Fate/箱庭の英雄達   作:夢見 双月

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 FGOはアガルタまで終わっていますが、ちょくちょくネタバレのところに行ってしまい、真名など知っているところはいくつかあります。
 ですが、しばらくは剣豪七番勝負とセイレムのサーヴァント達は参加しないと思います。
 おそらく、最低限ストーリーの中でのサーヴァント達の立ち回りを見てからじゃないと矛盾だらけになってしまうからです。
じゃないと、武蔵がスタンド出した挙句トランザムライザーしたり、宝蔵院胤舜が分身したりと訳がわからない展開になるので。
 え? どっちもやってる? えー。


白銀とヘンタイの邂逅

 私は座にいた。

 

「座」とは英雄の記録である。と、聞いた。詳しいことは知らん。

 

 不意に、色んな英雄達が、一箇所に呼ばれて行っている事を感じた。どうでもいいと思っていた。事実、私の感情はそうだった。私の知ったことではない、と無関心を貫いていたと思う。

 しかし、私が恨みを持つアイツはまだ向こうに呼ばれていないという。何故かは分からないが、これはチャンスであるだろう。私が行けばアイツの顔を見なくてすむ。そもそも、私と同じような場所にいる事さえ腹に据えかねていたのだ。

 

 なら、呼ばれるのも悪くはない。そう思った。

 

 座から、引き抜かれている感覚が少し不快だ。荒波に溺れながら、何かに引っ張られていくような感覚が近いだろうか。だが不快ではあっても、不満を漏らすまでではない。女王は寛容である故に。

 

 しかし、英霊召喚とはこんなに不安定なものだろうか? 

 先程から引かれている感覚が時折歪み、さらには止まる事もある。ちょっとした疑問を持ちながらも召喚は進んでいく。

 

 徐々にマスターになるであろう者の声が聞こえてくる。……男か。なんとも言えない気持ちになる。まぁいい、気に入らなければそれ相応の対応をすればいいだけだ。

 

 召喚の詠唱も終盤になり、男の声もはっきり聞こえるようになる。

 いよいよ対面の時だ。僅かに気分を高揚させ、現世に向かう。

 そして詠唱の終わりまであと二節。

「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手––––!!」

 

 

 そして、止まった。目の前で。

 

 

 ……え? 

 

 どういう事だ? え? もう目の前だぞ? なぜ召喚されないのだ!? 

 

 訳がわからず混乱する。すると腑抜けた声で、

 

「……あ、言い忘れてた。『よ』」

 

 結果として、そのサーヴァントは散々に振り回された形で召喚された。

 

 

 

 

 思い出すのは嫌な思い出ばかり。特に女関係には碌な思い出がない。小五の時に露出狂(女)に「ショタ万歳!!」と裸を見せられてから、女性の神秘を見て気絶するほどのトラウマ物になった。親戚の思春期真っ只中の年上と着替え場で出会った途端のサーチアンドデストロイ。こちらも漏れなく気絶している。

 

 そしたら、俺の身体が何をトチ狂ったのか、「やられる前に気絶しよう」ということになり。女性を意識すればするほど意識が遠のくという、割と将来に響く呪いが出来上がった。

 そんな女難の相どころか、神々から女運がないように造られたような俺に、痴女召喚なんて有り得ない話なわけで。

 

 そんな思考のなか、俺は自宅の布団で目覚めた。

 

「見知らぬ天井だ」

 

 まぁ、当たり前だ。ここは寝た事もない俺の部屋。初めての就寝が気絶とは予想すら出来まい。あと、何故気絶したかは忘れたし思い出したくない。痴女なんて知らん! ……あの後、確か寝たんだった。そうだ、確かそうだ。変な冊子なんて見てないし、痴女もいない。いたら嬉しいかもしれないが、あれは夢だ。そうだ、夢なんだ。

 

「ようやく目覚めたか、マスター」

 

 いたら嬉しいと言ったな? あれは嘘だ。全っ然嬉しくない。痴女がいて嬉しい訳がないんだ

 

「おい不法侵入だ痴女。さっさと出て行け。貴様に話すことはない」

「微かな現代の知識で貴様を慣れぬ方法で運んでやったにもかかわらず、僅かな感謝もないか。貴様という器が知れるぞ」

「うっせぇ痴女。……ってかおめぇ、服あんじゃねぇか。しかもまるで俺がついさっきまで着てたやつみた……い……に」

 

 首から下を確認する。まさかッ……! 

