Fate/箱庭の英雄達   作:夢見 双月

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嬉しいものですね。

ありがとうございます!!


それぞれの結末

 結界は瓦解した。

 不透明な境界が消え去り、世界が露わとなっていく。

 これはアンノウン・アーチャーの意図した事ではない。ふとした事、例えば操られているであろう冬木市民の誰かが運良く起点を破壊した。または、急な突風によって位置がずれ、結界に小さな綻びと共に崩壊を始めたのかも知れない。そんな些細な事がキッカケであった。

 

 しかし、結界の消失と同時に流星の如き光が放たれた様は、アーチャーにとっては侵入並びに脱出が面倒な結界を解除させる手間がなくなって都合が良い反面、結界の外にいた人間にも異常が一目瞭然に察せられる事態であった。

 

 

 

 天馬は空を駆ける。

 その背に乗せるは、主人()()()()。そして、その仲間の白い二人。

 しかし、それとなくいつもとは違うことは天馬にも理解出来ている。

 少なくとも、自身を召喚出来るのは彼女だけである。そう思っている。

 何にせよ「騎英の手綱(ベルレフォーン)」を使用されたならば、騎乗している者の思う通りに動くのだから、天馬は深く考えるのをやめた。

 

 

 

 その手綱を握る本人、メデューサとは似ても似つかない男性のアンノウン・アーチャーは、その顔に冷や汗を垂らしていた。

 

 そして、俺やレイアも汗でなくとも異様な空間に慄き、三様の反応を示していた。俺の場合は息が詰まり、呼吸が僅かばかり乱れていた。

 

「アーチャー。エミヤを視認した」

「私も知ってる顔を見た。狩人のアタランテだ。はっきりとは見えなかったが、動く影も数人いるぞ」

 

 平静に努めて報告を逐次行っていく。

 

「……分かってる。だが何故だ?」

 

 疑念ばかりが募る。

 

「奴等、矢を放ってこないな」

「それどころか、まともに動かずに俺たちを見つめたままだ。気味が悪い」

「どういう事だ?」

 

 レイアがボソリと呟く。

 この光景は、予想とは明らかに違った。確実に殺しに来ると考えていた俺たちとは裏腹に、執念深いモノが感じられない。薄暗い建物の上、公園の木のそば、外灯の近く……。サーヴァント達は確認こそ出来るが、その全てが迎撃をしてこない事態に困惑が隠せない。

 

 何か、チャンスのはずなのに胸騒ぎがそれを否定する様な……。

 

「どっちみち、進むしかない。突っ込むぞ!」

 

「エミヤが矢を番えた。……が、まだ撃つ気配はないようだ」

「我々を狙わない、という意思表示か? どう思う、マスター」

「そこまで甘くはないだろうな。こっちに攻撃できない要素や戦略を用意してない以上、向こうの事情があると認識するべきだ」

「俺たちにはその事情を知る方法がないだろ。何にせよ、警戒するしかないな」

 

 

 その時は訪れる。

 

 冬木市が東、新都を過ぎた頃。

 アーチャーは警戒してない訳では無かった。むしろ、細心の注意を払って襲撃のタイミングを推測していただろう。

 俺もだった。下からの迎撃を警戒し、戦闘開始の合図を逃さない様にしていた。

 

 だからこそ気付かなかった。

 

 空から飛来するもう一つの白き流星に。

 

「上だッ!!」

 

 レイアが声を上げる。

 アーチャーが絶望を叫ぶ。

 

「直撃するぞ!!」

「軌道をかっ、……!?」

 

 軌道を変えろ、と言おうとした口が固定される。声が出ない。それどころか、呼吸すら出来なくなる。

 一時的に動けなくする騎乗兵(ライダー)。それはつまり……。

 

「こいつは……クソォ!!」

 

 アーチャーが隠していた魔眼を発動させた。しかし、飛来物に騎乗した敵は止まらない。代わりに、その敵と同様の魔眼、石化の魔眼を発動させた事により神秘に満ちた魔力がぶつかり合い、紫の閃光を奏でる。

 

 それを物ともせず、メドゥーサは天馬を駆って、偽物の騎乗兵(アーチャー)へ衝突せんと飛び込む。

 

「『騎英の手綱(ベルレフォーン)』ッ!!」

「マスター!」

 

 レイアに引かれ、空中に投げ出される。

 

 瞬間。

 

 アーチャーのペガサスが爆散した。

 俺は動けないまま、顔をレイアに覆われる。そのまま重力に従う様に墜ちていった。

 

 

 ▼▼▼

 

 

 

 

 

 気が付いたのは、舗装された道路の上だった。

 あの二人はどこへ行ったのか。それは分からない。恐らくは俺と同じように墜落してしまったのだろう。

 

