ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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教えて、お兄ちゃん

 国語の授業が終わり、隼人は次の授業の準備をしていた。

 そこへ、制服のシャツを横からクイクイと引っ張られる。ゼノヴィアだ。

 

「ん? どした?」

「教えてほしい漢字がある」

 

 彼女の机の上には、一枚の紙があった。さっきの国語の授業で配られた、小テストの答案だった。

 

「どれだ?」

 

 隼人は身を乗り出して、覗き込む。

 

「この『内臓』という字が間違ってるらしいのだが、どこが間違ってるのかわからないんだ」

 

 なるほど、彼女が指し示した解答欄には『内臓』という漢字が書かれてあり、その字の上から赤ペンで『×』が引かれてある。

 隼人は指先で、その解答欄の横の問題文をトントンと叩いて示した。

 

「間違ってないけど間違ってる。この問題文、『強力なモーターを○○した掃除機』ってあるだろ?」

「うん」

 

 ゼノヴィアはコクンと、幼い仕草でうなずいた。

 

「ここでナイゾウの漢字を使う場合は、“(つきへん)”はいらないんだよ。こっちの字を使う」

 

 隼人は説明して、『内蔵』という字を解答欄の横の余白に書き込んだ。

 

「“(つきへん)”は体の部位をあらわす字に使う部首で、胃袋とか腸とか肝臓とか、そっちのナイゾウに使う漢字だ」

 

 ――正確には、体の部位を表す部首は、『つきへん』ではなく『にくづき』である。しかし隼人とて、そこまで詳しい訳ではない。

 

「なるほど。書き間違いではなく、漢字のセレクト自体が間違っていたのか……!」

「そういうこった」

「ありがとう、隼人……あの、他にもわからない所があるのだが……」

「んー……昼休みにまとめて教えてやるよ。もうすぐ次の授業始まるから用意しろ」

「あ、うん」

 

 言われたゼノヴィアは腕時計を見て、休み時間が残り少ない事に気付き、答案用紙をしまった。

 

 

 昼休み。

 隼人は弁当を食べ終わると、椅子を引っ張ってゼノヴィアの横に座り込んだ。

 

 ゼノヴィアの質問は、主に漢字についてだ。

 チラリと点数を見やると、13点というかなり低い点数だ。彼女は日本語のヒアリングはほぼ完璧だが、読み書きがまだ不慣れなのだろう。文章問題の間違いも、それを考えれば仕方ない面がある。

 

 隼人はゼノヴィアの質問に、なるべく懇切丁寧に答えてやった。

 

「ありがとう隼人。おかげで、いろいろと理解できたよ。次の小テストでは、もっといい点が取れそうだ」

「そうか、頑張れよ」

 

 隼人はポンポンと彼女の頭を叩いて、励ましてやる。

 そして自分のその行為に、自分で内心驚いた。女子の髪に気安く触るというのは、彼の中ではちょっと有り得ない行動なのだ。

 

(まぁ、しょうがねえのかなぁ……)

 

 しかし、相手がゼノヴィアだと思えば、納得も出来た。

 休み時間にシャツをクイクイと引っ張った仕草を始め、転入初日のクールな印象とは裏腹に、彼女の挙動にはどこか幼さがある。

 そして、あれこれとひたむきに質問してくる様を見ていると、一人っ子の隼人ですら、妹に勉強を教える兄のような気分になってくるのだ。

 

 同い年の少女に対しておこがましいかも知れないが、守ってあげたいという気持ちにさせられる。

 

「また何かわからない事があったら、いつでも聞きな。俺でわかる事なら教えてやるよ」

「ありがとう、隼人」

 

 隼人は椅子を元に戻すと、トイレに行った。

 

 ゼノヴィアはその背中をじっと見送る。

 テストの内容について、ほぼ全ての問題についてあれこれと質問してしまった。なのに彼は、嫌な顔一つせず、「こんな事もわからないのか」と嘲りもせず、優しく、丁寧に教えてくれた。

 

(もしも私に兄がいたら、きっと彼のような男性なのだろうな……)

 

 同い年の少年に対してそのように思うのも、変な話かも知れない。

 しかし、教会で育てられた孤児だった彼女は、隣の席の同級生にそのような感傷を抱いてしまうのだった。

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