かなり苦しい周回イベかと思われましたが、眼鏡は何とか取れました。
これでみんなもアマゾネスドットコムの仲間入り。
そんなこんなで満足しているうちにバレンタインが終わり、キュケオーンが終わり……。
あれよあれよとどんどん遅れてしまい……まぁ遅くなるとは言いましたが、限度はあると思ってます。
サーセンでした。
更新はゆったりと頑張ります。まったり待って、ね!
かつて存在した、記憶の奥底。
地獄を見た。
地獄を見た。
地獄を見た。
自分が作り出した、地獄を見た。
焼き尽くされ、ボロボロに崩れ去った都市を、幼い少年は歩いていく。
少年は涙を流していた。黒い雲から降りしきる雨は、そんな少年の胸中を見透かすようだった。
「ごめんなさい」
そう小声で呟いた。
「ごめんなさい」
流れる水のように止まらなくなった。
「ごめんなさいぃ……!」
嗚咽交じりに、絞り出すように叫んだ。
立ち上がってよろよろと歩く足取りは、鉛以上に重く。
髪を腰まで伸ばした少年を、私はただ見ているだけしか出来なかった。
「ここは一体……?」
そんな疑問に答えてくれる人間はいない。
だが、なんとなく遅れて理解してきた。これは誰かの夢だ。
聞いたことがある。
繋がりが強くなればなるほど、その繋がりの召喚者の過去が走馬灯のように映ると。
私が手を伸ばしても、生気のない彼には届かない。
幽霊のようなものだろうか。干渉はできない。
「●●●」
名前を呼ばれた少年はこちらを振り向いた。
「ま、マスター……?」
私はその目に既視感を覚える。何処だったのか覚えてはいない。
だが、私はこの目を知っている。
次の瞬間、私の身体をすり抜けて黒いモノが通り抜ける。
その人物には見覚えがあった。
「とう……さん……」
「手を見せろ。手当をする」
東条斬人。
そんな彼がこの夢の中にいる。
……しかし、近くにいる少年がマスターならば東条は十何年か若いはずだ。現在とほぼ姿かたちが変わっていない。
少年の右手に空いた穴と噴き出す血を気にする事なく、黒い執事服から医療具を取り出し東条は少年を治療した。
まるでその程度の傷は問題ではなく、単純に血で汚れるのを防ぐ為の治療であるかのように。
東条は少年に言い放った。
「躊躇ったか」
少年がはっ、と息を止めたのが分かった。
図星であったのが当然かのように東条は続ける。
「彼らは一種のテロリストだ。破滅願望を他人にまで押し付ける連中に情けはいらない。狙われるのならば、生きる為に抗うのは当然の本能だ。自身の命を賭して何処かの馬の骨を拾うくらいならば、見捨てた方がいいのは明白だ」
「でも、殺したくなかったんだ」
少年はまた泣いた。
「お前にはそれしか方法が無かった。そして、それ以外の方法を知ろうとしなかった。それだけの事だ。だが、お前が解決したことに変わりはなく、相手は……ただ当然の帰結に落ち着いただけの話だ」
その言い方は力不足を指した冷淡な言葉に見えた。
だが、その裏には不器用な優しさがある気がした。
お前に責任はない、と。
私がそうさせたのだ、と言外に言っていた。
「でも俺が殺した!! 俺の手で!!」
「勘違いするな」
東条が僅かに激昂する。その発した言葉はとても重く、冷たいものだった。
「お前は自分の手を汚し、弱き人々を助けた。だが、お前が百人を殺したのなら、同時に万人を救ったのだ。それは忘れてはならない」
「でも、殺したいわけじゃなかった!!」
「……そうか」
