BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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閑話 アフリカ強襲編
第十話


 

 

 

 

 

 

 

『滅菌作戦』から1か月後―――。

 

 

 

 

 

『―――主よ、永遠の安息を彼に与え給え。絶えざる光を彼の上に照らし給え。

 

――――――――――――――――――――エイメン。』

 

 

 

 

 

 

 その葬儀は寂しさを感じさせるものだった。参列したのは親族の他には数えるほどもいない。しかしそれも仕方がないかもしれない。

 

 

 ラクーン事件からさほど経過しておらず、そのほとんどが政府によって闇に葬られた。周りからすれば、出張から帰って直に葬儀を上げようとした彼女たちが奇異なものに見えたことだろう。

 

 

 

「・・この度は、葬儀の段取りから何まで本当にお世話になりました。」

 

 

 

 そういって青年に頭を下げる女性と少女の親子。彼らの後ろにはとても堅気には見えない6人組が周囲に目を光らせており、もし参列者が此処に残っていれば何か事件でもあったかと思うだろう。

 

 

 

「いえ、これからはこちらもお世話になりますからね。このくらいは当然でしょう。我々は血腥いばかりで、子育ては専門外ですから」

 

 

「けど・・私なんかで良いのかしら。この子と碌に向き合ってこなかった私なんかより―――。」

 

 

「じゃあ、これからやり直せばよいでしょ?」

 

 

 

 俯く女性の裾を掴み、縋り付くようにしながら少女が言う。

 

 

 

「パパだけ仲間外れにしちゃうけど、きっと許してくれるよね?」

 

 

 

 そういって涙を目に浮かべながらも懸命に堪える娘に耐えきれず、女性は少女を抱きしめ嗚咽を漏らす。そうして二人で抱きしめ合い一頻り泣いた後、改めて青年の方に向かい合った。

 

 

 

「ごめんなさい、取り乱してしまって。それから、娘共々お世話になります」

 

 

「ああ、承知した。連中はもちろん、ラクーンでの人命救助に事実上失敗した政府にとっても、いまや生存者というのは不穏分子だ。何をしてくるかわからん。君たちの安全は私が請け負う、落ち着くまで何かと苦労は掛けるがしばらくの辛抱だ」

 

 

 

 ラクーンシティでの事件は、当初何故か街に銃火器が氾濫しており、生存者たちが果敢に戦っていたこともあり当初は生き残りも多く、救助は順調に行われていた。ところが、その事態に業を煮やしたアンブレラ上層部は大量のB.O.W.を投下、形勢は一気に逆転し生存者たちは救出部隊共々壊滅した。『G』の回収を読まれ複数のタイラントに待ち伏せされたり、シェリーの確保に部隊を多く回されたことも原因の一つと言えよう。

 

 

 そういった諸々の事情もあり、実質的に人命救助に失敗してしまったため、政府にとってもラクーンの惨劇は秘匿されるべき事柄となってしまった。アンブレラに全責任を負わせたくとも、ウィルス回収を優先した事実を証拠映像つきで押えられてしまい、またB.O.W.の顧客名簿に政府も名を連ねていることの公表を脅迫材料に上げられたことで、政府はアンブレラの後始末に奔走する羽目になった。それ故、数少ない生存者たちの動向は非常にデリケートな問題になってしまったのだ。

 

 

 

「・・・あの、お願いがあります」

 

 

 

 少女が青年に真直ぐ目を合わせて口を開く。

 

 

 

「私にパパの仇を討つ力をください!」

 

 

「メラッ!?何を言っているのかわかっているの!!」

 

 

「これに書いてる人たちが私達のパパを殺したんでしょ!?こんなもの送りつけて!!!?」

 

 

 

 そういってポケットから一つの封筒を取り出し地面に叩き付ける。それは香典だった。子供ながらあらん限りの力で握りしめたからか、ぐしゃぐしゃに捩れている。表書きには「アンブレラコーポレーションズ」とある。一体どの面を下げて送って来たのか、しかも香典にしてはあり得ないくらい膨らんでいる。口止めのつもりなのか、そのやり口にこの場の全員が嫌悪で顔を歪めた。

 

 

 

「あいつらにとってパパの命はこんなもので代わりになるの!?ビーオーダブリューとかよくわかんないけど、そんなものの為にパパは死ななきゃいけなかったの!?私は許せない、あいつらに、パパや色んな人を犠牲にしたおかげで食べていける、なんて言われ続けると思うと頭がおかしくなりそう!!?」

