楽しい余生の過ごし方   作:Theiater

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初二次創作です。原作キャラ成分は薄め……というかほとんど出て来ませんので悪しからず


序章 Oldest Rookie
別れは出会いと共に


□■2043年7月15日 埼玉県 S医科大学病院 ???

 

S医科大学病院の一室、イヤホンを付けなければ音の出ないテレビモニターとカーテン、ベッドしかない部屋。そのベッドに1人の老人が横たわっていた。

 

小さな音がして、部屋のドアが開けられる。そこには男がいた。老人程ではないものの、その顔には深い皺が刻まれ、すでに高齢者特有の雰囲気を醸し出していた。しかしその印象とは裏腹に、背が高く、スーツの上からも分かるほど筋肉が発達しており、袖から覗く無骨な手はまるで鋼のようだった。

 

「……」

 

「……よく来たな、翔」

 

「幸重さん……」

 

体格のいい男――翔は老人の名前を発した。

 

「休みに呼んで済まないな……来てくれて嬉しい」

 

翔は苦い顔をした。

 

「……もうすぐ死ぬって、本当ですか」

 

「そんなに悲しい顔するんじゃねぇよ、嫁も子供も居ねぇんだ。俺を待ってる奴なんてお前くらいだよ」

 

「そんなことは……! …大体、林業はどうするんです!あの木と山、それに顧客は――」

 

「心配いらねぇよ、顧客なんてもうロクに居ねぇし、どうせ今更木を刈ってもろくに枝も切られてねぇクソみてぇな木ばかりだ、売り物になるようなものじゃねぇ……お前にもわかるだろ?」

 

「……そんな」

 

そんな言い方をしなくてもいいでしょう、という言葉は喉から出て行かなかった。

 

「いいんだよ、お前は57。仕事を辞めて余生を謳歌するにはちょうどいい時期じゃねぇか……いや、少し早いか?まあ年金が降りるまでやっていけるだけの貯蓄はあるだろう、何なら俺の遺産だって少しは――」

 

「……」

 

「……」

 

重い空気が流れた。

 

「……寂しいか」

 

「それは……勿論」

 

「……いいか」

 

西日が老人の顔に照りつける。

 

「お前がガキの時、お前の学校に伐採体験の指導に行った時も」

 

「その終わりに、林業をやりたい人は手を上げろと促され渋々手を上げた時も」

 

「お前がT大を卒業して、わざわざ律義に約束を守りに田舎の山に戻ってきた時も」

 

「木工製品のブームの波に乗り過去の栄光だったうちのブランド、北海材を現代に蘇らせた時も」

 

「そのブームも薄くなり、新素材の台頭や植物保護団体のお陰で伐採する度に買取手がいなくなって安くなり、ついには木を刈るだけで赤字になってしまった時も」

 

「こうして今、お前が、見舞いに来てくれている事も」

 

 

「全て、俺の魂、思い出の一ページに刻まれてる」

 

「……」

 

「まあ最初の逸話に関してはお前から聞いて思い出した話だから覚えていたってわけではないが」

 

「……」

 

「俺は最高に幸せな人生を歩めた、悔いはない。こんな感情は死んでも忘れねぇからさ」

 

「……」

 

「礼だけ言わせてくれ。……ありがとよ」

 

「……」

 

「――」

 

「あなたが死んだら……林業が終わったら……俺は……一体」

 

「――」

 

「……幸重さん?」

 

「――」

 

「……もう、か。さっきまで話してたんだよな……」

 

「……」

 

「……医師、呼ばないと」

 

その男は、部屋を後にした。射し込んだ西日はカレンダーをゆっくりと照らし始めていた。

 

 

 

 

 

 

部屋には静寂と、横たわる男だけが取り残されて――

 

 

 

「やったぜダム!」

 

「喋りすぎだ!死にそうな人間があんなにペラペラと喋るか!」

 

――……いるわけでもなかった。

 

横たわっていた老人が必要以上に大きな動作で身体を起こす。改めて見れば、彼自身もかなり良い体格をしている事が理解出来た。どこをどう見ても死というイメージからは遠かった。

 

同時にベッドの下からダムと呼ばれた背の高い老人が出て来る。

 

「……っと、わざわざ私をこんな埃っぽい場所に押し込めたのだから、失敗は許されんぞ?」

 

「ったりめぇよ!……というか、てめぇが俺を勝手に心配してそこに入ってたんだろうが」

 

「何の話をしているのか理解しかねるな」

 

「こいつ……」

 

幸重はニヤニヤしながらダムを見る。

 

少し間が空いて、思い出した様に体格のいい老人は言った。

 

「つーわけでだ、ちゃんとゴルフクラブは用意してくれたか?それが無ければ俺のこの演技も全て台無しになっちまうんだが」

 

「……幸重、お前のやりたい事は『林業にしか興味の無い翔に余生を謳歌できる趣味を教えて、充実した人生を歩んでもらう』……だな?」

 

「はぁ……?そうだが」

 

「ゴルフクラブが無かった」

 

「はぁ!?てめぇ!それがねえんじゃこの三文芝居は一体何のために……」

 

「まあ落ち着け、代替品は用意した」

 

「あ、あぁ。でも3万しか渡してなかったよな?そんなんで今後20年遊べるような娯楽なんて」

 

「これだ!」

 

ダムはIDと書かれたヘッドギアを幸重の目の前に出した。

 

「なんだこりゃ?ボクシングでもさせんのか?」

 

「ゲームだ」

 

「はぁ!?てめぇ他人が渡した金でゲーム買って来やがったのか!?」

 

「そうだ」

 

ダムは大きく頷いた。

 

「……はぁ、まあゲームを買ってきたことに関しては……いいわ」

 

「お?意外だな。お前ならもう少し反発すると思ったのだが」

 

「違う……、何でそのヘッドギアを三つ持ってるのかって事だ!返答次第では3万は返してもらう!」

 

「お前と私の分だよ、悪くないだろう?」

 

「悪いに決まってんだろ!一つ1万のゲームなんて遊べていいとこ半年だろうがよ」

 

「……と、思っていた時期が私にもあったな」

 

「……んん?」

 

「まあ詳しくは家に行って話そうか」

 

「おう……まあお前がそこまで言うなら余程面白いゲームなんだろ。信用してるからな?」

 

「……いや、そんな睨みながら言われてもね」

 

老人達は立ち上がり、病院の一室から出て行く。カレンダーに射す光はいつの間にか天井に向かい駆け上っていた。

 




「……で、買ったゲームは全部ここにあるみたいだが……いいのかよ?俺の机に置いておいて、翔の興味をそれとなく引くようにするって手筈だったろ?」

「……あっ」

「おい!急ぐぞ!家まで先回りだ!」
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