 考えが甘かったと考えるしかない。応戦するのは遠距離攻撃のあるアーチャーやキャスター。ライダーだとしても余程のサーヴァントでなければペガサスのスピードや小回りの良さで勝てると踏んでいた。

 

 だが、俺の投影魔術の特性として、憑依経験は持ち合わせていない。経験の差が出てしまうのだ。同じ武器、同じ能力で英霊と戦うことになった場合、間違いなく英霊側に軍配が上がる事だろう。

 それを、敵は知っている。だから、メデューサをぶつけられたんだ。

 

「はぁ……はぁ、くっ、くそったれ……」

 

 頭を押さえながら、壁に寄り添う。

 壁の上は森林だ。俺は吹き飛ばされる前、あの主従が下に飛び降りていったのを知っている。運が良ければ、森林に入った後に東に向かう事が出来るだろう。

 

 俺は恐らく、向こうに行けない。

 

「がはっ」

 

 決して少なくない量の血液が口から溢れる。

 

 いつの間にか、『礼装投影』も解除されている。黒髪の、カルデアにいた頃の姿に戻っていた。制服はボロボロ、右腕は相変わらずふざけた異形になっているが。

 

「はぁ、あーあ。これで終わりかねぇ」

 

 下手に動く事もなく、大きく壁にもたれかかる。

 せめて、苦しまずに死にたい。そう思いながら介錯する英霊を待っていた。

 

 

 

 

「前方に反応! 先程、墜落したサーヴァントです!」

 

 数分だった頃だろうか。声が聞こえる。

 次に聴いたのは、離別を決意し、自分の復讐に関わらせまいとした人物の声。

 

「アーチャー」

 

「……よう、マスター。そこにいるのは、護衛人(ガードマン)かい? 随分と出世したじゃないか」

 

「貴方に、会うためにここに来たのよ。教えて、貴方は何をしようとしているの?」

 

「復讐だと、言ったはずだ。貴女には関係がないとも。離反が気に食わなければ令呪を使って殺せともな!」

 

 その顔を見ると、先程までのぬるま湯に浸かったような考えが霧散していく。あるのは復讐に燃え上がる憎しみだった。

 

 危うく、自身の決意を無駄にするところだった。

 今、死ぬわけにはいかない。

 

「邪魔をするなら、マスターであろうと敵だ。丁度護衛もいる事だ。ここらで痛い目にでも遭って貰おう。そうしなければ、貴女はいつまでも俺に固執する!」

 

「やめなさい、アーチャー!」

 

「マシュ、戦闘準備!」

「はい! マシュ・キリエライト、行きます!」

 

 橙色の髪の少女が、かつて共に生きた少女のシールダーに指令を出す。

 知っている顔だ。だが、俺の知っている彼女ではない。知ったような顔は出来ない。

 

 俺の知らないカルデアが敵という事実があれば、今はそれでいい。

 

「覚悟を決めろ、オルガマリー・アニムスフィア! 俺と貴女の願いは相反し、どちらかしか叶う事はない! 押し通る!」

 

 盾を構えるマシュに右手を伸ばす。

 その手の中では火球が爛爛と燃えていた。

 

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

「マズいな、非常に」

「マスター、しっかりしろ!」

「大丈夫だ。まだ意識はある」

 

 スマホをレイアに渡して、コンパス代わりに使用する。

 東の方向にひたすら真っ直ぐに進んでいた。

 

 レイアに背負われながら、木と木の間を縫うように移動していった。

 しかし、それも限界だと感じていた。

 

「悪い、一回下ろしてくれ」

「だが、それだとマスターが……」

「いいから、分かってる」

 

 左手に目をやる。直視したくはない現実がそこにはあった。

 

 そこには冷たい石となった左腕が自身の肉体と繋がっていた。

 

 木にもたれるように座らせてくれたレイアを見やる。分かっているのは、このままだと、二人ともやられてしまう事であった。

 

 この石化は左腕のみではない。既に胸辺りまで石化は進んでいた。レイアに左腕を落とす事を言われたが、その時には手遅れとなっている。

 

「なぁ、レイア」

「……なんだ?」

「ありがとうな」

「今、感謝を伝えないでくれ」

 

 レイアも、分かっていたようだ。

 

 何故俺だけが石化したのか。石化の魔眼は魔力の質や量に比例して石化するかどうかが決まると聞いた。なら、「魔力A」のステータスであるレイアは切り抜けられたと考えられるが、俺は質はともかく魔力量は少ない。まともな魔術師でもなければ気にする事もなかっただろうが、レイアへの魔力供給が上手くいかなかった時点で色々察する事も出来たかも知れない。

 

「マスター」

「なんだ?」

 

 レイアからの声に応える。

 

