BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!!



第十一話

 

 

 

 

 

 場所:アンブレラコーポレーション アフリカ支社

 

 

 

 

 

「―――――以上の物的証拠から、御社が行っている事業及びそれに付随する行為は、環境・人道・国際法規その他諸々の観点から逸脱していると言わざるを得ない。これらすべてに対する説明、改善、そして賠償の責任は御社にある。納得のいく回答をいただきたい」

 

 

「・・・・ミス・シュナイダー、それからミス、えー、ヤマタ?我々の活動等は、全てアフリカ政府による許可と承認によって行われております。政府によって一切の犯罪性は認められないとされている以上、我々にはあなた方に説明する義務は存在しない。このことはあなた方の遥かに上の諸先輩方に既にお伝えしているはずです」

 

 

 

 

 来賓室にて部下とともに応対していたアフリカ支社長は不快感を隠そうともせず、踏ん反り返りながらそう回答した。ラクーンでの本部の失態から、この手の原住民の押し掛けが活発となり、耳障りなので本社を通じて政府に圧力を掛けた矢先の出来事だったからである。

 

 

 そもそも彼は今の立場に不満を持っていた。アフリカ支社の幹部経験者は栄達が保障されており、アフリカでの大抵の行動は治外法権となり、強姦・殺人等あらゆる犯罪を行っても闇に葬られるのだ。

 

 

 しかし、そんなものは本部から直接送られてきた人材は全員が甘受しており、むしろ最重要機密であるアフリカ研究施設に関する情報を知らされ、その存在の秘匿の徹底及び要観察対象リストに名前を載せられる社長職はデメリットの方が大きい。特に彼にとっては万が一にでもヘマをすれば、イカレポンチを煮詰めたような組織であるU.S.S.が自分を八つ裂きに来ることが何よりも恐ろしかった。

 

 

 

 それはともかく、今までの連中と異なり目の前の女性2人は妙にウィルスの効能や被害経緯に関する話がまるで同僚と話しているかのように正確であり、このまま話を続けられてはつい余計なことを口走ってしまいそうで内心ヒヤヒヤしていた。こちらに話を振ってくれたことをこれ幸いと感じた彼は、同席させておいた、妙に恰幅の良く懐の膨らんだ警備員に目で合図を行い退出を促すよう圧力を掛けさせた。相手にも珍しくボディガードが付いているが、たかが2人、しかも中肉中背のひょろい男二人であったため問題ないだろう。そう高を括っていた所に――――。

 

 

 

『ご苦労。もう良いぞ、バーサ・フォーアイズ。こちらの手筈は整った。』

 

 

 

―――不意に何処からともなく、どことなくロシア訛りのある男の声が聞こえてきた。今のは一体・・?そう疑問に思ったが、頭部に叩き込まれたマチェットの所為で永久にそれを口に出す機会は失われた。

 

 

 

「了解。まったく、女性を待たせないでよ、スペクター。フォーアイズも慣れない仕事お疲れ様」

 

 

「・・・この時間全てが苦痛だった。浄化槽と話してる方がまだマシ」

 

 

 

 突如社長に狼藉を働き、その上で呑気に会話する彼女たちに、警備員たちが得物を抜き発砲・・・することが出来なかった。彼らは彼女達の後ろで起こっている信じられない光景に目を奪われていた。

 

 

 

 先程まで後ろで立っていたひょろいボディガードらしき男2人が身の丈3メートルを超える、両手に異形の爪を携えた怪物に姿を変えていた。その存在を知る彼らは、何故アンブレラの傑作を彼らが所有しているのか、今の光景は何だったのか、そんなことに思いをはせている内にタイラントの餌食となり、瞬く間にミンチより酷い有様と成り果てた。

 

 

 

『手筈通り出入り口の電子扉をロックした。これからそこの2匹が一人も犠牲者を出さずに暴れまわる。お前たちはその隙に社長室に潜り込み遠隔操作用の端末をセットしろ。タイムリミットは15分だ。ああそれと、今の今まで、『ミミクリー』は起動していただろうな?』

 

 

 

「問題ないわ。ここには私たちの痕跡は一切存在しない。それじゃ行動開始ね、フォーアイズ。短いけど精々楽しみましょう」

 

 

 

