BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第二十三話

 

 

 

 

場所:地下実験処理場

 

 

 

『―――想定外の事態が発生しました。焼却シークエンスを中断します、整備班は直ちに原因の究明及び事態の解決に取り掛かってください。繰り返します、想定外の――――』

 

 

 

 

 処理場は完全に崩壊していた。外部から撃ち込まれた凄まじい一撃により壁面に無数の大穴が空き、巻き込まれまいと脱出した時には再突入は不可能なまでに瓦礫に埋まってしまっていたのだ。

 

 

 

「こちらルポ、損傷は決して浅くはないが全員無事だ。先ほどの焼却シークエンスとやらは注意を引くためにお前が仕掛けたのだろうが、その後のアレは何なんだスペクター?」

 

 

『無事だったか、お前たちに限ってまさかとは思ったが安心したぞ。崩壊の原因は、ハワードが持ち込んだ『パラケルススの魔剣』とやらだ。米軍特殊部隊がラクーンへ持ち込んだレールキャノンとかで、街を散策していた時に摘み食いしたとか。今回は『アースクエイク』が使えんから代用の対タイラント武装としてこっそり奴らに貸与していたようだ』

 

 

 ―――『パラケルススの魔剣』、それは米軍特殊部隊へ試験的に導入されていた特殊兵器であり、ラクーンシティに化物が氾濫したことを知った上層部がこれ幸いとB.O.W.相手に実戦証明を行ったのである。アンブレラも政府も上層部は何処も考えることが同じらしい。

 

 

 それはともかく、ウルフパック達のところへ辿り着く前にあちこち摘み食いを行っていたハワードは偶々これを大量のタイラント相手に効果的に運用していた特殊部隊を目撃しており、回収する前に捕食していたのである。

 

 

 

「…また物騒な物を持ち込んだな、あんな素人に毛が生えたような連中に貸して良い玩具じゃないだろうが。お陰で死に掛けたぞ?」

 

 

『それは考えなしに使用した馬鹿共に言ってくれ。どうやら突入部隊のリーダーたちが相当不味い事態に陥ったようでな、潜り込ませていたハヴィエの子飼いの制止も振り切って突撃したらしい』

 

 

「その結果がこれかよクソッタレがッ!『死神』とベクターがせっかく追いつめたってのにこれじゃ生死の確認なんざ出来るか!?とんだ無駄働きじゃねえか」

 

 

「言ったって仕方がないんじゃないベルトウェイ?今回はバッティングしない為に敢えて共闘したけど、足手纏いに泣かされるなんて幾らでも経験してきたでしょ?まあ大目に見てあげたら?どうせこんな不愉快な共同作業なんてコレっきりでしょうし、関係を持ったとしても精々カモフラージュに利用するくらいよ」

 

 

「私もバーサに同感、馬鹿に割く脳の要領が無駄。…でも、せっかくの未知の被検体をみすみす取り逃がす羽目になった落とし前だけは付けさせてやりたい(ブツブツブツ…)」

 

 

「おい、言ってることがチグハグだぞ?――――バーサ、満身創痍のところ悪いが精神分析を早く!コイツ顔に出てないだけで相当ショック受けてるぞ!?」

 

 

「…まあ、実験バカのこの子があれほどの素体を逃したとなればこうもなるわよね。はーい、こっちを見て、呼吸を楽にして頂戴?」

 

 

 

 一通りの治療を終えた後、ウルフパックは撤退を始めた。アリスとの激戦に予想外の時間をとられ、既に地上の大部分は制圧されているからだ。証拠データに関してもこの期に及んでまったく消去されていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ため、必要な量のデータを採取した後、彼らはハワードとの合流予定地点へと引き返していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地上 デモンストレーションルーム

 

 

 

 

 ――――時は少し遡り、私設部隊を率いていたクリスとジルは大量のタイラント相手に、少しも怯むことなく果敢に応戦していた。タイラントは直線運動や突進力こそ優れているが、その巨体故か瞬発力に関してはさほどでもない。なので既に幾度も化物を相手取ってきた二人にとっては、それらの攻撃を回避するのは難しい事ではない。加えてタイラントと此方の体格差の都合上、複数を同時に嗾けても巨体が災いし、却って隙が出来てしまうため一度に相手するのが2体までであることも要因として大きい。

