ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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同級生の秘密

 昼休み。

 ゼノヴィアは一人で校内を散策していた。

 アーシアや一誠が案内を買って出たが、二人がなるべく一緒にいられるようにしたいという気遣いから、ゼノヴィアはそれを断ったのだ。自分の目で見て回った方が覚えるのも早いから、というのもある。

 

 しかしゼノヴィアは、早速その自分の判断を後悔する羽目になった。

 迷ったのだ。

 

(困ったな……)

 

 道を尋ねようにも、こういう時に限って、周囲には人っ子一人いない。

 さてどうしたものかと辺りを見渡すと、遠くに見覚えのある建物が見えた。

 二時間目の物理の時間に訪れた実習棟だ。そこから教室に戻る道ならばわかる。

 パタパタと小走りで向かうと、少女の耳に音楽が響いてきた。ハーモニカの音だ。

 

「――?」

 

 音楽室は実習棟とはまた別の校舎にある。いささか場違いな音に、ゼノヴィアは好奇心から、音をたどって実習棟の裏庭へと歩を進める。

 

 裏庭には古ぼけたベンチが一つあり、そこに男子生徒が一人座って、ハーモニカを吹いていた。

 

 のどかでありながら、どことなく寂しさや哀愁を感じさせるメロディを奏でているのは、ゼノヴィアの隣の席の佐久間隼人だった。

 それがわかって、ゼノヴィアは安心した。

 今朝もこの実習棟には彼が案内してくれたのだ。ぶっきらぼうなところはあるが、決して悪い人間ではない。道に迷ったと素直に打ち明ければ教室まで連れていってくれるだろう。そうでなくとも、同じクラスなのだから彼についていけば必然教室に戻れる。

 

(主よ、感謝いたします!)

 

 ゼノヴィアはこの幸運を、いつもの癖で神に祈ってしまった。

 

「ふぎゃっ!?」

 

 突然頭の中に走る、稲妻のような強烈な痛み。思わず年頃の乙女らしからぬ声を上げてしまう。

 

 ファファンッ!

 

 その声に驚いて、隼人のハーモニカもすっとんきょうな音を鳴らしてしまった。

 

「だ、誰ダッ!?」

 

 よもや人がいるなどとは思ってなかったので、誰何(すいか)の声も半ば裏返る。

 その声に応えるように、ゼノヴィアはフラフラと物陰から姿を現した。

 

「お、驚かせてすまない……」

「なんだ、ゼノヴィアか。大丈夫か?」

「あ、ああ……何ともない……全然平気だ」

「凄い説得力だな」

 

 おぼつかない足取りや若干青白くなっている顔を見て、隼人は言った。

 

「とりあえず、座れ。倒れても知らんぞ」

 

 自分の隣のスペースを手でポンポン叩き、着席をうながす。ゼノヴィアはおとなしくそれに従った。

 

 数秒ほどで、祈りのダメージは消えた。

 

「で、何やってんだ、こんなとこで」

「道に迷ったんだ。だけど実習棟から教室に戻る道ならわかるから、とりあえずここに来た。そうしたらハーモニカの音が聞こえてきたので、様子を見に行ったら君がいた」

「そういう事か」

「君こそ、何故こんな所で練習を?」

「部員でもねーのに音楽室使う訳にはいかんだろ。それに、ここなら誰も来ねえからな――さっきまでは」

「う、すまない」

 

 彼の練習を邪魔したのには変わりはない。ゼノヴィアはその点は素直に謝った。

 

「誰にも言うなよ」

 

 隼人はジロリとにらんでそう言った。

 

「ああ、わかってるさ……だが、条件がある。さっきの曲を、もう一度聞かせてもらえないか?」

「…………」

 

 ゼノヴィアの要求に、少年は唇を尖らせて不満をあらわにした……が、

 

「一回だけだぞ」

 

 と言って、演奏を始める。

 曲目は『ふるさと』。日本人には馴染みのある歌だが、讃美歌以外の音楽にはとんと馴染みのないゼノヴィアには、ハーモニカで奏でるメロディはとても新鮮で、聞いてて耳に心地好かった。

 演奏が終わると、ゼノヴィアは心からの拍手を送った。

 

「凄く上手じゃないか! 素晴らしいぞ隼人!」

「あー、あんがとさん」

 

ハーモニカをハンカチで拭き、ケースにしまう少年の頬には、かすかな赤みが差していた。

 

「それより時間ねえから、教室戻るぞ。ついてこい」

「うん」

 

 二人はベンチから立ち上がり、歩き出す。

 クラスメートの後ろをトコトコと歩きながら、ゼノヴィアはその背中に質問した。

 

「隼人、何故ハーモニカをやってるんだ」

「なんでもいーだろ」

「……そ、そうだな。すまない」

 

 突き放すような言い方に、ゼノヴィアはちょっと怯む。

 

「……あー、えーっと、ほら、アレだ……音楽スキル磨けば、女の子にモテるかなーって、そう思っただけだよ。そういう事にしとけ」

 

 ちょっと言い方がキツかったかな? と感じた隼人は、すぐにそう付け加える。

 

「そうか、わかった……隼人、私は君のハーモニカが気に入った。また聞かせてもらえるかな?」

「見世物じゃねぇんだけどなぁ……」

 

 隼人は黒髪をガシガシと掻きながらぼやく。

 

「でもまぁ、お前一人くらいならいいか」

 

 その一言に、ゼノヴィアはパッと笑顔を咲かせたのだった。

 

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