Fate/箱庭の英雄達   作:夢見 双月

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今回はっ!
早めにっ!
投稿っ!
出来たーっ!(嬉しい)

……まぁ、やる事無いんで筆が進むだけなんですが。

まだクリアしてない異聞帯のサーヴァントをゲットすると、どう扱えばいいかわかんなくて困るよね。


輝ける弓兵、空を舞う。

 脳天に襲い掛かる鎌を片手で受け流し、腹部に一撃を打ち込む。

「うぶっ」と、動きを止めて呻き声を漏らす人間の顔面を、容赦なく掌底で殴り飛ばした。

 

「安心しろ。峰打ち……いや、当身程度に加減しておいてやる」

 

 そう声をかけて数瞬、背後の人間の顎に回し蹴りを掠らせる。瞬く間に脳震盪を起こし、力なく膝をつき沈んだ。

 

 周辺ではレイアとアンノウン・アーチャーがそれぞれ殺さないように、次々と市民を無力化している。これはあくまで彼ら冬木市民が操られていると想定しての対処だ。冬木市本来の治安維持勢力–––––例えば警察––––との諍いが起きたならば、指名手配や強制連行の後に拘束など戦闘の後に悪影響を及ぼしかねない。あくまで正当防衛に留める事が、三人で一致した意見である。

 しかし、これらは時間の問題だ。このままでは疲弊し、数の暴力に押しつぶされるだろう。余力こそ、それぞれが温存しているのは頭の片隅には置いているが、その余裕を続けていられるとは到底思えない。

 

「どうする!? このままではキリがないぞ!」

「全然減らねぇな! というか、さっきから倒した奴らは何処に行ってんだ!? 気づいたらいなくなってるぞ!?」

 

 レイアの焦った声と、俺の疑問の声が戦場に交差し響く。

 アンノウン・アーチャーが答えるように推測を叫んだ。

 

「おそらく、転移しているんだ! ヤツが俺たちを認知してこいつらをけしかけているみたいだな。魔術かは分からんが、ヤツは兵を円滑に運用する手段がある!」

「ヤツって、サーヴァント側にいる黒幕ってヤツか!?」

「それ以外に誰がいるんだ! くそっ、邪魔だ!」

「騒ぎを起こすな、なんて言われてたんだがなぁ!!」

 

 アーチャーは悪態をつきつつ、例の火の玉で市民の得物を吹きとばした。

 その近くでレイアが一人の腕を掴み、力任せに振り回す。

 

「おおおおおおお!!」

 

 レイアによってアーチャーとは逆方向に投げ飛ばされた男は、そのまま飛んで行った先の集団を巻き込んでボウリングのように倒れていく。流石は英雄。一騎当千の活躍で体勢を保たせている。

 そんな中、不意にアーチャーが膝をついた。

 

「ぐぅ……!?」

「おい!?」

 

 アーチャーの服に赤い染みが広がっていた。僅かにだが吐血もしている。

 先ほどの俺との戦闘でダメージが蓄積されていたのだ。肩から脇腹まで一直線に通った袈裟斬りの傷は致命傷ではなかった。だが、浅くはなかった。

 敵が迫っているのに、その場から動けない。

 

「くっ、しまった……!」

「そのまま屈めアーチャー!」

 

 矢継ぎ早に言い放ち、周辺の敵を振り払い駆け出す。

 俺の動きに気づき、レイアも動く。俺の足を掴もうと這っていた女の手を蹴り飛ばし、俺に覆いかぶさろうとする数人の人間をまとめて受け止める。

 

「ふぅぅぅ……っ! ……ダァッ!!」

 

 レイアは集団を押し留めると、大きく息を吸って吐き出す。刹那、一気に膨張した筋肉が周囲の敵諸共押し込んでいき、さらには吹き飛ばした。

 

 レイアのお陰で無事に到達。アーチャーに殴り掛かろうとする巨漢はアーチャーを挟んで対角線上。その胴体を視界の中心に捉え、前に跳躍する。

 膝をついたままのアーチャーの背中を転がり滑るように前宙し、その勢いのままドロップキックで蹴り抜く。槍の如く鋭い蹴りは巨漢の喉に突き刺さり、倒れた内にしばらくして転移で消えていった。

 

