BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第二十話

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらチャーリーッ!B.O.W.と接敵!!至急応援をッ!』

 

 

『こちらデルタ!今すぐ救援に…ッ!?B.O.W.モデル『ハンター』接敵ッ!?奇襲により2名死傷ッ!!応援に行けそうにない!』

 

 

 

 

「―――あらあら、本当に寄せ集めの素人たちね。『私設部隊』だから期待してなかったけどよくこれで戦場に出てきたわ」

 

 

「…そう言ってやるなバーサ。連中はアンブレラ憎しだけでここまで来た愚か者共だ。こちらに銃口が向いてないだけ役立っていると割り切るべきだろう。そもそも、想定に応じたB.O.W.の訓練が出来る組織など我々位だ」

 

 

 

 ―――強襲作戦は、ヘリからB.O.W.が確認された時点で想定から大きく外れることとなった。理由は不明だが既にパンデミックが発生している以上、予想降下地点は既に激戦区となってしまっている。

 

 

雪原というのはバトルグラウンドとしてみた場合、ある意味とても戦いにくい。何せ身を隠す場所が無いのだ、塹壕もない以上身を守る術などない。では銃を持つ強襲側が有利かと言えば、練度不足と心構えが大きく足を引っ張ることとなる。

 

 

そもそもクリスやジル、その他一部の例外を除いた人員は本来B.O.W.と戦うために連れてきた訳ではない。あくまで研究施設である以上普通は兵器より研究員や警備兵の方が数が多い筈であり、それらの排除及び確保が彼らの目的であった。B.O.W.の完全な制御は(どこかの神話生物を除けば)未だ確立されていない以上安易に基地内で投入することは出来ず、窮した彼らが形振り構わなくなったときにクリス達がそれらを相手取る、というのが当初の予定であった。

 

 

ところが蓋を開けてみれば、生存者など一人もおらず怪物が闊歩している有様。心構えが幾らあっても対B.O.W.訓練のしようが無い以上後手に回る彼らを責めるのは酷というものである。

 

 

が、そんな都合は彼らウルフパックの考慮するところではない。早々に部隊に見切りをつけた彼らは戦場に降り立つや否や独自に行動をとった。他の人員には目もくれず、鍛え抜かれた技術と突破力を武器に、どんどん奥へと突き進む。

 

 

ベクターが迷彩と獣にすら悟らせない隠密歩法によって偵察を行い、その情報を元にスペクターが最適の進路を割り出す。敵を発見すればベクターの強襲でかき乱し、ルポの鉄拳で粉砕、残りはフォーアイズ謹製の抗ウィルス弾の集中砲火によって片付けられる。しかも今回轡を並べるのは彼らだけではない。恐らく考えうる最強のカードも参加していた。

 

 

 

「―――見事だ。アフリカで見えた時からさらに腕を上げているな。ことB.O.W.戦においては俺すら凌ぐかもしれん」

 

 

「恐縮ですマスター、我々のスポンサーはありとあらゆる種類・状況を想定した訓練を用意してくれますので。経験、という一点においては例え貴方といえど後れを取るわけにはいきません」

 

 

 

 そう、彼らとは浅からぬ縁のある人物、かつて『死神』とまで言われたエージェント・ハンクも彼らに同行していたのだ。彼としてはアンブレラの切り札を手土産にしようと思いクリス達の作戦に潜り込んだのだが、まさか彼らの資金提供者がハワードたちとは思わなかったようだ。

 

 

 

「二人とも、私語は其処までだ。…『死神』、この状況をどう見る?」

 

 

「―――目印、だろうな。どうやら連中は『ショゴス』若しくはその関係者であるお前達を誘導したいらしい。間違いなく待ち伏せされていると思われるがどうする?」

 

 

 

 順調に踏破していた彼らだったが、道中あからさまな違和感に遭遇した。とあるルートにのみ特殊なB.O.W.が設置されているのだ。他は目新しくもないハンターやキメラばかりだというのに、そのルートにのみかつてハワードが開発したプロテクターを装備した個体が配備されている。やはり本能のみで襲ってこられるより、高度なプログラミングに基づいた戦術で来られる方が数段厄介であり、彼らでなければ数分で10回以上全滅させられただろう。

 

 

 

「アフリカじゃ散々暴れ回ったからな!!きっと今までのゲテモノどもが玩具に見えるくらいスゲーのが待ってるだろうよ」

 

 

「洒落にならんからやめろベルトウェイ。目印というのも十分あり得るが、単に自分たちに繋がる道に戦力を割いただけとも考えられる。もしそうならこいつらが居る方に我々が食い千切るべき怨敵が居るはずだ。であるなら、進むべき道は一つだ」

 

 

「…情報は『ショゴス』に伝えてある。必要なら『アレ』も使って構わんそうだ」

 

 

「どうせこんなとこ丸っと吹き飛ばした方が世の為ってもんでしょ?じゃあアイツ等の全てを根こそぎ台無しにしてやりましょうよ」

 

 

