「あれ? どうしたの佐久間くん」
「ゼノヴィアさんは?」
昼休みに、村山と片瀬が声をかけてきた。いつもならゼノヴィアと二人で教室を出ていく隼人が、今日は一人で弁当を食べているのだ。
「アイツは部活のみんなと飯食う約束してるらしいから、そっちに行った」
隼人はそう答えて、だし巻き玉子を頬張った。
オカルト研究部の部長リアス・グレモリーの手料理をみんなで食べるらしく、ゼノヴィアは手ぶらで出て行った。校内屈指の人気を誇る上級生の手料理が振る舞われると知れれば、部外者の村山と片瀬はさぞや残念がるだろうと思い、そこまで詳しくは説明しなかった。
「ふーん、そうなんだ」
「じゃあ今日は私たちが一緒にいてあげるねー」
「じゃあって何だよ」
隼人は片瀬に突っ込むが、二人は「いいからいいから」「気にしない気にしない」と受け流し、隣にあるゼノヴィアの机をくっつけた。
隼人も隼人で、文句を言うほどの事でもないので黙認した。誰かと一緒にいたい訳ではないが、わざわざ追い払ってまで一人になりたい訳でもない。
「ところでさ、佐久間くんとゼノヴィアさんって、いっつもどこで何してるの?」
隼人の隣に座った村山が問い掛ける。
「特にどことは決めてねえよ。特に何かしてる訳でもねえ」
「お喋りとかは?」
と片瀬。彼女は村山の向かい側に座っている。
「する事はするが、特に珍しい話題って訳じゃねえ」
「本当に一緒にいるだけ?」
「まぁな」
自分がハーモニカをやってる事は、何となく恥ずかしいので言わない隼人であった。
「ふーん、そっかー。それだけゼノヴィアさんは佐久間くんになついてるんだねー」
「何でそうなるんだよ」
「だって、特に何かする訳でもないのに一緒にいたがるって事は、そういう事でしょ?」
「そうよね、佐久間くんと一緒の方が落ち着くって事だし」
「佐久間くんはゼノヴィアさんのお兄ちゃんだもんねー」
「何でそうなるんだよ」
同じ言葉を繰り返し、隼人はメインディッシュに残しておいた鶏の唐揚げを頬張った。
「だって色々教えてあげてるみたいじゃない」
「それに佐久間くんの後ろをトコトコついてって、本当に兄妹みたいだよ?」
村山と片瀬はそれぞれ答えると、二人で顔を見合わせて「ねー?」と声を揃えた。
「佐久間くんだって、今日はゼノヴィアさんがいないから、ホントは寂しかったんじゃないの?」
「うんうん、何となーく寂しそうだったよねー」
「別に、寂しくなんてねーよ。どうせすぐに戻ってくるんだし」
「そんな事言って、ホントは寂しいんでしょー?」
「いつも一緒の相手がいないと落ち着かないよね」
「うんうん、私も片瀬がお休みの時とか、何か物足りない気持ちになるし」
「ホント? 私も村山がそばにいないと寂しいんだよねー」
「そうなの? 何か嬉しい……!」
「お前等、人が飯食ってる横で、しかも女同士でイチャついてんじゃねえ」
隼人は声音に凄みを加えて言ったが、昨年も同じクラスだった気安さからか、二人はどこ吹く風である。
その後もとりとめのないお喋りをして、時々隼人を二人でからかいつつ、食事を終えた村山と片瀬は、ゼノヴィアの机を元の位置に戻してから自分たちの席に戻っていった。
隼人も食べ終わって空になった弁当箱をしまうと、席を立った。昼休みの残りの時間を、図書室で過ごそうと思ったのだ。
しかし教室を出たところで、戻ってきたゼノヴィアと鉢合わせた。
「やぁ隼人、どこへ行くんだ?」
「図書室」
「私も行こう」
ゼノヴィアは迷わずそう言って、隼人の後ろをトコトコとついていく。
(……妹っつーか、犬だな)
クルンと丸まった尻尾をブンブン振りながら飼い主についてくる、小さな柴犬。そんなイメージが、ゼノヴィアの姿と重なる隼人であった。