BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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 久しぶりの日記形式です。あと1,2話小話を入れたら『テラグリジア・パニック+α』に入る予定です。


第二十六話 誰かの日記②

 

 

 

 

 ○月×日

 

 

 

 ――――コーカサスでの作戦から2週間が経過した。あの基地から発見された“決定的証拠”とロシア政府からの猛烈な圧力が決定打となり、アンブレラ社は全面敗訴となった。特にロシアの激怒具合は凄かった、極秘研究所だけあって政府は全く認知しておらず、しかも一歩間違えればロシア崩壊も現実味を帯びていたあのパンデミックを考えれば当然ではあるが。

 

 

一切の猶予期間なしで業務停止処分が下され、ようやくアメリカ政府がB.O.W.を認知したことで、世界的医療企業は一転して国際法違反のテロリストとして扱われることとなった。とはいえ、あくまで周知なのは各国首脳部であって民間に情報は一切流れていない。どこまで教えて良いか分からないのだろうが、私としては一刻も早く広めることをお勧めするがね。

 

 

さて、今作戦をもってアンブレラは倒産、事実上の壊滅となった訳だがウルフパックの面々は消化不良の様子だ。まあ、創設メンバーのオズウェル・E・スペンサーは基より、同じく創設メンバーのジェームズ・マーカス唯一の直弟子であるブランドン・ベイリー、離脱したアレックス・ウェスカーに代わって情報管理部門を統括していたディルク・ミラー、といった幹部陣営の殆どが生存したままなのだから当たり前だが。

 

 

だが彼らには無理を言って矛を収めてもらった。なぜならもはやアンブレラだけでは収まらない話になってきたからだ。順を追っていこう、まず一つ目だが最高幹部連中は完璧な雲隠れを実行した。地下の資料から分かったことだが、呆れたことに連中国家予算の数倍に相当する食料や金銭等を貯め込んでいる。外界から完全に隔離しても向こう10年は賄えるようだ。

 

 

次に、アンブレラの研究データが世界中にばらまかれてしまった。一つ一つは取るに足らない無数のデータだが、それ故に世界中余すところなく拡散してしまったらしい。コーカサスがあの様だったのも管理不行き届きではなく有象無象が自主的に逃げ出すよう仕向けるためだったとか。

 

 

目的はウィルス兵器の『常識化』、そして散らばった『アンブレラの遺産』で世界中を夢中にさせることだ。Tウィルスの初歩的な研究は広く共有されているからほぼ完ぺきな状態で流出されるが、プロジェクトが組まれた研究(『G』や『ヴェロニカ』が代表的な例だな)等は研究データの統合・実地は最高幹部だけに許されており、ヒラは自分が関わった部分しか知らないし持ち出せない。他は精々『完成した○○はこんな効果があるらしい』くらいの情報だ。だから捨てられた研究を再開するには散らばったデータを掻き集めなければならない。

 

 

そしてこの目論見は半ば成功してしまっている。兵器の方は機械的兵器で代用が利いても、『不老不死に至る方法を具体的に示している』物質への誘惑にヒトが耐えられるはずが無い。現にアンブレラは数十年がかりではあるが『Gウィルス』を完成させている。

 

 

『DEVIL』の精製法が(私以外)失われているから今や無用の長物だが、あれの効能は凄まじい。現に私がアネット女史から託されたシェリーは現在■■歳(破かれており解読不可)になったが見た目は全く成長していない。護身術を学んだ際も痛みに怯まない修練として何度かルポやベクターに手足を折られているが、そのどれもが物の数分で完治している。人類の夢(悪夢ともいうが)がフィクションでないと世界は知ってしまった、ならば彼らがどう動くかなど語るまでも無い。

 

 

世界中でTウィルスが研究されることになる。アンブレラ残党・政府・軍上層・テロリストと挙げればきりがない、ならばその中のどれかが『御隠居の為の玉座』になっていたとしてもおかしくはない。

 

 

……今までの様に後ろ盾のない小規模組織では間に合わなくなるな。誰かの懐に入る、という選択肢はあり得ない。その結果がラクーンでのウルフパックの切り捨てだ、彼らのトラウマを掘り返さないよう私たち自身で勢力を作らなければならない。それも日の当たる場所の、だ。まったく難儀な話になった。

 

 

 

 

