ろから何か飛んで来たっぽい!」
「お、『リドリアス』!」
『ピヤアアアアアアアアアアアッ!!』
武志提督が乗るジェット機の上を青い身体にトサカが赤く背中から翼を伸ばした巨大な鳥が現れた。
「随分粗っぽい出迎えだな、『リドリアス』・・・」
武志提督はいつも首に下げている『青い水晶』を振り回し、その『水晶』から音が流れた。
『ヒュヤアアアアアアアアアッ!』
『リドリアス』と呼ばれた巨大な鳥は“水晶”からの音に引かれて平行飛行する。
「リドリアス、付いてこいよ! 睦月、夕立、少し揺れるぞ!」
「えっ・・・?」
「ウソっ・・・?」
武志提督はジェット機を宙返り、シャンデル、インメルマンターン等でリドリアスと楽しく遊覧飛行を楽しんでいた。因みに睦月と夕立は目を回していた。
『ピヤアアアアアアアアアアアッ!!』
「やるなリドリアス! ハハハハっ!」
ー地上sideー
「やってるな、武志提督め・・・」
『怪獣保護管理センター』と書かれた建物からアロハシャツに作業服を羽織った無精髭に恰幅の良い体型の男性、彼が提督と連絡を取っていた『イケヤマ管理官』がリドリアスと戯れる武志提督の乗るジェット機をにこやかに見ていた。
ー鏑矢諸島・岸壁ー
『フワアアアアアアン・・・!!』
「うわ~~、見て見て睦月ちゃん! 大きな鳥さんがのんびりしてるっぽい!」
「あれは『友好巨鳥リドリアス』って言うんだよ、夕立ちゃん!」
鏑矢諸島の崖の上から、先程出会ったリドリアスが巣で寛いでいるのを睦月と夕立は武志提督の運転での疲れが一気に吹き飛び、リドリアスに夢中になっていた。そんな二人にイケヤマ管理官と武志提督が近づく。
「こうして大人しいのを見てるとね、シールドで閉じ込めておくのが可愛そうになってくるよ・・・」
「何とかできないっぽい?」
「もっと自由に空を飛んだらリドリアスちゃんも・・・」
「睦月、夕立、気持ちは解るけど、“今”はまだ無理な話だ。リドリアスが自由に空を飛びまくったら色々な国が警戒してしまうからな・・・」
武志提督は“理想を貫く難しさ”と“現実の厳しさ”を知る故に、苦言を漏らす。
「あんなに大人しくて可愛いのに・・・」
「他の艦娘の皆もリドリアスは可愛いって言ってたっぽい」
「フフフフ、武志提督のご指導は、ちゃんと行き届いていますな」
「恐縮ですよ」
「提督は軍人じゃなくて鏑矢諸島で働きたいって思わないっぽい?」
「ん~~、難しいな、鏑矢諸島<ここ>で働きたいとは思うが、可愛いく綺麗な艦娘の皆とサヨナラするのも嫌だしな・・・!」
「提督が軍人辞めたら他の皆も軍を辞めちゃうかもっぽい・・・」
「“金剛”さんや“榛名”さんなんて得にね・・・」
「羨ましいね、美少女&美女に囲まれた軍人生活なんて・・・!」
「ハハハハ・・・さてと、睦月、夕立、そろそろお仕事モードだぞ」
武志提督が言うと、睦月と夕立は直ぐに立ち上がり、持ってきた索敵レーダーで周辺を調査を開始する。睦月達が目を離して直ぐに寝そべっていたリドリアスの身体に“光の粒子”が集まる。
「昨日の夜、都心を襲った“謎の光の粒子”の調査か?」
「ええ、映像から細かく調べた所、“謎の光の粒子”は一つ一つに生物反応があったんです」
「どゆこと?」
「分かり安く言うと、あの光の粒子は生物なのではないかと言う訳です、それも生物で言えば“ウイルス”のような・・・」
ギュアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!
