ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

7 / 33
それぞれの朝

 佐久間隼人が朝食のトーストに、イチゴジャムとマーガリンを塗りたくっていた時の事だ。

 

「隼人、彼女でも出来たの?」

 

 向かいの席でコーヒー牛乳を飲みながら、母の千恵がそう尋ねた。

 

「え? いや、そんなハイカラなもんいないけど……?」

「あら、そう? でもその割りには、最近楽しそうじゃない?」

「別に」

 

 素っ気なく答えながら、隼人はトーストをモシャモシャと頬張る。

 

「本当に?」

「本当だよ、しつこいな」

 

 息子にジロリとにらまれて、しかし千恵は「あらあら」と朗らかに笑ってごまかすのみである。

 母親からの追求から逃れるように、隼人はさっさと朝食を済ませて登校した。

 

(最近楽しそう、か……)

 

 心当たりなら、ある。

 ゼノヴィアだ。

 事あるごとにあれこれと質問してくる彼女が、可愛くてたまらないのである。

 同じ部活の兵藤一誠や、同じ外国人転入生のアーシアではなく、自分を頼りにしてくれるのが、嬉しいのだ。

 授業を受けている時の、背筋をピンと伸ばした佇まいが凛々しくて、思わず見とれそうになる。

 それでいて、何かあればクイクイとシャツを引っ張る仕草が、幼くて愛らしい。

 そんな彼女と同じ教室で、同じ時間を過ごすのは、確かに楽しい。

 

「彼女、か……」

 

 そんなゼノヴィアが自分の彼女になってくれたら、どれほど素晴らしい事だろう。

 

「彼女、ね……」

 

 それを夢想して、つい口許が弛む隼人であった……。

 

◆

 

 制服姿で、ゼノヴィアはマンションの前に立っていた。

 この十階建てのマンションはグレモリー家がオーナーを務めており、ゼノヴィアの住まいでもある。

 

「おはようございます、ゼノヴィアちゃん」

 

 そこへ姫島朱乃が迎えに来た。バスト103センチの戦略兵器が、夏服の内側からその存在感を誇示している。

 

「おはようございます、副部長」

 

 ゼノヴィアはペコリとお行儀よくお辞儀をした。

 そして二人は、並んで歩き出した。ゼノヴィアの送り迎えを、朱乃がやっているのである。

 

「ゼノヴィアちゃん、少しは学校にも慣れてきたかしら?」

「はい、おかげさまで。クラスにも頼りになる良い友人がいるので、何とかやっていけてます」

「あらあら、イッセーくん以外に、頼れる人が?」

「はい……と言うか、イッセーはどうも……やはり、私が元は敵対勢力だった事を気にしているのでしょうか?」

「イッセーくんに限って、そんな事はないと思いますけれど……何かあったのかしら」

「何かあったというか……彼はいつも私と目を合わせてくれなくて、目線が伏せがちで……」

「……あらあら、ウフフ」 

 

 朱乃は笑ってごまかした。

 サイズこそ自分には及ばないが、ゼノヴィアもまた、充分に発育が良いと言えるだろう。イッセーの目線がそ(・)こ(・)に引き寄せられるのも仕方ない。

 

「その件については、私からイッセーくんに言って聞かせておきますわ。ええ、しっかりみっちりキッパリと」

「は、はぁ……」

 

 何やら朱乃から怖いものを感じて、ゼノヴィアは曖昧な返事を返す。

 

「それで、その頼りになるお友達とは、どんな方なのかしら」

「はい、隣の席の男子生徒で、名前は佐久間隼人と言います。少々ぶっきらぼうなところはありますが、私の質問にはいつも優しく、わかりやすく答えてくれるんです。彼からすればきっと呆れてしまうような質問だってあるだろうに、怒ったり馬鹿にしたりもせず、親身になって教えてくれて……その、何というか……」

 

 そこでゼノヴィアは、ちょっと口ごもった。

 

「どうしたの?」

「その、同い年の男性をこんな風に言うのもおかしいのですが……もしも私に兄がいたら、きっとこんな感じだったのだろうなと……」

「あらあら、うふふ。本当に良いお友達のようですわね。安心しましたわ」

 

 朱乃は朗らかに笑った。

 それからもチョコチョコと、とりとめのないお喋りをしていると、学校が見えてきた。

 

「あっ」

 

 ゼノヴィアが不意に、小さな声を漏らす。

 視線の先には、佐久間隼人。

 

「では副部長、私はこれで失礼します」

 

 朱乃にお辞儀をしてから、パタパタと小走りでクラスメートへ駆け寄っていく。

 その後ろ姿が、朱乃にはご主人様の元へ駆け寄る子犬のように見えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。