楽しい余生の過ごし方   作:Theiater

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サブタイ詐欺です


若い肉体にテンションが上がって遭難する57歳

「……何なんだ一体」

 

顔を上げ、体を起こしてすぐ目に飛び込んで来たのは落ちている最中に見たレジェンダリアの景色とは、全く持って毛色が違う景色だった。

いや、レジェンダリア上空で見たのも森で、今この場も森であるので、全く以って違うという訳でも無いが、そこに生える種が先程まで見ていた植物とは違うという事が理解出来た。

 

「……そこまで離れているわけではないだろうが」

 

俺は見事な景色が自分の手の届かないところに行ってしまったことにショックを受け、膝を折り、再び手を地面に付いてしまった。

 

「……ん?」

 

自らが倒れた時、違和感を覚えた。

一度立ち上がり、もう一度膝を折って手をつく。

第三者がいれば奇行にしか見えない行動だろうが、違和感は確信になった。現実の動きとは明らかなキレの差がある。

 

「……そういえば、ここはゲームだったな」

付いた掌を自分の方に向けて拳を握り、開く。

それだけでもかつてあり、年と共に失った活力がそこに漲っているのが分かった。

 

「そこまで衰えてはいない、と思っていたんだが……直接比較できてしまうと体力の劣化を認めざるを得ないな」

 

チラチラと周りを確認する。

 

「……走っても、いいよな?」

 

誰もいない場所で走り回るなど、凡そ定年近い老人がする事でもないだろうが……まあ、いいよな?

 

 

 

ーーー

 

 

 

真上にあった太陽は、今や夕暮れと言えるレベルまで落ちていた。

 

「迷った、というより広すぎる……」

 

方向がわからないと言うよりは、森のあまりの広さに抜け出せないでいる、と言った方が正しい。

 

元々分かっていたことだが、夜の森は危険だ。しかし、遠くに行くのも難しい。先程から動物を見かける回数も増えてきた。……どうする?

 

「……!」

 

物音が聞こえる。硬いものを地面に擦るような音だ。咄嗟に身を屈め、茂みに隠れて物音のする方向を見る。

 

(奴か)

 

それは2m程の大きさの無骨な木の人形だった。こんなものがなぜ動いているのか、と混乱に陥りそうになる。しかし、人形の頭の上に存在する名前の表示に気付き、これはゲームだったな、と平静さを取り戻した。

 

(……まずい、近付いてくる)

 

こちらに気づいている様子はないが、このまま行けば俺のすぐ近くを通るだろう。そうなれば見付かるのも自明だ。今からでは逃亡、というか移動するのも困難だろう。ゲーム内のモンスターであれば9割方話が通じる生物ではないはず。詰んだか?……いや。

 

(攻撃、だな)

 

生憎ここは現実ではない。猫の言葉を思い出し、ノコギリを鞄から取り出して待ち伏せる。

俺に横っ腹を向けた瞬間、首の後ろに刃を当てて一気に引く。遭遇した相手が木の人形であった事は不幸中の幸いだろう。

 

(……来る)

 

のっぺりとした横顔がはっきりと見えた時、意を決して飛び出す。

彼我の距離は1.5m程で、そこまで遠いという訳では無い。首に刃を掛けると人形はこちらに気付き、反対側に退こうとするが、俺相手にそれは悪手だ。

人形の肩に手を当て、丁寧に、かつ、力を込めて鋸を引く。

 

『ギィ……!』

 

木人形は苦悶の声を上げる様に軋み、尚も俺から離れようと動く。……効いてるな。押し切れるか?

 

「……この!」

 

木の人形の足を掛け、掴んだ肩をこちら側に引っ張って倒れさせながら、ノコギリを押し込んでいく。

 

『ギギ……!!』

 

どうにか首の3分の1程度まで押し込んだところで人形の動きが鈍くなり、止まった。

 

ノコギリを引き抜くと、人形は消え去って光となり、その場には茶色のブローチと少しの金銭があった。

 

「……おぉ、ファンタジーだな」

 

消える際のエフェクトといい、モンスターの動きの自然さといい、全くこのゲームには驚かされ放題だ

 

「あぁ、全くだ」

 

ブローチが何なのか、手に取って確認する。

 

『黄昏人形のブローチ

 

夕暮れ時に現れるツリーマリオネットの亜種であるサンセットマリオネットからドロップしたブローチ。ほんのりとした暖かさとシンプルで洗練されたデザインから、ティアンの女性に秋のアクセサリーとして好まれるだけでなく、冬場手が悴まないよう狩人が狩りに連れていくこともある。STR+10% DEX+10%』

 

装備品か、夜になって若干冷えてきていたから暖かくなるのは有難いな。

 

「そうだな」

 

……さっきからちょくちょく若者のような声の合いの手が入ってるんだが、俺の幻聴か?

 

「やっと気づいたか……俺の声が」

 

あー、なんか話しかけられてるな。

 

「んん!どちら様でしょうか?周りを見ても誰も居ない……というかそもそもここまでの話を俺が口に出した覚えもないんですが……」

 

「はは、聞いて驚くなよ?」

 

顔は見えないが、ヘラヘラと笑っている様子が容易に想像出来る調子で宣言した。

 

「俺はお前のエンブリオであり未来の相棒、【翠鳴蒼哮 グリーンマン】だ!よろしく頼むぜ、ジジイ」

 

開始早々、俺はエンブリオというシステムに、「てめぇの深層心理はチャラくて浅はかだ」と申告されたのだった。




「違うだろ!?」
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