BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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・・・ものすごく難産でした。オリジナル要素は二次創作の華ですが、風呂敷広げすぎると大変ですね(笑)

世の中の作家さんって本当に凄いなぁ


第十七話

 

 

 

Side ハワード

 

 

 

 

 

 ―――轟音と銃声が響き渡る。最早町に昨日までの面影は見当たらず、まさしく激戦区といった様相を呈している。とにもかくにも敵が多すぎる。しかも四方八方からときた。そのせいで敵同士の相討ちが殆ど発生せず、此方の損害ばかり増える。もしこれで避難が出来ていなかったらと思うとぞっとする。

 

 

 

 

 さて、お互いの戦力を見直してみよう。空から偵察した限り、敵の勢力は全部で3つ。一つは崖っぷち真最中のアンブレラ・コーポレーション。残存兵力1名と1体、ただしその1体のキルレシオは全く持って未知数。嗾けた端から蹴散らされて正直足止めが精一杯だ。ただ、異様に進軍速度が遅い。あっちにフラフラ、こっちにホイホイという感じだ。多分この連中の目的は我々ではないな。私からは何か得られればラッキー程度にしか考えてない。しかもあの女個人に恩を押し売りされた形になってしまった。非常に面倒だ。

 

 

 第二に、グラサン、というよりH.C.Fか。現在確認できている残存戦力は34。ネメシスが20、人間の特殊部隊が13名、そしてグラサンだ。この前の意趣返しの心算か、ものすごい量の兵隊を連れてきた。大量に始末してやったのにまだこれだけ残っているから不愉快だ。あと妙に派手に暴れまわっているのが気になるな。そのくせ防衛線に綻びが生じれば一目散に突っ込んでくる。

 

 

 そして忘れてならないのは大統領特務の2人。まあ人生最悪のアトラクションを堪能している真っ最中だ。ただ問題なのは、他の奴に引っ掻き回されてるせいで彼らへの足止めが上手くいかないことだ。もうダムの中に潜入された。あそこまで攻め込まれると一気に切れる手札が少なくなる。どうしても私が保有する戦力は大味なのが多いからな。あんな場所で派手にやらせたらこんな施設30分と保たん。

 

 

 

 まあ悪いニュースばかりではない。唯一の慰めはこれ以上の参戦はなさそうだということだ。まず発端になったアメリカ政府だが、初めに言ったように今回の派遣は口実作りだ。ところが蓋を開けたら特級のバトルグラウンドが出来上がってしまい、本格的な介入の準備がまだ整わないようだ。阿呆め、大所帯が過ぎて危機感が無さすぎる。優秀な人材を揃えていても組織がこうでは色々台無しだ。

 

 

 

 目下最大の問題はマヌエラ嬢の居所だ。これだけ派手にドンパチが行われているにも拘らず未だに発見できていない。遺体ですら、だ。町の境界には目立たないよう鴉たちを配置している。今のところ離脱した人間はいない為、確実にこの町の中にいるはずなのだが。

 

 

 

 まあそれは引き続き捜索することとして、そろそろこの拠点に近い勢力が出てきたことだし、情報操作の一芝居と行きますか。情報の消毒も粗方済んだし、ここらで一つ盤面を動かしてみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side レオン

 

 

 

 

 

 

 「レオン、状況は悪化の一途だ!俺達がどうこうできる段階はとっくに過ぎてる。これ以上は無理だ。持ち込んだ武装は疾うに尽き、死体から剥ぎ取った火器でどうにかここまでやってきたがもう限界だ!!ここで応援を待とう。幸いここは入り組んでいて守るのに適している。一日もあればスペックオプスあたりが来るはずだ。そこで体勢を立て直せば良いだろう!!」

 

 

「・・・ダメだ。そうしている間に他の連中がハヴィエを手中に入れるだろう。奴らの目的が何かわからない以上静観は危険だ。援軍が来たときには何もかも無くなってしまっていても可笑しくない。ついでに言えばもうどこにも安全な場所なんてない。一刻も早くハヴィエを確保し脱出するのが最善だ」

 

 

「確保してどうやって此処から逃げ出すんだ!?外に車が残っているとは思えん。仮にヘリでもあったとして、ここにいる連中が其れを指咥えてみていると思うか!!」

 

 

 

 

 

 ―――まずいな。ここまでのストレスでクラウザーの精神状況がかなり危険なことになっている。無理もないことではあるが。ようやっと一息吐けているが此処に来るまで散々な目に遭った。有り得ないサイズの象に潰されかかり、謎の武装集団の流れ弾に当たって負傷したり、極めつけはあの悪夢の街でも遭遇した、巨大な目を持つ肉塊のような怪物だ。あの時は署長の腹を食い破って出てきた一匹だけだったが、ここでは4体同時に遭遇した。囲まれたときはさすがに俺も肝が冷えたが、初見のクラウザーは気が気でなかっただろう。