「死ぬのが、怖くないのか?」

「いや、そんなに……かな」

 

 自身の声に穏やかさが籠る。

 

「今まで、あのキリヒトとか養父(おやじ)とかの常識外れなとこばっか見てるから、死ぬって感覚が少しマヒしてるんだよ。キリヒトが関わればろくな事にならないし、養父は養父で刀一振りを作るために不眠不休で皮と骨だけになるのもいつもの事だった」

 

「……」

 

「そんな親世代を見てるとな。死ぬ事とかマジで考えないんだよ。楽しすぎてさ。それに……」

 

「なんだ」

 

「俺は死なねぇ。石化したとしても、解く方法を探せばいい。そこは……俺には出来ないけどよ。俺にはサーヴァントがいる」

 

「……そうか」

 

「ああ、思いっきり頼りになる、英雄だよ」

 

「そうか」

 

 

 

 

 

 

「というか、これ服まで石化すんのかよ。解けたときもしかして全裸か?」

 

「ふっ……かもしれんな」

 

「ははっ……」

 

 

 

 

「レイア」

 

「……」

 

「なぁ、レイア?」

 

 

 

 

 

 

「ペンテシレイアだ」

 

「……ペンテシレイア」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

「願いを込めていいか? そんで、先にキリヒトのとこに行っててくれ。お前なら行けるだろ?」

 

「分かった。……ヤマト」

 

「……令呪をもって命ずる」

 

 

 右手が赤く光る。最後の一角が消滅していく。

 

 

 

 

「ヤマト。貴方も死なないでいてくれ」

「『生きろ。我が英雄ペンテシレイア』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事な人が、遠いところに行った気がする。

 物理的にも。魔術的にも。

 令呪が無くなった事によって、契約関係が切れた。もう、何処にいるかも分からない。

 

「サーヴァントはどうしました?」

「消えたよ。ほらよ、令呪がないだろ?」

「嘘ですね」

「変わらんだろ。俺が動かなくなりゃ、まともなマスターもいないバーサーカーは消える」

 

 女の声。森のどこからか聞こえてくる。

 おそらくメドゥーサの声で間違いない。

 

 ため息を深く吐いて、背後の木と脚を使ってゆっくりと起き上がる。

 

「俺はアンタらに随分と嫌われているらしい。そんなタブーに触れた覚えは無いんだがな」

 

「私たちとしても、特に恨みはありません」

 

「おかしいね。それじゃあまるで、恨みがある誰かに操られているみたいじゃないか」

 

「……いえ、分かりません」

 

「……しらを切るのかい?」

 

「恨みであるかは、想像にお任せしましょう。少なくとも分かるのは、私たちの意思に関わらず。動かせる何者かがいる、ということだけです」

 

「つまり、本意じゃないと?」

 

「ええ、私たちを駒として見ているのでしょう。事実、一部のサーヴァントは抗っていましたからね」

 

「じゃあ、貴方の命令は何ですかね? まさか『石化する様を見守れ』なんていう命令ではないんでしょう」

 

「……せめて、優しく殺してあげます」

 

「痛みは一瞬ってか。いいね。ただただ冷たくなっていくよりは確かに楽に死ねる」

 

 囲むように移動しているのか、前後左右何処から聞こえてくる声から位置が割り出せない。

 既に首や腰の辺りまで石化しつつある状況のなか、俺は背後の木から離れて数歩前に出た。

 

 

 

 風を切る音が、迫る。

 

 次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 反転して放たれた蹴りによって、メドゥーサの口から上が遠くへ飛んでいった。

 

 

 

 力無く倒れた死体の霊核を踏み抜き、消滅するのを冷たい目が射抜く。

 

「十条百般。東条家の家訓でな。少なくとも、この程度の事が出来なきゃ、キリヒトの子じゃねぇんだ」

 

 よろよろと歩き出す。

 この身体でいつまで保つかは分からない。

 それでも、「死ぬな」と言われたのなら。

 足掻かなければペンテシレイアに怒られてしまう。あいつのパンチは響くんだ。

 

 

 

 

 

「さて、汚く生き延びるとしようか」

 

 

 

 

 

大和(ヤマト)【生死不明】』

『ペンテシレイア【行方不明】』

 

 

 銀に輝く小さな英雄編  完。




くぅ疲、これにて完結です!

……な訳ないっすよね。

はい、多くの謎を残しつつ一区切りとなります。

ここまで読んでくれた方にまずは感謝を。
「思ってたのと違う」なんて言われるかも知れませんが、それでも付き合ってくれたのならありがたい限りです。

出来るだけ飽きないように作品を書いていきますので、これからもよろしくお願いします。

あっ、主人公変わります。誰になるでしょうかね?

ではでは〜。
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