 

~~~中略~~~

 

 

 

 

□月○○日(数か月後)

 

 

 …何だか妙な事になった。突然だが私は今日付けで『再生医療の世界的権威』に就任することになった。まるで意味が分からんぞ!?

 

 

 ことの始まりはハヴィエ・ヒダルゴ氏の暴走だ。南米を離れる際には既に8割方再生治療が確立していたので新天地で完成させ、無事御息女だけでなく奥方もヒトの姿を取り戻した。家族全員が恥も外聞もなく泣き叫びながらあらん限りの力で抱きしめ合う姿は、わが組織の人道派(敢えてメンバーは伏せておく)のハンカチを大いに濡らした。

 

 

 ここまでは文句なしの美談なのだが、コーカサス作戦直後から彼は猛烈なまでに組織の基盤づくりに熱中した。元々家族が絡めばどこまでも暴走する直情的な彼だが、私が全員に語った未来予想図がスイッチになってしまったらしい。

 

 

 未だ世界の情勢は凪いでいるが時間の問題だ。これまでテレビの向こうとしか感じていなかった有象無象のテロリストが、核兵器にも劣らない大量殺戮兵器を気兼ねなく手に入れられる世の中が訪れる。そうなれば例え朴訥な市民であっても武力制圧に寛容で過激にならざるを得なくなるだろう。対岸の火事はどれだけでも笑っていられるが、目の前にあるスズメバチの巣は手段を選ばず排除するのが人間というものだ。

 

 

 ヒダルゴ氏は以前の騒乱でほとほと身に染みたらしい、後ろ指を刺される存在が如何に脆弱な立場に立たされているかを。少し情報操作をしてしまえば、一方的な殲滅も自業自得と鼻で嗤われるニュースにしかならない。しかもそれを眉一つ動かさずにやってのける連中に目を付けられているのだから堪らない。

 

 

 彼、いや彼ら家族の唯一にして最強の庇護者が我々だ。自慢じゃないが南極から持ち帰った技術を習熟した我々なら、極論してしまえば脳さえ無事なら後はどうにかしてやれるのだからその考えは誤りではない。彼にとって我々の地盤を盤石足らしめることは家族を守るうえで必須だったわけだ。

 

 

 そこに手を貸したのは、私としては意外なことにフォーアイズだった。南米では相当急ぎ足だった所為でかなりショゴスパワーでごり押ししてきたのだが、それが彼女にとっては悔しかったようだ。ウィルスの探究者たる彼女がご都合不思議生物の力に後れを取ったままなのは自身の叡智の敗北と同義だったのだろう。

 

 

 これまで得てきたデータを自分なりに解析し、変身したショゴスを徹底的に観察しメカニズムの解析を行った。しかし今後のアンチウィルス研究のためといってメラが助手を、シェリーが機械助手を務め携わっていたのには驚いた。

 

 

 メラは以前からウルフパックから手ほどきを受けていたから今更といった感じだが、シェリーにあれほど機械工学のセンスがあるとはな。後で本人から聞いたが、弱冠12歳―――つまりラクーン脱出時に、完全オート操作になっていた高速移動中の列車を手動運転に切り替え脱線しない様コントロールしながら停止させた挙句、マニュアルも見ずに非常用の爆弾の起動までやってのけたのだとか。……ちょっと何言ってるか分かりませんね。

 

 

 まあそれはともかく、入口だけとはいえ彼女らはたった3人であの未来の技術を現代のそれに落とし込んで見せた。流石に不老不死や肉体の再構築はまだまだ未知の領域だが、それでもガンや白血病、その他世界に名だたる難病の根治術に漕ぎ着けるには十分な技術であり、それらを世界へと発表し特許の取得と共に一気に世界へ宣伝していった。

 

 しかし困ったのはそれらの成果を全て私に放り投げてきた事だ。本来なら当然功労者のフォーアイズがそれらの栄誉を受けるべきなのだが、同志以外とは視線を合わせるだけでも時間の無駄と考える彼女はこれを固辞した。工学者の私ではボロが出ると言ったのだが『ショゴス使えば大抵は誤魔化せるでしょ?それに所詮私がしたのは方法はどうあれ貴方の成果の猿真似。そんなもので称賛されても人のふんどしで相撲を取ったようで不快、それに私にとってここから発展させていくことこそ最重要課題』と言って押し切られた。

 

 

 そういう訳で表社会に出る羽目になったのだが、突然背景も不明な集団が未知の技術とか怪しさ満点だ。なのでそこら辺のバックストーリーは先の作戦で共闘した私設対バイオハザード部隊に協力してでっち上げた。『彼らと同じくラクーン帰還組であり、バイオテロ憎しで彼らと行動を共にし研究してきたがその副産物が無視できなくなったので独立・起業することになった』というのが筋書きだ。

 

 

 幸い後方支援組の中核メンバーで知己のハミルトン教授が学会にかなり顔が利く人物であった点、そして腕利きジャーナリストのアリッサが上手く利権団体と交渉してくれたお陰で想像より遥かに小規模の軋轢で事が済んだ。彼女たちの方もこれからのスポンサーを名乗り出てきた『製薬企業連盟』とかいう微妙に胡散臭い連中との交渉に我々の存在が非常に有利に働いた、と言ってくれたのでWin-Winだと言ってくれた。

 

 

 

 

~~中略~~

 

 

 

 

 □月○×日

 

 

 ……疲れた。いや、本当にきつい。田舎工場生まれの缶詰技術者に社交界の常識とか知るわけないだろう。しかも何が困るって指導者が居ないのだ。誰も彼もそんな華やかな舞台なんて別の世界の話って奴しかいないから全部独学だ。それにそんな私の事情など知ったことかとばかりにヒダルゴ氏がどんどん規模拡大していくから堪らない。大店の主には相応のマナーが求められるとか勘弁してください。これなら南極で炙られたときの方がまだ余裕があった。

 

 

 それはともかく、正直言ってヒダルゴ氏の実力を過小評価していた。よくよく考えてみれば一代で『麻薬王』と渾名されるほどのマネージメント能力と先駆者に潰されずに勢力を広げられる交渉術、それから『聖なる蛇』なんて結構な規模の武装勢力を統率してこれた組織力が並大抵のものの筈がなかった。

 

 

 あとそれから、社会貢献アピールの一環として…何て名前だったかな?どこかの環境保護ボランティアの監事をやることになった。それ自体は特に問題はない、週に3回ほど顔を出して事務処理や決算をチェックするくらいだからな。ただどうしてかな?何故か妙に嫌な予感がするのだが……。私の中の何かが『シェリーを連れて行かないとヤバい』と告げているのは何故だろうか?

 

 

 

 

 




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