 

 

 

 とても幼子の口から出たとは思えない慟哭に、少女の母は二の句が告げないでいる。青年の方は冷めた表情であるが。

 

 

 

「・・・うーん。復讐も生き方の一つだから止めはしないが、うちは頭の螺子が飛んだ奴ばかりだから、一般人の君がついてこられるよう、なんて気の利いたことは出来ない。恐らく見込みがないと思われれば途中で投げ出されるだろうね。それでもやるかい?」

 

 

「・・・・喰らい付きます」

 

 

「そんな!?ハワードさん、貴方からも止め―――」

 

 

「止めたところで彼女は遅かれ早かれ此方側に飛び込むだろう。そうなってから自分の素質の有無に気付いたところで遅い。それなら早い内にこれから彼女が向き合う地獄を見せたほうが良い。

 だから、次の作戦に君も参加しなさい。ああ、安心してください。約束通り、彼女が私の手を離れ一人で生きていけるようになるまでは身の安全は保障します。

 メラ、もし君がアレを見て、その後でも同じ啖呵が吐けるなら、私が出来る限りは教えよう。最も、私はウィルス学は専門外だから、奴らの殺し方や生態位だが」

 

 

「・・・・・・はい、わかりました」

 

 

「メラ・・・・・」

 

 

「ハワード先生、ところで次の作戦とは?」

 

 

「詳しい話は知る必要はない。あまり聞いてて楽しい話題でもないしね。ちょっと連中の急所を抉ってやろうって話さ。場所もここからそう遠くはない。目的地は・・・・・アフリカだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:アフリカ某所 反政府ゲリラ拠点

 

 

 

 

 

 

「――――遠路遥々ご足労頂き感謝します。こちらが我々組織のメンバーです。そちら、えっと・・・」

 

 

「・・?ああ、そうか。もうあまり本名を名乗るのも不味いか。そうですね、『ショゴス』とでも呼んでください。今回の作戦はあなた方なしでは語れません。ご協力感謝します」

 

 

 

 そういってゲリラのリーダーと思わしき男性と握手を交わすハワード。周りの連中はウルフパックの血腥さと、その後ろに控える連中やハワードの素人染みた気配の落差に不信感を抱いている様子だ。

 

 

 

「正直俺達も手詰まりで、背に腹は代えられないかってとこまで追い詰められてたんだ。あんたらの申し出はまさしく渡りに船ってやつだ、感謝するのはこっちの方だよ」

 

 

 

 周囲のメンバーと異なり、諸手を挙げてハワードたちを歓迎するリーダーは人好きのする顔で、ゲリラをやっていなければどこかで教師でもしていそうな雰囲気を纏っている。

 

 

 

「ところで・・今更蒸し返すのも失礼なんですが、なぜ我々の要請に応えて頂けたんですか?罠か若しくは質の悪い悪戯かと流されるのも覚悟していたんですが」

 

 

「おいおい、知らぬは本人ばかりなり、てか?あんた達、こっち側じゃエライ金額の賞金が懸ってるんだぜ?それにあんたらが寄越したラクーンに関する証拠映像、ありゃあどこにも出回ってない代物だ。間違っても連中が外に出したい情報じゃねえ。こりゃ罠なんかじゃねえなと思ったわけだ。それに、アンタらが俺たちに求めたのは情報だけだ、こっちは損失は何も出ちゃいねえ。それであのクソ会社に大なり小なり傷を負わせられれば冥利に尽きるってもんよ」

 

 

「しかし、貴方方がこれまで駆けずり回って得た、宝ともいえる情報でしょう。それに『トライセル』への働き掛けも・・・・」

 

 

 

 言葉を続けようとしたハワードを、手を翳して制する。その表情はさっきまでの穏やかさとかけ離れた、覚悟を秘めた漢の顔だった。

 

 

 

「俺達は反政府ゲリラだって言われちゃいるが、正直なところ政府にはそこまでの悪感情はねえ。ただ、あの死の商人どもの好き勝手にされてるところだけは憎たらしいがな。まあ、仕方がねえとこもあるってのは頭では理解してる。何せこの国の薬と包帯を全部握られちまってんじゃなあ」

 

 

 

 そう、このアフリカという国は、アンブレラに半ば私物化されてしまっている。彼らは知る由もないが、このアフリカこそが、アンブレラ発祥のルーツと言って過言ではない。ンディバヤ族という奥地の民族の聖地に群生する花、これこそがTウィルスの原点である『始祖ウィルス』なのだ。これを得たことで、製薬企業アンブレラは始まったのだ。

