BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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骸骨王 様、244 様、c+java 様、メイトリクス 様、黄金拍車 様、あっきの王様 様、誤字脱字報告ありがとうございます!


第九話

 Side ハワード

 

 

 

 

 さて、と。研究所でリミッターの外れたタイラントをモグった後、私は再び街中へと戻り、夜も明けていたので少し休むことにする。まあ、こんなびっくりボディだから大して必要ではないが、気分的なものだ。

 

 

 そういう事で手近なホテルに入ってみた。ちなみに自宅は焼け落ちていたため使えない。どうやらどこかの誰かが不法侵入をした形跡があったが、残念ながらあそこには大したものは置いていない。防犯対策が施してあるくらいだ。なあに、ちょっとした嫌がらせにハンターをほんの1000体ほど敷き詰めてあっただけだ。きっと阿鼻叫喚のタランテラを夜通し踊ってくれたことだろう。

 

 

 しかし、いつからラクーンは紛争地帯になったのかな?そこかしこで一般では買えない火器をもった怪しい覆面の死体が転がっていたり、地面が薬莢まみれだったり。それに相対するようにして転がる軍人らしき服装の連中も。確か民間人の救助が仕事だろうに、こんな地獄の一丁目に来てまで人間同士でドンパチしなくても良いものを。

 

 

 それはさておき、ホテルを上がっていくと奇妙なクリムゾンヘッドに出くわした。何故かこちらを認識しても襲って来ず、近づいても無反応である。特殊な変異かと観察していると、視界の端に傷一つない扉が見え、そちらに向かうと一転凄まじい唸り声を上げて突っ込んできた。まあ、今更こんなのに後れを取る筈もなく、貴重なサンプルを提供していただいたが。非常に興味深いサンプルだがとりあえず後回しだ、活性死体に守られた、恐らく世界に一つだけの一室へと入室させてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あら、人生最後のお客様は随分若い人なのね。おもてなしをしてあげたいところだけど、この足じゃ御出迎えも出来ないのよ、ごめんなさいね」

 

 

 

 驚いた。バイオハザードが発生して既に2日は経過している。目の前の女性の様な非戦闘員がまだ生きているとは。それに身に着けているものも至って普通で、あの不愉快な赤白ツートンのロゴが付いたものは見当たらない。ということはさっきのアレは自然発生した代物、という事か。何がアレを突き動かしたのか、興味の湧いた私はここで休息ついでに話を聞いてみることにした。

 

 

 

 

「ここには出張があって来たの、夫と一緒にね。あの人は迷惑をかけないためと言って出て行ってしまったきり、水臭い話よね。この足じゃどうしようもないし、誰かの足手纏いになるわけにもいかないのだから一緒に連れて行ってくれたら良いのに」

 

 

 

 

 ひとまず傍にあったティーセットで紅茶を入れてやり、聞き役をしている。どうやらご主人がアンブレラの表の顔の関係者らしく、U.S.S.その他の搬入のカモフラージュに使われたようだ。名前や写真も見せてもらったが、予想通り表にいたアレと同一人物だった。そして先程から話題に上がる彼女の足についてだが・・・まあひどいの一言だ。ガッツリ食い千切られており、とてもではないが歩けそうにはない。十人に一人の先天的抗体を持っていたようで変異はしていないが、これではとても不幸中の幸いとは言えない。

 

 

 

 

「きっとあなたにはここから出られる手段があるのでしょ?だって少しも焦っていないもの。ああ、連れて行ってほしいなんて図々しいこという心算じゃないの。ただ、もしあなたが此処から出られるのなら、これを私の娘に渡してほしいの」

 

 

 

 

・・・・・・・。

 

 

 

 

「もう13歳にもなるのに仕事にかまけて碌に思い出も作ってやれなくて、この時計くらいしかないの。あの子の誕生日の記念にあの人にもらったもので、小さいころあの子に、メラに欲しいって散々泣かれちゃって・・・。こんなことになるとわかっていたら、もっとあの子と向き合ってあげたらよかった。だからあの子に、ひどいお母さんでごめんねって伝えて・・・ああ、充分図々しいお願いね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ジル

 

 

 あの悪夢の一夜から数日後、あのクソ署長に謹慎を申し渡されてから私たちは話し合い、行動を開始した。署内の説得はエンリコに任せ、リチャードとブラッドはみんなで破産覚悟で放出した貯蓄を使って知る限りの銃砲店に大量の発注をかけ、わたしは改めてこの街を散策し、使えそうな裏路地や近道を調べ直した。あの悪夢は何も終わっていない、それが私たちの共通解だったから。