「……助かった」

「礼なら後だ。戦えるか?」

「正直に言えば、保って十数分だ。もう少し手加減してくれても良かったろ、馬鹿野郎」

「減らず口が言えるなら、まだイケるな?」

「怪我人に無理させんなこの野郎! ……どうする?」

「俺たちには移動に役立つ手段は持ってない。出来て時間稼ぎだ。お前が何も出来なきゃ……このまま消耗して詰みかもな」

 

 アーチャーが薄く笑った。

 

 

 

「『ある』……そう言ったら、守ってくれるのか?」

「この共同戦線、言い出したのは……お前だろ」

 

 

 

 

 今更、利害関係がどうだなどと言っていられない。アーチャーに関して、俺の見立てでは信用は出来ないが信頼は出来るはずだ。敵か味方かは判断出来なくとも、今この状況で裏切るような男には見えない。今までの攻防から垣間見ただけに過ぎないが、今この時ばかりは彼を見る俺の眼が確かであると信じるしかない。

 アーチャーの剣が突如、ただの警棒に戻っていく。肌が白く変わっていき、眼の色が翡翠に変化した。

 数秒後、アーチャーの全身から穏やかさを感じさせる魔術回路の光が流れ、徐々に光っていく。

 そして、右腕の模様であった魔術回路に類似する形の溝が黄金に輝き出す。

 

 

 

霊装投影(フルトレース)––––––」

 

 

 一小節の詠唱。

 

 たったそれだけの言葉が、見知らぬ弓兵(アンノウン・アーチャー)の全てを変容させるキーであり。

 

 

 

「––––––開始(オン)

 

 

 それのみが、彼の英雄たる全てである。

 

 

 僅かに肌の色を白くした後、髪が急成長したかの様に長くなっていく。そして、頭から先端へ流れる様に髪色が紫色への変化した。

 

 目元にはいつから着けたのか、赤紫のバイザーを装着していた。

 

「血なら、胸元にパックリとあるぜ。悪いが仕事だ、出てきな!」

「マスター!」

 

 レイアが俺に叫ぶ。アーチャーの近くにいるのは危険であると。その意思も汲み取った俺はレイアと同じ方向に向かいながら、その場を離れる。

 

 次の瞬間、背後から閃光が走った。

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)––––ッ!!」

 

 空を駆ける天馬。ペガサスが鉄橋から飛び出し、上空へ飛び立つ。

 風が吹き荒れ、冬木市民達が織りなす波も揺れ動いた。

 

 しばらく吹き荒ぶ強風に目を閉じていたが、目を開けるとアーチャーの姿はなく、ペガサスによって押しのけられた広い戦場が目に映った。周りを見れば、吹き飛んだものの体勢を立て直した市民達が再び俺たちの息の根を止めようと再度動き出す。

 橋の上の戦場。依然囲まれたままの俺とレイアはその中心に陣取る。

 

「こいつら蹴散らして拾ってやるよ! 空なら追ってこられねぇだろ!」

 

 そう言うのは、上空で天馬に跨がって手綱を捌いて静止するアーチャーだ。

 

「待てっ! 突撃するつもりか!?」

「お前らを狙う気はねぇよ!」

「違う! 冬木大橋が壊れるだろ!? 俺たちを川に埋める気か!?」

「じゃあどうする!?」

「速度下げて捕まらない程度に回収してくれれば良い! すれ違いざまに拾うんだ!」

「どうやって拾えばいいんだよそんなの!」

「俺らが飛べば、手くらいは掴めるだろ!」

 

 跳躍ならば、先程のアーチャーと戦っていた時にもやっている。跳ぶ、というよりは投げられる、なのかもしれないが高さは十分だろう。

 

「あぁ、なるほどな。良いぜ乗ってやる。上手くやれよ……!」

 

 そう言ってペガサスを切り返し、アーチャーは準備の為に遠ざかっていった。

 

「レイ……いや、バーサーカー。先に行ってくれ」

「……いいのか?」

「アイツよりもお前の手で拾ってくれた方が安心だろ? それに……」

「それに?」

「さっきから疲労が溜まってきてる。戦闘はまだ出来るんだが……、至近距離じゃ流石に悟られる。そこまでの隙をアーチャーに見せる気はない」

「分かった」

 

 レイアはそう短く返すと、橋へ垂直にペガサスが向かってくる。

 

 市民の耳には聞こえていたのかいないのか、俺たちに走って向かってくる者もいればゆっくりと間合いを詰める者、アーチャーに対して投擲している者がいたりとまばらな対応をしていた。

 

 それらの襲撃に応戦し、投げ飛ばしながらもペガサスに跨がるアーチャーを見やり、タイミングを計る。

 

「今だ、バーサーカー!」

 

 合図を送る。

 バーサーカーがこちらに向かって来る。それを見てすかさず敵全体と距離を取りつつ両手を合わせて構える。

 

「うおおおおッ!!!」

「おおおぉっらァッ!! 