 

 

 しかしそれらは二人がかろうじて生き延びている要因でしかなく、現状は悪化の一途をたどっていた。拳銃やアサルトライフルを大量に撃ちこんでも気絶させるのがせいぜいであり、後ろで控えている残りがすぐにその穴を塞いでしまう。しかも繋がっているセルゲイの触手が何か作用しているのか、1分経たずに起き上がってしまうのでまるで効果が無い。

 

 

 ならばと、猛攻を加えてくる一体にデイライトを打ち込み、すぐさま開いた射線上からセルゲイへと銃撃を仕掛けるが、タイラントの死体が死角になっているにも拘らず完璧に他のタイラントに防がれてしまう。原因は全てのタイラントの視線をセルゲイが共有し、レッドクィーンが最適化しているため死角が存在しなくなっているからである。

 

 

 持ち込んだデイライトの数は7つ、しかし既に6つは使用してしまい後が無い。これは今回導入した部隊員全員へのTウィルス用ワクチンの用意を優先したため、デイライトの量産に手が回らなかったのだ。13体居たタイラントを7体まで減らせたのは良いが、6体でも一般隊員を皆殺しにするには十分な数でありどれだけ動いても疲労を感じさせない相手に徐々に追い詰められていった。

 

 

 

 

「お、オオオオオォウッ!!?素晴らしい、これが『死』が齎す感覚の全てか!!普通の生物ならアドレナリンや現実逃避で減耗するそれらを余すことなく、しかも6回も味わった生き物などこの世界で恐らく私だけだろうなッ!!?これまで感じた痛みなど稚拙に過ぎる、まるで腐った果実を本物だと思い込み続けてきたようではないか!!ああ、この感動に付ける言葉が見当たらない!!!」

 

 

 

「クソッ!他殺志願なら余所でやれ!!ジル、そっちのマガジンはあと幾つだ?」

 

 

「アサルトの方はもう弾切れ、残りはショットガンが3つに拳銃が1つ。デイライトは使い切ったわ!」

 

 

 弾数にはまだ余裕がある。しかしそんなものはタイラントへの有効打にはなりえない。肝心のデイライトが一発しかないという事実に加え、一撃でこちらを挽肉に変えうるタイラントの剛腕を紙一重で躱し続けるというストレス、さらにはアクロバットもかくやという回避運動と慣れないロシアの寒さもあり、体力の限界が見え始めていた。もし僅かでも回避に支障が出た時が二人の最期であろう。

 

 

 

「君達は良く健闘した。まさか統制の取れたタイラントの軍勢をその程度の装備でここまで持ちこたえて見せるとはな。だが、その献身はむしろ我らの確信へと変わった!君らの頑張りを否定する様で申し訳ないが、その軍勢の次世代は既に完成しているのだよ。司令官の指示を完璧に理解し、あまつさえ銃火器の運用も可能としたタイラントがね。『イワン』の量産化が成った暁には、陸戦歩兵戦力は完全に無力化することが可能となるだろう。あとは機械的兵器への対応だが……と、申し訳ない。この後の予定も詰まっているのでこれで終わりにしよう。それだけ上がってしまった息であと何分避け続けられるかな?」

 

 

 

 クリス達はこれよりさらに強力な軍勢が用意されているという事実に驚き、だからこそここで必ずアンブレラを仕留めねばと己に喝を入れる。しかしそれだけで失った体力が戻る筈もなく、確実に始末しようと前進してくるタイラントが無慈悲に距離を詰め始める。

 

 

 そしてその距離が10Mを切るかというところまで来た時―――――突如凄まじい爆発が起こり、最前列に居たタイラントが吹き飛んで行った。

 

 

 

「―――え?一体何が…って、エンリコ!?」

 

 

「待たせたなジル、クリス!RPG-7ってのは初めて使ったが、悪くないな」

 

 

 爆撃の正体はエンリコが放ったソ連式ロケットランチャー『RPG-7』によるものであった。別働隊として動いていたエンリコ他ラクーン帰還者達は請け負っていた部署の制圧後、救難信号を頼りに駆け付けたのである。

 

 

「…ったく、救難信号が二つも(・・・)出てたせいで危うく手遅れになるところだった。二人とも早くこっちへ!こいつ等の弾薬庫から使えそうなもんを持ってきた。早く補給しろ!!」

