BIOHAZARD Iridescent Stench 作:章介
第十九話
Side ハワード
場所:ロシア コーカサス
―――――あの糞面倒臭かった撤退戦から数か月後、私達は冬将軍の御膝元であるロシアに来ている。南極基地といい、極寒の地に縁があるな。この体になるまでこんな風景とは縁が無かったはずだが妙に感慨深さを感じる。おっと、話が逸れたな。何故南米からこんなところまで来たかというと、ここにあの忌々しい『傘』の最新基地があるという情報を得たからだ。非常に厚かましい恩の押し売りもあり、確度は確かだ。
しかし、今回もヒダルゴ邸程ではないが厄介な状況になっている。その最たるものがこいつだ。
『総員注目ッ!!これより『アンブレラロシア支部殲滅作戦』の概要説明を始める。まずはこの危険な任務に名乗り出てくれた諸君に心から感謝と敬意を表する。俺はクリス・レッドフィールド、私設対バイオハザード組織の実働部隊リーダーだ。よろしく頼む』
――――そう、俺の耳元の盗聴器から流れてくる音声から察して貰えると思うが、今回の戦いの中心は我々ではなく彼らなのだ。火中の栗を拾ってくれるのはありがたいが、我々の最大の獲物の一つを横取りされるのも面白くない。と、いう訳で今回はウルフパックの面々は彼らの部隊に紛れ込んでもらい、私は無関係な第三者ポジションとして参加していくことになる。…ん?どうやって彼らを部隊に潜り込ませたかだって?そんなこと簡単さ、後方支援担当リーダーにちょっとお願いしただけだ。何を隠そう彼らの最大の出資者はこの私だ、この程度の頼みごと早々断らんさ。
―――あれは確かアフリカでドンパチして直の頃だったかな、あの時の報道を頼りに懐かしい人物が私を訪ねてきた。ラクーンでのフィールドワークの最中で出会ったジョージ医師とジャーナリストのアネットだ。彼らはタフなことに、あの悪夢の街を脱出した後も精力的に活動を続けてきたらしい。いや、続けざるを得なかったというべきか。
以前、ラクーン生存者を疎むのはアンブレラだけでなく政府も同じであると述べたことを覚えているだろうか?生存者よりウィルスや新兵器の奪取を優先した事実に滅菌作戦を断行したという事実、それから政府上層部や地元警察との深刻な癒着など知られたくない情報が多すぎた。
しかも未だに政府はラクーンで起きたことに関して何も明かしていない。一般人が知っているのは、政府とアンブレラがラクーンでの責任について延々と水掛け論をしていることだけだ。しかしそうなると困るのは宙ぶらりんの生還者たちだ。政府が自分たちに責任が無いと公言している限り何処からも支援が得られない状況が続く。特にラクーン以外に生活基盤を持たない、身一つで逃げ延びた人々は深刻だ。
勿論アンブレラの所へ行くのは論外だ、他殺志願以外の何物でもない。かといって下手に政府をつつくのも危険だ、実際アネットから聞いたのだが、彼女からある程度の証拠を貰って役所に談判しに行った者が行方不明になっており、後日返送してその人物の事を尋ねても「そんな人は来ておりません。……失礼ですが貴方はその方とどういった御関係で?もしその方について何かわかったら連絡をいたしますのでここに連絡先をどうぞ」と返答され、しつこく連絡先を聞かれ続けたらしい。……もう色々駄目かもしれんな、この国。
そう言った事情もあり、ゆっくりとだが確実に追い詰められていた彼らは決死の思いで私に助けを求めてきた。どんなことでも協力するから雇って欲しいとね。いつもなら知り合い以外がどうなろうと知ったことではないと突っぱねる所だが、この提案は実に都合が良かった。何せ他に頼る物がない連中だ、よほどのことが無い限り裏切りなど出来はしない。取引相手が私だと教えなければ尚更だ。
という訳で、ラクーンから火事場泥棒してきた資金の一部を融通してやり、それを元手に何かしら事業を起こすよう依頼しておいたのだ。アンブレラの喉笛を噛み砕いた後、煩わしい連中からの隠れ家として表の顔が欲しかったのでね。ただ、まさか民間軍事組織を立ち上げているとは思わなかった。しかも北極でも会ったレッドフィールド君も居るし、ラクーン関係者以外にも人員を増やしてかなり手広く事業展開しているらしい。これじゃ機密やら何やらの都合で隠れ蓑には出来んな。