 

 

 そもそも通報があったのは山脈の麓の猟奇殺人、でも事件の中心は山奥の洋館。この時点でかなりの距離があり、ウィルスが相当の距離で流出していたことが分かる。あの洋館が吹き飛んだからと言って何一つ安心できるはずもない。もう一つは、この街はアンブレラに何もかもを依存していたから、連中の暗部があれだけだったとは限らないからだ。そう遠くない内に再び惨劇が起こるだろう、そのための準備だった。あの馴染みのロバートが、戦争でもやる気かと真っ青になるくらい注文してしまったが。ほとんどが独身なせいで軍資金が思った以上に集まってしまったし、隠し場所として戻る予定のないバリーの家を全部屋使えると思って大人買いしてしまった。

 

 

 丁度全品揃い、2、3日後には受け取りに行くという時にこの事態に陥ってしまった。まさかこんなに早くことが起こってしまうとは思わなかった。全員それぞれが発注した店からもてるだけの武器を受け取り、残りは無償提供してから警察署で合流した。多少のいざこざはあったが無事一丸となってゾンビを撃退、多くの仲間や生き残りを逃がすことが出来た。通信機担当のリチャードがいてくれたことが大きかった。お陰で何とか外と連絡が取れ、脱出路を確保することが出来たのだから。

 

 

 ただ、併せて最悪の情報も入った。偶然入った周波数から得た、S.T.A.R.S.抹殺に実験体を送り込んだ、というものだ。そこで護送車はリチャードとブラッドに任せ、私はあえて目立つように単独行動をとることで警察署から注意をそらすことにした。そのおかげか、あの気味の悪いデカブツを惹きつけることが出来たのだが、予想以上のしつこいストーキングの所為で警察署に戻れなくなってしまった。約束の時間はもうすぐだが、このままあいつまで誘導してしまうと、最悪皆殺しにされかねない。特にあのロケットランチャーでヘリを撃墜されたら私たちは完全に詰んでしまう。

 

 

 幸い途中で出会った元U.B.C.S.のカルロス・オリヴェイラと特殊部隊らしき軍人たちの協力もあり、何とか撒くことが出来た。だが、今度は早く警察署に到着しないと、あいつが私を先回りするために警察署に向かったとしたら結局同じことになってしまう。どうしたものかと二人で思案していた所に、偶然引き返していたブラッドたちの護送車と再度合流することが出来た。良かった、囮になるときに持ってこられなかった銃火器も詰まれており、もしあいつと遭遇しても最悪、あのランチャーさえ潰すことが出来れば逃げられる。そう思いながら車内で休んでいると、突然豪雨のような衝撃に揺さぶられた。

 

 

 覗き窓から様子を窺うと、目を疑うような光景が映った。どうやったかは知らないが、車で走行する私たちを先回りし、あの時は持っていなかったガトリングガンを掃射してきていたのだ。そしてドラマのように車輪を打ち抜かれ、制御もままならず護送車は横転してしまった。慌てて全員外に脱出できたが直後、ロケット弾を撃ち込まれ、車は爆発四散してしまった。考えうる限り最悪の状況だ、今もガトリングで牽制され、遮蔽物に隠れればまたランチャーで燻りだされる。

 

 

 まずい、早く何とかしないと。ブラッドはもう限界だ。いつ発狂しても可笑しくない。リチャードも脱出時に腕を怪我してしまったらしく、愛銃のショットガンを構えることも出来ていない。このままだと、わたしを含めて誰かが馬鹿な行動に出かねない。それにこれだけ騒げばゾンビが寄ってきてしまい、ますます悪い状況に・・・・・・・?

 

 

 おかしい。これだけあいつが騒ぎ立てているのに一匹たりとも出てこない。近くにいないというより、一掃されてもう残ってないかのような・・。

 

 

 

「ジル!何をやってる、離れろ!!」

 

 

 カルロスの声で現実に呼び戻されると、目の前まであいつが来ていた。一瞬でも意識を逸らすなんて何を考えているの、私は!?

 

 

 ああ、この距離と角度じゃ避けようがないわね。ごめんなさい、クリス、バリー、エンリコ・・・・。私は合流できそうにないわ。あなた達は無事に・・!