 

 

「いや駄目だエンリコ、早く逃げろッ!それ一発じゃ仕留めきれない、それどころか―――『グオオオオオァッ!!!!』――――な、エンリコッ!!?」

 

 

 

 吹き飛ばされ巻き上がった土煙からより異形となった化物が弾丸の如く飛び出してくる。当たり所が悪く、頭部への損傷が軽微だったためにタイラントはスーパータイラントへと変貌してしまったのだ。

 

 

そして辛うじて残っているセルゲイの制御により、三角飛びや壁面疾走と言った立体駆動を用いて捕捉させずに一気にエンリコへと距離を詰め、その巨爪が彼の体へと吸い込まれ―――――――ることはなく、直前で上半身諸共消し飛んでしまった。

 

 

 

「おいおいお前ら、こんな良いモン置いてく奴があるかよ。勝手に使わせてもらったぜ」

 

 

「バリーか!助かった、ラクーンで拾った命をあっさり捨てる所だったぜ」

 

 

 次に姿を見せたのは、クリスが南極基地から持ち帰ったリニアランチャーを担いだバリー・バートンだった。彼は今作戦ではヘリの運転及び着陸地点の防衛に当たっていたが、既に周辺が制圧されたことと、救難信号に居ても立っても居られず、こっそり持ち込んだこの未来の兵器と共に駆けつけたのである。

 

 

「…そうか、此処より他は既に陥落したか。ならばもう遠慮は不要か。クィーン、予備のタイラントもすべて起動しろ!隠し倉庫にある分も全部だ!!…クィーン?どうした、応答し―――『ドゴオォンッ!!』―――今度は何だ!?な、T-90(テー・ヂヴィノースタ)!?全て実験中にテイロスが破壊した筈、どうやって――――――ッ!?」

 

 

 二度あることは三度ある、と言わんばかりに壁を粉砕して現れたロシア製第三世代主力戦車『T-90』。それを駆るのは三人、同じく元S.T.A.R.S.のブラッド・ヴィッカーズとラクーンシティで警備員を務めていたマーク・ウィルキンス、そして自称配管工のデビット・キングだ。

 

 

 彼らも果敢に戦いB.O.W.を撃退していたのだが、たまたま廃棄施設へと到着したところ、スクラップとなっていたT-90戦車を発見したのである。ガソリンが残っていたこと、周りに機材が幾らでも転がっていたこと、そして戦車整備の知識がある人間が二人も居たという凄い偶然により、T-90は再び起動することとなった。

 

 

ちなみに二人が整備している間、ブラッドはたった一人で彼らの安全を確保していた。最初はバリー同様着陸上の防衛を任されることになっていたが、当人の希望により最前線まで出張ってきたのだ。洋館、そして街で仲間とともに死線を潜り抜けた経験が彼を成長させたのかもしれない。

 

 

 

 そうして息を吹き返したT-90は仲間たちの生存を大いに助けることとなった。施設中を駆け巡り、窮地に陥った同胞を救い、手に負えない化物は引き潰すなり戦車砲の餌食にするなりして次々と戦場を制圧していった。そして通信担当のリチャードから事態を聞きつけ彼らもここへやってきたのである。

 

 

 次々に起こる乱入によってセルゲイ率いるタイラント軍団は大いに足並みを乱すこととなり、その好機を見逃す人間は此処にはいない。クリス達はエンリコから受け取った武装でタイラントの足止めを行い、ブラッドたちは戦車砲を用いて一気にセルゲイを仕留める算段だ。

 

 

 セルゲイはタイラントへの指示だけでなく回避も試みようとするが、先程から突如レッドクィーンとの接続が途絶えたために情報処理が追い付かず、碌に身動きが取れないでいた。辛うじて一体のタイラントが救援に間に合い、セルゲイを担いで逃れようとするが、そうはさせまいとクリスが最後のデイライトを見事タイラントへ命中させたがために命運が尽きることとなった。

 

 

「―――ふ、この(ウラジミール)P-90(ウラジーミル)に敗れるとは、中々面白いジョークだよ…」

 

 

 その言葉を最後に、セルゲイ・ウラジミールの体は主砲の一撃に飲み込まれて行った。

 

 

 

 

 




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