ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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図書室

 佐久間隼人が小用を足してトイレから戻ってくると、教室の中はほとんど無人だった。

 ゼノヴィアともう一人、染めた金髪をツインテールにした女子生徒──今日の日直である乾が、二人で窓を施錠している。しかし、彼女たち以外誰もいなかった。

 

「おい、なんで誰もいないんだ?」

「次の授業、戸田山先生が風邪引いて休んじゃったから、図書室で自習だってさ」

 

 隼人の問いに、乾が答えた。

 

「それでか。で、なんで加賀美じゃなくてゼノヴィアが一緒なんだ?」

 

 加賀美とは、乾共々今日の日直の男子である。

 

「あいつには先に行って図書室の鍵開けてもらってるとこ。ゼノヴィアさんは、単にアンタを待ってただけ」

「俺ェ?」

「君と一緒に行きたいだけさ。特に深い意味はない」

 

 ゼノヴィアがそう言った。

 

「アンタたち、ホント仲がいいよね~」

「友達だからね」

 

 乾の冷やかしを、言わんとする事を知ってか知らずか、冷静に受け流すゼノヴィア。

 隼人は小さく溜め息をついた。

 

「んじゃ、さっさと行くか」

「うん」

 

 出入口の施錠を乾に任せ、ゼノヴィアは隼人と一緒に教室を出た。

 図書室までの道のりはもう覚えているはずだが、親のあとをついていく小さな子供めいて、隼人の後ろをトコトコと歩く。まるで兄妹のようだった。

 

 

 図書室に入り、授業開始のチャイムが鳴る。

 クラスの担任である男性教諭の立花が出席を取り終えると、生徒たちは各々が自由に過ごし始めた。

 隼人は読む本を探して、本棚の間をうろつく。

 何故かゼノヴィアが、その後ろをトコトコとついてきた。

 隼人はとある本棚の前でピタリと止まり、陳列された本の背表紙を眺めた後、一冊抜き取った。

 

「何を読むんだ?」

「ハーロック・ショームズ」

「──?」

 

 隼人の返答に、ゼノヴィアは小首を傾げた。

 

「シャーロック・ホームズではないのか?」

「そりゃモデルになった人の名前だよ。確か、作者が通ってた大学の先生だったかな……その人の名前のイニシャルを入れ換えて出来たのが、名探偵ハーロック・ショームズって訳だ」

「なるほど──私も読んでみよう。どれから読むのがいいだろうか?」

 

 ゼノヴィアは十冊近く並ぶハーロック・ショームズシリーズの背表紙を見て、悩む。

 

「どれからでもいいよ。ここにあるのは短編集だけだからな」

「わかった」

 

 そう言って、隼人が本棚から抜き取った『ハーロック・ショームズの冒険』の隣にあった、『ハーロック・ショームズの事件簿』を取り出した。

 二人は一緒に、テーブルの並んだ読書コーナーまで戻り、隣り合って着席すると、本を読み始めた。

 

 その様子を別のテーブルから眺める者たちがいた。仲良しコンビの村山と片瀬だ。一冊の本を二人で一緒に読む振りをしながら、見守っている。

 時々、ゼノヴィアが隼人の制服をクイクイと引っ張った。

 その度に隼人は、ゼノヴィアが指し示す本のページを覗き込む。きっとわからない漢字の読み方を教えてあげているのだろう。

 その様子は、本当に兄妹のような仲の良さで、見ている二人の方が心和むほどであった。

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