まあ幸い私の庇護下にヒダルゴ氏が居る。マヌエラ嬢も取り戻せたことだし、彼も今度こそ巻き添えを喰らわない様に名と顔を変え表の組織を拵えようと躍起になっている。組織基盤はそちらにした方が無難だな。軍事力ならウルフパックで十分だし、代表に関してだけアネット達と相談しておくか。
『ヘイ、ボスッ!今良いか?つかこの寒さで自慢のテケリリボディが凍ってやしないか?俺のホットでナウなジョークを――――』
「間に合ってるから大丈夫だ、ベルトウェイ。何か進展があったか?」
考え事をしていたら回線にベルトウェイが入り込んできた。今ではもう慣れたが、相変わらず喧しいな。
『あーあ、相変わらずクールだなアンタも。まあ良い、スペクターが漁ってるが何の情報も出てこないらしい。あの凄腕ストーカーが三日粘ってだぞ?つまり、随分前から補給が完全に止まっちまってるらしい。物資や素材はおろか、食糧までな、こいつをどう思う?』
「……どうやら私達が粗雑な獲物と出くわさない様、先んじて間引きを行ったらしい。右肩下がりの斜陽企業にしては、来客のマナーを弁えてるらしい」
『ハッ!アンタでも冗談とか言うんだな。予定に変更はねえってことで良いんだよな?今度こそあのふざけた連中に引導を渡せるってなると、このメンバーで一番紳士的な俺様でもエレクトが抑えきれねえ、当然他の奴もな。頼むからお預けはなしだぜ?』
……自分が面白い奴だなどという心算はないが、そんなにつまらない男だろうか?確かにシェリーやメラに表情筋があまり仕事してないと言われるが。後お前は『紳士』の意味を辞書引いて調べ直して来い。
「当たり前だろう?この程度で支障が出るなら最初からお前たちを雇おうなど思わん、前回は随分詰まらない仕事をさせたからな、今回は精々好きに暴れると良い」
『了解。……一応きいとくが、アマチュアどもは無視して構わねえんだよな?こんな素人擬き、多分半分もママに会えねえぞ?』
「どうでも良い、実働部隊に友人は居ないからな。私が招集した訳でもないし、正直こちらの行動が阻害されて迷惑だ。どちらにしても最低限の繋がりしか持つつもりはないからな」
『オーライ、そんじゃ4時間後にな』
さて、くだらない話をしている間に向こうの会議は済んだらしい。……あいつ参加メンバーの癖に会議サボったのか?
Side out
Side セルゲイ
―――――ここ最近、懐かしい匂いが基地に立ち込めている。そう、かつてソビエト連邦特殊部隊にいたころ散々嗅いだ戦場の香りが。ああ、もうすぐここは新時代の幕開けに相応しい花火を上げることになる。鉄風雷火とそれに伴う痛みを想像しただけで絶頂すら生温い快楽が感じられる。
それにしても、虎の子と持て囃されたアレックスには心底失望させられた。尤も、病という『この世で最も醜い毒』に侵されては天才の視野も狭まるというものか。まさかコーカサスの研究が何を意味しているかも碌に悟ることが出来んとは。
『テイロス』の研究を、過去の栄光へ縋る愚行と同列視するなど、全く持って愚かだ。この計画の最大の要点は、タイラントという知性と暴虐性を併せ持つある意味最も御しきれないB.O.W.を、科学によって屈伏してみせたことにある。ふふ、オールドマン教授をスカウトしたバーキン博士の先見の明は見事としか言いようがない。彼が開発した技術はまさしく我々の救世主となった。
既に種子は放たれた、もうこの研究所から必要なものは全て運び出してある。運び手は
耐用年数を超え腐りきった屋台骨などに用はない。我らが『アンブレラ』は不良品の看板などでは無い。真に忠誠を誓う、志を同じくする者がその意図をもって生み出すものこそが『アンブレラ』なのだ!
さあ来るが良い、此処からは
ここまでご覧いただきありがとうございます!次回から戦闘パートに入っていきます。感想・質問等いつでも大歓迎です!!