「・・・今すぐこの子達のサンプルを取r「『却下』」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:アンブレラ アフリカ秘密研究施設

 

 

 

 その日、警備兵ジョンはいつもと同じ変わり映えのしない監視に飽き飽きしていた。ここは世界中の地図をかき集めても見つけられない、現代のロストワールドともいうべき場所だ。そのうえ数多のセキュリティに守られ、もし発見された場合、その哀れな人物はB.O.W.の実地テストの的にされるかU.S.S.に回収され被検体のサンプルになるかしか道はない。

 

 

 だが、そんな認識は今日を限りに消え失せることとなった。他の同僚からの定期連絡が来なくなったことを不審視した彼はすぐさま詰所に報告を入れたが音沙汰なし。想像だにしなかった事態に焦り始めた彼は無線に必死に呼びかけながら詰所へと戻った。

 

 

 

 待っていたのは血の海だった。首を跳ね飛ばされた死体、胴から下が無い骸、腹に風穴の空いた遺体と、凄惨極まる現場だったが薬莢はどこにも見当たらない。50人は下らない人数が常時詰めていた此処がサイレンどころか発砲すら出来ずに制圧された。相手は絶対に単独ではない。ではどうやって此処のセキュリティを突破したのか?パニックになりながら備え付けの内線に手を伸ばすが、あと一歩のところで頸動脈をナイフで切り裂かれた。尤も、既に電話線が切断されていた事実に気付かなかったこと、そして何より痛みすら感じずに死ねたのだから、他の連中より幸運だったかもしれない。

 

 

 『クラマト』の効果切れによって、闇から這い出たかのように姿を現したベクター。そしてそれに釣られる様に続々と姿を現すハンターの集団。それらはまるで軍隊のように整然と並び、周囲を警戒しながら次の指示を待っている。

 

 

 

「こちらベクター、警戒レベル:イエロー以内で入口は制圧した。想定通り施設の方に動きはない。情報には気を配っても、警備そのものはシステム頼りで形骸化しているようだ。」

 

 

 

『どんな魂にも脂肪は付くもの、か。精々我々も気を付けねばな。こちらの方も予定通りだ、いつでも始めてくれてかまわない』

 

 

 

「了解、これより作戦行動に入る、以上だ。――――さあ、奴らの喉笛を食い千切りにいくぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:秘密研究施設 施設内部

 

 

 

 

「て、敵襲!敵襲――ッ!!」

 

「くそ、監視は何をやっていた!?これだけの数の接近に、連絡ひとつ入れられなかったのか!!?」

 

「何だよ、こいつら!?戦象部隊ってか?いつの時代の軍隊だよ!!?」

 

 

 

 施設内のU.S.S.は潜入してきた敵部隊の奇天烈さに動揺しきっていた。そもそも彼らはB.O.W.を運用する側に立つことは多いが、敵に使われる状況をあまり想定していない。勿論彼らが自らの優秀さをアピールするために何度か仕留めて見せたことはある。しかし、精々がハンター位のもの。

 

 

 

 

 彼らの目の前にいるのは――――――――象だ。

 

 

 

 これはハワードが作り出した新型B.O.W.「アースクエイク」。ハワードがラクーンで手に入れた象のデータから復元・擬態化し、それをのべ1万回Tウィルスに感染させ、それぞれウィルスに適合できた部位を切り取り、パッチワークでもするかのように貼り合せることで完成した、人類では絶対生み出せない象版タイラントともいうべき兵器である。

 

 

 完全適合は伊達ではなく、唯でさえ強靭な皮膚はエレファントガンですら軽傷を与えるのが精一杯というトンデモ仕様となり、体高は本来のサイズより2回りは大きく体重は30トンを超える、まさに生きる戦車といった有様である。

 

 

 ちなみに名前の由来はいつも通り有名なカクテルからであるが、それ以外にもちゃんと意味がある。それは「地震に対して、傘は無力である」つまりアンブレラの成果の否定である。即ち――――――。

 

 

 

 

 

 

「くそ、駄目だ!!タイラントが足止めにもならない!!?」

 

 

 

「どうなってやがる!!こいつらはアンブレラの最高傑作じゃなかったのか!!?」

 

 

 

「やめろ、来るな!来るなああああ『グシャッ』」

 

 

 

 

