ゼノヴィアの学園生活   作:阿修羅丸

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ラーメン

 新築マンションの最上階が、グレモリー家がゼノヴィアに与えた住まいだ。

 

 日曜日、彼女はそこのベランダで洗濯物を干し終えた後、部屋の掃除を始める。

 それが終わると、時計の針は11時半を過ぎていた。

 

(昼は、どうしたものかな……)

 

 冷蔵庫の中はまだまだいろんな食材がたっぷりと入っている。

 昨日リアスから『お小遣い』と称して当座の生活費をもらったばかりで、財布の中身もたっぷりとある。

 たまには贅沢もいいだろうと思い、ゼノヴィアは外食する事に決め、外に出た。

 

 駅前の商店街に入り、さてどの店で食事をしようかと物色していると、見覚えのある後ろ姿が人混みの先に見える。

 

「隼人」

 

 通行人の間を無駄のないフットワークで縫うように進み、声をかける。振り向いたのはやはり、クラスメートの佐久間隼人だった。上は背中に水面から跳ねる鯉の絵がプリントされた 薄紫のシャツ、下は紺色のジーパンというラフな格好である。

 制服姿しか知らないはずのゼノヴィアが私服姿でもすぐに識別できたのは、彼の歩く時の身のこなしや重心の位置を、戦士としてのくせでついうっかり記憶してしまったからだ。

 

「おう、ゼノヴィアか。買い物か?」

「これから昼食だ。君は?」

「俺も昼飯。母さんが友達と温泉旅行でいないんでな」

「そうか……私も同行していいだろうか? どの店にしたものか、なかなか判断がつかないんだ」

「んー? まぁいいけど……」

 

 その言葉に、ゼノヴィアは何となく嬉しくなった。

 

 

 隼人が向かったのは、ラーメン屋だ。暖簾には『来々軒(らいらいけん)』とある。

 

「らっしゃい――よう、隼人ちゃん。千恵ちゃんどうした?」

 

 パンチパーマの店主は来客に気付くと、気さくに声をかける。彼は隼人の母親とは高校時代からの友人で、隼人とも顔見知りなのだ。

 

「母さんは旅行で昨日から温泉行ってる」

 

 隼人はカウンター席に座りながら答えた。

 

「ほう、そうかい。いつものでいいかい?」

「うん」

「そっちの別嬪さんは?」

「えっと……同じ物を」

「はいよ」

 

 店主は威勢良く返事をして、奥の厨房に引っ込んだ。

 

 クイクイ。

 

 ゼノヴィアがいつものように、隼人のシャツの裾を引っ張る。

 

「隼人、ベッピン=サンとはどういう意味だ?」

「美人さんって意味だよ」

「なるほど……表現に差異はあるがみんな私の事をそう言う……日本での習慣なのか?」

「誰でもそう言うと思うぞ。実際お前は美人さんだからな」

「う、うむ……確かにそれなりにルックスはいい方だとは思っているが……だが、そういう賛辞は普通、男性が女性に対して行うものだろう? 私の場合、村山や片瀬からもよく言われるのだが……」

「だったら、女同士でも言うもんなんじゃねーの? 俺は男だから知らんが」

「うーむ、そういうものなのだろうか……」

 

 あの仲良しコンビの妙に熱い眼差しを思い出すと、どうにも釈然としないものを感じるゼノヴィアだった……。

 

「へい、お待ちどお」

 

 店主の声と共に、丼が二つ出される。大きな厚切りチャーシューを二枚乗せた味噌ラーメンだ。そのすぐ後に、小皿で三個入りの餃子も出される。

 このセットが、隼人の「いつものやつ」なのだ。

 

(これがジャパニーズ“らあめん”か……)

 

 そういえば食べるのは初めてだな、と思いつつ、ゼノヴィアはおっかなびっくり食べ始めた。箸を使うのも麺をすするのも初めてだ。しかし、なかなか美味い。

 夢中になって食べてると、すぐ隣で隼人と店主の会話が聞こえた。

 

「隼人ちゃんも隅に置けねえなぁ、そんな別嬪な彼女がいるなんてよ」

「そんなハイカラなもんじゃねーよ。学校の友達」

「ほう、しかし一緒にメシ食いに来るくらいだし、脈はあるんじゃねえか? なぁ、まだ付き合ってないんならちょうどいいし思いきって」

「アンタ、若い子からかってんじゃあないよ!」

 

 会話に割り込んだのは、出前から戻ってきた店主の女房だ。一喝されて、店主は縮こまり、厨房に逃げていく。

 女房は猫なで声で隼人に謝った。

 

「ごめんねぇ、隼人ちゃん。うちの人ったらその手の事になるとすぐ鼻息荒くしちゃって。そっちの別嬪さんも、気にしないでこれからもこの子と仲良くしてあげてね?」

「はぁ」

 

 突然会話を振られて、ゼノヴィアは曖昧な返事しか出来なかった。

 

 揃って丼と小皿を空にして、二人は勘定を済ませて店を出た。

 

「ありがとう隼人。日本のラーメンは初めて食べたが、なかなか美味しかった」

「そうか。そりゃ良かった」

「それで、その……もしまた機会があったら、連れて行ってもらえないだろうか?」

 

 さすがに厚かましいお願いだろうかと思いながら、ゼノヴィアは上目遣いに尋ねる。

 

「んー……機会があればな。また別の美味い店紹介してやるよ」

 

 隼人は素っ気ない口調でそう答える。

 

「ありがとう、隼人」

 

 ゼノヴィアはそれでも喜んだ。

 そんな彼女に、尻尾をブンブン振る子犬をイメージしてしまう隼人だった。

 

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