 

 

 しかし、アンブレラが巨大化し、兵器・製薬の両分野で台頭すると、当然ライバル会社はその成長の理由を探りに来る。そんな時、ンディバヤ族の土地周辺だけ手を出していれば当然ばれる。そこで、カモフラージュとTウィルスの独占も兼ねてアフリカ全土に影響力を持つことにした。

 

 

 一国の軍隊にも比肩する私設軍事組織すら有し、アメリカ政府とも直結しているアンブレラに、唯の商会や医療関係組織が歯が立つ訳もなく、表向きは企業競争という形で、裏では暗殺・誘拐・薬害を偽造し訴訟を起こすなど、手段を選ばず対立組織を消していき、ついにアフリカの医療業界はアンブレラに占領されることとなった。当然アフリカ政府はアメリカに抗議を行ったが、黙殺されて終わった。今となっては笑い話だが、この当時アメリカ政府はアンブレラを自分たちの傘下企業程度に思っており、その傘下企業がアフリカ政府を屈服させている状況はアメリカにとって有益であると見做していたのだ。何か不都合があればアンブレラに責任を擦り付け、自分たちは甘い汁を啜っていけると。

 

 

 こうしてアフリカはアンブレラの玩具と成り果てた。彼らも当然状況を打破しようとしたが、そのたびに国家不安定化工作を仕掛けられ急激な医薬品不足に陥り、その不満が全て政府に向くよう工作されてしまった。ウィルス漏洩も政府に揉み消させ、アメリカに有利な条件ばかり飲まされる現状にゲリラたちの不満は爆発寸前になっているのだ。

 

 

「ここにいる連中は、あいつらに家族を奪われ、故郷を更地にされたやつがほとんどだ。あいつらを追い出し、自分のしてきたことの報いを受けさせられるなら命すら惜しくないって奴ばかりなんだ。だがここまで、何一つ報いてやれなかった。

いまが、今だけが最後のチャンスなんだ。ラクーン事件で屋台骨が揺らぎ、アメリカ政府とも関係が悪化したこの瞬間が最後の好機だ。ここで奴らの裏の顔が暴露されれば、奴等への致命的な一撃になる。そのためなら俺達が憎くて憎くて仕方がないバイオテロにだって手を染めてやる、そんなとこまできちまってたんだ。

そんな時にあんたらから連絡がもらえたんだ。しかも言うとおりにして欲しい情報をくれてやれば、あいつらをこの国から追い出してくれるって言って。俺たちの悲願を叶えてくれるってんだ、そりゃ何でもするさ俺達は。ダメだったらその時は俺達が世界の悪になって死んでやろうってみんなで言ってんのさ。だから頼む!どうかあいつらに思い知らせてやってくれ!!」

 

 

 そういって額を机にこすり付けんばかりに頭を下げるリーダー。周りを見ればそこにいる誰もが此方に縋るように各々懇願している。そこに奥からたくさんの資料を持った人物が入り机に置いていく。断ってそれらをフォーアイズとバーサに見せる。

 

 

 

「どうだ、使えそうか?」

 

 

「・・・・これは素敵だわ。良くここまで集めたものね。これだけあれば普通ならホワイトハウスだって黙って慰謝料出すわよ?」

 

 

「―――上出来。これなら十分時間を稼げる」

 

 

「よし。それじゃあ次、連中の最重要機密であるアフリカ研究所の在処だ」

 

 

 

 そう尋ねると、リーダーが側近らしき人物に目配せし、奥の方から一人の少女を呼びつけた。

 

 

 

「その施設は情報操作に情報規制を重ね掛け、周辺にも相当な警備システムを施してある。そこを特定するために14年を費やし、168人の部下が死んだ。そして唯一そこに至るまでの道を確保できたのが彼女だ」

 

 

「よし、じゃあ君はあっちのフードみたいなのを被った部下と一緒に行動してもらうよ。えっと・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、私はシェバ、シェバ・アローマよ。今回の作戦、必ず成功させましょう!」

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回はかなり独自設定が入ってしまいましたが、アンブレラと『ファミリー』とかいう秘密組織が牛耳ってるアメリカがあるこの世界ならありかな、と思います。


それから、たぶん今回が2017年最後の更新となります。皆様もよいお年を!
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