 

 

 せめてブラッドたちだけでも逃がそうとマシンピストルをあいつの頭に掃射する。まったく応える様子もないが、これで少しは狙いが逸れるかもしれない。リチャードにアイコンタクトを送り、一分一秒でも時間を稼ごうと発砲を止めないでいるが、無情にもガトリングは回転し始めそして・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テケリ・リ、テケリ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如横から飛び出してきた『ナニカ』にとびかかられ、路地の奥に諸共に消えていった。一瞬だった所為で、いや、一瞬だったお陰で分からなかったけど、今のは一体・・・・?

 

 

 

 

「随分騒がしいから来てみれば、また懐かしい顔に会えたな」

 

 

 

 後ろから突然聞こえてきた声に驚いて振り向いたが、あまりの光景に言葉が出なかった。ここに、いや、この世界にいるはずのない男がいた。それだけならまだ良い、隣りに見知らぬ中年女性を連れているのもまだ理解できる。けれど・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大なカンガルーのポケットに入って移動してるとか、どう反応すれば良いっていうの!!

 

 

 なんで化物なんかと仲良く・・・・・してたわね、そういえば。初めて会った時も爬虫類やらリッカーやらを引き連れていたっけ。もういろんなことがあり過ぎて頭がパンクしそう・・・・・・。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 最新式のB.O.W.のサンプル欲しさに顔馴染を助けたら全力で呆れられた。解せぬ。いや、他に怪我人を輸送するのにちょうど良い奴がいなかったからしょうがないだろう。四足動物は慣れてないと間違いなく振り落されるし、タイラントは大して足早くないし。

 

 

 ああそれから、安心してるとこ悪いが、早く警察署に向かわないとまた追いつかれるぞ、逃げられたから。

 

 

「はあ!?つうかあいつを持っていったやつは何なんだよ!!あいつの方がよっぽどヤバそうじゃねえか。あんなのについてこられちゃ脱出できないだろ!!」

 

 

 うん?風貌から察するにU.B.C.S.か。なんでこんなところに一人でいるのかは知らんが、まあ良いか。あれは人間は襲わないから気にしなくて良いぞ。あ、質問は受け付けないのであしからず。

 

 

「ちょっと待て!こっちは聞きたいことが山ほどあるんd「カルロス!この男は危険だわ。変に機嫌を損ねないで!!それで、あいつが逃げたっていうのは本当?」・・・チッ!」

 

 

 ・・・・・・まあ、うん。元U.B.C.S.なら私の顔を知っていても不思議じゃないし、この騒動に気が立っているのもわかるが、くれぐれもその筒先をこちらに向けてくれるなよ。殺意を突き付けられて笑って赦すほど私は御人好しでもないし、人間賛歌を謳っているわけでもないからね。

 

 

 それは置いといて、さっきの触手男なら齧り付かれた腕ごとロケットで吹き飛ばして逃げて行ったぞ。ネメシス、か。B.O.W.最大の欠点である短絡的な判断力を克服したのは魅力的だが、タイラント最大の売りであるリミッターの開放が出来ないのは大きな失点だな。

片腕じゃあの武装も役に立たんだろうし、もう大した脅威じゃないだろうな。

 

 

 

「・・・そう、詳しいことは聞かないでおくわ。有難う、助かったわ。お陰で何とか脱出できそう」

 

 

 

 それは結構。ここからは大した障害もないだろうし、警察署内や周辺は(クレアが)片づけてあるから問題ないだろう。私は『Pipipipi!!』・・?無線か。

 

 

 

 

『HQ、こちらチャーリー8。救援要請をしてきたレオン・S・ケネディ他2名の民間人をロンズデール・トレインヤードにて保護。しかし、アンブレラのU.S.S.と思わしき部隊と交戦中!何とか応戦しているがあまり持ちそうにない。精鋭と思われる小隊が強過ぎる!!至急応援を寄越してくれ!!』

 

 

『こちらHQ、アルファ3、ブラヴォー7は大量の人型B.O.W.と交戦し壊滅した。エコー6も変異した人型B.O.W.に足止めされていて身動きが取れない今、お前たちしか戦力は残されていない。エコー6が到着するまで、何とかして食い止めてくれ!』

 

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間:30分後

場所:ロンズデール・トレインヤード

 

 

 

 スペックオプス、U.S.S.、そしてゾンビの軍勢。

 三つ巴の争いは銃声に悲鳴、爆発音が絶えない阿鼻叫喚の有様となったが、今はそれが数分前まで続いていたとは思えないほどの静寂に包まれている。

 

 