 

 

「ん? いくら私でも裸は辛いのでな。服を借りている」

 

 

「俺から借りてんじゃねェ──!!」

 

 俺は速やかにタンスに走っていった。

 

「おい変態」

「なんだ痴女」

「何故私は正座とやらをさせられているんだ」

「見て分からんか? 裁判だ」

「変態が何を言っている」

「そっくりそのまま返してやる。変態行為(パンイチ)も貴様が原因で起こったことだ。よって、正当な判決を下す」

「貴様に裁判とやらの真似事が出来るとは思えんぞ」

 

「死刑」

「理不尽すぎるだろう!? どこが正当だ!?」

 

 理不尽? 何を言っているんだッ! 

 

「黙れ! どこの世界に全裸で現れて、颯爽と男をパンイチにするバカがいるんだ!」

「話を聞け! 私にだって言い分はある!」

「命乞いのつもりかぁ? 追い剥ぎ痴女の分際で!」

「お前の服を借りたのは他の服の場所が分からなかったからだ! 見つかり次第着せるつもりでいたぞ!」

「ならわざわざ剥ぎ取って着る必要ねぇじゃねぇか! 気絶してた俺の為に大好きな裸でも晒しとけやぁ!!」

「私の身体と貴様の粗末な肉体を一緒にするな馬鹿者! 下着一つ残しておいただけ慈悲だろう!!」

「貴様も男は股間さえ隠していれば大丈夫だと言うのか!? パンイチで外へ出てみろ! 一発でゴートゥープリズンなんだぞ!」

「ええい、うるさい!! そもそもの今回の召喚はイレギュラーが多すぎるんだ!!」

「ああッ!? 召喚!?」

「今回の召喚は異様に不安定だった! 何度も召喚が中止されたかのように止まった! こんなことは異例の筈だ!! そのせいで私も魔力が不十分な裸のままで召喚されたのだ!!」

「そんなもん知るか……」

 

 召喚してたときの自分を振り返る。

 そういえば、結構詠唱文間違えちゃってたな。冊子読むために何回も中断したっけ。追い剥ぎ痴女が裸なのもそのせい? つまり……。

 

「ウン、知ラナイナー」

「おい、何故顔を後ろに向ける」

 

 

 やばい、俺のせいじゃん。

 

 

「いや別になんでもねぇし。首の運動してるだけだし。限界越えようとしてるだけなんでお気になさらず」

「……む」

 

 ちぃぃ……! かなり苦し紛れだ……! 誤魔化せる気がしないが、このまま行くしかない……! 

 

「……急にトレーニングしたくなるとは珍しい奴だな」

 

 嘘だろォォォオオ!?!? まさか!? まさかのセーフ!? バカじゃないのかこいつ!? 

 

「そ、そうなんすよー、あ、アッハッハ」

「女王は寛容である」

 

 許してくれたようだ。多分。危ないところだった。……ん? 女王? 寛容? どゆこと? 

 

 おもむろに首を掴まれる。錆びれた機械のようにギギギと振り向く、いや、振り向かざるを得なかった。

 

「私の目の前で死ぬ事を赦す」

 

 目が笑ってない。殺意が滲み出てる。これアカン。アカンヤツや。

 

「判決を下す。死刑、だ」

 

 

「お前のせいかぁぁぁあ!!!!」

「ギャァァアアア!!!!!」

 

 

 

 

「貴様のせいで全裸になり、召喚のタイミングさえズラされて大変だったのだぞ!」

「ソッスネ」

 

「だが女王は寛容である。それだけで済んだだけ良かったと思え」

「ソッスネ。女王ノ寛容サニ、マジ涙ッスワー」

 

「……貴様話を聞いているのか」

「キイテマスヨ」

 ただ、感情が伴っていないだけで。身体全体が痛くてしょうがない。

 

「ともかく、改めて、だ。今は……そうだな。『エルドラドのバーサーカー』とでも呼んでもらおう」

「うん? 『エルドラドのバーサーカー』? ちょっと長くない? なんとかならん?」

「知るか」

「縮めて『エルちゃん』なんてどうだ? それなら言いやすい」

「エルっ……なんか呼ばれなれん! 別のにしろ」

「ワガママだな。まぁ女王だもんな。じゃあ、バーサーカーから縮めて」

 

「バーちゃんはどうだ?」

「殴るぞ貴様」

「もう殴ってるんですが?」

 

 脳筋じゃないか(驚愕)

 いやマジでこいつ手が出るの早くない? 

