BIOHAZARD Iridescent Stench   作:章介

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第二話

とある研究員の日記02

 

 ×月▲○日

 あれから何か月か過ぎたが、未だに私の研究はお蔵入りのままだ。原因は最近ようやく研究が進展した『暴君』だ。これの完成が遅れるようであれば上への時間稼ぎに私の研究を上に報告するらしい。当然私名義ではないな。それだと最悪研究の主導権まで奪われかねない。十中八九上司名義での成果報告なのだろう。私としては一向に構わないが、あまり無欲ぶるのもそれはそれで不信感を買うので適当に不満そうにしておいたが。

 

 上司は私に変わらず現在の研究テーマを煮詰めさせる予定で、『暴君』に触らせるつもりは一切ないらしい。どうやら私と此処の先代主任の身内に繋がりがあるためスパイだと思い込んでいるようだ。道理で扱いが悪い訳だ。尤も、私にとっては至極好都合なのだが。むしろ今回の人事を天啓だと思った位だ。連中は『暴君』にかかりきりで、窓際族の私に声がかかることなどあるまい。万一あったとしても、不貞腐れたフリをしておけば研究が遅れていても不思議に思わないだろう。これで思う存分『仕込み』ができる。

 

 そうそう、私の研究用に割り振られていた活性死体が今日妙な変異を起こしていた。あれは変異というより変態だったが。皮をひん剥いたように筋繊維と脳が露出しており、異様なまでに長大化した舌を武器としているようだ。あらかじめ「ターブル」を打っておかなければ油断して串刺しにされていたな、一応保険はあるが。

 

こいつの商品価値はかなり高い。BOW最大の弱点である飛び道具に対してある程度強く出ることが出来、舌に刺されれば当然ウィルスに感染する。体に風穴があけば拠点で治療されるだろうし、そうなれば活性死体化した患者により滅茶苦茶にされ前線は大打撃を受けるだろう。ハンターが敵勢力の殺傷・排除を目的とした近距離特化なのに対し、こちらは感染・出血の拡大を主とした中・遠距離型だ。相互互換として非常に良い組み合わせだ。弱点は舌で攻撃する際妙で微妙に長い予備動作をすることと、舌を伸ばしすぎると細くなり、急所以外に当たっても軽症で済んでしまう点か。ハンターのプロテクターを流用したら重くて壁を這えなくなった。どうやらハンターほどの馬力はないらしい。それに四六時中四足歩行をしている奴の腹を守る意義は薄いな。要改善だ。

 

 

 

 

 

 □月▲×日

 研究所で飼ってあるBOWの2割に『仕込み』を終えた。後少し準備が出来ればいつでも事を起こせる。その日が待ち遠しくてついテキパキ動きそうになってあわてて自重する。今の私はモチベーションが底辺に落ちている窓際族なのだから。

 

 あれから特殊部隊の土産を手が空き次第調べている。詳細は不明だが、粘液か何かのようだ。当然死んでいるが、細胞の生命力が恐ろしく強いのか、Tウィルスを使った再生医療は今のところ順調だ。玉虫色のなんとも気味の悪い色をした粘液のような体をしている。そしてとんでもなく食い意地が張っている。死んでいるはずなのに細胞が反射で餌を食ってる。今日はとりあえず鶏肉をやっておいた。

 

 

 

 

 

 

 □月▲▽日

 今朝、研究室に鶏の死骸があった。そんなもの飼ってもいないし用意した覚えもなく不思議に思いながら持ち上げたらあの気色悪い粘液に変わった。つい変な声が出てしまったが俺は悪くないと思う。

 

 こいつ本当は死んだふりしてるだけじゃないのかと思い、いろいろ実験してみたが生体反応は起きなかった。が、電気刺激をいくらか与えてみたら先程同様変身した。今度は豚だった。・・・一昨日当たりに食わせたな、そういえば。

 

 今度はすぐに元に戻らなかったので解剖してみたが、驚いたことに中身まで本物と寸分違わなかった。これがこいつの能力か?凄まじい擬態能力だ。いくらでも利用価値が湧いてくるんだが、せめてこいつが生きていてくれたらなあ。今のこいつは死体を復元してなんやかんや動かしてるようなもんだからな。死者の蘇生はTウィルスをどう変異させても不可能だ、諦めよう。

 

 

 

 

 

 

□月▲▼日

 今日は珍しく私の研究室に客が来た。ただ、私には見慣れたあの粘菌を見た瞬間突然発狂しだした。何事だ?とりあえず殴って落ち着かせたが。

 

 そんなことはさておき、研究も粗方済んだ。あとは実際に使ってみるだけだろうが、そんなデータなど私には用がない。使うのは最初で最後だ。

 

 活性死体の変異型のプロテクターにはヘルメットを採用した。どうせこいつの耐久は紙だ。むしろ立体的に機動できる強みを生かすべきだ。後は少し前に開発した光学迷彩細胞「クラマト」を口内で共生させ、蛇のように潜伏・奇襲する習性をもつようプログラムされた「ターブル」を仕込んでみた。これであの前動作のリスクも軽減できるだろう。

 

 これで大凡の準備は整った。後は時機を見て行動すれば良い・・・はずだったのだが、もしかしたら手遅れかもしれん。外が妙に騒がしい。ウィルス事故にしては被害が出すぎている。それに食い止められているとは言い難い。どういう事だ?

 

 嫌な予感がする。とりあえず手駒にしたBOWは研究室に集結させておく。ハンターを数体偵察に出したが2体やられた。残りがヒルの死骸らしきものを持ち帰ってきたが、こんなBOWは記録にない。どうする?逃げるには状況が不明過ぎる。かといって立てこもるには準備が足りない。くそっ、事態が最悪の斜め上に行きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 □月□日

 想像通り最悪の斜め上の事態だ。研究所は私以外は全滅しており、活性死体となっている。さらに私の管轄外の実験体も脱走しており、非常に危険だ。最初は銃声もちらほら聞こえたが、今は何かを引き摺るような音しかしない。そろそろ備蓄が尽きる。逃げる準備をする時間だけは十分過ぎるほどあったのですぐに動けるが、今出て行っても良い的だろう。今の手勢はハンターが12体、変異活性死体が8体だ。正直心許ない。何か注意を惹きつける切っ掛けがないと。

 

 しかしわたしは悪運はもっているらしい。久しく聞かなかった銃声が響いて来る。音が遠い、たぶん研究施設の上、洋館部分からだ。しかし私はガンマニアではないので、音で相手の予測を立てるのは無理だ。会社の特殊部隊なのか、この事故の黒幕側の人間なのか、それとも第三者なのか。どれに当たるかで私の命運が大きく変わる。ここでしくじるわけにはいかない。賭け事の類は嫌いなのだが仕方がない。打って出ることにしよう。

 




次回から『バイオ1』に入っていきます。

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