 夥しいほどの屍によって埋め尽くされた戦場に最後まで立っていたのはU.S.S.―――その最精鋭ともいうべきウルフパックだけであった。戦いの中心であったレオン達は傷つき倒れ伏している。数年後の未来ならいざ知らず、今現在は運を味方につけた戦争素人に過ぎず、BC兵のフォーアイズが放った感染速度を異常強化したTウィルスによってスペックオプス――チャーリー部隊長が戦死し総崩れとなった時点で彼らの敗北は決定した。ちなみに最後まで立ち向かっていたのは言うまでもなくクレアであり、彼女の奮闘によって工作兵ベルトウェイは義足を破壊され、抑え込んだベクターも浅くない傷を負うこととなった。

 

 

 

 戦場は完全に沈黙し、後は任務を遂行するのみ。その筈であった彼らは今、部隊崩壊の危機に直面していた。発端はレオンが苦し紛れにはなった言葉、そして彼らが本部より受けた仕打ちが其れに拍車をかけた。本部の裏切りにより両者の関係は最悪まで冷え切った。そしてそんな自分たちは彼らのアキレス腱を知り過ぎている。仮にレオン達を始末しここを脱出したとしても、遠くない未来で消されるのではないか?特にリーダーのルポ、偵察兵ベクター、そして衛生兵バーサはそう危惧している。

 

 

 ところが、それに待ったをかけたのがベルトウェイ、フォーアイズ、通信兵スペクターだ。レオン達の命は交渉材料としての価値が低い。Gウィルスを本部が手にしていた場合、シェリーの価値も不透明だ。

 

 

 そしてこの3人は癖の強いウルフパックの中でも特に社会不適合者の側面が強い。彼らはアンブレラを選んだのではなく、アンブレラくらいしか流れ着くところがなかったのだ。どうせ連中との信頼など元から皆無。路頭に迷い野垂れ死ぬくらいなら兵士として使い潰される方がまだマシだ。

 

 

 そうした理由で意見が真っ向から割れてしまい、長時間続いた極度のストレスが歴戦の戦士たる彼らを追い詰めた結果、一触即発の事態となってしまった。ほんの僅かな切欠で殺し合いが始まる・・・そんな時、後方から突然気配を感じ全員が振り返った。

 

 

 

 

「おや、この距離で気付かれるか。流石はあの漁村から帰還した精鋭たちだ。勘の鋭さが違う」

 

 

 

 

 そこにいたのは過日、自分たちに素敵な贈り物をしてくれた人物―――本部より、万が一生きていたのなら優先的に確保しろと通達のあったハワード・オールドマンであった。

 

 

 

「貴方は・・ミスター・オールドマン。お会いできて光栄だわ」

 

 

 

 真っ先に反応したのはフォーアイズだった。彼女は長年Tウィルスやそれに関係する多数の商品に触れてきた。その中でも彼が作り出したものはそれらの中でも随一だ。特に彼女の代名詞ともいえるゾンビやB.O.W.を支配下に置くあの薬も彼の作品だ。人間に興味のない彼女でも彼には一目置いていた。

 

 

 他にも彼に好意的なのはルポとベクターだ。今や彼らにとってハワードの作品は生命線といっても過言ではない。クールタイムが必要だが何度でも使える強力な防弾アーマーとなる「ビーフィーター」やハンター亜種をモチーフとした光学迷彩細胞「クラマト」には何度も命を救われてきたのだ。

 

 

 

「それで、天才工学者様がこんな血腥いところまで何の御用で?俺たちの手柄になりに来て下さったのかな?」

 

 

 

 おどけた調子で話しかけるベルトウェイだが、警戒心を強めてもいた。こんな街外れに用もなく来るはずもない、だがそうであるのならつい先ほどまで激戦区であったことも知っているはず。なのに丸腰でいることもそうだが、傷どころか汚れ一つない姿が気になって仕方がない。

 

 

 

「ここに来たのは、極めて優秀な諸君と是非交渉がしたいと思ってね。ただ、君たちには重大な懸念があるようだから、まずはそれから処理することにしよう」

 

 

 

 その一言にウルフパックの面々は目の色を変えた。自分たちの消耗具合から、どういう状況で何を最低限求めるのかは察しが付くはず。そのうえで交渉がしたい、といったのだ。彼らはハワードの言葉に強く惹きつけられた。

 

 

 

「・・・続けてちょうだい」

 

 

「ではまず、わたしはGに関する、極めて重要な情報を持っている。それにアンブレラの連中が回収できなかった特効薬やタナトスのサンプルも手中に納めている。どうかな?私の命には十分価値があるだろう?これらを理由に改めて本部と連絡を取ってみると良い。それで連中が大棚か泥船か判断がつくだろう」

 

 