 

 雄叫びと共にレイアは俺の手に足を掛けて跳躍を、俺はレイアを上に押し上げた。

 ペガサスと交差する瞬間、レイアが視界から消えるように連れて行かれる。どうやら成功したらしい。その確証がないのは、見られる程の余裕が無くなったからだ。

 

「くそっ、こいつら……!」

 

 頬に木刀が掠める。さらに、横薙ぎで繰り出される剣撃を回避する為に屈んだ途端、木刀は木片となって砕ける。

 俺を背後から、いかにもな作業員が俺の頭部を破壊する為にハンマーを振り回し、前方で振っていた市民の木刀とかち合ったからだ。

 ハンマーの柄を手刀で切断し、転がる様にして距離を取る。切断された得物を捨てて襲いかかる二人をそれぞれカウンターの様に拳を打ち込んで行く。

 

 そうしている内に、先程よりも高度を下げて突進してくる存在が横目で確認できた。勿論、飛翔して向かってくるのならば十中八九ペガサスだろう。

 

「来たか! ……ッ!?」

 

 助走を付けるために足を踏み出そうとして……引っ張られる。

 細身の男が右足首を両手で掴んでいた。僅かに足を取られる。

 

「しまった!?」

 

 上を見ていた一瞬の隙を突かれた。

 素早く裏拳を顔面に振るって昏睡させるが、そのワンテンポの差が戦況を分けた。

 

 周りを囲んでいた人間達がさらに手を伸ばし、拘束されていく。

 ついに、上から覆い被る人々に対して唯一まだ扱える片腕で防ぐように構えるが、そのまま抱え込まれていく。やがて光が遮られ無くなっていく。

 

 それでもなお人々は肉の塊に飛び込み、大きな人の山となって聳え立った。

 

 

 ▼▼▼

 

 

「マ、マスター!」

「行くな! 対軍宝具も持っていないサーヴァントが行っても、無駄に被害を被るだけだ!」

「だが、マスターが……!?」

「分かってる。突撃して諸共吹き飛ばせたらもしかしたら……まだ無事かも知れない。だが、やるにしても速度が足りない。一度戻って加速させるぞ」

「ああ……」

 

 私は苦虫を噛み潰す思いで首肯した。

 これは彼の心配性が裏目に出た結果だ。サーヴァントであるなら、何よりもマスターの安全を優先させるべきだった。しかし、だとしても目先だけでなく二手三手先を読もうとしたマスターを大きく責められるわけではない。アーチャーは決して味方と決まったわけではないのだから。そんな状態のアーチャーに助けてもらわなければならない今の状態にも嫌気がさすが、今はマスターが助かる方法を考えなくてはならない。

 一度翻して再び上空に向かうアーチャー。

 

 まだ生きているのか。それとも。

 マスターが常人よりも戦闘面で優れているのは知っている。アーチャーとの戦いでもそのポテンシャルは大きく、私はサポートしていただけだった。だから、たった一瞬の油断であっても敗北につながるミスをするとは私にはどうしても思えなかった。

 

「……ヤマト」

 

 呟いた言葉に含まれているのは自身への後悔か。他の感情さえも混ざっている気がした。

 

 不意に。

 小さな予感が耳を掠めた。

 

「おいアーチャー」

「どうした?」

「何か、聴こえないか?」

「……聴こえる? どこから?」

「マスターのいる場所からだ。何か聴こえてくるぞ……!」

「……分からない。どうする」

「近づいてくれ!」

 

 アーチャーは手綱を握り直し、冬木大橋の中心へ向かう。

 アーチャーの背中から覗いて見れば、人間の山に不可解な変化が起こっていた。

 

「マジに何か聴こえてくるな……? なんの音だ?」

「見ろ! 奴等が()()()()きている!?」

「見ろ、つったって目隠ししてるんだから分かるわけないだろ!? まさか、暴徒共に何か魔術的な変化が起きてるのか!?」

「いや……その様な変化は見受けられないが。むしろ、その……変化を抑え込もうとしているかの様な……」

「抑え込む? 暴徒らが? ……って、嘘だろ?」

 

