BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第十六話

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 ――――マヌエラ嬢の失踪。その一報は我々を震撼させた。彼女の体は大分回復しているとはいえ、安定とはまだ言えない。こんな状態で動き回るなど自殺行為だ。そもそも家出する動機が無い。

 

 

 じゃあ誰かが唆して家出の手引きをしたかだが、私たちが居候を始めてからスペクターがセキュリティの強化を施し、偵察兵の目線からベクターが、破壊工作のプロとしてベルトウェイが其々アドバイスを送ったことで身内贔屓抜きで鉄壁と評価できる仕上がりとなった。これを素人を抱えて突破したとなるとバックに相当な大物が控えているスパイだろう。

 

 

 とにかく出来ることをやるしかない。とりあえず世話になっているミックスカトル村の住人の避難だ。丁度マヌエラ嬢のリハビリのために住人を移動させようと温泉旅行を企画していたから明日からは無人になる。そうなればマンハントなんていくらでもできる。万一のために村の境界にケルベロスと鴉たちを配置しておいて正解だった。

 

 

 しかしスパイも何故このタイミングで誘拐なんて仕掛けたんだ?よりにもよって村に人がいなくなる直前なんかに。当然ながら移動用のバスには厳重な監視が付くことになるから潜り込むなんてできない。ここのセキュリティを抜けられるような腕がある奴ならもっと都合の良い日を選べるだろうに。もしや何かを焦っている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、今更徹夜なんてどうということは無いけど、別の理由ですごく疲れた。具体的にはハヴィエ氏の御守が。あの親馬鹿が娘のいない二日間に耐えられるはずもなく、幾度となく暴走しかけた。ヒルダ夫人を村に向かわせようとしたときはルポが手刀からの鉄拳四連打で眠らせた。流石に二回目はそのまま永眠しそうだったからバーサに麻酔を処方してもらったが。

 

 

 しかし、進展もあった。スパイと思わしき男を捕えることが出来た。時間もないのでバーサ式拷問術と冒涜的なO☆HA☆NA☆SHI☆でさっさと喋ってもらった。こいつの正体は去年関連法案が可決された米国の対バイオテロ組織FBCの暫定メンバーだった。

 

 

 

 

 ラクーンから持ち出された証拠とアフリカでの戦いの映像から一気に時勢は傾き、政府は無関係を装うためにFBCを立ち上げた。だが、政府の威信回復のために組織された以上迅速に結果を出す必要がある。そのためには発足してから行動していては遅い。設立直後に大事件を解決し、威信を確立させるために何らかのトラブルを抱えた裏社会の連中に潜り込み、自然にウィルスへと関わるように誘導していた。ハヴィエ氏もそのターゲットの一人だったという訳だ。

 

 

 しかもその手口はかなり手が込んでいる。裏組織は閉鎖的になりやすく、潜り込んだ直後では疑われるし浅い仕事しかかかわれない。だから、かなり前から潜り込んでいた麻薬捜査官と同じ顔と声に整形し入れ替わったらしい。捜査局から情報を提供させしゃべり方や癖を完璧に模倣し、余計な情報が漏れないよう捜査官の口封じまでする徹底ぶりだ。普通設立前の新参組織がそんな無茶苦茶出来るはずがない。前々から思っていたが、米国政府もかなり真っ黒だな。

 

 

 

 そんな訳でこいつはハヴィエ氏を我々に引き合わせた。アンブレラに切り捨てられた研究員を迅速に回収し私たちの存在を伝えさせ、ハヴィエ氏の興味を引いた。良く考えれば、いくら麻薬王とはいえ、組織と碌に付き合いを持たない根無し草である我々の足取りを掴む手際が良すぎた。あの時から仕組まれていたという事か。

 

 

 しかしここで大きな誤算が出た。言うまでもなく私たちが保有する技術についてだ。最初は娘の治療に形振り構っていられないハヴィエ氏がリスク覚悟で私たちの持つウィルスに手を出しバイオハザードが発生する。それを時が来るまで情報封鎖し、FBC設立とともに摘発する、というシナリオを組んでいたらしい。

 

 

 ところが、私たちが提供したのはクローンだの、脳の移植だのとんでもない技術ばかり。しかも開発しようとしている『抑制ベロニカウィルス』は再生医療の究極系ともいえる存在だ。加えて最初にちゃんとした計画立てがされたことでハヴィエ氏も暴走せず慎重に治療に当たったため、彼らの計画は初端から瓦解した。それでも技術を盗もうと暗躍を続けたが研究はすべて私たちが行いハヴィエ氏サイドはノータッチだ。どうすることも出来なかったようだ。

 

 

 

 一度報告した手前、何としてもここで作られた成果を持ち帰りたい。しかし研究が佳境に入った今、いつ私たちが此処を離れるか分かった物ではない。そういった焦りからFBCの設立を待たずして行動を開始した。手土産に選んだのは唯一彼が手を出せるマヌエラ嬢。我々が彼女に一切治療について説明していないことに目を付けたようだ。父親の職業から臓器をどこから持ってきたか邪推してしまうし、そもそも臓器のクローニングなんて夢物語を信じてくれるとは到底思えない。彼女に心理的負担を与えないようにしたことが裏目に出たようだ。

