BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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『ヒダルゴ騒動』編
第十五話


 

 

 

 

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

「頼む!私の娘を、妻を救ってほしい!!私に出来ることなら何でもしよう、どうか!!どうか!!!!」

 

 

 

 

 

 

 私は現在、南米の奥地で麻薬王にDO☆GE☆ZA☆されています。どうしてこうなった・・・?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南極基地から帰還して数日が経過した。私は肉体がかなり消耗しており、ウルフパックの面々も結構疲労していた。何より、肝心の標的であるアンブレラが役立たずをリストラして雲隠れしてしまったため、尻尾を掴むまで暇になった。さらに言うと、ルポがあまり子供たちを放置するのを嫌がったのも一因だ。私もシェリー嬢やメラ君をビジ夫人に任せきりというのはどうかと思うしね。

 

 

 

 しかし、我々のような無駄に目立つ一団が適当に2LDKの賃貸など借りれるわけもないので、さてどうするかと思案していた所に妙に畏まった人間が招待状付きでやってきた。まあ過剰戦力も良いところだし話だけでも聞いてみるかとホイホイついていってみたら、アメリカの裏社会でかなり有名な『麻薬王』ハヴィエ・ヒダルゴ氏の遣いだったことが判明した。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、唐突な大物の登場に面食らったが、何故面識皆無の我々を招待したのか話を聞いてみた。どうやらこの御仁、奥方が不治の風土病に侵されてしまい、アンブレラ社に多額の裏金を担いで泣きついたが、よりにもよってTウィルスなんぞを掴まされたらしい。うん、恐らくは治療に託けて金を絞れば話が拗れるから、バイオハザードを起こさせて財産をかっぱらおうとしたんだろうな。

 

 

 

 それはおいといて、その外れクジを引かせた三流営業マンがこの度リストラされたので、これ幸いと拉致し当時のお礼をたっぷりの利子つきで返したそうな。その時絞れるだけ絞った情報の中に我々の存在があったらしい。下手をすればアンブレラ以上にウィルスに関する情報を持っている我々なら、同じく風土病に侵された御息女を助けられるのではないか、一抹の望みをかけて連絡を取って来たとのこと。

 

 

 

 

 とりあえずその風土病とやらがどんなものか、資料の閲覧及び患者の診察をしに中へと入る。すると、まさしく薄幸の少女と言わんばかりの風情の子供が寂しそうにベッドで微睡んでいた。なぜか近づかないよう忠告してくるハヴィエ氏を無視して診察に向かうとあら不思議、目の前に奇怪な怪生物が下りてきた。サンプル採取ついでに売られた喧嘩を買おうとしたら慌ててハヴィエ氏が割り込み、驚いたことに怪生物が彼の言葉に忠実に従ったのだ。これはとても希少なB.O.W.だ。人語を理解しているだけでなく飼い主を理解している。しかも私のように後付の細工をしている風でもない。―――ん?B.O.W.?Tウィルスを掴まされた?まさかこいつは・・・・。

 

 

 

 

「どうやら説明せずとも理解してくれたようだな。そうだ、あれが私の妻だ!私が殺した、あのバカなアンブレラ社員に騙されてな!!いや騙したというのは語弊だな。ああ、風土病は確かにもう影も形もない。ヒルダの面影諸共な・・・」

 

 

 

 

 そう自嘲する様に、泣き叫ぶ様に独白するハヴィエ氏。すると先程の怪生物・・じゃなかった。ヒルダ夫人が我々から庇う様に立ち塞がり、一本の触手で彼の涙をそっと拭う。おい、ちょっと待て。もしや夫人は知能だけでなく記憶も残っていたりするのか?

