ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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日直

 その日、ゼノヴィアは何となく――本当に何となく、いつもより早く目が覚めた。しかし二度寝するにはやや遅い。寝過ごして遅刻してしまうかも知れない。

 結局そのままベッドから下りて朝食を済ませ、いつもより早く登校する事にした。

 

 

 早く着いたせいか、学校はいつもより静かだ。

 その静かな廊下を歩き、教室に入ると、そこには佐久間隼人がいた。

 窓際に立ち、黒板消しを叩いて綺麗にしている。

 

「おはよう、隼人」

「ん? ――おう、おはよーさん。どうした、早いな」

「何だか早く目が覚めてしまってね。君こそ早いじゃないか」

「俺は今日、日直だ」

「ああ、それで……」

 

 と納得したところで、教室内を見渡す。自分たち二人以外、誰もいない。

 黒板の右下には今日の日付と日直の名前が書かれている。そこに目をやると、隼人ともう一人、女子の門矢(かどや)の名前があった。

 

「門矢はどうしたんだ? まだ来てないのか?」

「今日は来ねえよ。風邪引いたらしい」

「そうなのか……」

 

 ゼノヴィアは自分の席に鞄を置くと、黒板の下にあるバケツに気付いた。水をたたえたそのバケツの中には、雑巾も入っている。

 その水が綺麗なままなところを見ると、これから拭き掃除をするのだろう。

 

「手伝うよ」

 

 そう言って、バケツから一枚雑巾を取り、水で濡らして絞ってから、黒板を拭き始めた。

 

「おいおい、これくらい俺一人で充分だぞ」

「だが、一人でやらなくてはいけない訳でもないだろう?」

「いや、まぁ、そうだけど」

「日頃のお礼だ。手伝わせてくれ」

 

 ゼノヴィアにそう言われて、真っ直ぐに見つめられると、何となく断りづらくなってくる。

 やむなく隼人は、彼女の好意に甘える事にした。

 

 

 一日の授業が終わり、生徒たちは部活に向かう者と下校する者とに分かれて教室を出る。

 

「お前は部活、いいのか?」

 

 隼人は黒板の日付と日直の名前を明日のものに書き換えながら、窓際で黒板消しを掃除するゼノヴィアに尋ねる。

 

「うちは始まるのが遅いから大じょ――うわっ」

「どうした?」

 

 隼人が振り向くと、ゼノヴィアは窓に背を向け、片手で顔を――目元を押さえている。

 

「おい、ホントにどうした?」

「か、風が吹いて……粉が、目に……」

「こするな。洗った方がいい」

 

 隼人はゼノヴィアの手を引いて、女子トイレまで誘導してあげた。

 

「ほら、この先がトイレだ。洗面所の位置とかはわかるか?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 

 ゼノヴィアは一人、用心深い足取りでトイレに入っていった。

 隼人は入り口の横の壁にもたれて、彼女が出てくるのを待つ。

 水で顔を洗う音がして――顔を拭いているのだろう――少しの間を置いてから、ゼノヴィアは出てきた。

 

「大丈夫か?」

「ああ、問題ない。ありがとう隼人」

「なら良かった。まったく、おどかしやがって」

 

 隼人は苦笑混じりにつぶやき、教室に戻る。ゼノヴィアもその後にトコトコと続いた。

 二人で室内を軽く片付けて、窓を閉める。

 あとは日誌を職員室にいる担任に渡すだけだ。ゼノヴィアがそれをやろうとすると、隼人に制止された。

 

「それは俺が持ってく。一応、俺が今日の日直だからな。俺が持っていかねーと、お前に仕事押し付けたみたいになるからな」

「私が自分から手伝うと言い出したんだ、私は気にしないよ」

「俺が気にするんだよ」

 

 そう言って、ゼノヴィアの手から日誌を抜き取った。

 そして鞄を持って教室を出る。ゼノヴィアも一緒に出た。

 ドアを施錠して職員室に向かう隼人の後を、ゼノヴィアはトコトコと着いていく。

 

「……何だよ」

「私なりのけじめさ。職員室まで同行するよ。それで今日の日直の手伝いは終わりだ」

「勝手にしろ」

 

 隼人は言い捨てて、職員室に向かう。

 途中の廊下の、中庭に面した窓が開いていた。

 不意にその窓から、強い風が吹き込む。

 そしてそれは、ちょうど窓の前を通過するゼノヴィアのスカートを大きくめくり上げた。

 

「でぇいっ!」

 

 奇声を上げてそのスカートを押さえたのは、ゼノヴィア本人ではなく、その隣を歩いていた隼人だった。

 両手でスカートの前後を素早く押さえ、被害を最小限にとどめる――と言いたいところであるが、廊下には二人以外の通行人はいないので、最初から被害はゼロである。

 

「どうしたんだ?」

 

 ゼノヴィアはキョトンとした顔で尋ねる。スカートがめくれるくらい、彼女にとっては大した事ではないのだ。

 

「どうしたじゃねえ! スカートくらい押さえろ! 危うくパンツ見えるところだったぞ!」

「私は構わないぞ。減るものでもなし」

「構えよ! 女の子だろ!」

「そ、そうなのか?」

「そうなんだよ!」

 

 いまいちゼノヴィアには理解出来なかった。

 しかし、彼が珍しく強い口調で言うのだから、そうするべきなのだろう。

 

「わかった。次からは気を付けるよ」

 

 素直にそう答える。

 

(ホントにわかったのか……?)

 

 あまりにも素直に答えるものだから、何となく不安になる隼人。

 しかし、ほんの一瞬だが、飾り気のない薄水色の下着が見えた事を、気まぐれ風に感謝もするのだった……。

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