ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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水着

 クイクイ。

 

 放課後、佐久間隼人はシャツを引っ張られた。

 そんな事をする相手は決まっているので、そっちの方を向くと、やはりゼノヴィアだった。

 

「おう、どうした」

「日曜日は、何か予定はあるかい?」

「うんにゃ」

「なら、ちょっと買い物に付き合ってはもらえないだろうか?」

「何買うんだよ」

「水着」

「ならアーシアとでも行け。女の子同士の方がいいだろ」

「それがそうはいかないんだ」

 

 と言って、ゼノヴィアは以下の事情を説明する。

 

 彼女の所属するオカルト研究部の部長リアス・グレモリーと、生徒会長の支取蒼那は幼なじみである。

 その縁で、生徒会からオカルト研究部へプール掃除をしてほしいという要請があった。

 引き受けてくれたら一日だけそのプールを好きに使っていいとの事で、リアスは二つ返事で了承。

 女子部員たちにも、各々水着を持参するようにとの通達があった。

 

「それで、当日見せ合う予定なので、アーシアを誘う訳にはいかない。かと言って学校指定の水着では何だかこちらが距離を置いているようで気が引ける。だから、君に選んでほしいんだ」

「う~ん、でもなぁ……」

「お願いだ、隼人。君だけが頼りなんだ」

 

 ──君だけが頼りなんだ。

 

 ゼノヴィアのその一言が、隼人の中で何度も何度もリフレインされた。

 よく見るとゼノヴィアは眉毛を八の字に下げて、まるで捨てられた子犬のような気弱な顔だった。

 こんな彼女の頼みを無下に断るようでは、男が廃る。

 

「しゃぁーねぇな、頼られてやるよ」

「ありがとう、隼人」

 

 隼人の返答に、ゼノヴィアは安堵の笑みを浮かべた。

 

 

 ──という訳で日曜日。

 隼人は待ち合わせ場所の公園で、ゼノヴィアを待つ。

 

「隼人」

 

 呼び掛けられて振り向くと、ゼノヴィアがいた。

 水色のシャツと白いズボン。

 実に涼しげな服装だ。

 

「おう」

「来てくれてありがとう。さぁ行こう、店はこっちだ」

 

 ゼノヴィアは隼人の手を引いて、トコトコと歩き出す。

 心なしか足取りが軽かった。

 ゼノヴィアに連れられて隼人がやって来たのは、三階建ての服屋だった。看板にはアルファベットで店名が書いてあるが、隼人の英語力では読めなかった。

 

「ここの三階が、今は水着専用コーナーになっているらしい」

「豪勢だな」

 

 その水着専用コーナーに入ると、通路を挟んで右側が男性用、左側が女性用コーナーとなっている。

 ゼノヴィアは隼人の手を引いて、彼の気恥ずかしさになどとんと気付かずに、迷わずそちらへ向かった。

 

「さぁ、選んでくれ。君が選んでくれれば安心だ」

「……信頼されるのは嬉しいが、いくらなんでも他人に丸投げし過ぎだ」

 

 隼人は思わずたしなめるが、ゼノヴィアはただ子犬のように小首を傾げるだけだった。

 

「だが、私はどういう水着が良いのかわからないからね。隼人が選んでくれたものなら間違いはないだろう?」

「じゃあお前、俺がこういうの着ろって言ったら着るのか? 着ないだろ」

 

 隼人は親指で、手近なところに展示されてある水着を指し示した。

 いわゆるスリングショットと呼ばれる物で、大事な部分を隠すための布地はとても小さく、ほとんど紐と変わらない代物だった。

 ゼノヴィアはその水着を上から下まで眺めてから、

 

「こういうのが好きなのか? 私は構わないぞ」

「構えよ」

 

 あっさりと答えるゼノヴィアに、隼人は半分あきれてしまった。

 

「まぁいいや。そのプールの日には男子も──つーか、兵藤も来るんだよな」

「うん」

「なら、ビキニはアウトだ。断固NGだ」

「何故だい?」

「泳ぐとポロリと取れるらしいからな」

「なるほど」

 

 いつも自分の胸に話し掛けてくる一誠のだらしない顔を思い出し、ゼノヴィアは納得した。

 

「だから、まぁ……」

 

 隼人はちょっと辺りを見回してから、離れたところにある競泳水着のコーナーに向かう。

 

「着るならこういうのにしとけ」

「わかった。この中の、どれがいいだろう?」

「それこそ好きにしろよ。でも、あんまり白いのとか薄いのとかは選ぶなよ?」

「何故だい?」

「濡れると透けるそうだからな」

「なるほど」

 

 いつも自分の胸に話し掛けてくる一誠のだらしない顔を思い出し、ゼノヴィアは納得した。

 

「よし、では早速見繕うとしよう」

 

 そして、何故か隼人の手を引いて、女性用競泳水着コーナーに乗り込んでいく。

 

「これなんかどうだろう? 何だか凄く安全性が高そうだ」

 

 とゼノヴィアが指し示したのは、全身をガッチリと覆うタイプだった。

 

「オリンピックじゃねぇーんだから、もっと可愛いっぽいのにしろよ。たぶん他の連中もそんな感じのを持ってくるだろうからよ」

「うぅむ、難しいな……」

 

 それからゼノヴィアは、あれやこれやを取っ替え引っ替え見て回ったが、なかなか決まらない。

 隼人はだんだん、見ていられなくなってきた。

 

「決まらないなら、これにしろ」

 

 そう言って、緑色のラインが入った青い競泳水着の掛かったハンガーを手に取った。

 

「お前の髪の色と同じだから、何か統一感があっていいだろ」

「──うん、わかった。ありがとう隼人」

 

 ゼノヴィアは差し出された水着を、何故か嬉しそうに手に取った。

 

「じゃ、下で待ってるから、さっさと金払って来い」

「うん」

 

 ゼノヴィアが幼い仕草でコクンとうなずくと、隼人はさっさと階段を下りていった。

 取り残されたゼノヴィアはレジへ向かう途中で、ピタリと足を止めた。

 

 さっきのスリングショット水着が、そこにあった。

 

 ゼノヴィアはそれを少しの間眺めてから、何を思ったか展示されてあるそれと同じ物を手に取った──。

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