BIOHAZARD Iridescent Stench 作:章介
―――――始まりからどれだけの時間が経過したか、あれほど剣林弾雨の体を成していた戦場は静寂に満ちていた。当然の帰結ではあるが。
ある程度的戦力が消耗したと見るや、ハワードは手駒を撤退させた。それを好機と見た連中が一斉に攻勢に出た。すると必然的に其々の勢力がヒダルゴ邸目前でかち合う。まあそうなるようハワードが調整したせいもあるのだが。相手がどこの勢力か不明であったため、殲滅するしかない。そんなことを続けていくうちに、生き残った存在は数えるほどになってしまった。
「・・・・・お前まで来ていたか、アレックス。いや、お前ほどの女ならこの機会を逃すなどしないか」
「当たり前でしょう、アルバート?こんな最高に美味しい所取りが出来るシチュエーションは二度とないわ。それにしてもひどいお兄様よね、かわいい妹に何の連絡手段も残さずに姿を消すんだもの。お陰でこんな奥地まで足を運ぶことになったわ」
「それは俺だけの責任じゃないな。お前自身が後方で暗躍していたせいで確実な連絡手段を持っていなかったからな。それで?こんなところまでやってきて俺に何の用だ?」
「そうね、まずは商談。私にはもう価値がなくなってしまったけれど、アンブレラ社を売りとばしに来たのよ。貴方たちにとってはまだ値が付いているでしょ?」
「お前の期待に応えられなくなったか。これだけの時間があったんだ。何の進展もなかったのか?」
「・・・あのスペンサー卿も老いたものね。一度の成功に固執するんだもの。いつまでたってもあのマゾヒストのコピーを弄るばかり。デイライトは敵の手中、その上対抗策のB.O.W.まで製造されているのよ?普通採る選択肢は新種のウィルス製造か若しくは別の切り口の探究の筈よ。もう私の役には立てそうにないから、要りそうなものだけ戴いてきたところよ」
「なるほど。それで?俺に対価を払わせるだけの品を用意しているのか?」
「まず一つはアンブレラの最後の砦、その位置情報ね。二つ目はこれ。14人も息子を作っておきながら最後の二人にすら見捨てられた哀れな老人の住所よ。落ち着いたら見舞いに行くのも悪くないわよ?」
「・・・・そうだな。あの老人にはまだ聞きたいことがある。どれだけの価値があるかは分からんが、アンブレラも最後の意地くらいはあると期待しよう」
「―――そして最後の商品。これから手を組む相手の手札を確認するのは大事な事よね?貴方はたとえ妹が相手でも無能に情をかけるような男じゃないわ。
・・・・私たちと一曲、踊ってくださる?」
そう呟くや否や上空から巨大な影が舞い降りるように降下してきた。黄色の衣を身に纏い、その容貌から感情はうかがえないが、直感的にそれが久しぶりの強敵に狂喜しているのだろうと感じる。
「なるほど。確かにこれは素晴らしい作品だ。あの男が関わっていなければ文句の付けどころもないのだが」
その言葉を聞き咎めたかのように、周りに転がる無数の死体から次々と『幼体』が飛び出し、すぐさまおぞましい巨体へと変態する。その数およそ20。
アルバートが一瞬周りに意識を遣った瞬間を見計らい、『王』は触手の一振りを胴体目掛けて放ち、それから数瞬の間をおいて左腕から弾丸を射出する。が、この1年半でウィルスの適応化が進み、超人的な身体能力に磨きをかけたアルバートに傷を負わせることは出来無かった。見えない透明の触手を、肌に感じる風圧と空気を擦る音のみで察知し最小限の動きで回避、続く弾丸を2本の指で掴み取り握り潰す。最後に戻ろうとする触手を渾身の手刀で切断した。
無論この程度の損傷など瞬く間に修復するが、黄衣の王が眼前の敵の警戒度をさらに引き上げるには十分だった。
「さて、今度は此方の番だ」
そう呟き、周囲の有象無象など気にも留めず、アルバートは『王』を仕留めるべく飛び出した。
――――その後、ヒダルゴ邸を一欠片も残さないほどの大爆発によってこの事件は終幕を迎えた。ハヴェエ・ヒダルゴを筆頭とする麻薬カルテル及び『聖なる蛇』はレオンによる証言から全滅・生存者なしと記録されることとなる。
しかし、彼に対する評価は大きく変わることとなる。当初一連の事件の黒幕と目されていた彼だが、現場に残されていた大量のB.O.W.の死骸及びとある製薬会社のロゴが入った大量の機材が現場にあったことからアンブレラによる実験場として利用されていた、と認識されることとなった。また、ハワードにテロリストの汚名を被せることで手綱を握ろうとした政府上層部の思惑は、物的証拠を一切手に入れることが出来なかったために頓挫することとなった。尤も、彼らからすれば大急ぎで手配した『ファミリー』の私兵が三つ巴の戦いに巻き込まれ、念のため雇っておいた傭兵1人を残して全滅してしまったため、その痕跡の消毒に追われることとなったのでそれどころではなかったのだが・・・・・。
Side ???
「――――こちらアルファ・チーム。あんた達のヘリが離脱していくが、これは契約の解除と受け取ってよいのか?」
『――――――ッ』
「いや、部隊の全滅というのは間違いではない。私を除けば、の話だが。・・・標的?ああ、それなら安心して良い。パッケージHは恐らく先に潜り込んだ奴に取られたが、その代わりパッケージMを確保した。確かこの娘が被検体なのだろう?」
『――ッ!――――――ッ!!!』
「・・・・断る」
『!?―――ッ』
「勘違いするな。クライアントのオーダーは守るのがプロだ。だがあんた達から依頼されたのは研究成果の奪取だ。具体的に何を持ち帰れとは聞かされていない。そちらには血液サンプルと組織片を送る。この娘はより高く買い取ってくれる連中に引き渡す。『ショゴス』を真っ向から敵に回したくはない。あんた達もそうだろう?ではこの話は終わりだ。契約通り『荷物』が届き次第、後金を振り込んでもらう、以上だ」
「・・・・手土産としては聊か地味か。別段この娘は身内などではないからな。もう2、3用意するとするか」
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