 

「もういい! 私のことは『バーサーカー』と呼べ!」

「あいよ、バーサーカー。俺は大和だ。よろしくな」

「むっ。私はマスターと呼ぶから名乗らなくても構わないが」

「いや何言ってんだ、覚えとけや。お互いに名前も知らない関係はごめんなんでな」

「……っ! ……分かった。覚えておこう」

 顔が引きつった? ああ、バーちゃ……バーサーカーは仮名だからかな。仕方ないだろ、人によって事情はあるし。俺にも事情あるし。

 

 案外こいつはそこら辺はしっかりしたい性分なのかもしれないな。あと、心の中でバーちゃんって言いかけた時の殺意がやばかった。なんでわかんの? 

 

「よし。その服脱げ」

「な……!? 貴様性懲りも無く……!」

「違うわ脳筋痴女! その服はさっきまで俺が着てた物だから、新しいのに替えろ! いつまでもそんなの着させてたまるか」

「ああ、そうか、わかった。……先程から、急に先程と態度が変わったな。頭でも打ったか?」

「あいにく様、召喚して吹っ飛んだ時に打ってね。お前が誰だろうが、俺が召喚して出てきたんだろ? なら、最低限の世話ぐらいしなきゃな」

 

『やるなら最後までやりきれ』というのが、ウチの爺さんからの教訓だ。そんな爺さんは、昔、バレないように浮気をしてバレない内に別れたという猛者だったりする。ちょっと前にばれて「時効だぁ」とか言いながら家族にフルボッコになってたけど。

 

「……」

「まったく、ロマンさんの言った通りだな。こんな個性的な奴がまさか魔法陣から来るなんて思わねぇよ。まぁ、それはそれで面白いからいっか。おい、飯食えるか? 買い出し行って来るから留守番頼む」

「……ふっ、ああ。だが私も行こう。外の世界には興味がある。エスコートとやら、頼むぞ?」

「はいはい、お嬢様っと」

 

 

 

 

「いや、ダメだよね。普通に」

「「え?」」

 

 管理人のロマンが何もかもをぶった斬る。

 

 何故、買い出しがいけないんだ!? 

 

「何も知らないのかい?」

「実はサーヴァントすらよくわかってないです」

「本当にマスターか貴様は」

「うるせぇ痴女」

「やるか変態」

 

 ロマンは、ははは、と乾いた笑いを見せた。

 

「サーヴァントというのは過去の英雄、偉人が使い魔になった存在だ。簡単だけど、今はこの認識でいい。大和くん、そんな昔の人たちが現代のルールを守れると思うかい?」

「お前英雄だったんか。でも、確かにそう言われると……」

「なんだと!? 私がこの程度の文明を理解出来ないとでもいうのか!?」

「まぁ例外はもちろんいるしね。とりあえず君には、簡単な現代の質問に答えてもらおう」

 

 そう言いながらロマンはパネルをいくつか持って来て、一つずつ見せてきた。

 

「ふん。どこからでも来るがいい!!」

「じゃあ、これは?」

「あ、信号だ」

「大和くん、君が答えたら意味がないよ。君までダメな訳じゃないよ?」

「えっ! あ、すいません。変な勘違いを……」

「じゃあ……えっと、なんて呼べばいいかな」

「バーサーカーと呼べばいいそうですよ」

「バーサーカー。うーんそうだな……。この信号が赤になったとき、どうすればいいかな?」

 

「……ムムム」

 

「「……」」

 

「……?」

「じゃあなバーサーカー。留守番頼むわ」

「ま、待ってくれ!? 私も行きたいんだ!! チャンスを! 頼む!!」

「とりあえず当てずっぽうでもいいから、頑張ってみて」

 

 ニッコリと笑うロマン。優しさが滲み出てるようだ。

 

「歩行者用の信号だから、中に人がいるだろ? 下の緑と比べてちゃんと考えろ」

 

 ロマンがこっちをみてくる。

 君も甘いね、と言われた気がした。

 ロマン程じゃないです、と目で見て返しといた。

 

「下は……緑で……動いて……上は……赤で……止まってて……」

「……っ! こ……」

「「こ?」」

「コロして!! いいよー……みたいなー……」

 

 どんどん声が小さくなるバーサーカー。さっきまでの威勢はどこへ。そんな彼女に手を置き、微笑む。すると彼女もホッとしたように笑った。その顔はまるで、昔読んだ蜘蛛の糸を掴んで九死に一生を得た悪人のような顔だった。

 

「それじゃあロマン。そいつは俺の部屋に投げ入れといてくれ」

 

 まぁ物語的に、そのあと糸は千切れるのだが。

 

