ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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お宅訪問

 佐久間隼人とゼノヴィアは、二人肩を並べて、学校を出た。

 今日は部活が休みらしいゼノヴィアが、

 

「君の家に行ってみたい」

 

 と言い出したのである。

 道中特に何事もなく家に着いた時、敷地内に母の乗り回している軽自動車がないのを見て、隼人はちょっと安心した。息子が家にガールフレンドを連れてきたと知ったら、必要以上にはしゃいでしまうだろう。おそらく買い物に出掛けたのだろうから、2~3時間は戻ってくるまい。

 

 隼人は家に入ると、ゼノヴィアを一旦リビングに案内して、麦茶を入れてやった。

 

「ちょっと部屋片付けて来るから、ここで待ってろ」

「うん」

 

 ゼノヴィアはコクンとうなずいた。

 二階の自室に上がり、出しっぱなしの漫画本やゲーム機を片付け、部屋着に着替えた隼人は、ゼノヴィアを招き入れた。

 ゼノヴィアは物珍しそうにキョロキョロと室内を見渡す。

 壁際の本棚にはこの前読ませてもらった『狂闘先生!』を始め、いろんな漫画本や小説が陳列されていた。

 反対側の壁には戦闘機のポスターが貼られてある。

 ゼノヴィアの部屋に比べると物が多いが、散らかっている印象はない。麦茶を飲んでる間のわずかな時間でここまで片付けたとすれば、普段からそんなに散らかってはいないという事だ。そう考えて、ゼノヴィアは隼人に対してますます好ましい気持ちを抱いた。

 

 招き入れたは良いがどうしたらいいかわからない隼人は、とりあえずゲームを一緒にやる事にした。

 選んだゲームソフトは『ヌリオカートDX(デラックス)』。アクションゲーム『スーパーヌリオ』シリーズのキャラクターたちを操作するレースゲームだ。コース上のアイテムを取得してパワーアップしたり、他のキャラクターへの攻撃や妨害も出来る、かなり何でもあり(ヴァーリトゥード)なゲームである。

 ゼノヴィアに操作の仕方を教えて、早速やらせてみた。

 レースゲームどころかテレビゲーム自体初体験のゼノヴィアだったが、元々勘の良い娘なので、すぐに操作を覚えた。

 それで、今度は二人で対戦してみようという事になり、隼人は一度画面を最初のメニュー画面に戻す。

 そこでゼノヴィアの目に、ある項目が止まった。『オンライン対戦』と書かれた項目である。

 

「隼人、これは?」

 

 と指差して尋ねる。

 

「そのまんまだよ。インターネットで、同じゲームやってるプレイヤーと最大11人で競争するんだ」

「11人! 凄いな、ちょっとやってみたいぞ! ──あ、いや、やはりやめておこう」

「急にどうした」

「インターネットで、という事は、つまり隼人のアカウントで勝負するという事だろう? もしも負けたら、君の戦績がその分悪くなってしまう」

「気にするなよ、金を取られる訳でもないんだから」

「……うん。ありがとう隼人」

 

 ゼノヴィアは隼人の優しさに感激しつつ、オンライン対戦に挑戦する。

 対戦相手が集まり、レースが始まった。

 コースは大きな城の周りに張り巡らされたサーキットで、花畑あり、並木道あり、池ありののどかな風景だ。

 スタートダッシュで出遅れたゼノヴィアだったが、途中途中の加速アイテムを取る事に成功し、そのアイテムの効果で一気に上位にまで昇り詰めた。

 そして二週目に入ったところで、後方から飛んできた亀の甲羅の直撃を受けてスピン、その隙に後続に一気に追い抜かれて、あっという間に最下位となってしまう。

 何とか遅れを取り戻そうとしたものの、差はなかなか縮まらず、最下位のままで終わってしまった。

 

「……今日は巡り合わせが悪かったな」

 

 隼人の慰めの言葉は、割りと本音の言葉でもあった。経験者の隼人から見ても、今日の対戦相手は上級者揃いだった。この時間帯には滅多にお目にかかれないレベルの者たちばかりである。ゼノヴィアの運が悪かったとしか思えなかった。

 

「ほんの一度の失敗で、取り返しのつかない事態に陥る……まるで人生の縮図を見ているようだったよ──しかし」

「しかし?」

「私の前には誰もおらず、皆が私の後ろを走っていた。見ていた景色は一位と同じだ。ならば実質、私が一位だったも同然ではないか?

「皮肉とか嫌味とか抜きに、その発想はマジでなかったぞ……」

 

 ゼノヴィアのポジティブ思考に、割りと本気で尊敬の念を抱く隼人であった。

 

 

 気を取り直して、特訓と称してゼノヴィアは隼人と一対一で対戦する。

 

「うおおおおっ! 何人(なんぴと)たりとも私の前は走らせんッッ!!」

 

 前のめりになって叫ぶゼノヴィア。

 コース中盤の急カーブが連続するセクションに差し掛かると、ゼノヴィアが隼人の体に横からのし掛かってきた。

 かと思えば、すぐに離れた。

 またのし掛かってきた。

 カーブを曲がる度に、その方向に体が傾いてしまっているのだ。

 そしてその度に、彼女の胸に搭載された豊かな膨らみが、互いの着衣越しに隼人の腕に触れた。

 髪の匂いが隼人の鼻をくすぐった。

 しかしゼノヴィアは全く気付いていない。

 隼人一人が、すぐ隣にある女体を抱き締めたい衝動と戦い、悶々とした気持ちになっていた……。

 

 

 ひとしきりゲームを楽しんだ後、暗くなる前に──というよりは母が帰って来る前に──隼人はゼノヴィアを送ってやる事にした。

 

「今日はありがとう、隼人。楽しかった」

「そら良かった」

「また遊びに行ってもいいだろうか?」

「……時々ならな」

 

 毎日来てほしいくらいだが、自分の理性の堅固さにいささか自信が持てない隼人は、そう答えた。

 

「ありがとう隼人。君は本当に優しいんだな」

 

 ゼノヴィアは嬉しさの余り、隼人の腕にギュッとしがみついた。胸の膨らみが密着して、そのボリュームと柔らかさをダイレクトに伝えてくる。

 

「いいって事よ」

 

 クールを装う隼人の心の中で、理性と獣性の時間無制限一本勝負のゴングが鳴らされる。

 ゼノヴィアは自分を兄のように慕い、なつき、じゃれついているだけなのだ。歳の離れた兄姉に、小さな弟妹が抱きつくのと同じ感覚なのだ。

 そう自分に言い聞かせ、自分の中の獣を必死に抑え込む隼人であった。

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