四時間目が終わり、昼休みになった。
佐久間隼人が机の上で弁当を広げていると──、
クイクイ。
横からシャツを引っ張られる。ゼノヴィアだ。
「おう、どうした?」
「オセロを教えてくれ」
ゼノヴィアはいつにない険しい表情で、そう言った。
「いや、教えるってほどのもんじゃねーよ。交互に駒を置いてって、挟んだ相手の駒を引っくり返すだけだ」
「それはわかってる。そうではなくて、ええっと、どう言えばいいかな……攻略法というか、必勝法というか……」
「ああ、そういう事か」
隼人は理解して、しかし、ちょっと困った。
「でもなぁ……俺もオセロ名人って訳でもないし……でも、図書室にオセロの本があったから、後で借りに行こう。案内してやるよ」
「ありがとう、隼人」
ゼノヴィアは安心したように笑った。
◆
教室を出た二人は、図書室へ移動する。
ゼノヴィアは隼人の後ろを、トコトコと着いて行った。
図書室に到着すると、隼人は一番奥の本棚に向かう。
「確かこの辺にあったんだよなぁ……」
そう言いながら棚を調べていく。
ゼノヴィアも一緒に探した。
「これじゃないか?」
隼人が探している本棚の、その隣の本棚に、
『猿でもわかる! オセロ教室』
というタイトルが書かれた本が入れられていた。
オセロの教本はそれ一冊だけのようだ。
「おう、それだ。『猿でもわかる!』シリーズ。ホントに猿でもわかるんじゃないかってレベルでよくわかるんだよ、それ」
「そうなのか。よし、早速借りて行こう」
ゼノヴィアは本を胸に抱き抱えて──図書室を出ていこうとしたところを、隼人に襟首を掴んで止められた。
「待て待て待て待て待て。本を借りるにはちゃんと手続きしなきゃダメなんだよ」
「むっ、そうだったのか……どうやればいいんだ?」
「一番最後のページにカードがあるから、そこにクラスと名前と借りた日付と、あと返す予定日も書くんだ」
「わかった」
ゼノヴィアは教えられた通りに手続きして、今度こそ本を持ち出した。
その後、昼休みの憩いの場所に使っている、旧校舎三階の空き教室へ移動する。
「しかしわざわざ本なんか借りなくても、門矢から教わればよくねえか?」
熱心に本を読むゼノヴィアに、隼人はそう言った。
休み時間に彼女が門矢にオセロ勝負を挑んでいるのを、何度か見ているのだ。
「その門矢に五連敗した挙げ句、『もっと弱い奴と戦いたい』とまで言われたんだ。出来るものか」
「そこは、『もっと強い奴と戦いたい』じゃね?」
「私より弱い奴がいたら是非会ってみたいという意味だ。門矢が自分でそう言った」
「…………あいつは自分の優位が確定した途端に調子に乗るからなぁ」
思わず門矢にあきれてしまう隼人であった。
◆
翌日の昼休みも、ゼノヴィアはオセロの教本を読みふけっていた。
隼人はその様子を、何とはなしに眺めていたが、ゼノヴィアの表情を見る限り、いまいち理解しきれない部分もあるようだと感じた。
「ゼノヴィア。実際にやってみた方が早くねえか?」
「だが、私はオセロセットを持ってない」
「アプリで出来るだろ。俺のスマホに入ってるから、ちょっとやってみろ」
隼人はそう言うと、暇潰しのためにスマホにインストールしている、オセロのアプリを開いた。
CPUとの対戦だけでなく、プレイヤー同士での対戦も可能だ。
ゼノヴィアはスマホを受け取り、操作方法を教わってから、教本片手にプレイし始めた。
昼休みが残り少なくなると、ゼノヴィアはアプリを閉じて、スマホを隼人に返す。
「ありがとう隼人。おかげで本の内容がだいぶ理解出来たよ」
「おう、そうか」
「明日も使わせてくれるだろうか? 私のスマホにも入っていれば、いつでも練習出来るのだが……」
「ちょっと待ってろ」
隼人はスマホを操作して、アプリの一覧画面を開くと、ゼノヴィアに見せた。
「この『PLAYストア』ってアプリがたぶんお前のスマホにもあるはずだ。それを開いて検索すれば無料で遊べるアプリが出てくるから、それをダウンロードすればいい。俺もそうした」
「そうだったのか! ありがとう隼人。また一つ勉強になったよ!」
ゼノヴィアは早速、自分のスマホを操作して、言われた通りにする。
「見てくれ隼人、同じアプリだ」
アプリのインストールが終わると、わざわざ画面を見せてきた。
「フッフッフッ、見ていろ門矢め! これで特訓してオセロ名人になって、必ずギャフンと言わせてやる!」
──外人もそう言う台詞を使うのか。
変なところで驚く隼人だった。
それから一週間後。
休み時間の教室に、門矢の
「ギャフン!」
という、尻尾を踏んづけられた猫のような奇声が響き渡った……。