 

 

 

 

 

「・・・どこまでかは分からんが、これは確かに記憶を残している。現に私の命にだけは従い、それに娘の歌にまるで安らいでいるかのように聞き入っているのを何度も見た」

 

 

 

 

 

 ・・・・・これ、元に戻せるんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「・・・・はあっ!!?」」」」

 

 

 

 

 おおう、さっきまで会話に入ってこなかった子分衆まで反応した。後ろから急に大声を出されてびっくりした。

 

 

 

 

「今何と言った?その言葉を私の前で軽々しく言うものじゃない。もう淡い期待を砕かれるのは御免だ!私の娘だけでなく、こうなり果てた彼女をどうやって救うというのだ!!?」

 

 

 

 

 ものすごい形相で詰め寄ってくるハヴィエ氏。そして同じくその大きな口が私に触れんばかりに間を詰めるヒルダ夫人。彼が距離を詰めたから傍に寄った、だけが理由でないのは明らかだろう。

 

 

 

 と、話が逸れた。彼らにとってとても幸運なことに、我々が南極から持ち帰った知識、技術が彼らの希望を叶える助けとなる。まず第一の鍵が、T-Veronicaだ。あれはTウィルスとは比較にならないほど生命の創造・再生を助長する力を持つ。これに私が作った『ヌーヴォー』と彼女の遺伝子情報を掛け合わせ、夫人の体を創造する足掛かりを作る。

 

 

 第二の鍵が、ベロニカ計画により確立されたクローン技術だ。さすがに新人類を作れとか言われても我々には手に余るが、元々存在する肉体を再度生成することなら、少し研究すれば可能だろう。幸い資料は完璧に回収することが出来たし。

 

 

 最後の鍵は、南極で得た中でも特に異質の技術、ログによれば『脳缶』と呼ばれるものだ。対象の脳を一切傷つけることなく、しかも意識まで完全に移し保存する術らしい。これについては実際に南極基地にて施術し、理論が正しいことを実証しているため問題ない。流石に精神が崩壊しそうなので意識は眠らせてあるため、時間に関して少しばかり意識と現実にずれが出るだろうが、死の淵から帰還できるのだから安い代償だろう。

 

 

 

 つまり、まず夫人の遺伝子情報を抽出→改良された『ヌーヴォー』とクローン技術で本来の肉体を再構成→『脳缶』の技術の応用でオリジナルの方の脳を摘出しクローンに移植する→パーフェクトだハウザーッ!!という訳だ。

 

 

 

 ただし、これ等は残念ながら現時点では不可能だ。問題が2つある。まず一つが、ヴェロニカウィルスが強すぎて思った通り(つまり人間の規格)の肉体を作れないであろう点。ウィルスの被検体が悉く異形で巨大な姿になったことから可能性が高い。よしんば人型を作れても、国家レベルの後ろ盾のない超人がどういう末路を辿るかなんて知れている。特に現在のアンブレラは核ミサイルを落としてでも手に入れようとするだろうな。よって、ヴェロニカウィルスを可能な限り希釈し、変異性を抑制しなければならない。

 

 

 もう一つは、現在『ヌーヴォー』に使用しているマイクロチップがクローン精製には大きすぎる、という問題だ。単純な指向性を持たせた細胞や簡単な命令を聞かせられるだけの脳を作成するのならともかく、肉体という無数の器官が完璧、且つ有機的に機能して初めて意味を成す代物を一から作るのにミクロでは邪魔になり、とんでもない欠陥品を生み出しかねない。プログラミングについては私が生体工学者の意地にかけてどうにかしてみせるし、ナノマシンについても、触りくらいなら南極に資料があった。一から作るよりよほどましだろう。

 

 

 

 

 つまり、マヌエラ嬢については彼女の体力次第だが、B.O.W.として安定しているヒルダ夫人に関しては時間さえかければ何とかなってしまうのだ。いやー、今更ながら自分たちの持っているテクノロジーが現実離れしてると感じるな。

 

 

 以上のことを資料と専門家の解説付きで説明した。最初は猜疑心が先に立っていたハヴィエ氏も突如湧いてきた希望に堪えられなかったのだろう。徐々に顔がゆがみ目元に涙を浮かべながら夫人へと囁きかける。それに寄り添うように同じく涙をこぼすヒルダ夫人。一頻り涙を流した後、冒頭の有様となったわけだ。

 

 

 

 

 

 それから私たちは多忙を極めた。私は只管覚書きと睨めっこしながらナノマシンの制作に取り掛かり、フォーアイズはベロニカウィルスの解析及び弱体化の研究に勤しんでいる。バーサはハヴィエ氏が散財しまくって抱え込んだ、業界ではトップクラスの医療スタッフとともにマヌエラ嬢の症状悪化を少しでも遅延させるべく奮闘している。

