BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第八話

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 さて、シェリー御嬢さんの探索と意気込んで歩き回ってみたが、戦争でもあったかのような破壊痕に早速気力が殺がれそうだ。活性死体の丸焼けや半分硫酸に溶かされた変異体、逆さに吊るされているスキンヘッドとやりたい放題だ。何度も思うが、なんでこんな地獄絵図を作りながら淡々と探索できているんだ、彼女は?こんなの小さな子供が見たら気絶してそうなんだが。ま、まさかもうすでにモグられてこの世にいないなんてオチは・・・。これ以上は考えないようにしよう。

 

 

 道中で面白いB.O.W.に遭遇した。体液の流動を利用して動物のように自立行動する植物で、非常に強力な環境適応能力を持っている。実際抗ウィルス剤を投与したらアンチ抗ウィルス免疫を生み出していた。あれ、もしこいつを小型化して毒素やウィルスしか食べない偏食性を組み込めば、どこでも即座に抗ウィルス剤を作成できる救命装置に出来るのでは?若しくはこの驚異的な水圧制御能力も一緒に再現できれば、類を見ない画期的な透析機を作れるのでは?ペースメーカーみたいに体に埋め込んで、老廃物を捕食しながら血液を循環させたり、はたまた・・・・。いかん、当初の目的を忘れそうになってる。こういう話は後だ。

 

 

 

 

 

 

 それからさらに30分後、いい加減見つからないので最初に捜索していたクレアに聞いてみることにした。え、居場所を知っているのか?知らないなら向こうにアクションを取ってもらうまで。まずは擬態化したB.O.W.を50体ぐらい用意します。その後、軽率に放し飼いしてみます。やっつけられ始めたら現場に向かい・・て早い、もう一匹やられた。上の階か、さっそく行ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つかりました、ついでに探し人の方も。想像より遥か上の方向で派手にやってるなあ。理由は不明だが、御嬢さんが気絶していてよかった。幾ら幼いとはいえ少女を片腕で抱えて、片手でショットガンやランチャーぶっ放してる。軽くトラウマものだろう。

 

 

 後人数が増えてる。金髪で警察服に着られている感のある若い青年だ。所持品は軍用オートのアサルトライフルにサブがデザートイーグル、か。なんだろう、どっかの誰かさんで感覚がマヒしてるのか、すごくまともな装備に見える。

 

 

 それはともかく、御嬢さんの容体が非常に悪い。クレアに聞くと、はぐれた際にG生物に寄生されたらしい。ああ、彼女は必ず助けるが、その後の人生が波乱万丈に満ちることが確定してしまった。こうなってしまっては『アレ』を投与するしかないが、それはつまり当初予定していた『G計画』の全てが彼女に施されてしまうということだ。世界中が彼女を求めて暗躍することだろう。

 

 

 

 

 

 

―――――数年前、夫人からアドバイスを求められた。曰く、脳の再生から欠損した人体の再生、さらには老化の遅延まで齎す奇跡の細胞があるとする。しかしそれは生物に投与しても独自に新しい脳を作成してしまい、結局被検体を結果的に死なせてしまう。貴方ならどう解決するか、とね。勿論私はその当時与太話としか思わなかったが、あまりにも真剣な表情をしていたので真面目に答えた。博士はそれ単体による自己完結に拘り過ぎてないか、と。

 強力過ぎるというならいっそのこと抑制剤を投与し、余計なことをしないよう体の中で長期間潜伏させ、その後何らかの外部からの働き掛けで機能の再生なり超人化なりすれば良いではないか。それかインフルエンザの予防接種のように、無害化したその細胞を何度も取り込ませるなんかもアプローチとしてはどうだろうか、という私の回答は夫妻に甚く気に入られた。

 

 

 入社してからはストレートに質問され、『ターブル』や『デュボネ』を提供したこともある。あとは『デュボネ』の臨床実験体もいつの間にかここに移されていた。今はさらに輸送されているみたいだが。これらを加味して生み出されたのが『DEVIL』だ。

 

 

