フレンドのみのクエストになります
フレンド固定:サーヴァントランサー
敵クラス / 剣 狂 槍 術
その長物を繰り出す様は、紛れもなく英霊であった。
僅かな隙を見定め、気付けば敵の胸に穴が開く。
吹けば飛ぶモノであるかのように、そのサーヴァントは蹂躙した。
聖処女、皇帝、海賊。その形を模した影が崩れて消えていく。
三体を相手取ったにも関わらず必要最低限の行動で相対した目の前のサーヴァントは、汗一つ掻くこともなかった。
その代わりか、小声で呟いた。
「長物とはいえ、鉄パイプで凌げるとは思わなかったな」
「鉄パイプだったの!?」
そのサーヴァントは「何をそんなに驚いている?」と言外に見つめた。
「想像よりも相手が劣っていただけに過ぎないが……。まぁ良い。改めて、ランサーだ。見れば分かる通り、長物を扱うのには慣れている」
そう言って謎のサーヴァントこと、ランサーは不敵に立っていた。
遠くには山の面影はなく。丘さえも見えず、地平線は水平に広がっていた。
今は進んだ方が賢明だぞ、というランサーの進言により、私達は方角が分からないまま前に向かって歩く事にした。
「少しは落ち着いたかね? 先程よりかは心が軽くなった様に思える。これを機に、この辺りに漂っている心のシコリを一掃するのも良さそうだが?」
「ここって、夢の中なんだよね……」
「ああ、そうだ。君は今、強制的な睡眠による……一種の昏睡状態に陥っている。これは意図的に眠らされている、という認識で構わない。安心するがいい、幸い現実世界にある君の肉体は危険に侵されてはいないようだ。死の世界への直通でなくて良かったと諸手を挙げて喜んでもいいところだろう」
ランサーが無表情のまま告げる。
さっきから顔面の輪郭が定かでは無いのに、なんとなく感情の揺らぎが見えない気がした。
と、思ったところで、私は疑問をランサーにぶつける。
「それより、さっきから貴方の顔がハッキリしないんですが……?」
「……曖昧に見えているのなら、それは私というサーヴァントの霊基自体の問題だ。所謂、私由来の逸話や伝説から来る特性ではない」
ランサーは続ける。
「それに、私にとってここはまだ
「真名は……教えてくれない?」
「気になるのか? その気持ちは分からない事もないが……ふむ。正しく認識しようとしなければ、名前のみ知っていても意味はない。君の知る歴史に私は存在しないのだからな」
「存在……しない……?」
「……そんな事より、この夢の世界の話をしよう。君はこの景色に見覚えは?」
ランサーが、話を逸らすように促した。彼にとって、触れられたくない部分なのだろうか。
「……ない。ランサーは?」
「見覚えはないが、似たような景色を話してくれた友人ならいる。曰く、その世界には人類や物質はない。つまり、漂白された地球であると」
ランサーが顎に手を当てて、そのような話を口にした。
顔はまだ掠れたペンのように輪郭がぼやけているが、何となく困ったような顔をしている気がした。
漂白。
何も無い真っ白な地球。
これもおそらく、人理を崩壊させるほどの事象であり、大事件だ。
「精々この景色が正夢にならぬよう祈っていた方が精神衛生を維持しやすいぞ。ここは儚い美しさとは対照的に、死にたくなるほどの退屈な世界なのだから」
「そうだね。早く抜けよう」
私はこの世界に、なんとも言えない恐怖を感じた。
「世俗的な一説だが、夢の世界で寝ると現実世界では起きる事が出来ると聞く。試してみるか?」
「うん!」
ランサーの提案に乗り、早速横になる。地面は小さい砂利が敷き詰められている様に広がっていて、硬くて寝苦しいということはない。多少ならば、頭の形であったり、身体の形に倣って流れてくれる。
しかし、痛いものは痛い。所々尖った砂利や小石が至る所を突いてきて、非常に寝づらい。
何回か寝返りを打つ。あまり効果がないのか、寝付けない。
しまった。これでは現実で起きることが出来ない。
ランサーからの視線を感じる……!