 

 

 

 

「いや」

「まさか」

 

 

 

 

「––––––––––––」

 

 

「そんな」

「馬鹿な」

 

 

 

「–––––––––オラオラ」

 

 

 

 

「あり得るのか……!」

「マジかマジかマジかマジか……!?」

 

 

 

 

「ォォオオオラァァァァアア」

 

 

 

 

「マスター!」

 

「シャァァァァラァァァァアア!!!!」

 

 

 肉で覆われた山が、爆ぜた。

 

「ぎゅいっ」

「あがぁ」

「ちょもごめすっ」

 

 奇怪な断末魔をあげて、次々と空中に吹き飛ばされる市民に唖然となるのを止められない。

 アーチャーが叫んだ。

 

「まさかッ、ひたすら殴り続けて集団の包囲に競り勝ったのか!? 全てを吹き飛ばす程の爆発力(パワー)でッ!」

「マスター!」

 

「ハァッ、ゼッ、ハァッ……。正に『無駄無駄』って感じだな。おい、迎えはまだか?」

「行くぞぉ! 脳筋サーヴァント!」

「分かっている!」

 

 

 明らかに喜色に染まった二人を乗せ、ペガサスはヤマトに向けて空を駆ける。

 加速は必要なく、むしろ迎撃が来ないようにアーチャーが速度を調節し始めた。

 

「バーサーカー、細かい指示は頼むぜ! ある程度の位置の把握は出来るが、視覚に頼れねぇ分慣れねぇんだ!」

「ならばその眼帯を外せばいいだろう!」

「外したらテメェら石になるんだよ! こちとらメデューサだぞ!」

「角度が急過ぎるぞ! 激突したいのか貴様は!」

「早く言えよそれ!? 降下するぞ、舌を噛むな!」

 

 マスターはまだ遠い。

 起き上がってきた残りの集団や、新たに現れた増援を前にヤマトは応戦を始める。

 

 遠い。

 徐々にヤマトを囲う人数が多くなってくる。その尽くを打ち払い、蹴散らす。

 

 段々と近づいてくる。それに伴い僅かに速度が上昇する。

 ヤマトが一人の脚を掴み取り、その剛腕で振り回す。周囲を巻き込み、数秒の猶予が出来た。

 

 後もう少し。

 ヤマトは背広を着た男の腹部に一撃を加え、蹲った背中に足を置き、限界まで跳躍した。

 

 既に自身も手を出している。徐々に双方の手が近づいていく。

 

 

 私は、僅かな指先の感覚のみを握り込み、空を切った。

 

 

 

 ヤマトの顔が、手が、指が遠ざかっていく。既に最高到達点は過ぎ、彼の身体が引力に引かれ始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスタァ!!」

 

 

 思わず飛び出した。馬上から身を乗り出し、ただ前に。

 決して、この人を逃さぬように。

 

 

 その腕を握り込む。

 その顔を胸元から抱え込む。

 この空から墜ちるのならば、共に行こう。

 チカラいっぱいに締め付け、離れないように––––––。

 

「お、おいバーサーカー? お前ってそんな情熱的なヤツだったっけか? 身体が、特に上半身がすっごく痛いんだけど。ともかく、空飛ぶ馬の上に早く上りたいんだが緩めてくれないか……な?」

 

「おーい……! その無鉄砲なサーヴァントの脚を運良く掴めた俺を褒めて欲しいが、その前に早くしてくれねぇか。そろそろ右手が死ぬ……」

 

「バーサーカー!? 話聞いてる!? お前のお陰で助かったからありがとうござい––––––、でもそろそろやばいかなってイダダダダダ骨ガァ──!? 骨がなんかゴリゴリ言ってルゥ──!?」

 

 

 ▽▽▽

 

 

 ようやくペガサスに跨ることが出来たので、上空にいるままこの後の行動を話し合うことにした。しかし、あの獅子奮迅の活躍の所為で二人からの人外を見るような目で見られていたのにはため息が出てしまう。じゃあどうすればよかったんだよ。潰れて死ねってか。嫌に決まってる。

 

 下方を見れば、諦めた様子のない人の集団が手を伸ばしている。そのまま押されて川に落ちていく者、回り道をするために迂回する者、届くはずがないのに手持ちの得物を投げる者など、各々が俺たちを殺そうと動いていた。

 