 

 

 

 マヌエラ嬢を臓器保管室へと連れ出し、君を治すために数多の女性が殺されていると嘯き彼女自身の意志で屋敷から飛び出させた。ここまでは完璧だったのだが、こいつ一瞬目を離した隙に御息女に逃げられたらしい。とても頭の良い子だったからな。恐らく一日たって冷静になったら、こいつの行動がとても不自然に思えたんだろう。しかし父親への疑惑が拭えない為屋敷に戻れない、てところか。

 

 

 

 これで話が済めば問題ないのだが、とんでもないバッドニュースもある。米国政府がこの件に介入する足掛かりとして、二名の工作員を派遣しているらしい。一人は大統領直轄エージェント、もう一人は米軍特殊部隊のエリートだ。・・・うん、出世したなあレオン君。派遣指令は『元アンブレラの研究員が「麻薬王」ハヴィエ・ヒダルゴと接触。そのコネクションを用いて多くの人間(の臓器のクローン)が犠牲となっている。ハヴィエを確保し被害拡大を阻止しろ』とのこと。

 

 

 ただ、彼らは当然今回の作戦の本命などではない。最初に言った通り足掛かりのための存在であり、彼らによる解決など期待していない。そもそも高々二人で大組織のボスを裁判所に連れてこいとか無理だろ。要人誘拐舐めてんのか?素人じゃないんだぞ。彼らが犠牲になれば政府は堂々と権力を盾に此処に乗り込めるという訳だ。大統領特務の死、現役軍人の死は国家権力が介入するには十分な理由だろう。彼らが手傷を負って逃げ帰っても同じことだ。

 

 

 

 なので今回はアフリカの時のように派手にやるのは厳禁だ。そんなことすれば連中は嬉々としてこちらに『世界の悪』のレッテルを張り付けるだろう。そんなことされたら今後の活動が大きく制限されてしまい面倒だし、「もしこちらが望む情報を包み隠さず話すというなら、君らに着いた悪名を晴らすことを考えてみても良いよ」という交渉という名の脅迫を突き付けてくるだろう。本当に面倒なことこの上ない。

 

 

 

 ではどうするか?簡単だ。彼らが望まないシナリオ、つまりレオン君がアメリカンヒーロー顔負けの大立ち回りをやってのけ、悪しき存在である我々を打ち砕く訳だ。勿論打ち砕かれるのは本人たちではなく私のショゴスボディで擬態した偽物だが。私の顔を晒すわけにはいかないので、適当に別人に擬態しそいつが黒幕だったとミスリードを行う。物的証拠がない以上後ろで手ぐすね引いている連中も私たちと関連付けるのは不可能だ。

 

 

 後はレオン君が此方に到着する前にマヌエラ嬢を保護し、ハヴィエ氏達を離脱させれば万事OKだ。最後に施設をどさくさに紛れて爆破すれば痕跡を追うことも私たちの研究が漏れることもない。ハヴィエ氏達は表向き死人となってしまうが、長く裏社会にのさばっているんだ。戸籍の偽装くらいやってのけるだろう。さてまずは行動だ!とりあえずは、間違いなくゴネるだろうハヴィエ氏を無理やりトランクに詰め込むところから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――無人の街でマヌエラ嬢の確保と米国人を接待するだけ。そう思っていた時期が私にもありました。ちくしょう、あのスパイやりやがった!まさか自分たちが効率よく逃走できるようアンブレラやH.C.F.にまで情報を流していたとは!!あそこまで搾ってやったのにまだ隠し事していたとは驚きだ。

 

 

 ハヴィエ氏達を蹴りだした日の夜、突如何台もの戦闘機ヘリが襲来し、大量のポッドを落としていった。そこからハンターやらタイラントが出てきてさあ大変。まあ大変なのはレオン君たちなんだが・・・。

 

 

 

 そっちはあまり問題ないのだが、村の東部に配置しておいたB.O.W.一個中隊が壊滅した。あれだけの戦力ならタイラント相手でも十分戦えるはずなんだが、一方的に叩かれたみたいだ。タイラントをはるかに超える戦力でよその家の子か・・・・いやな予感しかしない。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいレオン、こいつはどういうことだ!?湾岸戦争よりよほど酷い修羅場だぞ!!」

 

 

「・・・・・・・・泣けるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふむ、やはりあの程度の出来損ない共では威力偵察にもならんか。まあ良い。今回は奴の首が目的ではない。非常に残念ではあるが、此方の方が意趣返しにはちょうど良い。

 

―――ラクーンで見せた強かさ、期待しているぞ。エイダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ。もうこんなに『恐怖』が蔓延して、これでは『商取引』どころじゃないわ。意外とせっかちなのは変わらないのね、アルバート。でもちょうど良いわ。取引が出来なくても多少の恩なら売れそうね。あの会社も、一年半も費やしてあの程度じゃもう存在価値はないと思っていた所だし、値札が付いている内に買い取ってもらいましょう」

 

 

 

 

 

 




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