BIOHAZARD Iridescent Stench 作:章介
それではラクーンシティ編、始まります。
―――ラクーンシティ。
アメリカ有数の企業城下町であり、芸術・科学・医学と三拍子揃った学びの園・・・・・というのは今や過去のもの。異形が闊歩し、骸が列を成し蹂躙する地獄へと変貌した街はいたるところで悲鳴や怒号、銃声が響いている。
そんな中、燃え盛る炎によって照らされた街中を悠々と進む人影が一つ。彼もまたこの地獄を闊歩する、死にぞこないの化物である。
「うーむ、やはり濃度が薄い。ま、隔離された研究所と拓けた街中じゃ密度で劣るのは当たり前か」
死体も、それを貪る骸もまるで存在しないかのように物色して回る男は、かつてハワード・オールドマンと呼ばれていた。将来有望な生体工学者の卵だった彼も今や物珍しい餌を求めて彷徨う幽鬼、違いなど意思があるか否かでしかない。
今も近くから響く悲鳴を一切無視してこれは、と思った活性死体を足元でうごめくコールタールに捕食させる。助けに等当然行くはずがない。彼は超人的なスーパーヒーローではなく、食欲を研究意欲で誤魔化すヒトデナシなのだから。流石に目の前で助けを請われたり、知り合いであれば吝かではないが、ここに住んですぐ研究所暮らしだった彼に優先すべき人間などわずかしかいない。
「さて、何から手を付けようか?サンプルはまだ時期尚早、もう少しこの地獄が煮詰まってからだな。じゃあ、とりあえず在処が分かっているお宝から漁るか。研究所は遠いし、先に大学の方を取りに行こう。新型の筋肉達磨はともかく、「特効薬」は絶対に必要だ。ショゴスにあれの抗体を作らせないと、また怯えながらの暮らしに逆戻りだ」
彼がまず目を付けたのは人間だったころに散々その所在を探った、Tウィルスを完全に死滅させ、完璧な抗体すら精製する「特効薬」だ。目的は当時と真逆だが。
そもそも技術者だった彼にとって、Tウィルスは兵器以外の何物でもなく、研究所に治療手段が存在しないと知った彼の絶望は相当なものだった。他のマッドなサイエンティストと違い、Tウィルスの可能性だの究極の生命体などに興味のない彼は上司や知り合い夫婦に必死に掛け合い安全装置になりうる存在の情報を漁った。そんなあるとき、噂程度だが、という前置き付ではあるがラクーン大学の裏切者予備群が優秀な医者たちを利用して「特効薬」を作らせているという話を聞いていたのだ。
つい最近まで忘れていたのだが、自分を構成するショゴスがTウィルスによって復元したことを思い出し、ついでにこの「特効薬」の存在も思い出したのである。これがこの街から持ち出されれば確実に脅威となる。まず間違いなく忘れたころに投薬されて液状化する、そんな確信さえある。
幸い克服するあてはある。前評判通りなら博士夫婦の持つジョーカーは無限に進化するウィルスだ。まずそれを捕食し、擬態化させてから「特効薬」を服用すれば、気合と根性で克服してくれるだろうたぶん。
「しかし、サンプルが届いたとかそういう話は聞かなかったな。まさか騙したのがばれて反抗されたとか、はたまた試薬だけ作ってサンプルも取引材料も用意してないとかか?いやいや、いくら馬鹿と危機管理能力のない研究莫迦しかいないからって、そんなまぬけなことになってるはずがないよな、うん」
・・・彼の懸念が正しかったか否か、答え合わせはおよそ30分後。
Side ハワード
くそ、まさか本当にサンプルを用意していないとか馬鹿だろ!?やっぱりアンブレラには碌な奴がいないな。しかしまさか生存者がいたとは驚きだ。慌ててショゴスは仕舞ったが、そのせいで行動が制限されて困る。新聞記者とどっかで見たことのある日系人と医者というなんとも珍妙な取り合わせだ。
