BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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しばらく執筆時間が取れませんでしたが、ようやく人心地ついたので投稿します。


プロローグ 誰かの日記編
第一話


とある研究員の日記

 

○月×日

 

 今日という日を人生災厄の日として忘れない為にもこの日記を書き始める。このままではまずい、何とかしないと。とりあえず今の状況をまとめてみよう。

 

 こういっては何だが私は優秀だ。幼いころから手先が器用で、父が医療系の精密機械を作る工場を運営していたので、歯車と回線がおもちゃ代わりだった。そして趣味同然だった機械いじりを仕事の選択肢に入れるのは当然だろう。ただ、あくせく働いても裕福でない父を見ていると工場職を選ぶのは躊躇われた。そこで、生体工学の研究職を志望した。

 

 私のおつむはどうやら人様より優秀らしく、学生時代は挫折知らず、大学も優秀な成績で卒業できた。就職先に思案していたが、在学中何度も交流のあったOGの日系女性の勧めでとある製薬企業に勤めることとなった。生体工学の若き天才の意見が欲しい、とか何とか。脳の劣化や難病による急激な細胞分裂を外的要因で抑える方法のヒントを欲しがっていた所に何度かアドバイスを送ったところ、上等な服を着たおっさんにスカウトされた。あの会社介護分野になんて進出してたっけ?で終わったが、もう少し考えるべきだったんだ。

 

 それから、書類やら何やら終わらせて、日記をつけている今日、ラクーンシティに入った。社宅に荷物を置いて直に連れてこられたのがアークレー山研究所。さっそく研究を始めるのかと思ったら、とんでもないものを見せられた。こいつら、製薬会社なんかじゃなかった。何やら妙なウィルスを使って兵器を作っているとか。ただ、変化が急すぎて知能を維持できず、遺伝子を弄る類は粗方済んだから、外的要因でこの不具合をどうにかできないか調べさせるために私を呼んだらしい。こちらにしては冗談じゃないが、見てしまった以上私に引き返すことは不可能だ。良くて口封じ、悪ければ実験素材リストに名前が一つ増えるだけだ。しかし、今後どうしよう・・・。

 

 

 

 

 

△月▽日

 

 ・・・まだ何とか生きてる。しかし、このウィルスはなかなか面白い。細胞に投与すればその細胞単体では不可能な変化を齎し、その際にとても大きなエネルギーを発生させる。しかもそれは電気や毒など多岐にわたる。

 

これにうまく指向性を持たせれば、BOWとは異なる成果をあげられるのではないか?例えば、進化の方向性が決まる前の細胞に投与し、完璧な万能細胞を生み出したり、ウィルスが生み出すエネルギーを吸収して発電する機械を作ればリミッターを兼ねたバッテリーを創り出したりなど、構想はいくらでも湧いてくる。最初はここにいる連中に嫌悪しかわかなかったが、人間の順応性は驚異的だ。もう私はこの研究に少なくない興味が湧きあがっている。それとも、私も連中と同じ穴のムジナだっただけか。

 

 

 

 

●月▲日

 

 研究にも成果が出てきた。色々と並行して研究しているせいで思った以上の時間が掛かってしまっているが、まあ誤差の範囲だ。

 

 まず一つ目が、BOW専用の強化プロテクターだ。とりあえず爬虫類型の奴をモデルに作った。こいつの弱点部位である腹あたりを覆うようになっており、防刃・防弾効果が期待できる。それだけでなく、こいつの脳から得た視覚情報を利用して事前に登録された人物を保護する機能も付与されている。保護対象に危害を加えようとした際に、プロテクターを固定している関節部にロックがかかる。難点は登録が現場でできない点、視覚外への反射行動をロックできていない点だ。要改善である。

 二つ目は、前述した万能細胞の雛型である。生物の授業を受けたことがある人は覚えていないだろうか?細胞がまだどの部位になるか決まる前に切り取り、別の部位に移植し合うと、その部位のための細胞に姿を変える、という話を。この段階の細胞にTウィルスを打ち込み、進化を抑制するために一定期間冷凍保存を行う。そうすると、注入されたありとあらゆる環境に適応、増殖する万能細胞となった。

あとは、これに進化の方向を誘導する手段を発明すればあらゆる応用が可能であろう。ただし、これは私のいざという時の切り札であり、一切の情報を秘匿してある。名称がないのも不便なのでこの細胞をT型万能細胞「Tヌーヴォー」と呼称する。名前の由来は11月ごろに市場を賑わせるあのワインだ。私の唯一の趣味が利き酒というのと、熟成ではなく新しさを期待するこの名前は私の切り札にかける期待を重ねているのが理由だ。