 もとより彼らに退くなどという選択肢など存在しない。最低限の確認のみ済ませ、彼らは変わらぬ足取りでアンブレラの深淵へと足を踏み入れて行った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地下プラットフォーム

 

 

 

 

 

「……はあ、物資の移動や別施設への行き来ならともかく、列車が必要な規模で研究施設創るとか非経済的にも程があるだろうに」

 

 

 

 ――――ひとり別行動をとっていたハワードは、不定形の肉体を活かして地下から潜入していた。相手の虚をつく為と、上で頑張っている連中と鉢合わせにならないようにするためだ。

 

 

なのでウルフパックとは別行動をとり、人目を忍んで地下から侵入したのだが、その場は既に制圧されていた。相当数のクリーチャーが配備されていたようだが一匹残らず殲滅されており、およそ人間では不可能なほどの破壊痕から下手人は大凡予想が付いた。

 

 

 

「……うわ、あのグラサンと考えが同じとか嫌だなあ。ロリコンがうつりそう。こっちの動きに合わせられたってことは無線の傍受でもされたかな?」

 

 

 

 進行方向上にあるクリーチャーの死骸を蹴り飛ばしながら、表情を歪めて一人ごちるハワード。どうやら彼にとっては先客のお陰でスムーズに進めていることより不快な相手と似た行動をとった不愉快の方が大きいらしい。

 

 

 

「先にアイツが行ったってことは、当然“足”も向こうに行ってるんだよな。車自体は幾らでも創れるけど、『アンタに運転させるくらいならサシで“G”とやり合う方がまだマシだ』て言われるようなテクしか持ってないし、どうしようかな」

 

 

 

 ――――先客が来ている以上こういった事態に陥るのは当然である。ロリコングラサンことウェスカーが既に列車を研究所中枢へと走らせてしまい、代用品があっても使えなければ意味が無い。この男、研究以外では意外とポンコツである。

 

 

 

 

『―――ほう、遅い到着だなハワード博士。小賢しい鼠も、子飼いの狼達もすでに奥深くに参じているというのに』

 

 

 すぐ傍にあるスピーカーからロシア訛りの英語が放送される。声の渋みから察するに、こいつがアンブレラ総帥オズウェル・E・スペンサーの親衛隊長セルゲイ・ウラジミール大佐だと辺りを付ける。無視して先に進もうとするが、その前にプラットホームへと列車が戻ってきたため、仕方なく相手することにした。

 

 

 

「―――何の心算だ?態々迎えを寄越すのは殊勝な心がけだが、カチコミかけた相手の乗り物なんぞに乗れると思うか?」

 

 

『いいや君なら乗ってくれるだろう?その列車の行先に私の首より遥かに価値のある物がある、と言えばね』

 

 

 

 スピーカーからの返答に眉を顰める。いや、彼でなくとも同じ反応を見せただろう。大佐が何を用意しているかは不明だが、やろうとしていることが本末転倒になるからだ。外からやってきた無頼相手に企業秘密を開示するなど、何のために防衛を行っているか分からなくなる。それが出来るなら最初から基地を放棄して逃げれば良いのだから。

 

 

 

「ふざけるな、私達が何のためにこんな雪しか見る物が無い場所まで来たと思っている。私達の最優先目標はアンブレラの息の根を止めることだ。価値のある物とやらはその後でじっくり堪能させて貰えば良い、違うか?」

 

 

『それは実に良くない。そんなことをしてはもう君は新しい獲物にありつけなくなってしまうぞ?“今の”君にとってはそれこそが本懐なのではないかね?』

 

 

「……なんだと?」

 

 

『君の資料は全て目を通させてもらった。君は大学時代から中々派手にやっていたようだからね、情報を集めるのに苦労しなかった。それに、アークレイでのキミの活躍はレッドクィーンを通じてほぼ収集できている。それらを元にプロファイルしてみたが、アークレイでの騒動に巻き込まれる前までの君はとても慎重で内向的、そして何より、己の生存にのみ執着しているような男だった。

 

 

そんな男がラクーンから逃げ延びたらどう動くだろうか?普通は姿や名を変えて埋没するか、アンブレラの手の及ばない土地に引き籠るだろう。幸いそれを成すだけの力を十二分に得ているのだから。それにも拘らず、君はアフリカで大々的に我らに宣戦布告し、南極基地にまで足を運びアンブレラに牙を剥いた。その結果があの四つ巴の戦いだ、一つ間違えばアメリカ政府にしてやられる所だった。そんなリスクをキミが負う必要などどこにもなかったにも拘らずな』

 

 

 

―――指摘されて初めて自覚したのだろう、ハワードは珍しく心底動揺していた。確かにこの体になった当初から、食欲というか知識欲というか、とにかく衝動に対して貪欲になっている自覚はあった。しかし人間だったころはあれほど死にたくない、分の悪い賭けはしたくないと奔走していたのに、今では多少のリスクなど知ったことではない、と言わんばかりの行動をとっている。

 

 

落ち着いたら一度しっかり調べてみるか、と脳内でメモを取るハワード。そんな彼を気にした様子もなくセルゲイは言葉を続けていく。

 