 

 

 正直クラウザーの言うとおり手を引くべきなんだろうが、よっぽどの莫迦でなければ用が済めば証拠隠滅に動くだろう。これだけの無茶が出来る組織が、そんな連中をここまで突き動かすような代物を誰にも知られずに回収するなんて悪夢以外の何物でもない。それだけは何としても防がなければならない。ラクーンの二の舞は御免だ。

 

 

 

 

「幸いほかの連中はまだここまでは来ていない。まずここから生きて帰る算段を付ける。ハヴィエ云々はそれか――「ッ!伏せろっ!!」――クソッ!?」

 

 

 

 咄嗟に離れると、入り口をナニカが粉砕していった。土煙から辛うじて見えるのは灰色の体表を持つ、先ほどまで俺達を死ぬ一歩手前まで追い掛け回していたB.O.W.だった。ただし、あちこちから血を流し完全に動く気配がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ほう?現地住民ではないな。風貌から察するに政府の狗か。俺より先に辿り着いているとは驚きだ」

 

 

 

 煙が晴れると一人の男が立っていた。俺は初めて会う人物だが、ロックフォート島から帰還したレッドフィールド兄妹から散々聞かされた男だ。

 

 

 

「アルバート・ウェスカー・・・!」

 

 

「・・・どこかで見た顔だと思えば、ラクーンから運よく逃げ延びた小僧か。これは都合が良い。お前が居ればアレもやる気を出すだろうな」

 

 

 

 言い終わるより先に腰に吊るしていたアサルトライフルを連射する。が、一瞬で間合いを詰められ、銃口を握りつぶされたことで銃が暴発した。咄嗟に手を離したがしばらく指は使い物にならないだろう。

 

 

 我に返ったクラウザーもナイフを抜いて躍り掛かるが、あろうことか奴は目にも映らないほどの手刀でナイフを真っ二つに切ってしまった。そのまま蹴りを放たれ、目の前の事実に追いつけず無防備を晒したクラウザーはまともに喰らってしまい、ボールのように吹き飛んで行った。

 

 

 

「本来なら殺して奴の仕業にしてやるところだが、自分の女運に感謝するんだな。その代わりもう一人の方を始末するとしよう」

 

 

 

 そう言ってクラウザーに止めを刺そうと向かっていく。むざむざ仲間を殺させてなるかと追いすがるが、片手ではどうすることも出来ず右肩を掴まれ持ち上げられてしまう。

 

 

 

「その様で向かってくるとは勇敢だな。褒美に同僚の死に様を特等席で見物させてやろう」

 

 

 

 そのまま鞄でも持ち歩くかのように悠然とクラウザーの元へと向かっていく。懐からナイフを取り出して突き立てるが逆に刃が欠けてしまった。くそ、化物めっ!!

 

 

 

 そのままあと一歩のところまで近づいていくが突然銃声が鳴り足元に弾丸が飛来する。音のした方を向くと、この騒ぎの根源ともいうべき人物が立っていた。

 

 

 

 

 「ハヴィエ・ヒダルゴか。探す手間が省けたな。貴様にはいろいろと聞くことがある」

 

 

 

 そのまま放り捨てられ、壁に叩き付けられる。何とかしようにも背中に激痛が走り身動きが取れない。そうこうしていると既に奴はハヴィエの喉笛を締め上げている所だった。

 

 

 

 

「貴様が『ショゴス』とやらに泣きついたことは知っている。やつはどこにいる?不老不死とやらは何処にある?」

 

 

 

「ふっははは!彼の言った通りの男だな。物騒な玩具で身を固めている割には火事場泥棒しか能のない奴だとな!ショゴスから貴様に言伝だ。『ロリコンがうつると不味いから会いたくない』だとさ!我々は研究については何も知らん。精々この広大なアジトを溝鼠のように駆けずり回ることだな!!」

 

 

 

「・・・・そうか。なら貴様にもう用はない」

 

 

 

 

 そう言うや否や、間髪入れずに抜き手を放ちハヴィエの腹部を貫いた。敢えて急所を外したのは、即死せずより長く苦痛を与えられるようにか、クソ!!

 

 

 

 

「たかが破落戸が俺を侮辱した報いだ、苦しんで死ね。ああ、そうだ。確か貴様には娘がいたんだったな。研究成果を回収するついでにそいつも実験材料に『Prrr・・・』―――何だ?・・ほう、よくやった。回収にかかる時間は・・・・そうか。なら合流するより陽動に回る方が得策か。ではお前はそのまま作業を続行しろ」

 

 

 

 

 無線の連絡を受けた途端俺達への興味も失せたのか、此方に一瞥すらせずに下の階へと飛び降りていった。状況の変化についていけないが、とりあえずクラウザーを起こし、ともにハヴィエの元へと向かう。どう見ても致命傷であり、手の施しようがない。しかしまだ辛うじて息があり、此方に気付くと懐から一通の封筒を取り出し此方へと向けた。