―――対タイラント用B.O.W.ということだ。タイラントの有用性については意見は様々だが、やはりその最たるものは『スーパータイラント化』であろう。そもそもリミッターを外す事態となる前に相当の銃火器や兵器を浪費させ、倒したと思い込んだところでの強襲。そして何より圧倒的な俊敏性と対応力は、対峙した勢力の殆どを刈り取っていく。事実、ラクーンでは最新鋭の装備を身に着けた米軍の精鋭を数体のスーパータイラントで殲滅している。

 

 

 しかし、その前段階ともいうべきタイラントはとても鈍重である。そしてB.O.W.共通の逃走しないという欠点がある。こいつの場合はさらに自分のタフネスを過信してか、後退すらしない。精々横に回避するくらいだ。

 

 

 それゆえにアースクエイクは、タイラントにとって天敵となりうる。10トンなら腕を盾に耐えられるだろうが、30トンの重さには、それも上から全体重を乗せた一撃はとても耐えきれない。しかも超強化された鼻を使えば軽々とタイラントを持ち上げられるため、そのまま頭を噛み砕くなり、地面に叩き付けて踏み潰すことも出来る。

 

 

 今回ベクターが連れてきたハンターは60体。そのうちの8割に擬態を解かせ、それらが寄り集まり3体のアースクエイクへと再擬態し(擬態のプロセスは勿論ベクターには見せていない)、一糸乱れぬ行軍で施設諸共敵を蹂躙していく。奇跡的に潰されずに済んだ者もいたが、心身ともに乱れきった彼らを見逃すほどベクターたちは甘くない。きっちり後始末が行われ、彼らより後ろで生きているものは一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所:秘密研究施設 非常通路 出口

 

 

 

 大勢の足音が木霊する。前線の壊滅的状況を知った研究者等幹部達は現在も必死で応戦している部下たちを早々に切り捨て、護衛と共に急いでヘリポートへと向かっていた。哀れな死兵たちの奮戦もあり、離陸する時間は十分ある。彼らの護衛は特に腕利きを集めており、問題なく脱出できるだろう、そう思っていた。

 

 

 彼らの護衛は十分優秀であった。しかし経験豊富な連中だからこそ、人間が絶対仕掛けられない天井の地雷原に対応することが出来なかった。降り注ぐボールベアリングのシャワーに全身を射抜かれ殆どが即死し、僅かな生き残りも矛のように鋭い舌とショットガンによって直に後を追った。

 

 

 

「ハッ!あのクソッタレの街じゃひどい目に遭わされたが、なかなか役に立つじゃねぇか。『リッカー』とか言ったか?俺様のインクで随分斬新な絵を描いてくれやがる」

 

 

 

 下手人の名はベルトウェイ。ベクターが正面から強襲をかけ、外への注意が逸れた隙に無数のリッカーを引き連れ屋上へ先回りしていたのである。勿論万が一陸路での離脱を試みた時用に、同じく人間が仕掛けられない場所へ絶妙にトラップを配置した上で、だ。

 

 

 

「―――さて、と。新しい玩具に浮かれてばかりもいられねぇな。あのカメレオン野郎に美味しいところを全部持ってかれちまう。ルポの野郎に、尻を火星まで蹴飛ばされる前に片付けんぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所: 秘密研究施設 中枢

 

 

 

 

 敵勢力の予想以上の奮戦に多少時間をロスしたが、滞りなく殲滅は完了した。ベルトウェイからの報告によると、腰抜け幹部の中に、今回のターゲットであるブランドン・ベイリーは居なかったらしい。この施設の最高責任者が離脱もせずに留まり続けていることを訝しみながらも、ベクターは施設中枢へと辿り着いた。アースクエイクに扉を破壊させ突入すると、目的の人物、ブランドンを発見することが出来た。本来いるはずのない男と共に。

 

 

 

「・・・ほう、やはり君たちか。捨てられた厄病狼達よ、この痛みは少しばかり度が過ぎている。躾が必要だと思わんかね?」

 

 

 

 そこにいたのは、アンブレラ親衛隊隊長、セルゲイ・ウラジミール大佐とそして―――。

 

 

 

「・・・・・お久しぶりです、マスター」

 

 

 

―――数々の不可能ミッションを生還してきた、古今無双の『死神』だった。

 




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