BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第二十一話

 

 

 

 

 

場所:地下実験処理場

 

 

 

 

 

 

「―――――チッ!衛生兵が真っ先に戦線離脱なんて許しがたい失態よッ!スペクター、全員のバイタルはどう!?」

 

 

『落ち着け。全員ちゃんと心臓は動いてる、致命傷を負った奴もまだいない!……だがこのままだと時間の問題だ。3人が奮戦しているからお前たちは離脱できたが、ルポの奴が不味い。『ビーフィーター』がそろそろ稼働限界だ、ベクターと死神は神懸った反射神経で躱せるが打たれ強さでどうにかなる火力じゃない』

 

 

「クソがッ!?あれのどこが鏡の国の少女(アリス)だってんだ!!ジャバウォックの方がよっぽどしっくりくるぜ!怪物が居るならヴォーパルの剣もきっと用意してる、どこに安置してるか検索してくれよッ!!」

 

 

『…この状況で良く冗談が言えるなベルトウェイ。生まれて初めてその悪癖に感心したぞ』

 

 

 

 ――――数多のB.O.W.を退け辿り着いた先はコーカサス研究所唯一の廃棄処理場だった。数えきれないほどの試作生物兵器の死骸や失敗作のウィルスの残滓が氾濫しているこの場所は此処に居ない神話生物やフォーアイズにとっては正に宝の山であるが、同時にいかなる事態が起こっても研究所への被害が抑えられる隔離施設でもある。アンブレラの最大戦力に一切自重させずに戦わせる最適の場所である此処に用意されていたのは、たった一人の女性だった。

 

 

 年のころはまだ20代といったところか、美しい容姿に赤色の肌着を身に纏ったその出で立ちはとても脅威を感じる物ではなかった。―――――全身に纏った不似合いな武装さえなければ、だが。

 

 

 両手にはイスラエル製のマシンガン『ウージー』を携え、背中には三連装ソードオフショットガン『ハイドラ』を吊るし、腰には二対のククリナイフを佩き、さらには足元にまるで小手調べか何かの様に転がるズタボロになったプロトタイラントの有様は、ウルフパックに『コイツが本命だ』と思わせるには十分であった。対して、自らの事を『アリス』と名乗った謎の女性もまた、自身に向けられる尋常ではない殺気を前にして一刻も早く眼前の敵を排除しなければと防衛本能を掻き立てられることとなった。

 

 

 

 碌に言葉も交わすことなく、しかし示し合せたかのように同時に始まった撃ち合いは、当然ともいえるがウルフパックの圧倒的優位から幕を開けた。七対一、しかも超一流の戦闘技術を持つ彼らを相手に、一瞬で始末されない時点で尋常ではない腕前なのだがこの数の差を覆すのは不可能である。両手のウージーをフルオートとは思えないほど精密に掃射し、B.O.W.の残骸を壁にしながら蜂の巣を逃れるが長くは持たない。

 

 

 着々とアリスを追い詰めていくウルフパックであったが、どれだけ優勢となろうが彼らの手が緩むことはない。たった一人のせいで全てが台無しとなるのはラクーンで経験済みであり、しかもあの時の警察官より遥かに厄介なにおいのする相手なのだ、手を抜くなど有り得ない。

 

 

 そんなプロフェッショナル相手に均衡など続くはずもない。真っ向からの銃撃戦は悪手と判断したルポはベルトウェイを後方に下がらせ、意図を察した彼は即座に『インク』を奔らせる。

 

 

 ―――数秒後、処理場の至る所から爆発が起き、凄まじい土煙と共に火線を妨げていた残骸を吹き飛ばす。その結果、銃火器は配備されていても身を守る装備を持たない彼女は粉塵に目と呼吸を遮られ、致命的な隙を晒してしまう。

 

 

 正面から拳を携えたルポが、背後からベクターがナイフを振り下ろし、死角からハンクが銃撃を加え、それらからワンテンポ送らせてマチェットを携えたバーサとショットガンを構えたベルトウェイが追撃を行う。幾重にも襲い掛かる死神の鎌から逃げる術など存在しない――――――そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄拳が衝突し、反動が空気を揺らし轟音を響かせる。傍から聞けば獲物を捉えた証左と思えるそれらに当の本人は眉をしかめる。長い傭兵生活の中で一度も感じたことのない手応えを訝しむ彼女は、晴れた煙の先を見て滅多に見せない驚愕の表情を露にする。確かに違和感はあったがその手に伝わった手応えは本物だったはず、であるにもかかわらず自身のこぶしは標的の眼前で静止していたのだ。拳どころか、銃弾やナイフまで見えない壁に阻まれているかのように。

 

 

 

 今度は相手が曝した致命的な一瞬、そこを起点にアリスの逆襲が始まる。彼女が土壇場になって発現させた超能力染みたその力を全開にし、既に追撃態勢に入ってしまっていたバーサとベルトウェイを吹き飛ばし、身動きの取れない二人へウージーを掃射する。彼らのボディアーマーはとても頑丈であり離れた距離からの弾丸ではあまり効果はないが、アリスの狙いは彼らの命ではない。ウージーから大量にばら撒かれた9×19mmパラベラム弾は狙い通りベルトウェイの義足を噛み砕き、行動不能にするとともに敵のアキレス腱に変えたのだ。