東条は目を細めた。
「あんたに全て任せておくべきだったんだ!! あんただったら……おれは……っ!」
「もし私に全てを託していたならば、この国の人間は全て死んでいただろう」
「……!?」
信じられないものを見る目で少年は東条を見た。
「私に全てを救う力は無い。今回の場合は時間が足りなかった。おそらく……間に合わなかった。一人で全人類を救う人間などがいれば、それは神をも超えた存在なのだろう。お前がいたから、ここに助かった命がある」
「でも……俺は……」
「当然、お前にも限界がある。これから行く先、取りこぼすモノもあるだろう。そこから何を選ぶかは……お前次第だ」
「でも、俺はッ!! みんなを助けたかったんだ!! ……正義の味方になりたかった!!」
少年は、力の限り叫んだ。
東条は言葉を重ねる。
「正義とは確かに正しい行いだ。だが、それが自分に都合の良い結末になるとは限らない。ここの状況下で言うのならば、お前が助けたいと願ったテロリストや、助けて欲しいと願う人質をも皆殺しにする。それも正しい行いの答えの一つだろうな」
「なっ、待ってくれ! お、俺はそんなつもりで言ったんじゃ……!?」
「正義の形など人それぞれだ。だが、時代や国によって意味が変わるものの味方なんぞになりたいなどとほざくには、貴様はまだ若く、世界を知らなさすぎる」
「ぐ……」
東条と少年は雨に濡れ続ける。
既に何人もの人が行き交い、助け合っている道の真ん中で二人は互いを見つめ続けていた。
「主を見つけろ……●●●」
「え?」
「誰よりも優先出来る誰かを見つける事だ。配偶者でも、友人でもいい。仕えるに値した人と出会うといい。出会えば、次第に自分の望む道は定まる。故人の教えでもいい、出会う事こそが肝要なのだから」
「なんでそんな事を……」
「人間は、一人では強くなれない。例え、私であってもだ」
「……!? 父さんも……そうだったのか?」
「ああ。その人と再会した時には……彼女は既に人間として壊れていた。だが、その人のためならなんでも出来ると思った。元通りとはいかなくとも、救うことが出来た。恩師であり、人生であり、切っても切れぬ関係だった」
「そう……なんだ」
私は、二人をただ見ていた。
「私の、母だった」
「えっ、母さん……?」
「そうだ。私のために『生きろ』と願ってくれた。だから私は後悔のないように、幸福に生きるために、この世界に存在している。たったそれだけの事だと思うかもしれないが、それが私の始まりだった」
空が次第に眩しくなり、少年は腕で日光を遮る。
雲の切れ間から太陽が覗いていた。
そうか、彼は……。
「俺も、会えるのかな」
「会える。断言しよう」
少年は手当された傷を強く握った。
彼の頭上は、七色に輝いていた。
「もし、お前を導いてくれる人間が現れたなら、言っておかなければなるまい」
私はその言葉に反応する。
ここは夢の中。認識できるはずもない。東条はこちらを知らずに言っているはずだが、私は何故か自身に向かって呟いているのを確信していた。
「何を?」
「息子をよろしく頼む、とな」
私は首肯でのみ返した。
声も、姿も、動きも感じないはずだが。確かに父親は美しく微笑んだ。
さぁ、今できる事をやって来なさい。
そう言って、東条は少年を見送った。
駆け出した少年は、負傷していた右手を握りこんで胸に当てた。
例え迷いながらでも、力不足であろうとも、進もう。
そんな決意がそこにあった。