 

 

 

「・・・・これに・・・全てが・・・書いて・・。もし・・娘を・・・・・・マヌエラを・・・・・・・・たの・・・・む・・・」

 

 

 

 絞り出すように言葉を紡ぎ終わると、ハヴィエは息を引き取った。封筒の中には、これまでの顛末とその証拠、そしてもうじきこの施設が爆破されることと脱出の手段が記されていた。

 

 

 娘が妻と同じ風土病に罹ってしまったこと。アンブレラに以前裏切られた経緯があったため今度は『ショゴス』(恐らくはハワードの事だろう)と取引をしたこと。それには可能な限り劣化させ一切の超人性を失わせた『ベロニカウィルス』を用いて生命力を高め病を克服させる、というものだった点。しかし病の進行が予想より早かったため、不完全な劣化ベロニカを使わざるを得ず、それをカバーする手段として変異した部分を別の臓器に取り換える、という荒療治を行ったこと。

 

 

 

 全てを鵜呑みにすることはできないが大凡の流れを掴むことが出来た。しかし、予想し得なかった最悪の情報も付け加えられていた。この一連の事件を裏で操りこの紛争にまで発展させたのは、よりにもよって対バイオテロ組織『FBC』だった。

 

 

 

 

 

 

 

 確か数週間前だったか、大統領府の上司経由でFBCの長官に就任予定のモルガン・ランズディールからアポイントがあった。内容は大統領エージェントからFBCへの移籍の打診だった。『ラクーンで起きたという悲劇の数少ない生還者であり、且つ優秀な人材である君がバイオテロを憎んでいるのなら、此方こそが君のいるべき場所ではないか。我々は君を全面的にバックアップする用意がある』だったか。

 

 

 最初はその話を受けるつもりだった。正直エージェントになった経緯はラクーンに関しての口封じを目的としたほぼ脅迫でしかない取引に応じただけであり、エージェントは様々な任務が課せられ、バイオテロ鎮圧のみに動くことはできない。FBCに入れば『惨劇の街の生還者が義憤に燃え対バイオテロ活動に身命を捧げた』なんてプロパガンダに利用されはしただろうが、そのくらいはどうってことのない対価だ。

 

 

 しかし結局この話は断った。話が大分煮詰まった後での断りであり、かなり先方の面子を潰してしまったが、決して間違った判断ではないと今でも思う。切欠はモルガン長官と相対した時だ。ほぼ初対面であるにもかかわらず、猛烈な嫌悪感が全身を走ったのを覚えている。それから奴の目だ。あの眼をした奴を以前にも見たことがある。元ラクーン警察署長のアイアンズ、それからあの街で幾度も遭遇したU.S.S.の連中だ。あいつらと同じ人を物か何かと同じに見ているような、そんな目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 それはともかく、この件はクラウザーとも相談した結果、俺が直接大統領に手渡すことにする。途中でこれを見られたら間違いなく口封じをされるだろう。この情報はあまりに危険だ。

 

 

 

 それから、書類に記載されていたが、ここに残っている研究成果については全てダミーであり、奴らに研究が渡ることは無いようだ。出来ればこの目で確かめたいが、もう俺達には奴らと戦う手段がない。口惜しいが、これは信じて祈るしかない。

 

 

 

 マヌエラとやらについては道中にもし会えれば保護する、ということでお互い妥協した。さすがにこれから捜索に出るのは自殺行為だ。しかしこのまま見捨てるのは信義に反する。出来れば保護してやりたいが・・・・。

 

 

 

 もう爆破まで時間がない。俺とクラウザーは急ぎ脱出ヘリのある場所まで走った。

 

 

 

 Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・まあ、こんなところかしらね。助かったわ。お陰でキュートな元警察官たちを無事御家に帰してあげられるわ」

 

 

「それはお互い様だ。彼には私も多少縁があるし、無事帰ってもらわないと後々面倒だ。それじゃあ、これが約束の品だ。流石に見せられるものしか渡せないが、人間にはこれでも十分過ぎるだろう」

 

 

 

「助かるわ。これで我儘坊やの癇癪を聞かずに済みそう」

 

 

 

「坊や、ね。まったく、その坊やとやらの試金石に利用されるこっちの身にもなってもらいたいな。今回は目を瞑るが、次からは賃料とるぞ」

 

 

 

「・・・さあ、何のことかしらね。それじゃあ私もそろそろお暇するわ。ああ、それから、H.C.F.は貴方たちの要求を全面的に飲むそうよ。貴方たちとはお互いに取引以外で干渉はしないし、ウェスカーとのゴタゴタは全て黙認するわ。確かに伝えたわよ」

 

 

「『今のところは』って文言が抜けてるぞ。まあ良い。しっかし本当に人望無いな、あのグラサン」

 

 

 

 




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