BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第二十四話

 

 

 

 

 

 ―――――数時間前。

 

 

 

 

 

「……時間か。期待しているぞ、クリス?」

 

 

 

 

 一面の銀世界に一人、不似合な黒尽くめの男が疾駆する。ジェットスキーも容易く凌ぐ速度で基地へと急行し、人ならざる怪力で鉄格子をこじ開け侵入する。放し飼いにされていたキメラやリッカー、ジャイアントスパイダーといった所謂『出来損ない』達を蹴散らし中腹へと侵入する。

 

 

 男の名前はアルバート・ウェスカー。嘗てはアンブレラ社幹部候補私設で将来を嘱望された元研究者であり、警察特殊部隊のリーダーも務めた異色の人物である。そしてアンブレラ離反時に行ったある計画により、今や人であることさえ捨てた一匹の“怪物”である。

 

 

 

「しかし、思ったより連中の突入が早い。個々人がはした金を出し合っている零細私設部隊かと思っていたが、有力なパトロンを抱えているのか?……候補の中に一際不愉快な男がいるな。時間があるときにでも調べさせるか。まあ良い、此処まで来て奴等に先を越される訳にはいかん。さっさと中枢に向かうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――数分後。

 

 

 

 

「……『イワン』か。製造から何年もたっている兵器のリバイバル版だと高を括っていたが、甘く見過ぎていたか。というよりこれは嫌がらせには聊か度が過ぎてはいないか?」

 

 

 

 

 突き進むこと数分、既に降下しているターンテーブルを待つことなく三角飛びを繰り返し、高度十数メートルを足だけで降りきるなどというアホみたいなことをやらかした彼は、丁度降り立った場所で嘗ての同志であるセルゲイ・ウラジミールと遭遇した。セルゲイはすぐに撤退していったのだが、入れ替わるように出てきたボディガード()が問題だった。

 

 

 

 一昔前に相対した、非常に高度な知能を持つタイラントの亜種型B.O.W.『イワン』。これが二人組で出てきたのはまだ分かる。一度創ることが出来たのだ、もう一体や二体居るのは不思議なことではない。

 

 

 ところがそのすぐ後、両手にガトリング砲を一丁ずつ抱えたのが四体、対戦車ライフルを携えたのが2体、RPG-7ロケットランチャーと予備弾を大量に抱えているのが3体、さらにはそれらの後方に大量の弾薬と補給担当の『イワン』が2体用意されていた。正直その戦力を外の襲撃者に回せと言いたくなる武装集団である。

 

 

 

 そうして始まった一方的な銃撃戦。計八門のガトリングが代わる代わる悲鳴を上げ、遮蔽物に身を置けばすぐにロケット弾で吹き飛ばされ、安易に反撃に出ようとすれば協力無比なライフル弾が抉りに来る。もしこれがゲームならこれ以上ないほどのクソゲーっぷりである。相手がウェスカーでなければ、だが。

 

 

 彼はこれまでも幾度となくウィルスを巡る動乱に参戦してきたが、その中でほとほと自身の遠距離火力の乏しさを痛感させられることになった。自身の肉体すら一秒と持たないほどの爆炎を盾にされてしまい接近戦が仕掛けられなくなったり、人外の馬鹿力でバラバラにしても細胞一欠片から瞬時に再生する『妹の玩具』だったり、物理がまるで通らず触れること自体が危険な粘液型不思議生物だったりと、嫌がらせかというくらいウェスカーにメタを張った様な連中ばかりと戦ってきた。自分の死すら対価にして得た力の戦績がこれなのだ、彼も少し位なら泣いても許されるのではないだろうか。

 

 

 とはいえ、そういった経緯から認識した弱点を放置しておくほどアルバート・ウェスカーという男は酔狂ではない。そして彼には南米や南極から(泳いで)持ち帰った技術があるのだ。

 

 

「念のため持ち込んでおいて正解だったな。試作品に頼る、というのはあまり好きではないが仕方がない。苔の生えた技術への返礼だ、未来の業を見せてやろう」

 

 

 

 

 

 

 『イワン』達には高度な知能こそあるが高度な『人格』は存在しない。そんなものを持たせていたら実験段階のプロトネメシスの様に脱走を企てたり反乱を起こしたりしかねないからだ。それ故これらの個体はセルゲイの命令である『ことが済むまで裏切り者を釘付けにしていろ』を忠実に実行していた。ただ淡々と、仕留められない事への苛立ちや作業のような掃射に飽きるなどという感情を得ることもなく。

 

 