小さな少年を見つけた人々は、涙ながらに感謝を少年に向けていた。
私は直感する。
ヤマトと呼ばれる少年はこの日、正式な書類上にて絶縁されたのだ。
東条としての名を捨て、自分の道を切り開くことになる。それが、自分の中にのみ存在する幸福に繋がると信じて。
目が醒めてしばらく。
無性に、昨日東条から渡されたアルバムを見てみたくなった。
ヤマトとの他愛のない毎朝の一悶着を軽く受け流し、聞いて昨日東条が置いていったアルバムを開く。赤ん坊の頃の写真なども気になるが、もっと気にかかるのはあの黒髪の少年だ。
裏側の最近の写真から見て回る。
「あっ」
見つけた。夢で見た通りの写真。
たった一枚だけ、長い黒髪をなびかせている。
幼い覚悟を持った少年がそこにいた。
「貴方は、まだ道の途中なのだな」
「んー?」
ヤマトと目が合う。
調理場でせっせと朝食の用意をしているヤツが、もともとはあんな世間知らずだった少年だと思うと。
「なんか言ったか?」
「いや、何でもない」
もし、まだ導く者が。彼に主と呼べる人間がいないのなら。
しばらくは、私が教えよう。
……それが、お前の望む形かは分からないが。
これでも、貴様のサーヴァントだ。うむ、仕方あるまい。
私はアルバムを閉じ、もう一度始めから遡って写真を眺めることにした。
▽▽▽
バーサーカーの短剣片手に飛翔する。
アンノウン・アーチャーは既に宝具開放間近だ。しかし、なんとか同じ高度に到達した。わざわざバーサーカーに投げられた甲斐があったな。
これで、ほんの少しの逡巡。隙があるはずだ。
あの槍の火力がどこまであるかは知らないが、腕部分の噴射で加速力を高めるということは、だ。
爆発力よりも貫通力が重点に置かれている宝具だ。衝撃は当然凄まじいだろうが、攻撃範囲はそこまで広くないと予想できる。
ならば、やり方は無茶苦茶でも物理的にバーサーカーと離れられたならばあの一発だけの投擲。必然、どちらを狙うかの二択が必要になる。その思考する数秒が俺たちの行動できる命の時間だ。もし、想定外の行動だと驚愕しているならばヤツの硬直時間はさらに増えるだろう。
これを思いついたのは、無数の鎖が張り巡らされている割には、空に浮かぶアンノウン・アーチャーの姿が容易に目視できていることに気づいた時だ。
あの黄金の鎖は上空よりも前後左右に多く設置されていた。サーヴァントはともかく、ただのマスターでは逃げられないようにだろう。その油断を突かせてもらった。
「と、思ってるだろ?」
「何だッ!?」
照準は既に定まっていた。
俺の方向に。
「サーヴァントなんざマスターがいなければどうとでもなる。それ以上に脅威なのは、人間でありながらサーヴァントに渡り合えるテメェだ。……ヤマトだったか?」
「あばよ」
アンノウン・アーチャーが放った
「再び令呪を持って命ずる、バーサーカー踏み台になれぇ!!」
「へ? ニ"ャァッ!?」
「オォラァッ!!」
バーサーカーの頭部を踏み抜いて跳躍した俺の股下を。
音速で通り抜けていった。
「嘘だろ!?」
「ところがどっこい!」
前方への跳躍だったために、アンノウン・アーチャーとの距離も詰まっていく。
アンノウン・アーチャーが瞬時に右手を向ける。その黒い右手から金色の結晶が現れた。
刹那、その右手にバーサーカーの短刀が刺さる。
腕に収束されていた結晶は脆いようで、即座に砕けて霧散した。
投擲はお前だけが上手いわけじゃない!
