ホームルームが終わり、生徒たちは帰り支度を始める者と部活の準備をする者とに、自然と分かれる。
佐久間隼人は鞄を肩に掛けて、椅子から立ち上がった。
クイクイ。
そこへ、制服の裾を引っ張られる。
振り向くと、やはりゼノヴィアだった。
「おう、どうした?」
「今日は部活が休みなんだ。一緒に帰ろう」
「おう」
そんな訳で、二人は一緒に教室を出た。
──出たは良いが、会話がなかった。
そもそも隼人は、女の子とどんなお喋りをすればいいのか、さっぱりわからない。友達と話題にする漫画やゲームはいかにも男の子向けであり、外国からやって来た女の子が知ってるとは思えない。結果、ただの自分語りになるだろう。自分の好きな事をただ一方的に喋る自分の姿は、想像するだに痛々しい。
ゼノヴィアの方から何か話し掛けてくる訳でもないので、必然二人は黙って肩を並べて歩くだけであった。
そしてある地点まで来ると、家の方角が別々なので、そこで別れる事となる。
「じゃあ、また明日な」
「うん、また明日」
二人はそんな挨拶をして、それぞれの自宅へと別れるのである。
◆
オカルト研究部は精力的には活動していないのか、そんな日が連日とまではいかないものの、数度あった。
しかし隼人は、毎回上手い話題が思い付かず、結局ゼノヴィアと二人並んで黙々と歩くだけの時間を過ごした。
その日もそのようにして、ゼノヴィアと一緒に帰る。
相変わらず、会話はない。
しかしその割りには、ゼノヴィアの方には不満はなさそうだ。チラリと横目で見る顔は、ニコニコしている。そして無言で隼人についてくるのである。
ふとコンビニが目につき、隼人は足を止めた。
「隼人、どうしたんだ?」
「ちょっとお菓子買ってくるから待ってろ」
「うん」
コクンと幼い仕草でうなずくゼノヴィアを老いて、隼人は店内に入り、洋菓子を買ってきた。大きな袋の中に数種類の洋菓子が詰め合わさった物だ。会計を済ませて外に出ると、当たり前だがゼノヴィアがチョコンと立って、彼を待っていた。
「行くぞ」
「うん」
歩き出す隼人に、ゼノヴィアはトコトコとついていった。
隼人は買った洋菓子を見せて、
「そこの公園で、一緒に食おう」
と、提案した。
コンビニの中にも食事が出来る場所はあったが、今日は程好いそよ風が吹いていて、涼しい。外で食べた方が気持ちもいいだろうと思った。
公園の広場に設えられた
「いろんな種類があるんだな」
「ああ。母さんが好きで、よく買ってくる」
会話は、しかしそこで止まった。
いまいち話が続かない。
隼人が気まずそうにゼノヴィアの顔を見ると、彼女はとても美味しそうに、菓子を頬張っていた。
「……なぁ、ゼノヴィア」
「ん?」
「あー、その、なんだ……」
「うん」
「単刀直入に聞くが、俺と一緒にいて、楽しいか?」
「…………ふむ」
問われてゼノヴィアは、口許の食べかすを指ですくい、ペロッと舐めてから、考え込んだ。
「楽しいというのとは、少し違うかも知れないな。落ち着くんだ」
「落ち着くのか」
「ああ。君は私のどんなくだらない質問にも、怒ったり嘲ったりもせず、優しく教えてくれる。自分にも答えがわからなかった時でも、投げ出したりせず一緒に答えを探してくれる。本当に頼もしく思ってるよ。
だから、そんな君が私のそばにいてくれると、とても安心して落ち着けるんだ」
「……そんなもんか」
「ああ。しかし、何故そんなことを聞くんだ?」
ゼノヴィアは子犬のように小首を傾げた。
「いや、最近一緒に帰ってるけどさ、本当に一緒に帰るだけで、何かお喋りする訳でもねぇーし……とは言え、女の子とどんな事話せばいいのかマジでわかんねぇーし……俺と一緒に帰ってもつまんねえんじゃねえかなって……」
「おかしな奴だな、君は。それなら誘ったりなんてする訳ないだろう」
そう言って、ゼノヴィアはコロコロと笑った。
隼人は言われて、それもそうだと納得する。「一緒に帰ろう」と持ちかけるのは、いつも彼女の方からだった。
「話題がないなら仕方ないさ。無理にお喋りする必要もない。このお菓子も、ご馳走してくれるのは嬉しいが、それを気にして無理して買ったのなら、無用な気遣いだ。
私は、君と一緒にいるだけで気持ちが落ち着く。だから一緒にいたい。それだけの事だ。無理にもてなそうとしなくてもいいんだよ?」
「……そんなもんか」
「うん」
ゼノヴィアはそう言うと、また菓子を食べ始めた。なんだかんだで、彼女が半分くらい平らげている。
少しして、ゼノヴィアが隼人のシャツをクイクイと引っ張った。
「ん?」
「これ、一つしかないのだが……もらってもいいだろうか?」
ゼノヴィアは、オレンジの小袋に入った二本入りのお菓子を見せた。
他の洋菓子は各種三つずつ入っているが、その菓子だけは一つしか入ってなかった。
「ああ、いいぞ」
「ありがとう、隼人」
そう言って袋を縦に裂いて開封しようとするゼノヴィアを、隼人は制した。
「待て待て待て、それじゃ中身が割れちまうぞ。そいつはこうやって開けるんだよ」
袋の背にあるつまみの部分を掴んで、斜めに引っ張る。すると中身が壊れる事なく、綺麗に開いた。
「ほら」
「ありがとう、隼人……やっぱり君は、頼りになるな」
ゼノヴィアはニコニコしながら、ロール状のランドグシャクッキーをパクッと食べた。
そんな二人は、まるで仲の良い兄妹のようだった。