楽しい余生の過ごし方   作:Theiater

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卒業試験の関係で更新止まってました、申し訳ありません。
不定期更新って書いてあるからセーフですよね……?


都市の名は

件の都市になんとか辿り着き、活気のある商店街を走る頃には風が少しずつ強まっていた。どうやら竜巻が来るというのは本当らしい。

 

「……うむ、竜巻の中心自体はそこまで近くにないようだ。この辺りの建物は比較的頑丈な作りだし、耐えられるだろう」

 

『……は?こんなに風が吹いてても近くないっての?』

 

グリーンマンがそう呟く。……あー、まだこいつの説明してなかったな。不審な目で見られなきゃいいけど。

 

「そうだな、竜巻が直撃すればこんなものでは済まんよ。石造りの建物すら断たれ、馬車が降ってくるような地獄絵図になる」

 

『んなっ!?馬車だぜ?』

 

自然に左右される仕事をしているため分かっていたつもりでいたが、対抗手段のない未発達な文明にも猛威を振るう辺りやはり自然は恐ろしさは底知れない。

 

「――お、見えて来たな。降りる準備をするといい」

 

「了解しました」

 

 

♢

 

 

俺達が到着したのは大きめの車庫と言えるくらい大きさの建物だ。1階には大きなガレージがあり、丸太がこれでもかと並んでいた。奥には2階へと続く梯子があり、そこを登ると生活スペースが広がっていた。広さのイメージとしてはマンションの一室と言った感じだ。所々に長年使った家特有の傷が見られるが、隅に埃があるわけでもなく普段からよく掃除されているのがわかる。

ヘルメットと上着を掛けながら、闇商人は挨拶をしてきた。

 

「……そういえば名前を名乗っていなかったな。私はハンド。差し支えなければ其方のネームを聞いても?」

 

俺は南……あ、こっちはデンドロだったな。

 

「俺は杜人ソラです。よろしくお願いします」

 

「あぁ。よろしくソラ」

 

笑顔で軽くハンドと握手を交わした所で、ハンドの表情が疑問へと変わった。

 

「ところで、先程市街地に入ってからソラとは別の声がした気がするんだが、何か知っているかな?」

 

来たな、どこかでツッコミは来ると思ってたが。

 

「ん、俺のエンブリオです」

 

自分の背中に付いた石の顔……もとい俺のエンブリオを紹介する。

いつ見てもおかしなエンブリオだと思う。いや、背中側だから俺からは見えないんだが。

 

『よー、お姉さん。こいつのエンブリオのグリーンマンだ。よろしく』

 

「え……えぇ……背中に灰色の美少年の顔が……」

 

うん、まあいつも通りの反応だな。……ん?こいつ美少年だったのか。若い声だったから10代だろうとは想像していたが。

 

「変わったエンブリオでしょう?正直俺もこいつをどう使ったらいいのか分からなくて」

 

「…あ、あぁ。少しばかり驚いたがそこまで深く考える必要も無いさ。ソラ自身が最も望む力がそのままエンブリオになるのだ。もしソラが美少年に特別な感情を抱くようになったとしても私がソラを見る目は――」

 

『……そうなのか?』

 

「違いますしありえないです」

 

なんだその思考の飛躍は……別にその手の人間を批判するつもりは無いが、俺は男色というわけではない。

 

くだらない話をしている間に風がかなり強くなってきた。

 

「……この分だと仕事も出来ないな」

 

ん、夜も行商をするのか?それとも物理的な黒さ以外にも闇商人的な振る舞いをするのだろうか。

 

「うーむ。向こうの時間で4時間ログアウトすることにしよう、もし街の案内が必要ならもう1度3時間後にここへ来るといい。」

 

「案内までしてくれるんですか?」

 

「あぁ、もののついでだ。こっちの時間で朝の4時頃の早朝になるが」

 

「勿論です、是非お願いしたいです」

 

「では4時間後にここで会おう」

 

「ありがとうございます」

 

そういうとしばらく宙空に指を滑らせ、アバターが消えた。

 

ん、そういう事ならば飯を食い用を足して少し走り込んで来るか。

 

ずっと向こうにいると気づかないが、沢山の人とのご近所付き合いやハイレベルな娯楽、買い物などなかなか現実の人生も楽しいものだ。無論、ゲームの合間の、という枕詞が付くが。

 

……流石に一つのゲームに依存し過ぎているような気もするが考えないでおこう。もう、向こうの人間は俺を求めていないのだから。


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