 

 

 

 動けなくなったベルトウェイを狙いハイドラを彼へと発射し、『ビーフィーター』を発動させたルポがその射線に立ち塞がる。しかし彼女もベルトウェイが戦線離脱するまで距離を詰めるわけにはいかず、弾丸そのものは無力化出来ても近距離での大量の散弾が齎す衝撃を完全に殺し切ることは出来ず、確実にダメージを蓄積させていった。

 

 

 

 巨漢であるベルトウェイは本来一人程度では動かせないが、義足を壊された経験は一度や二度ではないらしくハンクが少し支えてやるだけですぐに離脱することが出来、フォーアイズもまた全身を正体不明の力で打ち据えられ負傷したバーサを離脱させ、吹き飛ばされながら辛うじて振りかぶったマチェットに僅かに付着した血液を携帯用調査キットに入れ調べ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――その後、ベルトウェイを運んだハンクが再び戦線に戻り、ハッキングのため処理場より少し手前で見つけた研究室に残ったスペクターが通信をつなげてきたところで冒頭に戻る。今のところ戦いは、アリスの謎の力を警戒して白兵戦に持ち込めない為に膠着してしまっている。むしろ遮蔽物を排除してしまったためにウージーが猛威を振るいルポの被弾が深刻な事になっている。唯でさえバーサ以上に真正面からあの衝撃波を喰らっているのだ、何時戦況が悪化しても不思議ではないほどに追い詰められていた。

 

 

 

「―――結果が出たわ。血液を調べたところ、仕組みはかなり異なるけれどあいつはボスと同じ特殊細胞で出来てるみたい。あの出鱈目な力や強さは恐らくこれが原因」

 

 

「あぁッ!?ボスと同じってことはあのしみったれた漁村から獲ってきた奴かよフォーアイズ?その割には随分毛色が違うみたいだけどなあ」

 

 

「言ったでしょ?仕組みがかなり違うって。多分死骸だったから復元が上手くいかなくて何かしらの処置を施したんでしょうね。ボスみたいに増えたり変態したりはせず組織自体は殆ど人間のソレと変わらないけど、それらに使われるはずのエネルギーを超常染みた力として利用してると思われるわ。これ以上は此処からじゃわからない。『デイライト』も効くかどうか不明ね。スペクター、そっちは何かわかった?」

 

 

『ああ、消去された情報をサルベージした。そいつは『TGS特殊細胞搭載型B.O.W. Alice』、フォーアイズの言った通り「ショゴス」を使用して作成されたらしい。埒外の強靭さと再生力を持つショゴスに目を付けた何処かのバカが、強力過ぎて他のウィルスと混ぜ合わせられないTヴェロニカの毒性を抑えるのに使ったらしい』

 

 

「おいおいマジか!!この世で一番やばい劇物トップスリーがあの女に同居してんのかよ!?通りで化けモンなわけだ!……まさかあれ量産体制に入ってるとか―――」

 

 

『縁起でもないこと言わんでくれ。どうやら造ったは良いが制御が全くできなかったようだ。ショゴスのミイラも使い切ってしまって実験も碌に出来ず此処に廃棄したらしい。タイラントを見ても分かる通り連中のクローニング技術はハワードに遠く及ばない、複製は無いとみて良い。ただ………』

 

 

「何か気になる事でも?」

 

 

『ああ。私とフォーアイズはハワードに同行して南極基地に行ったんだが、あの地での生存者は我々とレッドフィールド兄妹、それからアルバート・ウェスカーのみだ。アンブレラはどうやってTヴェロニカを手に入れた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)?』

 

 

「ウェスカーが流した、若しくは流した物をアンブレラが押収した可能性は?」

 

 

『―――ありえない。研究データから見てもヴェロニカが実験され始めたのはウェスカーが手に入れ帰還した直前かそれより前だ。時間的に不可能だ。以前からヴェロニカを押えていたのなら他に研究を行った形跡がある筈だがそれもない。そもそもアンブレラが持っているのなら態々ロックフォート島経由で南極まで行ったりはしない。

 アリスを創造した研究者についても完全に情報を消されている。辛うじて名前だけは残っていたが、どの国の言語の法則にも当てはまらない出鱈目なアルファベット綴りだ。データの破損か若しくは偽名だろうか?』

 

 

「―――目ぼしい情報は無いってことね。まあ今は置いておきましょう、それよりも早く何とかしないとこのままじゃジリ貧よ。今は三人だからあそこで釘付けに出来てるけど、もしルポが倒れたらあの二人じゃ守りながらは戦えない」

 

 

『それについては私の方で手を打ってある。どこまで効果があるかは分からんが――――たとえ一瞬でも『死神』なら好機を逃すことはあるまい』

 

 

 

 

 




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