「・・・まて、その情報の確度が知りたい。特効薬とやらについては判断できない、情報について少し聞かせてくれ」

 

 

 

 スペクターが本部と連絡を取る前に確証を欲しがった。彼のサーモグラフィーは心音も測定できるため、嘘発見器としても利用できる。それで事実か否かを知ろうとした。

 

 

 

「ふむ、じゃあ触りだけ教えよう。『G』はそれ単体では欠陥品だ。別のとある薬と併用することではじめて人知を超えた奇跡を起こせる。残念ながらその薬についての情報はバーキン博士の研究所と共に火の海の中だ。今や私の頭にしか『作り方』は存在しない」

 

 

「どうだ、スペクター?」

 

 

「心音に乱れはない、恐らく真実だ。ただ、妙なノイズが・・・?」

 

 

 

 確証を得たことで憂いのなくなったウルフパックは改めて本部に連絡を取り仔細を報告、交渉に臨んだ。ところが、本部からの返答は呆れるほど杜撰で無価値なものであった。今、間違いなく主導権はウルフパックにある。語気を荒げてしまったが、一度見殺しにしようとしたことを鑑みれば致し方ないだろう。

 

 

 しかし、本部からの返事は生き残りたければさっさと任務を完了させろ、貴様らと交渉等するはずもない、の一点張りである。これを受けてベルトウェイたちも完全にアンブレラを見限った。本部は今人手不足で、適当なクレーム窓口を引き抜いてきたのかと本気で思った位だ。

 

 

 

「さて、これでここにいるメンバーの意見は改めて一致したことだろう。交渉を始めたい。私が望むのは、君たちとの雇用契約だ。私は残念ながらこと戦闘に関しては素人だ。兵力はあってもそれを効果的に運用できない。そこで君たちの力を借りたい。対価として用意できるのは、まずは脱出手段、それから先ほど言っていた報酬の三倍と同額の金銭だ」

 

 

 

 そういって指を鳴らすと、遠くから巨大な箱を担いだタイラントがゆっくりこちらに近づいてきた。咄嗟に身構えるウルフパックだが、ハワードが制止したため銃を下した。

 

だが、箱を置いた瞬間タイラントの体がぐにゃりと歪み、どんどん膨らんでいったかと思えばヘリへと姿を変えた為、全員が普段の冷静さを忘れて驚くこととなった。バーサは気付け薬を打ち自身の正気を確かめ、ベクターは夢か幻覚かと疑い指をナイフで少し切り、フォーアイズは子供のように目を輝かせヘリに飛びつき、サンプル欲しさに解体しようとして他の隊員に取り押さえられていた。落ち着くまで10分ほど時間を費やした。

 

 

 

「・・・落ち着いてきたかな?じゃあ話を戻そうか。その箱に入っているのは君たちへの報酬と当座の資金だ。どうせ戦略核兵器で焼き払うんだからと思って、ラクーン中の銀行から頂戴してきた紙幣とその他諸々、といったところだ。君らへの契約金は十分払えると思う。それに足りないなら足りないで当てもあることだし」

 

 

 

「・・・・・・・アンブレラの傑作に銀行強盗させるのは貴方くらいよ」

 

 

「強盗とは人聞きの悪い。必要のないところから持って行くだけさ。それはともかく、他に要望があれば聞くが?」

 

 

 

「俺の要求は一つだ、アンブレラの喉笛を噛み千切る。それさえ叶えてくれれば問題ない」

 

 

「右に同じだ」

 

 

「わたしも」

 

 

「私もだ。貴方に着いていけばもっと新しいものを見せてもらえそう」

 

 

「・・・特にない。十分な報酬と、俺が必要な戦場があれば問題ない」

 

 

「私は・・・私の子供たちが奴らのそばで取り残されている。あの子たちを救ってくれるなら私は貴方に忠誠を誓おう。」

 

 

「・・・わかった、契約成立だ。私としてもアンブレラの存在は邪魔以外の何物でもない。君たちとは長く友好な付き合いでありたいと思う。

 さて、そうと決まればもうここに用はない。さっさと脱出するとしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして彼らは悪夢の街から姿を消した。アンブレラやアメリカ政府に尻尾を掴ませず目的を達成したハワードは早速行動を開始した。まず手始めに、袖擦りあった縁に対してのアフターケア。それが済むと部下たちと共に、アンブレラに報復の牙を突き立てた。それはラクーンシティがこの世界から消え去ってから、わずか2か月後の事だった。

 




これにてラクーンシティ編終了です。これからオリ話はさんでから「コード=ベロニカ」に入っていきます。


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