 ―――しかしその均衡は突然、何の前触れもなく崩れてしまう。これらの獣の如き身体能力を駆使してもその前兆を掴むことは出来なかった。感じたのは一瞬だけ見えたカメラのフラッシュの様な『ナニカ』。それとほぼ同時に、直線上に並んでいた仲間三体の胴体より上が失われた。焦げ付くような匂いを僅かに残したうえで。

 

 

 

「……ほう?正直『組織』の太鼓判とはいえ眉唾物だったが、ここまでとはな。とはいえ、銃身が早くも溶け始めてるな。まあこいつらを始末するくらいは持つか?」

 

 

 

 ウェスカーが手に入れたのはなにもウィルスだけではない。封鎖されていた別館に辿り着いたのはハワード達だけであるが、ウェスカーは本棟にてこれは、という技術を手に入れることが出来たのである。

 

 

 ただし、ウェスカーの専門は生物学・ウィルス学であって機械工学については門外である。現在の所属元であるH.C.Fも製薬会社なためあまり意味が無い。そもそもこのプライドが服を着て歩いているような男が、状況的に当たり前とはいえ『無能』の烙印を押した相手に未来の技術を提供するはずもない。

 

 

 窮したウェスカーは、女スパイとして独自のコネクションを持つエイダを頼ることにした。彼女としては丁度縁切りしたいと考えていたとある『組織』がいたので、自分の上司兼連絡の繋ぎ先として彼を紹介したのである。そしてその組織は彼が提供した技術に大いに興味を持ち、以後個人的な協力関係を持つこととなった。

 

 

 

 今ウェスカーが使用したものもその試作品の一つ。今回使用したのは、南極という極めて過酷な環境であれほどの巨大基地のエネルギーを維持してみせた、太陽光の超効率的なエネルギー変換技術と、光の集積技術を用いたレーザー・カノンである。ほんの数分太陽光に曝すだけで、ありとあらゆる物質を焼き貫くレーザーを発射することが出来るのだ。

 

 

 尤も、技術があまりにも先を行っているため、現在の科学力では設計図通りの設計しかできないため応用や加減が利かず、そのため数発撃てば銃身が解けてしまい使用不可能になってしまう。さらに、一発の殺傷範囲が狭いためライフル等で代用が利いてしまうし、何より対個人用兵器としては完全にオーバーキルなので『組織』はこれを実用化する気はないらしい。ウェスカーにとってはそのオーバーキルこそが目的なのでまったく問題ないのだが、これが自身に向けられると色々不味いので彼としても量産するつもりはないらしい。

 

 

 

 

 

 ――――しかし彼は知らない。このレーザー・カノンに用いられた技術の発展が、とある衛星型大量破壊兵器の誕生のきっかけとなることを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:地上 監視カメラ用モニタールーム

 

 

 

「―――こちらフォックスチーム!モニタールームを抑えた!重要区画の映像は確認できないが、それでも大凡の場所は把握できた。旗色はかなり悪い!元傭兵の戯言だって流してくれても構わないが、これが作戦なら正直撤退を進言してるところだ!!」

 

 

『…それほど、か。残念ながら撤退は許可できない。B.O.W.が流出している以上その施設は最早統制が皆無だろう。ここから最も近い村は車で15分ほども距離が無いんだ、我々が撤退したらそこが犠牲になる可能性は高い。既にロシア政府も応援を派遣した。連中からは、何があっても彼らの到着まで前線を死守しろ、とのことだ。相当無理を言って実行した作戦だ。逆らうのは不可能だ!』

 

 

「そんな……ッ!」

 

 

『前線の状況は理解した。こちらも組織運営チームが『パトロン』から提供された「パラケルススの魔剣」の使用準備を整えた。要請があり次第発射を開始する』

 

 

「なッ!?あれをか!?確か米軍の最新兵器だろアレ?どうしてそんなもんを……」

 

 

『そこら辺の事情は知らん。今言えることは、こいつなら後方キャンプからでも一直線に獲物をぶち抜けるってことだけだ。これから他の仲間へ随時連絡を入れる、救難信号を発信するか、お前さんが座標指定してくれれば其処へぶち込む。とにかくこれで何とか状況を打破してくれ、以上だ』

 

 

「……まじかよ。まあしょうがない、使ったことがあるのは俺とジルくらいだ。やるしかないか。とはいえ、ここは安定してるし、座標指定はともかく救難信号は使い道が無いな。とりあえずは―――「なら俺が使ってやろう」――――ッ!?な…『ガッ!』―――く…うぁ……」

 

 