「うおおおお!!!」
「……くそっ!!」
手を手刀の形にする。
その右手は今より、全てを断ち切る刃となる。
その構えから放たれし指先から、刃に滑って流れる剣光が見えた。
其の心は不動、さりとて自由でなければならず–––––––––。
––––––––今一時の剣客は新陰流、無念無想の境地へ至る。
「ふっ」
小さく短い吐息を最後に。
その袈裟斬りは、投影され守りに徹した剣をも寸断し。
肩から胴体に目掛け、その一刀のもとに切り捨てた。
「ぐあっ……!」
すれ違った背後からは、口から血と共に息を吐き出したアンノウン・アーチャーが墜落していく。
重力に従い、一瞬の浮遊感を最後に体が墜落を始める。
「バーサーカー、着地任せた」
これにて、冬木大橋でのアンノウン・アーチャー戦。
決着。
「ケガは?」
「踏まれた頭が痛いな」
「大丈夫なようで良かった」
踏み台にされたことにかなり根を持たれているようで、にらみを利かせた目線を避けるのに精いっぱいである。あと少しで死ぬとこだったんだ。許して。
だが、見たところお互いに大したケガはない。大規模の魔力消費もない。
こちらの損害はほぼほぼ無いと見ていい。令呪二画と莫大な疲労を除いて。
「……ぁぁああつかれたもうやだつらいっ!! もう一歩も動かないぞう!!」
「何を言っている馬鹿者」
「だってこんなエンカウントバトルが起きるなんて思わなかったしぃ」
「そう、そこだ。なぜこんなことになった!? 貴様はトラブルしか起こさないのか!?」
「詳しくは知らん。騒ぎを聞きつけた時にはディルムッドはヤツの所為で消滅していたんだ」
「な、消滅……だと……」
「最近噂になっていた、サーヴァントの襲撃事件の犯人で間違いないかもしれないな」
驚くのも無理はない。お前、夕方会ったフェルグスの話無視してたもん。そもそも事件自体が初耳だっただろうに。
「んじゃ、そろそろ目覚めてるかね?」
そう言って襲撃者、アンノウン・アーチャーを見やる。
「ああ。精々情報を吐いてもらうとしよう。……マスター、なぜ来ない?」
「一歩も動きたくない。疲れた」
「一歩も動けなくしてやろうか?」
「わー、ぼく元気になったよー、不思議っ!」
「下らんこと言ってないで来い」
気の抜けるような掛け合いも程々に、襲撃者に近づく。彼はすでに目覚めており、胸の切り傷を押さえていた。
斜めに切られた刀傷が目立つが、実は見た目ほど深刻な傷ではない。ダメージはかなりあるだろうが、回復さえすれば死ぬ事はないはずだ。
「よう。加減はしたが、大丈夫かい?」
「ああ、おかげさまで最悪だクソヤロウ」
「元気そうで何よりだ」
会話成立。動けない代わりに舌戦に切り替えるつもりなのだろう。
こいつにも何かしらの打算はあるだろうが、逃げるという選択肢は取らないようだ。これならある程度の情報なら落ちるかもしれない。
「ふむ。手っ取り早く拷問するか」
「おっと怖いな。でも見ない顔だな。こいつもサーヴァントか?」
「サーヴァントだ。でもそれ以上は質問に答えてからだ」
「そうかよ。……まっ、しゃあねぇか。こっ酷くやられちまって、トドメ刺されないだけでも有難いかねぇ」
息を整え、アイコンタクトを送る。レイアにはいつでも行動出来るように知らせ、彼女も頷いた。
「まず……この結界だ。どこで手に入れた?」
「そういえば戦う前に妙な事言ってたなお前。俺たちのもの、とかよ」
「東条家で研究されていた魔術結界の一つだ。敵魔術師から召喚された使い魔の隔離、逃走防止を目的とした対魔術式召喚獣の各個撃破戦術用に用いる結界だ」
「へぇ……じゃあ欠点も知ってんのかい?」
「サーヴァント以外ならば入ることも出ることも容易という点。例えば、マスターが侵入してからの令呪によるサーヴァントの強制転移で、サーヴァントを結界内に入れることも可能ということになる。逆もまた然り。高速移動とかならまた別の話だがな」