 『DEVIL』は単体では危険すぎる『G』と共に投与することでこれを完全に無害化する。一切死滅させることが出来ず、攻撃性を奪うだけなのが肝だ。そしてそれらは被検体の細胞に取り込まれ、進化の汎用性が失われる代わりにその細胞そのものが種の限界を超越することが出来る。『G計画』の鍵は『G』そのものよりむしろ『DEVIL』の方だといえる。だから夫妻はサンプルをあえて用意しなかったのだ。結果は完全に後手に回っているのだが。

 

 

 

 

 

 そういう訳で、人知れず人外に片足突っ込むこととなってしまったシェリー嬢だが化物というのも存外悪くはないものだ。重要なのは幼い彼女を守る存在、その小さな手を躊躇いなく握り返してくれる存在がいてくれるかどうかだろう。

 

 

 クレアたちに此方の情報を伝え、実験室へと急ぐ。彼女たちには悪いが置き去りにし、姿が見えなくなったころを見計らってタナトスを先行させた。実験室周りの安全確保に向かわせたハンターたちの反応がない。こちらにも相当の数を送ったはずだ、全滅させられるような奴等一体しか思い浮かばない。焦りが募る私の耳に響く轟音、木霊する怒号、そして・・・強烈な血の匂いに頭が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駆け付けた時、彼女は人間にはどうすることもできない状況だった。いや、もう既に私にさえどうすることもできない。出来ることなど、先を急がせたクレア達の代わりに彼女の死に水を取るくらいだ。

 

 

 最初に私の目に飛び込んできたのは、血の海に沈んだ夫人、そして壁にめり込み機能停止したタナトスだった。リミッターが解けていないこれではウィリアムの相手は荷が勝ち過ぎたようだ。だが瞬殺されたとは思えない。周りの壮絶な破壊痕がその証拠だ。彼女には、これが戦っている間に逃げる時間があったはずだ、だがこの場に残ることを選んだ。それが意味することを理解してしまった私は、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 満身創痍にも拘らず、追い付いたクレアたちからシェリーを受け取った彼女は最後の力を振り絞って『DEVIL』を投与し、娘の温もりを刻みつけるように抱きしめた後、クレアたちに遺言とプラットフォームの鍵を託し彼女達に先を促した。

 

 

 

 

「・・・ごめんなさい。貴方は・・私を助けようとしてくれたのに。きっと助けられたのに、ひどいことをさせてしまったわね」

 

 

 

「―――――――。」

 

 

 

 

「あの人に会って、ようやくわかったわ。自分がどれだけおぞましいものを生み出してしまったのか。そして『神』になりたい偉い人たちは、きっとあらゆる手を使って私からその方法を得てそれを使ってしまう。どれだけ犠牲が出ようと、ね」

 

 

 

「―――――――。」

 

 

 

「それに・・・・・私が生きていたら、シェリーはこれから沢山生み出される超人擬きのサンプルの一つでしかなくなってしまう。けれど、私が死に『DEVIL』がこの世からなくなれば、あの子は替えの利かないたった一人の存在になる。その価値はあの子の安全に必要不可欠で、私が生きていても決して与えられないもの。ふふ、やっぱり私はひどいママよね、あの子に寂しい思いばかりさせて、知らない内にいなくなって・・・そうすることでしかあの子を守れないどうしようもないママ・・・・・。うらまれ・る・・しら・・・ね。それと・・・忘れた・・とおも・・・かし・・・・・ら?」

 

 

 

「―――――――――――。」

 

 

 

「あい・・てる・・・わ、シェリー・・・・・・あり・・・・・とう・・・・・・・・・ハワー・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「―――さようなら、バーキン夫人。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・もうここにいる理由もほとんどなくなったな。タナトスの爪からG細胞を入手できたし、ウィルスの方もあの後上の階から誰かが投棄したものを回収できた。後は彼女たちの脱出についてだが、あれだけお膳立てされていれば、彼女達なら心配ないだろう。ん?ああ、そういえばお邪魔虫が一体いたな。あれだけは片付けておこう。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side  レオン

 

 

 

 

『ガアアアアアアアッ!!!!!!』

 

「クソッ!男に押し倒される趣味は無いんだよ!!」

 