「―――運が良いな。この発信装置に免じて命は見逃してやろう。俺の役に立てて良かったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:コーカサス研究所 中枢

 

 

 

 

 

 ―――――それから暫くの時間が経過し、イワン達を退けたウェスカーはようやくこの基地の全てが詰まった中枢へと足を踏み入れた。そこは一見何の変哲もないフロアに見えるが、床や壁が大小さまざまな四角いフレームの様な骨組みを敷き詰めたようになっており、しかも材質はプラスチックである。そんな微妙に違和感を覚える部屋を黙々と突き進んでいたウェスカーであったが……。

 

 

 

『――――私は1000万人に一人の確率で存在するTウィルスの完全適合者!この場に居るタイラントたちは―――』

 

 

「―――そうか。セルゲイはクリス達の方に行ったか、実に都合が良い。俺を不愉快にさせた者同士、精々潰し合うが良い。共倒れになるのが一番理想的だな。……それはそうと、この俺への歓待を機械頼みとはずいぶん舐めてくれるじゃないか」

 

 

『あら、洋館でその機械に邪魔されたせいで長く無能の烙印を押されたんでしょう?寧ろ私にとって役不足じゃないか不安に思ったらどうなの?空っぽのプライドなんて空しいだけよ、オジサマ?』

 

 

 ―――モニターに映るクリス達とセルゲイを一瞥した後、視線を正面へと戻すとそこには一人の少女が嘲笑を浮かべていた。何もない所から突然現れた彼女は人間などでは無く、勿論幽霊などのオカルト的な存在でもない。彼女はアンブレラのシステム全てを統括する人工知能『レッドクィーン』が外部へ意志疎通を行うために生み出したホログラムである。

 

 

「空っぽ、か。人工知能が痴呆を患うとは驚きだ、ここに鏡など無いぞ?難破船と成り果てたアンブレラに未だにしがみ付く貴様等のプライドこそ陳腐で伽藍堂だと思うが?」

 

 

『あら、科学者のセンスだけでなくユーモアのセンスもウィリアム・バーキンに劣るのね貴方?アンブレラは難破船ではなく潜水艦、来たる再誕の時まで苦汁を耐え忍ぶノアの方舟なのよ。こんな素晴らしい『作品』を切り札として取っておける会社が、難破船なわけないじゃない』

 

 

「切り札?確か『T-ALOS』とか言うタイラントの遣い回しのことだったか。精密機械の塊などという戦場での運用に難がある欠陥品が俺の相手になるとでも?」

 

 

『あら、良く知ってるわねオジサマ?薄汚い鼠がまだ居たのかしら、後でまた掃除しておかないとね。けれど残念、その情報は少し古いわ。今の私達の切り札は『青銅の巨人(テイロス)』なんかじゃないわ、『ヴェールを剥ぎ取るもの』よ!』

 

 

 高らかと宣言したその言葉を皮切りに、天井からフロア中央へと円柱が降り、そこからエレベーターの様に『ソレ』が姿を現した。

 

 

 それはタイラントなどと呼ぶのも憚られるほどの異形であった。まず目に付くのはその頭部、従来のタイラントの5倍以上は軽く上回るほど大きく、その大部分は頭蓋を突き破って肥大化した『脳』が占めている。上半身の方は辛うじてタイラントの面影が残っているが、その端々に蟲の神経節の様な小型の脳が派生しており、下半身は極端にバランスと重量が悪くなった体を支えるためか、異常なまでに太く強靭となりそれでも足りないのか外付けの強化骨格や義足が取り付けられている。タイラントというより、リッカーの亜種と言われた方がまだ納得のいく有様である。

 

 

 

 ところが、その肉塊が心臓の様に大きく一度振動したかと思えば、床や壁として敷かれていたフロア中のフレームが独りでに浮かび上がり殺到し、目で認識することさえ出来ないほど奇怪な金属塊へと変貌した。

 

 

 

『さあ、これが私達の本当の最高傑作「TGS特殊細胞搭載型B.O.W. Daoloth(ダオロス)」よ。まあ、あくまで形を似せた紛い物で、元になったオリジナルが居るらしいけどね。でもそんなことは今は関係ないわ。さあ!凶器と幾何学と生物と科学が入り混じったフルコース、たっぷり味わっていってね?』

 

 

 

 モニターの向こうでは大量のタイラントがクリス達へと牙を剥いていた。彼らが死闘を繰り広げる中、人が存在しないこの一室でも、人知れず戦いの舞台が幕開けることとなった。

 

 

 

 

 

 




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