 

 

『他の面々はアンブレラそのものと確執があるが、君とはそういった関係は存在しない。そして君にとって最も理想的な展開が混沌である以上、落としどころはあると思うがね。いわばこのロシアで我らの関係を白紙に戻してもらうための前金の様なものさ。最悪、ここで暴れられてシナリオをぶち壊されなければそれで構わん。受け取るも受け取るまいも好きにしてくれたまえ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:実験処理場

 

 

Side セルゲイ

 

 

 

 

 

 ―――――さて、列車は予定通りホームを出たようだ。これで最大の懸念材料は取り払われた。後はこの茶番を全うするまでだ。

 

 

 

 

「――――動くなッ!妙な真似をすれば撃つ!!ここで何があったか、アンブレラが今までなしてきた罪も含めて洗い浚い喋って貰おうか!」

 

 

「外に居たB.O.W.も掃討が完了しつつあるわ。ロシア政府軍もこちらに向かってる、もう貴方に逃げ場はないわよ!」

 

 

 

 おっと、ようやっと待ち人たちが来たようだ。これでこの舞台に幕を下ろすことが出来る。

 

 

「ようこそ、ラクーンの生き残りたち。私はセルゲイ・ウラジミール、スペンサーがお隠れになった今、実質的なアンブレラのリーダーを務めている」

 

 

 ふっ、嘗ての同志や博士に比べれば実に御しやすい。餌をチラつかせればすぐに乗ってくれてこちらとしても話が早い。揃って怒りを迸らせて引き金に指を掛けている。

 

 

 

「……お前は相当詳しい事情を知っているらしいな。ようやくアンブレラとの因縁を解消できそうだ」

 

 

「そうねクリス。洋館で死んでいったS.T.A.R.S.メンバーの仇がやっと討てそうね」

 

 

 くく、良いぞ。実に心地よい殺気だ!今から彼らが私に注ぎ込む痛みを想像するとつい目的を見失ってしまいそうだ!

 

 

「意気軒昂で何よりだ。これまでアンブレラの邪魔をし続けてきた君たちが、どれだけの痛みを齎してくれるか興味があったのだ。是非堪能させてもらおう」

 

 

 

「なにを―――ッ!?こいつはアークレイの!」

 

 

「凄い数よ!『専用弾』に装填し直してッ!!」

 

 

 ―――ほう?13体ものタイラントに囲まれても焦りすらしないか。ああ、そういえば小賢しい『特効薬』があったのだったな。たかがアンブレラの下請け風情が目障りなものを創り出してくれたものだ。たしかにそれがあれば統率がとれないB.O.W.など敵ではないか。統率がとれなければ(・・・・・・・・・)、な。

 

 

「クリスッ!あいつ、体が……ッ!?」

 

 

「な、自分にTウィルスを!?だが、そんな素振りは……」

 

 

「何やら認識に齟齬があるらしいな。私を今までの出来損ない共と同じに見てもらっては困る。私は1000万人に一人の確率で存在するTウィルスの完全適合者!この場に居るタイラントたちはすべて私のクローンなのだよ」

 

 

「「――!?」」

 

 

 ああ、私の両腕から無数の茨が飛び出していく。まったく、私の変貌としては的を射すぎていて気味が悪いくらいだ。本当は全身余すことなく変異させたいところだが、それでは後から来た連中が私の骸だと分からなくなる。それではここに残った意味が無い(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 アンブレラ総帥の側近である私の死が凌辱され、アンブレラ崩壊の証拠が白日の下にさらされることで連中に仮初のピリオドを打たせる。既に真の同志たちが布石を打っている。大量に流出されたウィルス兵器が世界中のテロリストや軍部へと蔓延し、ありとあらゆる災厄の中心にウィルス兵器が君臨する世の中が到来する。そうなれば既に滅びた会社の残党に割く手など有りはすまい。

 

 

そうして力を蓄え、何時か新しく、且つより強靭となった“傘”の前に再び頭を垂れる日が訪れるのだ!そのための礎となれるのならば、喜んで首を差し出そうではないか!!

 

 

 しかし、目の前に居るこの不穏分子だけは私の手で始末しなければならない。この者達は幾度となくアンブレラの至宝を踏み越えてきた。断じて生かして帰すわけにはいかん!

 

 

 

 デイライトは確かにT型B.O.W.にとって脅威だが、決してコストパフォーマンスに優れているわけではない。足手纏いを連れてきた以上それほど多くの持ち合わせがあるとは思えない。

 

 

 その対応策がこの大量のタイラントたちだ。彼らの脳髄に茨を接続し、そして大本である私を通じてレッドクィーンが同期させる。完全なクローニング技術には程遠いとはいえ、元は私なのだ。Tを仲介することで、真実彼らは“私”となった。一つの意志の下完璧に統率されたタイラントがどれ程の脅威となるか、その身で味わうと良い。そして、私に14の死の味を堪能させて見せるが良い!!

 

 

 

 

 

 




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