「……はぁ?」
こいつが?俺の【エンブリオ】?
「そうだよ。お前の深層心理はどんなに強い武器より、どんなに役に立つ結界より、どんなに堅固な要塞よりもペラペラと話す相棒を望んだんだよ」
「……」
……落ち着いて考えてみれば、俺がこのゲームを始めたのは故人の机にあったギアが発端だ。出来るだけ考えないようにしていたが、目を逸らしきれなかった心の中の寂しさをエンブリオは見抜いていたのかもしれない。
「…あぁ?なんだジジイ?陰気臭いとこっちの世界の顔まで老けるぞ」
よく観察してみれば、この自称エンブリオは幸重さんに近い口調を持っているようにも感じる。
……ゲームの中に逃げ場を作ろうとしたなんて認めたくはないが、こいつが俺のエンブリオであったとしてもおかしくはない。というよりも、直感的にこれは俺の精神から生まれたものなんだろうなという納得があった。
「……なんだ、ここに来るまでに……父親でも死んだのか?」
「……そうですね、似たようなものです」
「…なんか、俺が生まれたことで悪い事を思い出させちまったみたいだな」
「いや……貴方のせいではないですよ」
「……」
「……」
夕暮れの中、沈黙がその場を支配する。今日は静寂の多い日だ。
「……、まあとりあえず、だ。この森から抜け出して集落を見つけなきゃ話にならないからな、俺がどこにいるか、それと俺のエンブリオとしての能力を見せる。」
「あ、あぁ」
そうだった、感傷に浸っている場合ではない。過去の事を悔やんでうじうじするのは何より幸重さんが嫌ってたことじゃないか。
「俺の位置はここだ」
俺の後ろの木がぼうっと淡く緑に光った。振り向いて確認するものの、緑の光はいつの間にか消えている。からかっているのか?
「要するにどこなんです?」
「お前の背だよ、そこで緑に光ってる」
「……はぁ、なるほど」
背中に手を回してみると、確かに凹凸のある石のような手触りの物体があった。叩いてみた感触も石のようだが、重さはほとんど感じない。いざとなればこいつを使って自らの体を庇うことも出来るだろう。
「おい、俺に聞こえてるの分かって言ってるよな?」
「で、能力は何なんです?」
「無視かよ……。ん、まあいい。今の所俺がエンブリオとして使えるスキルは一つだ。……そうだな、一度そこの若木に触ってみろ」
「ふむ、……こうか?」
近くにあった高さ2m程の若い木に触れる
「……おお?」
そこにあった木がじわじわと……しかし、植物としては異常な早さで育っていく。
「なるほど、これが能力ですか。戦闘に使えるようには思えないですが」
「当たり前だ、全てのエンブリオが戦闘に特化してるとでも思ったのか?」
「なるほど、それもそうですね」
戦闘だけでなく生産も出来るということか。オーソドックスなMMOの形ではあるが、林業にまで手が伸びているとは。運営はなかなか分かっているようだ。
「まあ、運営が林業に興味があるというよりは用意されたとてつもなく広い選択肢の中の一つに林業があった、という方が正しいだろうけどな」
「分かってますからわざわざ言わなくていいですよ」
人が気にしてる所抉りやがって、気休めくらいさせてくれ。
……しかし、植物触ってるとすごく疲れるな。
「あぁ、言い忘れてたが今のスキルはMPを消費するからな」
「それならそうと先に言って下さいよ。ON/OFFの切り替えはどうやってするんです?」
「スキル切りたいのか?」
「そうですね、このままでは迂闊に植物に触ることすら出来ませんし」
「了解。解除……と」
「……、俺のスキルなのに俺の意志で切れないんですか?」
「そうみたいだな、まあ心の中で思うだけで俺は意思を読み取れるから実質ノータイムではあるけどな……てか、何でわざわざ俺との会話を口に出してんだよ」
「もしかしたら上級プレイヤーが道楽で俺を楽しませてるのかもしれないですし、もしそうならわざわざ邪魔するのも興醒めかなって」
「えぇ……?俺の事もう少し信用してくれてもいいんじゃない?」
面倒だなこいつ。
「聞こえてるっつってんだろ!」
「……暗くなってきましたね、野営でもしますか。上級者さんテントとか持ってないですか?」
「そんな奴はいねぇよ!居もしねぇ人間にテント集るとかさては相当図々しいなお前」
「冗談ですよ、でも実際居るなら出てきて欲しいですね。森で剥き出しで寝るなんて下手すりゃ死んじゃいますし」
「……はぁ、なんだ、お前本心と軽口のギャップが凄いな」
……まあ自覚はある。
「…仕方ない」
俺は手近な木に登り、周りを見回してさっと降りる。
「今、木の上で遠方を確認したんですが、向こうに見える山の麓に光が見えました。先程のようなアクシデントが何回かあっても今から行けば明日の昼には到着するでしょうし、早歩きで踏破してしまいましょう」
「……アグレッシブなジジイだ」
「何か言いました?」
「いーや、何も」