ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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顔合わせ

 月曜日。

 授業を終えて部室に集まった部員たちを引き連れて、リアス・グレモリーは旧校舎の階段を上がっていた。

 オカルト研究部──グレモリー眷属の最後の一人と、新入部員たちとの顔合わせのためである。

 隼人はみんなの後方を歩いていた──ゼノヴィアと朱乃の二人に挟まれる形で。

 

「まさか話をしたその翌日とはな……」

 

 隼人がポツリと呟く。

 昨日朱乃の胸を揉みしだき、捏ね回し、弄びながら聞かされた最後の一人との顔合わせが、その翌日たる今日という状況に、ちょっぴり驚いていた。

 それが単なる偶然でも、虫の知らせのようにものであったとしても、別にどちらでも良いという気持ちもある。「世の中そんなもんだ」と、割り切っていた。

 階段を登って、三階の防火扉の前で、一同は立ち止まった。

 リアスが『KEEP OUT』と書かれたテープを剥がしてる間に、隼人は印を結んだ。

 左の親指を包み込むように四本の指を握り、その上から右掌を被せたのだ。

 

「オン・アニチヤ・マリシエイ・ソワカ」

 

 そして口の中で小さく呟く。

 

「さ、みんな行くわよ」

 

 テープを剥がし終えたリアスが部員たちに声をかける。

 

「さっきも言ったように、人見知りの激しい子だから、くれぐれも怖がらせないようにね」

 

 彼女の言葉に部員たちは口々に承諾の返事をする。

 リアスは防火扉を開けると、その先の廊下を真っ直ぐに進み、一番奥の教室へと向かった。

 その教室の手前のドアを、三度ノックして、中にいる者に呼びかける。

 

「ギャスパー。この前話した新入部員たちを連れてきたわ。開けてちょうだい」

「は、は、はいぃ……」

 

 か細い、小さな声が答えた。怯えているのか、震えてさえいる。加えて高い声なので、男女の判別がつかなかった。

 恐る恐る……といった風に、ドアがゆっくりと開かれる。

 出迎えたのは、小猫と同じくらいの背丈の、女子生徒だった。

 金髪をおかっぱに切り揃え、その瞳は赤い。

 髪の隙間から覗く耳は、耳朶の上端がかすかに尖っていた。

 

「は、初めまし」

「おおっ! 可愛い! アーシアとお揃いの金髪美少女か!」

 

 挨拶に被せるように言って、一誠が前に出て来た。

 そして四方八方からジロジロと不躾な視線で相手を眺める。

 

「ちょっと、イッセー」

「部長! 確かこの娘、アーシアと同じ僧侶(ビショップ)なんですよね? こんな可愛い子がいるのに今の今まで黙ってるなんて部長も人がわ──」

 

 おそらく「人が悪い」とでも言おうとしたのだろう。しかし言葉は途中で途切れ、一誠は肩越しにリアスのほうを振り向いた姿勢のまま、動かなくなった。まるでビデオの静止画像のように、ピクリとも動かない。

 

「ひいぃぃ! ごめんなさいごめんなさい!」

 

 その一誠の陰から飛び出した金髪の少女は、カーテンが閉ざされた窓の所まで逃げるように移動する。

 

「おい、急に固まってどうした」

 

 隼人が、石地蔵めいて微動だにしない一誠の肩を叩くと、一誠は肩越しに振り向いた姿勢のまま、手も足も全く動かすことなく、バタンと床にぶっ倒れた。気を失っていたとしても、普通姿勢が崩れそうなものだが、まるで彫像のような倒れ方だった。

 

「……なるほどね」

 

 隼人は得心したようにつぶやき、窓際に立てかけてある棺桶の陰に隠れてこちらを窺う少女を見やった。

 リアスの事前の説明によると、あの少女の持つ神器は『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』と呼ばれ、視界の範囲内のものの時間を止める能力らしい。知らない相手にいきなり大声を出され、間近で不躾に見られる恐怖で、能力を暴発させてしまったのだろう。

 

「大丈夫よギャスパー、怒ってな」

 

 おそらく「怒ってない」とでも言おうとしたのだろう。歩み寄るリアスの言葉も、動きも、一誠同様に止まってしまった。

 

「ひいいいい! ぶ、ぶ、部長にまでぇぇえええ! ごめんなさいごめんなさい! わざとじゃないんてす! だから許して! 叩かないでぇぇえええ!」

「まぁ落ち着け」

「ひぃいいいいいっっ!!」

 

 顔を覗き込んだ隼人と目が合った少女が、一際甲高い悲鳴を上げる。そして自分の手で、自分の両目を隠した。

 

「だだだだダメですぅぅううう! ボクの視界に入らないで! 止まっちゃうから! 止めたくないのに止まっちゃうからぁぁあああ!」

「ああ、部長さんから聞いてる。まぁ俺に限っちゃ心配いらん」

「……ふぇっ?」

 

 少女が恐る恐る指を広げて、隙間から覗くと、確かに隼人は止まってはいなかった。確かに彼と目が合ったのに……自分の魔眼に捉えられたはずなのに……。

 

「ど、どうして……?」

「隠形の術が効くようだな」

 

 隼人は事もなげに答えた。

 彼が先ほど結んだ手印と、唱えた呪文のことである。

 陽炎を神格化した、仏教の守護神である摩利支天の力により、身を隠し、敵や災いから身を守るための術である。

 

「んで、あれ、どうやったら戻るんだ?」

 

 彫像めいて固まるリアスと一誠を肩越しに親指で指し示しながら、隼人はのんびりとした口調で尋ねる。まるで「なぁ、昨日のドラマ見た?」と聞くかのような、気安い、穏やかな口調だった。

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