ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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それぞれの朝

 佐久間隼人が朝食のトーストに、イチゴジャムとマーガリンを塗りたくっていた時の事だ。

 

「隼人、彼女でも出来たの?」

 

 向かいの席でコーヒー牛乳を飲みながら、母の千恵がそう尋ねた。

 

「え? いや、そんなハイカラなもんいないけど……?」

「あら、そう? でもその割りには、最近楽しそうじゃない?」

「別に」

 

 素っ気なく答えながら、隼人はトーストをモシャモシャと頬張る。

 

「本当に?」

「本当だよ、しつこいな」

 

 息子にジロリとにらまれて、しかし千恵は「あらあら」と朗らかに笑ってごまかすのみである。

 母親からの追求から逃れるように、隼人はさっさと朝食を済ませて登校した。

 

(最近楽しそう、か……)

 

 心当たりなら、ある。

 ゼノヴィアだ。

 事あるごとにあれこれと質問してくる彼女が、可愛くてたまらないのである。

 同じ部活の兵藤一誠や、同じ外国人転入生のアーシアではなく、自分を頼りにしてくれるのが、嬉しいのだ。

 授業を受けている時の、背筋をピンと伸ばした佇まいが凛々しくて、思わず見とれそうになる。

 それでいて、何かあればクイクイとシャツを引っ張る仕草が、幼くて愛らしい。

 そんな彼女と同じ教室で、同じ時間を過ごすのは、確かに楽しい。

 

「彼女、か……」

 

 そんなゼノヴィアが自分の彼女になってくれたら、どれほど素晴らしい事だろう。

 

「彼女、ね……」

 

 それを夢想して、つい口許が弛む隼人であった……。

 

 

 制服姿で、ゼノヴィアはマンションの前に立っていた。

 この十階建てのマンションはグレモリー家がオーナーを務めており、ゼノヴィアの住まいでもある。

 

「おはようございます、ゼノヴィアちゃん」

 

 そこへ姫島朱乃が迎えに来た。バスト103センチの戦略兵器が、夏服の内側からその存在感を誇示している。

 

「おはようございます、副部長」

 

 ゼノヴィアはペコリとお行儀よくお辞儀をした。

 そして二人は、並んで歩き出した。ゼノヴィアの送り迎えを、朱乃がやっているのである。

 

「ゼノヴィアちゃん、少しは学校にも慣れてきたかしら?」

「はい、おかげさまで。クラスにも頼りになる良い友人がいるので、何とかやっていけてます」

「あらあら、イッセーくん以外に、頼れる人が?」

「はい……と言うか、イッセーはどうも……やはり、私が元は敵対勢力だった事を気にしているのでしょうか?」

「イッセーくんに限って、そんな事はないと思いますけれど……何かあったのかしら」

「何かあったというか……彼はいつも私と目を合わせてくれなくて、目線が伏せがちで……」

「……あらあら、ウフフ」 

 

 朱乃は笑ってごまかした。

 サイズこそ自分には及ばないが、ゼノヴィアもまた、充分に発育が良いと言えるだろう。イッセーの目線が()()に引き寄せられるのも仕方ない。

 

「その件については、私からイッセーくんに言って聞かせておきますわ。ええ、しっかりみっちりキッパリと」

「は、はぁ……」

 

 何やら朱乃から怖いものを感じて、ゼノヴィアは曖昧な返事を返す。

 

「それで、その頼りになるお友達とは、どんな方なのかしら」

「はい、隣の席の男子生徒で、名前は佐久間隼人と言います。少々ぶっきらぼうなところはありますが、私の質問にはいつも優しく、わかりやすく答えてくれるんです。彼からすればきっと呆れてしまうような質問だってあるだろうに、怒ったり馬鹿にしたりもせず、親身になって教えてくれて……その、何というか……」

 

 そこでゼノヴィアは、ちょっと口ごもった。

 

「どうしたの?」

「その、同い年の男性をこんな風に言うのもおかしいのですが……もしも私に兄がいたら、きっとこんな感じだったのだろうなと……」

「あらあら、うふふ。本当に良いお友達のようですわね。安心しましたわ」

 

 朱乃は朗らかに笑った。

 それからもチョコチョコと、とりとめのないお喋りをしていると、学校が見えてきた。

 

「あっ」

 

 ゼノヴィアが不意に、小さな声を漏らす。

 視線の先には、佐久間隼人。

 

「では副部長、私はこれで失礼します」

 

 朱乃にお辞儀をしてから、パタパタと小走りでクラスメートへ駆け寄っていく。

 その後ろ姿が、朱乃にはご主人様の元へ駆け寄る子犬のように見えた。

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