 

 

 しかし、たぶん一番重労働だったのはルポだろう。一体何回ハヴィエ氏に肉体的指導を行ったか数えきれない。あの御仁普段は裏社会の実力者らしい振る舞いなのだが、御息女が関わるととにかく暴走する。例えば、フォーアイズが比較実験がしたいから娘と同世代の遺伝子情報がたくさん欲しいと要請したら、人身売買やら誘拐やらでかき集めてくるとか言い出すんだ。頼むから余計な茶々が入りそうな行動は慎んでほしい。

 

 

 それと、御嬢さんの生活環境にもかなりメスを入れた。幾ら風土病のせいで目が離せないからと言って、四六時中病室に閉じ込めておいたら気力が萎えてしまうだろうに。それに治療のためとはいえ、見知らぬ(しかも怪しい)男性に観察されたり、肌を晒すのはかなりのストレスだろう。そういうわけで、身元のしっかりした母子家庭の親子を住み込みで雇い、身の回りの世話を頼んだり、学校(というより寺小屋?)帰りの子供たちに、御息女の話し相手をしてもらったり、献血に協力してもらった。今まで自分が治るなど夢にも思っておらず、いざ治ったらどうしてよいか分からず将来の不安に押し潰された、なんてバッドエンドは御免なのでね。今のうちから世間に触れさせていかないとね。

 

 

 しかし、少し気になる点がある。マヌエラ嬢が急に身の回りが騒がしくなったことを訝しんでいるのだ。しかも結構ネガティブな方向に。まあ、娘の為なら何でもする、が比喩表現にならないお父様をお持ちだからね。ある程度は仕方ないかな。そこら辺は我らが擁するお母さん方にフォローしていてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、久しぶりの研究者生活を満喫していたらあっという間に一年が過ぎた。何故ここで一区切り入れたかはお察しだろう。そう、事態が動いたからだ。

 

 

 

 マヌエラ嬢の容体が加速度的に悪化し始めた。今の対症療法では研究が完成しても手遅れになる。そうバーサとスタッフ達は断言した。

 

 

 フォーアイズも頑張ってくれた。ベロニカウィルスの弱体化を大きく進展させてくれた。彼女でなければ今の半分も進んでいないだろう。しかし、彼女の情熱と腕前をもってしても、単体での使用は到底不可能だ。危険すぎる。

 

 

 もうこうなっては仕方がない。荒療治になるが手段を選んでいる猶予はなくなってしまった。幸い私のナノマシン研究はある程度完成した。流石に全身のクローン作製はまだまだ先だが、任意の臓器を複製することについては成功率99.6%を達成した。こいつを使って何とかしよう。

 

 

 施術は至ってシンプルだ。弱体化ベロニカを投与→ウィルスが変異した部位を片っ端から移植する→ウィルスが安定するまで繰り返す、これだけだ。大分変異性は抑えられたが、安定するまでどれくらいかかるだろうか。実験によると本人の臓器を移植するより他者のものを移植する方がより期間を短くできるようだ。拒否反応を抑え込むのにウィルスの力が浪費されるからだそうだ。

 

 

 

 まあ、他人の遺伝子についてはこれまでに散々提供してもらったから人様に迷惑をかけることもないし、臓器のストックは十分にある。何とか何事もなくいってほしいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからさらに半年後、経過は順調の一言に尽きるだろう。最初は三日に一度取り替えなければならなかった臓器も、今では3か月経過しても変異は最小に留められている。これならあともう半年もすれば我々の手は必要なくなるだろう。世界情勢もかなり動いている。幸いハヴィエ氏がかなり精力的に情報を集めてくれているので、情報戦で後手に回ることはないだろう。やはりコネクションというのは偉大だ。彼の場合は裏社会が中心だから付き合いやすい。気が付いたら完全に首が回らなくなっていた、という不安が無いのは気が楽で良い。大企業とかはここら辺が怖くて近づきたくないからね。

 

 

 

 さて、それじゃあそろそろウォーミングアップを始めていこうかね。研究にかまけて鈍ったとか最悪だしね。うん?おや、ハヴィエさん。どうしたの、そんなに慌てて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――え、マヌエラ嬢がいなくなった・・・・・・?

 

 

 

 

 




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