「大正解だ。本当に東条の人間みたいだなアンタ。かっこつけて殺そうとしなきゃよかったぜ」
「で、だ。これの出処は?」
「もらいもんだよ。目的や用途はそのまんま。ありがたく使わせてもらった」
ギリッ、とレイアが歯を剥き出しにした。
「次だ。この襲撃はこれで何回目だ?」
「初めてだよ」
「嘘だな、すでに行方不明者が出ている」
「……は? いや、そんなはずはないだろ」
「貴様、白を切るか!?」
レイアが激昂した。というか、周りを見ていて欲しいんだけど……。まぁいいや、俺も周りを見ながら尋問しよう。
「落ち着け。現にサーヴァント内で噂が出る程度には知られている。お前じゃないのか、アーチャーとやら?」
「通りで捕捉が早いとは思ったが……」
「お前の仲間ではない……か。第三者か裏切り者の可能性があるな。次だ」
アンノウン・アーチャーが思案し始めて脱線したので、早々に切り替えさせる。今は考えてもらう時間ではない。
「何が目的で、その結界を渡したのは誰だ?」
「は?」
そこで、初めてアーチャーは間抜けな声を出した。
「何言ってんだ? とぼけてるのかお前? まるで、東条の人間なのに知らないみたいな言い方しやがって」
「東条の人間なのに、だと? どういうことだ」
「目的は……まぁ、私的な八つ当たりだ。そこはどうでもいいとして、アイツとは利害が一致してるから組んでるだけに過ぎないが……。お前はスパイじゃないのか?」
「スパイだと? 何の話をしている!?」
「お前は東条斬人とどんな関係なんだ?」
時が止まったかのように感じた。
その事実はあまりにも。重かった。
「な、なんだと……キリヒトが!?」
「マスターの父親が……関係しているだと!?」
「待て、父親だと? どういうことだ!?」
三者三様に困惑の雰囲気が漂う。
俺は言葉を発せないでいた。
その名が今出てくるということはつまり。
こいつの後ろにいる黒幕がその人物ということ。
まさか。なぜ。
数々の思いと感情が揺れる。
そんなわけがない。だがしかし。
(なんでキリヒトがサーヴァントたちと敵対関係になる? 理由が見当たらない。英雄の存在が不都合になる……? それなら、そもそも英雄達が集まる建築物が開発されている段階で動いているはずだ)
レイアがアーチャーに問いかける。
「そもそも、貴様の言うアンノウンとはなんだ?」
「ん……ああ。さて、なんだと思う?」
「……貴様のような見たこともない人物が召喚されることに関係があるのか?」
「おっと、いい筋いってるじゃねぇか。いかにもな脳筋ゴリウーマンサーヴァントにしてはな」
「殺すか」
「おっと、怖い怖い。……味方かもしれないやつを殺すのかよ?」
「味方だと?」
「そうさ」
そう言って、上体のみを上げていた体勢から完全に立ち上がるアーチャー。彼にはもう戦闘の意思は無い様だった。
「サーヴァント、お前たちは俺の敵だ。それは今も変わらん。すぐにでも殺したいし、殺せる用意はある。だが、お前のマスターは違う。そいつは東条の人間だ」
「東条……か……」
「そいつの選択は二つ。俺を殺し、東条斬人を敵に回すか。それとも、お前を裏切るか、だ」
「……な!?」
「もちろん、お前ごと寝返ることもできるけどな。選択次第で俺たちの関係は大きく変わる。おい、まさか蝙蝠男になるつもりがあるならやめておけ。あの野郎を父親に持っているなら実力は知っているだろう。だが、お前たちサーヴァント側にも同じレベルの黒幕がいる。中立は考えないほうがいいぞ」
「黒幕、だと……?」
「アーチャー、そいつがお前の目的なのか?」
「そうだ、ヤマト……だったよな。大正解。俺はそいつを殺すために召喚に応じた、なんて言っても間違えてないぐらいにはな」
「そいつは一体……」
