佐久間隼人は昼休み、旧校舎の空き教室にいた。
椅子に座った彼の膝の上に、向かい合うようにして座っているのは、姫島朱乃。上半身は裸だ。
上半身は裸だ。
彼女が脱いだシャツとブラジャーは、傍らの机の上に乱雑に置かれてある。
隼人は朱乃の豊満すぎる乳房の片側に指をくいこませて捏ね回しながら、もう片方に顔を埋めていた。時々チュパチュパと音がして、その度に朱乃は身をよじらせる。
「ああ……隼人様にこんなにも求められて……嬉しい……」
後輩の黒髪を撫でながら、朱乃は恍惚とした表情で呟いた。
隼人は上級生の乳房を味わいながら、天眼通で隣の教室を透視した。
そこにも自分がいて、やはり椅子に座っている。そして膝の上にチョコンと座るゼノヴィアを後ろから抱き締めて、彼女の肩越しに、互いの唇をついばみ合っていた。
──つまり、今彼は二人に分身して、ゼノヴィアと朱乃の二人を同時に相手しているのである。
何故このようなことになったかと言えば、ゼノヴィアからの提案だった。
◆
自分が朱乃の命の恩人であったと知らされた翌日。
いつものように隼人は旧校舎の空き教室でゼノヴィアと昼休みを過ごしていた。自分の膝の上に跨がり、首に両腕を巻き付けて体を密着させて、頬擦りしたり匂いを嗅いだりするゼノヴィアの後ろ髪を、隼人は優しく撫でてあげていた。
だが、ゼノヴィアが不意に彼の顔を覗き込み、尋ねたのである。
「隼人。昨日は副部長と何を話したんだ? 途中で分身を一人向かわせていたが」
「斯く斯く然々で熱烈アプローチくらっちまってな」
「そうだったのか……良いじゃないか、付き合ってあげれば」
「おい」
「もちろん、私と別れた上で、と言うようならば抗議させてもらうが、そうでないなら特に問題はないだろう?」
「俺に二股掛けろってのか?」
「人間社会では問題だが、悪魔社会でならそうでもないさ。隼人には分身の術もあるしね。それに隼人だって、副部長が嫌いな訳ではないのだろう?」
言われて、隼人は納得しそうになった。
重婚が認められている悪魔社会で、二人の女性と関係を持つことは責められる事ではない。
片方と付き合ってる時はもう片方がほったらかしになる。或いは、両方を満足させるためにこちらが分刻みのスケジュール調整をせねばならない。そう言った問題も、分身の術なら簡単に解決出来る。
そして、朱乃に対しても悪感情は持ってはいない。
「付き合ってみて、合わないとわかったら別れれば良い。それは悪い事ではないと私は思う……何より、私は副部長が好きだからね」
ゼノヴィアはそう続ける。
「元は教会の戦士だった私に、学園の上級生としても転生悪魔の先輩としても優しく接してくれて、本当に、姉のように思っているんだ。そんな副部長が私のせいで隼人と結ばれず、寂しい思いや辛い思いをしてると思うと、どうにも忍びない。隼人、副部長にチャンスを与えてあげられないだろうか?」
「ありがとうゼノヴィアちゃんッッ!!」
バンッ!と激しく戸が開かれて、朱乃が入ってきた。廊下で様子を伺っていたのだろうか。隼人、思わず小さく「居たのかよ」と突っ込んでしまう。
朱乃はズカズカと入ってくるとゼノヴィアの両手を握りしめた。よく見ると、目尻に涙の粒が浮かんでいる。
「あなたが私のことをそこまで思ってくれていたなんて……本当にありがとうゼノヴィアちゃん!」
そしてその場にひざまずき、隼人の顔を見上げる。
「隼人様。朱乃は決してお二人の仲を裂こうなどと思っておりません。ただ、ゼノヴィアちゃんを愛するように朱乃のことも愛していただきたいだけなのです。どんなご命令にも従います。決して口答えいたしません。どうか……どうか、朱乃をお側に居させてください」
「ほら隼人。副部長がここまで言っているのだから、考えてもらえないだろうか」
と、ゼノヴィアも言ってくる。
──そして結局、隼人は折れた。
◆
それからまだ一週間ほどしか経ってないが、朱乃は自分でも言ったように、隼人の要求には全て従順に応じた。
本当に、
隼人としては、どうにも性欲に負けたような気がして、『本当にこれで良いのだろうか?』という疑問が無くもない。
しかし今、部活を終えて手を繋いで家路に着く朱乃の、幸せ絶頂と言わんばかりの恍惚とした横顔を見ていると、
(……まぁ良いか)
と、思ってしまうのである。