「さすが、化け物の一族だな」

「誉め言葉として受け取っといてやる。……さあ、どうする」

 

「どちらにせよ、あの建物に戻ろうとは思えんな。サーヴァントを従えている、というのが事実なら組した方がいいと考えるのは当然だが……『仲間になる』といったところで聞いてくれるかは分からん。サーヴァント全機から一斉攻撃を食らう可能性が高い。それでも行くのならそれは蛮勇とも言えん愚行だ」

「市民とはいえ、交渉することすらさせる気がない見敵必殺の姿勢を見せていたのは確実だな。バーサーカーならどう動く?」

 

「すぐに行動を起こすのであれば、話に持っていきやすいキリヒトの方だな。マスターの父親というのもあるが、今回の発端を知っているはず。有益な情報を得られるはずだ」

「俺としては行きづらくはあるがな。縁切られているし。……だがそれに賛成だ。裏で暗躍してるんなら話を聞くべきだし、敵になろうが味方になろうがアイツなら嬉々として歓迎してくれるかもな」

「おい待て」

「なんだよ」

 

 キリヒト側に付く。それが俺たちが打ち出した結論だった。

 レイアはクソ親父に悪い印象は持っていないようで、アーチャーにとっても仲間に引き入れられるという好都合な展開へとなっていた。

 だが、そこに水を差したのもアーチャーだった。

 

「そいつ、バーサーカーなんだよな?」

「「……そうだが?」」

 

 肯定の言葉が重なる。

 

「理性を持っていて、会話もできて、提案を冷静に進言できるバーサーカー?」

「ま、まあな」

「それがなんだ?」

 

 

 

「……バーサーカーってなんだっけ???」

 

「あー……。バーサーカーとは狂戦士のことで、由来が『ベルセルク』からきてるとも言われている……」

「マスター。違う。そうじゃない」

 

 アーチャーが急にうなだれ始めた。よく分からないが、並々ならない苦労がある気がした。……が、見ないふりをしておく。

 しばらくして、仕切り直したアーチャーが口を開く。その目はバイザーで見えないが、明らかに雰囲気が変わっていた。

 

「キリヒトは東京にいる」

 

「そうなのか!?」

「やはりか」

 

「さすがに知っているか」

「まぁな。アジトを変えないのも、アイツの特徴だ」

「ならば、さっそく向かうか?」

 

 アーチャーがレイアに対し、人差し指を立てて見せる。指が近かったのか、少しレイアが顔を引いた。

 

「当然行くにも問題がある。東京へ向かうなら、サーヴァントたちの巣窟のすぐ近くを通ることになる。騒ぎが大きくなっている以上、気づかれていないとは考えない方がいい。何らかの形で迎撃準備がなされているだろう。今その襲撃が来ないのは、単に結界が俺たちを知覚させないようにしてるだけに過ぎない。……あーあ、あの結界がなかったら今頃俺たちは袋叩きかねぇ。嫌な想像しちまった」

 

「結界装置がなかったらどうしてたんだ?」

 

「別に。結界が張れない分確かにチャンスは作りにくいが、似たようなことをしてただろうさ」

 

 互いに少し笑いあう。

 やはり、こういう手合いとは馬が合う気がしていた。

 

 誰かが、息を吐く。

 その次には、冷徹な目に変貌させた三人がここにいた。

 

「いつ、誰が死んでもおかしくはない状況だ。おそらくどうやって結界から飛び出しても追撃は避けられんだろうな」

 

「絶体絶命、というやつか。私にはマスターがいる故、貴様がやられても助けないぞ」

 

「言ってろ。他の戦車には乗り換えずにペガサスのスピードで走り抜けるぞ。こんなんで死ぬ奴は相当運がないアホだと笑ってやるよ」

 

 

 俺たちはこれから、戦場を通り抜ける。

 

 それは唯の戦場に非ず。一騎当千の英雄が待ち構えているのだ。

 

 最後尾にいる俺は後方からの攻撃に備え、体制を変えて背後に向く。

 手が確かに震えていた。恐怖はないのだが、武者震いだろうか。

 

 俺とアーチャーの間に挟まれているレイアの手を握る。

 レイアは気づいていたはずだが、振り向くことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、確かに握り返し、わずかに寄りかかってくれた彼女の熱が。

 

 俺の体にある本能的な恐怖をゆっくりと融かしていったのだった。





次回
『アーチャーのマスター、登場』

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