編みて我身を遺さず 作:水系三文字
海を踏みしめ空を蹴り駆けていく。
舞い上がった飛沫は
寒い、凍えるようだ……
やはり、何処かで道を間違えたのだろうか……
何処を通っても海、海、海、陸を探して動き回ったが一向に見えないどころかなんとなくヨーロッパ付近に来ているような気がする。
かつて騎士をしていた時に立ち寄ったあの海岸らしきものが見えた。
国外に出た覚えはなかったから、先ほどのあれがイギリスなのだろう。
「ぷぷぅー」
アメリカの中でもそこそこ暖かい場所にいたからか、これほどの寒さには慣れていないからか若干震えているようだ。
かくいう私も寒くて震えてるんだけどね。魔力のコーティングでもしようかな
数分しか持たないし、体力が無くなるだけか……
彼女は数秒間悩んだ後に、ひとつの脳筋的発想をひねり出した。
「ん~~そうだなんならそのまま直線に進んでみようか、サブロー!走っちゃおうか!」
「ぷるるぷぁ!!」
巻き上がる飛沫は残像を残すかのように消えていく、私達の体は実際に残像を残しながら進んでいく、いずれ、駆ける足には不安定なぐらつきの感覚からじゃらりと踏みしめる感覚が。
ぼやけた視界には一面の銀景色、北半球の果ての果て、北極がうつりこんでいた。
「きれい」
彼女は感動していた、前々前世、つまり日本で生きていた時にはもう既に溶けきる寸前となっていた北極があるだけでなく、そこに自分が立っているのだ、凍えるように寒いということを忘れるほどに、彼女はただ、感動の涙を流していた。
その涙には魔力が溶けており、それは凍ることなく氷にたまっていく。しかし魔力は時と共に消え去り、凍りついた。
「すごいね……これが北極か、未来じゃほとんど溶けてたからな……きれいだなぁ」
「ぷぅぷ?」
サブローは凍えるように寒いはずの彼女にすりより熱で暖をとらせようとしていた。己の主人を守ろうという防衛意識がサブローには芽生えていたのだ。
「かまくらだったっけな?あの氷のブロックでつくるやつ」
正しくはイグルーである。氷でつくるものや雪でつくるものなどがあり、彼女の知識は穴掘って氷のブロックを煉瓦みたいに敷き詰めて間をなにかで適当につめる、というものである。
思い当たったら吉日という言葉を気に入っている彼女は早速魔術を行使し、足下の氷を削っては氷の溶けにくい場所へと運んでいく。
最初は何をしているのかわからなかったサブローもとりあえずといった感じに彼女の手伝いを始めた。
そして出来上がったのは中外共にかまくらの見た目をしたかなり巨大な拠点である。
その壁の中には魔力で結合された氷の煉瓦に守られており、吹雪や落雷なども軽く弾きとばすほどの強度になっている。
魔力を込めすぎたせいで最初に作っていたものが子供一人入れるかどうかとなってしまったのたがそれはどうでもいいことであろう。
言ってしまえば魔力で氷を押し固めたものをくっつけて造られているのだ。
そしてできたものに雪でコーティングしたものこそが。
ルイス式イグルーである。
後に残骸が発見され、新聞の一面を飾ることとなるのだがご愛敬ということだ。
それから月日は流れていくにつれ、彼女も歳をとっていった。
若干寒いという欠点を無視すればイグルーのなかは快適そのものであった。
イグルーは地下を含め、大規模なものへと進化を続けていた。暇だったのだ。
彼女の最近の趣味は氷の彫刻、北極の氷を削っては海の水で埋めてそこからまた削り取るということを繰り返しているため、イグルーを作った場所以外は修復されているのが彼女なりのこの土地への感謝の気持ちである。
氷細工に関してだが、サブローを作ったり龍だったり騎士王だったりと様々なバリエーションがある。
これもまた厳重に保管していたことが災いとなり新聞どころかネットとテレビを騒がせたことで冬木市にすんでいる一人の少女が味噌汁を吹き飛ばしたとかなんとか?
「長かったな……多分会えないけどまた会えたらいいね……サブロー」
彼女はだいたい八十年を生きていたとは感じさせない若さを持ちながらもその命の灯火は消えそうになっていた。
ポツポツと思い出を語りながら、この極寒の土地で生き抜いた彼女はサブローの墓の前で静かに安らかに眠りについた。
三度目の感覚にとても嫌な気分になった。
開くはずのない瞳に、彼女は白い空白の空間をうつしどした。
そこにたっていたのは二度目の会合となるあの男。
私を転生させている張本人である
今回は彼女が話す時間はなく、ただ送り出すだけにいるようで、簡潔に言葉を紡いできた。
「やあ!湿っぽい感じで来たようだけど……今度はね……〇〇〇〇にいってきてもらうよ!」
何処の行くの!?聞こえなかったんだけど!!
そんな心の叫びは軽く流されて、また目を開いたのであった。
それではまた次回
次はとある船です