 

 

 

 

 

■月××日

 

 最近必要な物資が迅速にそろう。原因は私がここに来る一因となった『彼女』だ。どうやら彼女は旦那とそろって科学者をしており、ここに勤めていたが私が配属される直前に一家で街の方の研究所に異動になったらしい。何でも新しいプロジェクトの総責任者になったとか。もともとこの会社の表舞台で働かせるつもりで、生物学者ではないが生体工学に明るく貴重な意見をくれる私をアドバイザー代わりにしたかったようで、こうなってしまった罪滅ぼしも兼ねているらしい。

 

そんなことより、私に送ってくれた物資についてだ。新しいプロジェクトの切っ掛けになった寄生生物に使われているマイクロチップだとか。BOWの胎内でも負けずに機能できるこれを使えば「ヌーヴォー」を計画通りの万能細胞にできるはずだ。さっそく試験体をいくつか作ってみた。

 

 まずは後天的BOW改良剤「ターブル」だ。これは思い出すのも忌まわしい、BOWの経過観察で得た、脳が作られるまでのプロセスをマイクロチップに記録させて「ヌーヴォー」に取り込ませたものだ。活性死体然り、ケルベロス然りこいつらは脳さえ破壊されなければかなり掻っ捌いても活動停止しない。なのでリアル人体模型にしたままでも観察は容易である。特にクリムゾンヘッドなどがかなり役に立った。一度完全に破壊された脳が、獣同然のそれだが再生されていく様を直接観察・データ化することが出来たのだから。このデータを利用してBOWの脳機能の改善、もしくは創造を行い、あらかじめチップに記された人物に忠実に動くことが出来るというのがこの「ターブル」の効能だ。欠点は、「ヌーヴォー」の細胞活性によるエネルギーでチップが機能するため、「ヌーヴォー」の分裂が終わるとチップも停止してしまうので、長時間利用できない点と、連続使用は3回までが限度でそれ以上すると脳が負荷に耐えきれず破壊されてしまう点だ。それでも最大5時間運用できるので問題というほどではないだろう。

 

 次に、強化プロテクターの改良型だ。こいつにも「ターブル」の劣化版「ロゼ」を使っている。これで初期型の欠点であった情報の更新が容易になった。ハンターを例に使うと、前述した腹のプロテクターに新たに連動型のヘルメットを追加した。頭部の保護にもなるし、チップの更新で簡単に情報を上書きできる、さらに脳の改良によって指揮官の命令をある程度理解できるようにも出来た。今後の課題は軽量化とさらなる改修くらいか。全身筋肉のハンターはこれでも問題ないが、インフェクティバットで試したら重くて飛べなくなったからな。あれは笑った。

 

 とりあえずこれならフィールドワークに移せないかと上司に報告したが却下された。どうやら入社して数年経たない私に成果を上げられると彼らの面目に関わるらしい。まあわたしは出世に等興味もないし、後ろから妙な注射器を打たれたくもないので快諾した。ただ、やはり実地データが欲しいので「彼女」に相談したらうってつけの特殊部隊に提供する、とのこと。確かウルフ何とかといったか?まあ名前はどうでも良い。せっかくだから他にも暇つぶしで作成したものも提供してみよう。

 

 

 

 

★月×○日

 

 見知らぬ番号から連絡が来て何事かと思ったが、例の特殊部隊だった。なぜ私のプライベートナンバーを知っているんだ?

 

 要件は例の贈り物の件で、大層役に立ったそうな。活性後数秒で死滅してしまうが、汗等の老廃物を取り込んで拳銃位なら弾き飛ばせる強度に変わる防弾細胞「ビーフィーター」や「ヌーヴォー」をハンター亜種の光学迷彩細胞への変化に特化させた「クラマト」という、趣味全開の品物だったがお気に召したようで何よりだ。

 

 そして今手元にある鉱物のようなナニカ。これは礼の品らしく、彼らが派遣されたアメリカのとある片田舎の漁村で回収したものらしい。何でも一昔前に米軍に殲滅された村だとか。連中が何の意味もなく自国民への軍事行動などするわけがないので調べさせられたらしい。表の人間が何人も行方不明になったので万全を期すために彼らが出動を命じられたらしい。実際酷い目にあったようだが、いろいろ回収することが出来、その一部をこちらに回したので有効活用してくれ、とのことだが、どうしようか?何やら化石みたいだが、じっくり調べてみよう。

 


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