誰なんだ、そう続けようとしたところで「マスター」とレイアが呼んだ。
「どうした」
レイアは答えない。が、警戒の目を離さないでいた。
同じ方向に振り返る。
人。人。人。
英雄ではない、大量の民間人の集団が俺たちのいる冬木大橋に向かってきていた。
「囲まれているぞ」
「……みたいだな」
冬木大橋の両端から、俺たちのいる中心部へ群体は迫ってきている。
言葉を少し掛け合い、自身のサーヴァントと互いに背中を守りあう形に立つ。
「すんませーん。俺たちに何か用ですかー? 皆さん、そこは車道ですよー! 交通ルール守らないと轢かれますよー!」
呼びかけをしても反応なく、ただ向かってくる。
まるで、人ではないかのように。
「誰も聞いてくれないようだぞ、マスター」
「なんでだろうな、こいつらもしかしてゾンビか?」
不意に、何かが俺にめがけて飛んでくる。
難なくそれをつかみ取って確認すると、それは包丁だった。
アンノウン・アーチャーが軽く笑って俺に近づく。
「お前の中じゃあ、ナイフ投げてくる利口なやつもゾンビって認識なのかよ?」
「やかましい。アーチャー、こんな人数に狙われるって事は……もしかして相当な重罪人だったりするのか?」
「馬鹿言え、なんで俺が狙われてる前提なんだよ。お前かも知れねぇだろ」
「いや、ここにいる我ら全員に敵意を放っている。一人を差し出したところで意味はないぞ」
「おいそこのサーヴァント? さらっと俺を生贄にしようとしてなかったか?」
「アーチャー、ふざけている場合か。死にたいのか?」
「なんで俺だけ注意されんだよ!? お前のサーヴァントの所為だろぉ!?」
喋っている間にも、ゆっくりと包囲されていく。彼らはホームセンターからかき集めたかの様な得物や、包丁やハサミまでの小さめの武器まで見える。
アンノウン・アーチャーが頭を掻きつつ、懐から警棒を取り出す。
瞬間、アーチャーの肌が日焼けのような小麦色に変わり、左手に持った警棒が変化し、
「まぁいいけど。おい、東条ヤマト! ここを切り抜けることに関してなら利害は一致している。生き残る為の共同戦線と行こうじゃねぇか!」
「東条じゃない、ヤマトが名字だ。……是非もなし、ってヤツなんだろうが、なぁ……。大体、令呪で逃げれるだろう、お前は」
「こんな早朝に起きてられるほど、不摂生なマスターじゃないんだよあのお嬢様は。今頃、サーヴァントのピンチにすら気付かずにぐっすりなんじゃねぇの?」
「ふっ、そうか。……足引っ張るなよ」
「言ってろ」
俺の隣で、右手から炎の結晶を生み出してアーチャーが構える。
それとほぼ同時に、前衛の冬木住民が一斉に走って向かって来る。
「オオオオオオッ!!」
後ろのレイアが、世界に咆哮を響かせる。
俺たちも負けじと口を開けて叫んだ。
「その首、斬り落とされても構わねぇよなぁ!」
「死なねぇ程度に吹き飛ばすぜぇ!」
【現在公開可能な情報】
アンノウン・アーチャー
【出典】『英雄育成の為に狩られる腕の裏話』
【属性】秩序・善
【性別】男性
[ステータス]
筋力 D -
耐久 E
敏捷 C
魔力 A
幸運 C
宝具 EX
ディルムッドを襲撃したサーヴァント。見た目は好青年だが、どこかの制服らしい白い服は所々裂けており、ボロボロになっている。特に炭の様な右腕に輝いている無数の光の線が奔っているのが特徴として印象的。
武装は主に投影魔術と思われる。故に使用する武器は多岐に渡るが、エミヤの投影魔術と決定的に違うのは、真名解放して宝具を使用できる点である。この魔術を使う際、使用する宝具によっては持ち主の特性を受け継いでいる場合がある。
また、黄金の鎖はどの様な形態でも使用できるらしく、アーチャーの数少ないオリジナルの兵装である。
やや粗野だが情に厚く、仲間と認識した人物とは例え裏切られたとしても敵対することを避ける傾向がある。