『っ!?』
突然崖下からリドリアスが雄叫びを上げて飛び出してきた。
「リドリアスっ!?」
「どうしたのっ!?」
「っ!」
武志提督は首に下げた“水晶”を手に振り回す。
「あの水晶って、提督がいつもぶら下げている水晶だけど・・・」
「リドリアスはあの水晶からでる音が好きなんだ」
しかし、リドリアスは音に反応せず飛び回り、リドリアスの首に“光の粒子”が輝いた。
「っ! あの光を・・・!」
急降下するリドリアスの目を鋭くし、口から光線を放つ。
「ヤバい! 避けろーーーーーー!!!」
提督が叫び、イケヤマと睦月と夕立が光線から逃げ、光線が地面を抉る。
『ピギュアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
リドリアスは天高く飛び、シールドを突き破り外界へと飛び出した。
「睦月! 夕立! リドリアスを追うぞ!」
「「了解っ!」」
「武志大佐! リドリアスを頼むよっ!」
「最善を尽くします!」
武志提督と睦月と夕立はジェット機に乗り込みリドリアスを追う。リドリアスを追いながら武志提督は長門達に連絡を取る。
「こちら武志提督だ。長門、応答せよ!」
《こちら長門。提督、何が起きましたか?》
「光の粒子がリドリアスに取りついた、そのせいでリドリアスが凶暴化してシールドを突き破った!」
《リドリアスがですか!?》
「長門! 大淀にリドリアスの向かう先を調べさせろ! 後、全艦娘に“L型武装”を装備するよう指示! 睦月と夕立の装備も忘れるな!」
《了解っ!》
《提督!》
「大淀か? リドリアスの向かう先は?」
《はい! リドリアスは現在“J1エリア”に向かっています!》
「J1エリアか・・・大淀、直ぐにそのエリアの住民に避難勧告を出すんだ!」
《了解っ!》
武志提督からの指示で大淀がJ1エリアの住民に避難勧告を出した。
「提督・・・」
「何だ?」
「リドリアスを戦わないといけないっぽい・・・?」
「俺達はリドリアスを殺すんじゃない、リドリアスを止めて連れ戻すんだ・・・!」
「「連れ戻す・・・?」」
武志提督は“決意”を込めたまなざしで断言する。
「あぁ、リドリアスを連れ戻すんだ。必ずな!」
すると提督の水晶が青く光り輝く。
「っ!?」
武志提督の脳裏に、子供の頃の記憶が甦る。『青く光る光の巨人』との出会い、『巨人』から貰った水晶の事。
「・・・・・・・・」
「提督・・・?」
「どうしたんですか・・・?」
「いや、もうすぐ鎮守府だ。二人共、気を引き締めろ・・・!」
「「はい!」」
ー鎮守府ー
ジェット機を着陸させた提督は長門達が持ってきたL型武装を睦月と夕立に装備させ、他の艦娘達の列に整列させる。お立ち台に立った提督は艦娘達を見渡す。全員が武志提督の言葉を聞くために真っ直ぐに自分を見つめる。
「皆知っての通り、現在リドリアスが都市へ向かっている」
提督の言葉で艦娘達の表情が曇る。睦月と夕立以外の艦娘達も何度か鏑矢諸島に行き、リドリアスと交流を持っていた艦娘も少なからずいたからだ。
「俺達の任務は“深海”と戦うだけではない、怪獣達の保護、ならびにこんな事態になった時の為に陸戦用武装のL型武装を配備されていた。だが、俺はリドリアスを殺す気は一切ない! 俺はリドリアスを救いたい! でも、俺一人では出来そうに無い! だから、皆! 俺に力を貸してくれ!」
飾りっ気の無い真っ直ぐな言葉に艦娘達は姿勢を正し応える。
『了解ッ!!』
「(ウルトラマン・・・俺は必ず、皆とリドリアスを救って見せる! 君に約束した・・・真の勇者になって見せる! 俺の愛する艦娘達と一緒にッ!!)」
武志の想いに呼応するかのように、胸元の水晶が淡く光っていた。
『陸戦用武装<L型武装>』
艦娘達が陸で戦闘ができる為の武装、足にローラースケートのような武装を付け、足親指でスイッチを押すことで加速<右足>と減速<左足>ができる。