ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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焼き餅

 朝、佐久間隼人が教室に入ってくるなり、村山と片瀬の二人が駆け寄ってきた。

 

「おはよう佐久間くん」

「佐久間くん、大丈夫?」

 

 二人が心配そうに尋ねるのは、昨日――ドッジボールでの一件の翌日――彼が休んでいたからである。

 

「ああ、何ともねえよ」

 

 隼人はぶっきらぼうに答えた。

 

「母さんがうるさいから、病院で頭の検査受けただけだ。ただ、予約なしの飛び入りだったから、順番待ちで時間がかかったんだよ」

「そうだったんだ」

「本当に大丈夫?」

「何かあったら私たちに言ってね?」

「この前のお礼に、私たち二人でお世話してあげるからね?」

「……気持ちだけ受け取っとく。本当に何ともねーから」

 

 二人にそう言って、隼人は自分の席に着いた。

 

「おはよう、隼人」

 

 挨拶をするゼノヴィアの声音は、いつもより少し明るかった。彼女も、昨日一日姿を見せなかったクラスメートが心配だったのだ。

 

 それに、いつも自分にあれこれと優しくアドバイスしてくれる同級生がいないのは、何とも言えない物足りなさがあった。

 

「私も、昨日は心配したよ。何事もなかったようで何よりだ」

「おう、心配させてすまなかったな」

「こちらこそ、この前はすまなかったね。改めてよろしく」

「一日休んだくらいで大袈裟な……」

 

 苦笑しつつ、隼人は差し出されたゼノヴィアの白い手を取り、友情の握手を交わした。

 

 

 三時間目は移動教室だ。

 

「佐久間くん、一緒に行こう?」

 

 村山と片瀬の二人が、揃って声を掛ける。

 

「一人で行ける」

「でも、やっぱり心配だし……」

「一人じゃないとダメって訳でもないでしょ?」

「……わかったわかった、行ってやるよ。どうせ行き先も行くタイミングも同じなんだしな」

 

 二人が揃って、眉毛をハの字にして見つめてくるものだから、降参するしかなかった。

 

「私も一緒に行こう」

 

 そんな一幕を見たゼノヴィアが、反射的に言った。

 

「実は、まだ道筋がよくわからないんだ。誰かと一緒の方が助かる」

 

 自分で言って、何やら言い訳くさく感じる。しかし村山も片瀬も、異は唱えなかった。

 

「うん、いいよ」

「じゃあ、みんなで一緒に行こうね」

 

 ――マジかよ。

 

 文句があるのは隼人だけだ。女の子三人と一緒に、というのは悪い気分ではないが、正直言って周りの目線が気になる。

 しかしゼノヴィアだけ断るというのはおかしな事だし、だからと言って、一度OKした二人もまとめて拒むのも筋が通らない。

 

 やむなく隼人は、三人の女子に囲まれて教室を出る羽目になった。

 

「おっ、ハーレムか佐久間ー」

「体張った甲斐があったな、色男」

「エロい事すんなよー?」

 

 男子の名護、五代、響の三人が、口々に冷やかした。隼人は「うるせえよ」とだけ返して、教室を出た。

 

 廊下を歩きながらも、ゼノヴィアは落ち着かない気分だった。

 隼人の左右に村山と片瀬が並んでいる上に、心なしか距離が近い。

 ゼノヴィアは、片瀬の後ろに位置していた。

 そして前方の三人が、親しげにお喋りしている様を眺める。話題は、昨日隼人が病院で、具体的にどんな検査を受けたかだった。

 

「――君たちは、ずいぶん仲がいいんだな」

 

 そんな言葉が、口をついて出た。

 

「うん、片瀬とも佐久間くんとも、一年生の時から同じクラスだったから」

「村山とは、中学も同じだったの」

「なるほど」

 

 だからこの二人はいつも一緒なのか、と納得した。

 

(私とは、違うんだな……)

 

 教会から追放されて、知己のいない異国で暮らす事となった自分と、つい比べてしまう。

 妙な疎外感を、覚えてしまった。

 同時に、そんな自分に優しくしてくれる隼人の隣に並べないのが、自分のお気に入りの場所を取られたみたいで、ちょっぴり不満で、知らず知らず、ゼノヴィアは唇を尖らせてしまうのだった――。

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