地面をタイヤで強く擦る音が耳に届く。
「ははは!流浪の闇商人である私が来たぞ!」
女性の行商人だと聞くから、どんな出で立ちなのだろうと村の前で待っていれば。
ヘルメットを着けずにモンスターバイクをドリフトで停車させるという荒業で、俺の口を開かせたまま閉じさせない破天荒な軽装鎧の闇商人(物理)女性だった。
……俺は素人だが、この長さのバイクをドリフトさせるのは一般的でないことくらいはわかる。
まあ何にせよ初対面であるので挨拶だけはしておこう。
「闇商人さんですね。こんな所まで毎日来て下さってるそうで、ありがとうございます」
「良いのだよ!地方のか弱き民に物流の力で必要なものを届けるのが私の使命なのだからな!しかし……」
女性の表情が曇った。
「今日の商品は海の幸だったのだが、この辺りだと思った以上に好評であってな……その、品切れになってしまったことを詫びに来たのだ」
「あぁ、そういう話なら村長に伝えておきますよ」
村長、割と行商人の物資楽しみにしてたからな……。多少悲しむだろうが、品切れなら仕方ない。
「すまない、ありがとう。……んん?あの雲は……」
感謝の気持ちを表し微笑んだかと思うと次は目を大きく開いて上空を見る。表情豊かな人だ。
(おい、こんな情緒不安定な奴に街まで連れてってもらうのか?)
(……気にするな、この人がどういう人間であろうと基本的にはそれしかないんだ)
グリーンマンが小声で話しかけてくる。もし本当に頭のおかしい人間であれば割と切実な問題だが、良識はあるようだし、そこまでひどいというわけではないだろう。
「あれは!大きくて厚い雲!しかも斑模様と来ている。街の方にあるし、一っ風来るかもしれんな!」
「一っ風とは?」
「トルネードの事だ」
「……え?本当ですか?」
「勿論、ここで嘘を吐いて何になると言うんだ?」
「いや、それらしい事を言って帰ってしまうのかと……」
「はは、まあ帰るというのは間違いじゃない。急いで帰らねば倉庫の商品が吹き飛ばされてしまうかもしれないからな。私は一度帰る。在庫切れの連絡は頼んだぞ。あぁ、あと丸太の買付けも今日は出来そうにない。覚えていたら伝えてくれ。うむ、今日は本当に何もしていないな……」
想像よりは真面目だな。ん、このままだと帰ってしまう……どうするか、恐らくこの機を逃すと明日までジョブを手に入れることが出来ないだろう。
「あ!ちょっと、すみません。俺も街に連れてってくれませんか?」
「…問題ないが、のんびり走る事は出来ぬからかなり激しい走行になるぞ?それでも良いのか?」
「そうですね、折角のゲームですし楽しみたいじゃないですか」
「…うむ、そういうことなら了解した。後ろに乗るがいい!」
「ありがとうございます」
想像以上にあっさり決まったな。俺はバイクに乗る闇商人(物理)に続き、紫の靄の湧く黒いバイクの後ろに跨る。鎧で分かりづらかったが、身体はしなやかな筋肉に包まれている。リアルをベースにキャラメイクをしたと仮定するなら、相当に体を動かしていることになる。
「よし、乗ったな?しっかり腰に掴まっておきたまえ!」
「はい。
――――!!」
……速い!悪路を走行しているせいでタイヤがそこそこに浮いていることもあり、かなりの恐怖を感じる。というよりこの浮遊感は……
「ああああああああああああ!!!!!」
ゲーム開始時に落ちた時を彷彿とさせる。うう、声が出てしまっているなぁ――
♢
落ち着いてきたところで質問をしてみる。
「……ところで、竜巻の知識はどこから?」
「あぁ、リアルでそういう関係の職に就いていてな」
……リアル?
「ん?貴女はプレイヤーなんですか?」
「……"プレイヤー"……?」
「あ、こっちではマスターと言うんでしたね。失念してました」
「……あっ、じ、じゃあまさか貴方は……向こうの人だろう……ですか?」
「そうです……あれ、他のマスターが苦手な感じで?」
「……いやぁ……あの……はは……そう……なことはな、ないですけど……ちょっと……あの……」
――闇を纏うバイクはその瞬間からよくわからない空気も追加で纏って、街へと進んでいった。