 

 突然だが、俺、レオン・S・ケネディは今絶体絶命の窮地に立っている。

 

 

 アネット・バーキンに先を促された俺達は道中一切足止めを食うことなくプラットフォーム迄到着した。ただし、前もって伝えられたとおり、電源が通っておらず、このままでは脱出できない。未だ目を覚まさないシェリーをクレアに任せ、俺は電源復旧に奔走し何とか成功させることが出来た。しかし、いざプラットフォームに戻ろうとした途端、あいつが戻ってきやがった。エイダが決死の覚悟で立ち向かい溶鉱炉に落としたあいつが、何食わぬ顔をして戻ってきやがった!そのことに頭が沸騰してしまい、足を止めて銃を乱射、めでたくあいつにぶっ飛ばされたって訳だ。お陰で頭は冷えたが出口と真逆の方に飛ばされ、逃げることも出来なくなった。

 

 

 遮蔽物を最大限活用して逃げ回るが、正直ジリ貧だ。あいつの動きが速すぎてついていけず、壁やコンテナに爪が突き刺さった隙にマグナムをぶち込んでも効いている気がまるでしない。どうすれば良い?自問していると目の前に巨大な長方形の物体が投げ込まれた。

 

『これを使って!!』

 

 

 聞こえてきた声に耳を疑うが、考えている場合じゃない。慌ててその物体――ロケットランチャー――を拾いあいつに向けて発射する。初めて見る飛来物を理解できないのか避ける素振りも見せず、着弾。強烈な爆発音と煙が辺りに充満した。やったぞ、仕留めた!!

 

 

 

 

 

――――そう思ったのも束の間、煙の中からあいつが飛び出してきた。なんて奴だ!?咄嗟に右腕を盾にして退けたのか!!コンマ数秒の差でランチャーを盾にすることが出来たが、突き刺さったそれを俺ごと持ち上げ、そのまま地面に叩き付けられてしまった。そしてそのまま体重をかけて俺を串刺しにしようとする。長くは持たない、ランチャーが悲鳴を上げ今にも突き破られそうだ。いよいよ残り時間が5分を切ったと告げるアナウンス音も加わり焦りと恐怖で頭が真っ白になりかけたその時、確かに聞いた。とてもか細いが、頭にこびりつくようなその『鳴き声』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――テケリ・リ、テケリ。

―――――――テケリテケリテケリ・リ、テケリ。』

 

 

 

 

 

 あいつが飛び跳ねるように下がる、がしかしまるで地面が奴を飲み込むようにあいつの足を沈めていく。そしていつの間にか真っ黒に染まっていた壁が、床が、天井が、ゆっくりとあいつに伸びていき、塗りつぶすように包み込んだ。くぐもって聞こえ辛いが断末魔のような叫び、そして嬲るように味わうような咀嚼音が絶えず伝わってくる。

 

 

 あまりの光景に言葉を失っていると不意に後ろに気配を感じた。振り向くと、つい先ほど見知った人物が立っていた。クレアと共に警察署にたどり着いたという、ハワードという謎の多い青年だ。ここは危険だと、早く逃げるよう伝えようとするが、それを制するように

 

 

 

 

「あれは私が引き受ける。丁度八つ当たりの相手を探していた所だ」

 

 

 

 

 などと言い、固まっていた俺の胸倉をつかむと信じられないような力で出口まで放り投げられた。動転して碌に受け身も取れずに転がる俺に向けて言葉を続ける

 

 

 

 

「もう一方のストーカーはクレアが片づけたが、直降りてくる。早く逃げたほうが良い、ああ、私は別に手段があるから気にせず行きたまえ」

 

 

 

 

 状況にそぐわない余裕に満ちた言葉だが、有無を言わさない迫力があった。それに加え、彼の体からも伸びるコールタールの様な『ナニカ』が言いようのない恐怖をレオンに与え、本能に従った彼はその場を後にした。この世のものとは思えない苦痛に満ちた絶叫を背に受けながら・・・・・。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました。感想・批評・その他いつでも大歓迎です!

次回でいよいよラクーン編も終了(予定)です。

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