特にこのアリッサとかいう記者が面倒だ。無駄に観察力と視界が広いせいで碌に身動きできん。キーピックと銃の腕が立つのはありがたいが。ただ、日系人のヨーコがやたらと怯えた表情でこちらを覗うせいで無駄に警戒されているが。ハミルトン医師は協力的で何よりだ。まあ私の興味は彼自身より彼のカプセルシューターに注がれているのだが。予備とかないのか?あればぜひモグらせてほしい、利用価値は高そうだ。
話が逸れたな。今現在、「特効薬」生成のため大学を右往左往して材料集めをしている。二手に分かれて探索を開始したが、なんで大学にこんなにもB.O.W.が配備されているんだ?意味が分からん。同行していたハミルトン医師がカエルモドキに飲み込まれかけたときは焦った。まあ、一時的発狂を起こした医師を物置で休ませている間にアクビちゃんに掃除させられたので結果オーライだったが。蛇の餌にカエルとは冗談が効いている。
しかしもう少し有用な物品を備えていてくれないものかね。密閉シリンダーの予備がなくて探し回るとか間抜けすぎる構図だ。こんなものに命を賭けさせられる彼らがさすがに少し哀れだ。
何はともあれ、無事女性コンビも材料を手に入れたのは良いが、最後の材料が筋肉達磨の体液とか嫌すぎるんだが。回収しないとダメかな?代用品とかない?無いのか・・・そうか・・・・・。
とりあえず実物を一目見ようと外に出てみたら、U.S.S.を血祭りに上げている様を見て直ぐに回れ右した。足手纏いがいては正攻法は無理だな。アリッサ女史が、見つけたメモから得た、千切れたケーブルを利用した電撃作戦を提唱した。乗用車並みの速度で突っ込んでくる肉達磨をどうやって誘導するんだ?え、囮?ハミルトン医師、君は何を言ってる。ここで特効薬を手に入れられなければどのみち助からないんだから、命を賭けても惜しくない?おいおい・・・。
それから早速準備して、物音を立てて注意を引こうとする医師。足が震えているじゃないか。自分の命が何より惜しい私には到底理解できん行動だ。そうこうしていると筋肉達磨が扉を突き破ってやってきた。
ここでさっさとこちらに逃げてくれば良いものの、あろうことか彼はケーブルのそばから動こうとしない。私諸共やれ、とか酔狂なことだ。本当に死ぬ気か?
・・・。
・・・・・。
・・・・・・・・・・。
わー!まどのむこうからきょだいなへびがとびだしてきたぞー(棒)
ハミルトン医師がふっとばされたぞー。だいじょうぶかー(棒)
わー。いいかんじにへびとだるまがこんがりやけたぞ、やったね(棒)
・・・・・うん。流石に見捨てるほど鬼じゃないよ。良く考えれば、ここでアクビちゃんが乱入したからって私に疑いが懸る筈がない訳だし。頑張った人間には多少の報酬は当然だ、うん。そういう事にしておこう。
そんなこんなで無事材料を集めきり、特効薬である「デイライト」は完成した。え?グレッグ博士?会って5分で死んだ変態の描写なんて必要あるか?強いて言えば、暗殺した奴は良い仕事をした、とだけ言っておこうか。世界をまた一つ綺麗にしてくれたこともそうだが、爆弾で大学を吹っ飛ばしてくれたおかげでうまく彼らの目から逃れられた。これ以上一緒にいれば脱出まで一緒に行動させられかねん。実に良いタイミングだった。
まあ袖擦りあったのも多生の縁だ。手駒のハンター達に追い立てるふりして道中の掃除兼監視をさせておくから頑張って脱出してくれ。あの筋肉パンツは今頃擬態を解いたショゴスの胃袋の中だし、これだけお膳立てすればまあ問題ないだろう。
やれやれ、思ったより時間が掛ってしまった。次は研究所、と言いたいところだが下水になんて潜りたくないし、どうしたものか。
あ、確か警察署にも入口があるとか言ってたな。今度はもうちょっとスマートに行きたいものだ。ま、期待薄だが。
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