日曜日。
駒王町の郊外にある神社。
その敷地内にこじんまりとした平屋建ての家がある。
庭に面した縁側に、佐久間隼人はいた。
Tシャツに短パンというラフな服装で、敷かれた座布団に座り、柱を背もたれにして、ハーモニカを吹いている。曲は、初夏の風景を描写する『夏は
山の中腹に建てられているため、見晴らしは良い。青く澄んだ空と、散り散りに浮かぶ白い雲。小さいながらも手入れされた庭には、緑の芝生に初夏を彩る花々がアクセントを加えている。
緩やかに奏でられるハーモニカの音色を、隼人のすぐそばで、姫島朱乃が座布団の上に正座して聞いていた。目を閉じたその顔は、心地良さげな表情である。
こちらは、丈の長いTシャツ1枚のみを身に着けていた。
朱乃の豊満な胸は着ているTシャツを内側から押し上げて、今にもはち切れそうだった。豊かな膨らみの先端に、小さな突起が確認できる。ノーブラだ。
ノーブラだ。
ブラジャーは二人の背後の和室に昨夜から敷かれたままの、乱れた布団の上に、ショーツと一緒に脱ぎ捨てられていた。
朱乃が聴き入る中、隼人は曲をニ回ほど繰り返したあと、最後の一節を更に緩やかに奏でて、締めくくりとした。
──パチパチパチ。
朱乃は朗らかな笑顔で、拍手を贈る。
「とても素敵でしたわ、隼人様」
「おだてても木には登らねーぞ」
ぶっきらぼうに返した隼人は、ハーモニカを収納ケースにしまって板張りの床に置き、お盆の上で汗をかいたグラスを手に取って、中の麦茶を呷った。
「謙遜なさることはございませんわ。本当に、心が和む調べでした……」
「ただの下手の横好きなんだけどな」
「あら、それはとても素晴らしいことだと思いますわ……いつまでも好きでいられること、飽きずに続けていられること、それ自体が、隼人様のハーモニカの才能の現れです」
「……ふーん、まぁ、朱乃が言うならそういうことにしておくか」
そう言って、隼人はゴロリと寝転がり、朱乃のムッチリとした太腿を枕にした。
その手が下から伸びてTシャツの中に潜り込み、彼女の胸を揉みしだく。欲情してるのではなく、ただの条件反射である。
朱乃は頬を赤らめ、かすかに息を荒げた。
気安く胸を弄ばれることに、何の不快感も嫌悪感もない。日に幾度となく、後輩の手で玩具のように扱われることが、嬉しくてたまらないのだ。隼人に胸を弄ばれることに、誇らしさすら感じていた。
隼人は昨日から、朱乃が住まうこの家に泊まり込んでいた。
ゼノヴィアの住むマンションにも、彼の分身が泊まっている。天眼通で様子を見れば、向こうでも分身が、リビングのソファに腰掛けてハーモニカを吹いている。ゼノヴィアはそんな彼の太腿を枕に、ウットリと耳を傾けていた。
別の場所に視点を変えれば、更にもう一人の自分が、母親の買い物に付き添っていた。
三人に分身して、母・ゼノヴィア・朱乃の三人の女性の相手をしているわけだが、今のところ特にトラブルは起きてないようだ。
「──そういえば、朱乃」
「はい」
「旧校舎の三階って、何があんの?」
唐突な質問であった。
実際、唐突に思い出したことでもある。
オカルト研究部に入部して間もない頃、ゼノヴィアと旧校舎内を探検したのだが、階段の踊り場と三階とは防火扉で隔てられており、更にその防火扉には、黒地で『KEEP OUT』と書かれた黄色いテープが十重二十重と張り巡らされていたのだ。
そのうち気が向いたら他の部員に聞いてみようかと思っていた。その気が向いた瞬間が、今だっただけである。
朱乃はご主人様の問い掛けに、子犬のように首を傾げた。
「隼人様でしたら、神通力でご覧になれるのでは?」
「あんなあからさまに立入禁止ムード出してるとこ覗けるかよ」
──兵藤じゃあるまいし。
そう思いはしても、口にはしないだけの情けが隼人にもあった。
「実はあそこには、オカルト研究部の最後の一人がいるのです」
「まだ面子がいたのか」
「はい。強力な
「そりゃ難儀だな」
「私どもで、制御のための訓練をして、だいぶコントロール出来るようにはなったのですが……可哀想に……その力や特殊な生まれのせいで迫害されていたせいで、心を病んでしまって、対人恐怖症になっているのです……」
胸を揉まれて快楽に喘いでいた朱乃の表情が、一瞬暗くなった。
「いずれ部長が顔合わせさせてくださるでしょうけれど、そういうことですので、どうか優しく接してあげてくださいましね」
「あいよ」
気軽に返事をする隼人の手は、一向に止まる様子もなく、朱乃のTシャツの下で妖しく蠢き続けていた。