不意に、耳のすぐ近くで砂利を踏み抜く音が聞こえた。
目を開けると、すぐ目の前でランサーが正座でしゃがんでいた。
「観測者。眠りにつくにはもう少し快適な方がいい。膝枕でいいなら頭を埋めるといい」
「えっ、いいの!?」
思わず飛び上がる。このまま時間が過ぎるのに比べれば願ってもない事だ。
無言で太腿を叩き、ランサーが私を招く。
私はおずおずと頭を預けた。
「し、失礼、しまーす……」
「物のついでに、耳掻きでもできれば良かったがな。生憎、ここには持ってくる事が叶わなかった」
いつもなら持っている、というような言い方をされても。
「せめて安眠出来るよう、本気を出させてもらう。安心して身を委ねてくれ」
程々に柔らかい感触が側頭部を襲い、黒い革手袋を通してランサーの手が私の頭を撫でる。
「ふはぁ」と、声が漏れた私は悪くない。
心地よい感覚が脳髄にまで突き抜けるような多幸感となって身を包む。
それほどの官能的な指先で撫でられたのだから。
頭を置いている太腿部も考えれば異常だ。先程までの戦闘で見たひどく正確な動きには似つかわしくないと思えるほどの弾力。最上級の枕でさえ劣る、母性の暴力を食らったと錯覚する程の異常なまでの安心感が私を占めた。
「はぁっ、ふわぁ、はぁ〜ん……!」
「……眠りやすくなっているのか、判断しづらいな」
「ふへっ……あっ、ごめん。……もう大丈夫」
「そうか」
「はぅ」
「……」
「大丈夫だから」
「そうか」
それから、体感で一時間近く経過したと思う。
私は眠れないまま、ランサーに膝枕をされていた。
別にランサーの心遣いがかえって邪魔になったというわけではない。むしろ、彼の技の尽くは安眠させ得る最大限の技術だったと言える。しばらく経った時にやられたマッサージは天まで昇る勢いの安らかさだったし、子守唄のつもりで口遊んでくれたランサーの鼻歌は優しく耳の中へ到達して知覚神経をも解きほぐした。
それでも眠ることはなかった。
「話をしてもいいか」
そんな時、ランサーが声を出す。
「いいよ」
私が返す。と言っても、彼には聞こえない。らしい。
自然に聞こえたかのように彼は頷くと、静かに話し出した。
「私が相対した彼女たちに、君は会った事があるのか?」
戦闘の時に襲いかかってきた敵についてだった。
「……うん」
「仲間だったのか?」
「うん。でも、あの人たちが本物ではないことは分かる」
明らかに人間ではなかった。英霊はもちろん人間ではなく英雄の再現ではあるのだが、そういう意味ではない。
私が感じたのは『
それを伝えると、ランサーが付け足した。
「最初にも言ったが、ここは君を夢の中だ。誰かが悪夢を見せているわけでもない。君を中心とした深層心理の世界。それがこの世界の正体だ」
ランサーは続ける。
「ましてや、君は気付かなかったかも知れないが彼女達が襲いかかってくる直前、彼女達の後ろに陰りが見えた。……陰とは陽の反対を示す。君が表面では他人に決して見せない物。それが形作られたとしたら?」
「他人に、見せない物……」
「例えば……そうだな。救えなかった事への罪悪感や英霊への劣等感、そして恐怖。隠す感情としては充分だ」
「……」
私は何も言えなくなった。
「そうか」
ランサーは無言を肯定と捉えたようだった。
「月並みな言の葉では、かえって重みとなって苦しめるだけだ。私のようだ何も知らない無関係な人間が言えば特に」
私は、豊かな胸から覗く銀の眼に射抜かれる。
「ならば、今は何も言うべきではないな。幸いにして、私には口だけでなく腕もある。数多の手段を以って、君の不浄を取り払おう」
それが私がここに来てしまった詫びだ。と、ランサーは締めた。
「ランサーは何でここに……」
「すまない。安寧の時間は終わりのようだ。向こうが痺れを切らしたようでな」
急に抱えられ、そのがっしりとした胸板に頬を押しつけられる結果になった。
その手には慈しみを持った優しい手の感触はなく、背中と脚に感じる握力心強さを私に伝える。
瞬間、ランサーがその場から飛び退き、元いた場所には赤雷が飛来する。
「連戦、だな。ヤツの後方にも似たような気配がある」
「ランサー、一つ聞いてもいい?」
「真名か?」
「……貴方は男? それとも女?」
「一息吐いたら、答えるべきか検討しよう」
そう言って、ランサーは構える。
「さて、鈍った身体のウォーミングアップはとうに済んだ。今度は精度を上げるとしよう」
【BATTLE START】
エネミー情報
ロンドンの悲鳴
使用スキル 直感
イ・プルーリパス・ウナムの戦火
使用スキル 人体理解
キャメロットの聖抜
使用スキル 最果ての加護
バビロニアの絶望
使用スキル 魔杖の支配者
フレンド
???→サーヴァント(ランサー)
特殊ギミック
『夢想令呪・起動』
サーヴァント(ランサー)にクラス相性を有利にする状態を付与