休み時間。
ゼノヴィアは女子たちとお喋りに興じていた。
話題は昨夜テレビで放送されたホラー映画から始まり、そのまま怪談や都市伝説、果ては学校の七不思議へと移行する。
「──で、この学校にもあるのよ。七不思議」
小柄な体つきの『左』という女子が、妙に目を輝かせて話し始める。
「音楽室のベートーベンとか美術室のモナリザとか定番なのがほとんどだけど、うちだけのものと言えば『呪いのハーモニカ』ね」
「……ハーモニカ?」
ゼノヴィアはその単語に思わず反応した。
「そう! 昼休みや放課後に時々、どこからともなく風に乗って聞こえてくるハーモニカの音……それを聞いた人には三日以内に不幸な事が起きると言われてるの!」
「どーせ音楽部が練習してんでしょ?」
と口を挟んだのは門矢だ。
「それが違うの。そもそも音楽部は今、ハーモニカなんて誰もやってないし、音楽室に誰もいなくても聞こえてくるし……主に実習棟の辺りから聞こえてくるらしいの」
「誰かが個人で、その辺りで練習してるんじゃない?」
クラスでもトップクラスの巨乳である園咲が推理する。
「私もそう思って、ハーモニカが聞こえた時超特急で行ってみたんだけど、誰もいなかったの!」
「──それは、いつの話なの?」
園咲と双璧をなす巨乳の天道が尋ねる。
「先月」
「で、あんた何か不幸があった訳?」
と、門矢。
「身長が伸びなくなっちゃった」
「それは元からでしょーが」
「おっぱいも小さくなったし!」
「それも元から」
「うっさい! 門矢のバカアホ間抜け! ピンクのスイカー!」
「──落ち着け。大丈夫だ左。我々の年齢ならまだ成長期だから、可能性は充分にある」
ゼノヴィアがそう言って小柄なクラスメートを慰める。
「ゼノヴィアさんありがと~! 私頑張る!」
左はゼノヴィアの胸に飛び込み、その豊かな膨らみに頬擦りする。
ちょっと感じてしまうゼノヴィアだった。
◆
昼休み。
いつもの場所──実習棟の裏庭で、隼人はゼノヴィアにハーモニカを披露してやっていた。
今日は『聖者の行進』という曲を、アレンジも含めて三度演奏する。同じ曲のはずなのに全く印象が違って感じられて、ゼノヴィアは感嘆した。
だがその時、不意に休み時間でのお喋りの記憶が脳裏をよぎる。
昼休みや放課後に時々、どこからともなく風に乗って聞こえてくるハーモニカ。
主に実習棟の辺りから聞こえてくる。
「これかぁぁぁああああッッ!!」
ゼノヴィアは思わず叫んだ。
『聞いた者は不幸になる』のくだりで、つまらない噂だと聞き流していたが、ようやく左の言っているのが隼人のハーモニカの事だと気付いたのだ。
「──ど、どうした? 何か究極奥義にでも目覚めたのか?」
「かくかくしかじか!」
「まるまるうまうまで、俺のハーモニカが怪談話になっちまってる、と……」
言われて隼人は、ふと思い出した。先月、ここでハーモニカを吹いていたら人の来る気配がしたので、すぐに逃げたのだ。七不思議に組み込まれたのは、たぶんそのせいだろう。
「じゃあほとぼりが冷めるまで、しばらくはおとなしくしとくか……」
「何を言うんだ。悪い事をしてる訳でもないのに、君がこそこそする必要などどこにもないじゃないか」
「これ以上ギャラリー増えるのは勘弁願いたいんだよ」
「うーむ、そういう事か……よし、なら私にいい考えがある! ちょっと来てくれ!」
ゼノヴィアはベンチから立ち上がり、隼人の手を引いて旧校舎に向かった。
そして二階に上がり、廊下の一番奥の教室に入った。
「ここはオカルト研究部の施設として使ってるが、実際はほとんどの教室が手付かずのままなんだ。この部屋は特に涼しいから、ここで練習すればいい。部員のみんなはたいてい一階の部室にしか来ないから、バレる心配もない」
「ふーん、確かにひんやりしてて気持ちいいな……」
窓から見える林が日光を遮るため、気温が上がりにくいのだろう。隼人はそう考えた。
「でも勝手に部外者連れ込んで、お前が怒られたりしないか?」
「大丈夫だ、部長も空いた部屋は好きに使っていいとおっしゃっていたからな」
「……そういう事なら、ありがたく使わせてもらうか。ありがとな、ゼノヴィア」
「どういたしまして」
答えて軽く笑うゼノヴィア。しかし胸の内では、彼の役に立てた事、彼に感謝された事への喜びでいっぱいだった。