「ああああすまない!? 次は当てる!! 当てるから! お願い、待って!」

「えぇー」

「まぁまぁ、それぐらいサーヴァント達にとって、外は新鮮でみて回りたいと思える場所なのさ」

「……そんなもんなんですかね」

「そうさ。あの英雄王にして『飽きさせることはない』と言わしめたぐらいだしねぇ」

「……AUOの人物像がなんか凄い人という認識しかないんですが」

「ある意味合ってるよ。ある意味」

「マスター、いいか?」

 かなり真剣な目つきで睨まれる。嫌な予感しかしないが、一応振り向く。

「……どうした?」

「単刀直入に言おう。マスター達もこんな問題出来ないのではないか? 私を貶めるためのものではないのか!?」

「……いじめてるわけじゃないぞ。あれぐらい簡単に……」

「どう考えても分かるわけがないだろう!? さっぱり見当がつかんのだ!! 答えてみろ!!」

「なんでだ」

「答えられるわけがない! 分かったら……」

「停止」

「は?」

「停止。あの人のマークは立って待て、という意味だ。乗り物が多い時代には順番待ちの合図が必要なんだよ。緑の方は動いている人がいるから、進めという意味合いの合図だ」

 

「……うぅぅ……ッ!」

「分かった。分かったから。悔しそうに唇を噛んで泣くな、な? ロマン、もう一問ないか?」

「……!? いいのか!?」

「そんぐらいならいいだろ。その代わり、ダメだったら今日は諦めろ。ロマンさん、どうっすか」

「いいよ。特別に次の問題だ」

「今度こそ……!」

(不安だなぁ……)

 

「お会計で635円払わないといけません。この硬貨、紙幣からどれか一つだけ選び、ぴったりになるように店員さんに渡してください」

「あー」

「あぇ?」

「どうかな? 大和くんはどうだい?」

「流石に分かりますけど……成る程、分からない時には全然分からなくなる問題の出し方ですね」

「もう分かったのか!? ぬぬぬ……!!」

 

「ロマン。さっきまで喧嘩してたはずの奴が凄い微笑ましく思えるのだが」

「ギャップってやつだね! 分かるよ」

「同士だ」

「同士だね」

 

「分かった!」

「お、やっとか」

「では答えをどうぞ」

「使うのはこれだ!」

「おっ、千円」

「いいね。それで、ぴったり払うためにどうする?」

 

「635円分の大きさに破る!! (キリッ」

 

「わーただの紙くずだー」

「約束だ。帰ってろ」

「何故だ!?」

「『何故だ!?』じゃねーよ!? この金作るのに多少なりとも時間と労力がかかってんの! それを破るバカがいるかって話だ」

「わざわざ紙にしてあるなんて、このぐらいの用途しか見当たらないだろう!! どうすればよかったんだ!?」

「向こうの人、つまり店側にぴったりにして貰えばいい。お釣りって分かるか? 千円払って、残りの365円返してもらうんだよ」

「くっ、ううっ……もう帰る!」

「何食べたい?」

「肉!」

「りょーかい。……すいませんロマンさん」

「このぐらい大丈夫だよ。また話そう。あと、敬語もなくていいからね」

 

 ロマンに見送られながら外に出る。もう辺りは暗くなってきたので早足で近くの店に向かう。

 バーサーカー、あんなに必死になってな。外にそんな魅力なんざ無いと思うが……。

 ふと、足を止めて空を見る。小さい光がチラチラと見えた。

 

 昔の星は、確かはっきり見えたんだよな。ふと、どこかの知識を思い出す。確か、空気が悪くなって見えづらくなったとか。

 

『それぐらいサーヴァント達にとって、外は新鮮でみて回りたいと思える場所なのさ』

 

「俺も異世界とか行ったら、満天の星空とか街並みを見て回りたいと思うわな」

 確か……バーサーカーとかエミヤさんって、偉人や英雄なんだっけ。それでもバーサーカーみたいにはしゃぎたいと思えるところ、なのか。

 

「案外、英雄も人間と変わらないな」

 

 さっさと買い物を終わらせて、この世界のことの話でもしよう。きっと目を輝かせてくれるだろうな。

 

 

「おい変態(笑)」

「なんだ脳筋追い剥ぎ痴女」

「これがデジャヴとかいうやつか?」

「そうだ。既視感とも呼ばれ、正座しているお前とその前に立っている俺を、まるで見たことがあるように感じる事をいう」

「だがこれは貴様が出かける前にやった事だろう! 今度はなんだ!?」

「こんなに部屋の中が散らばってたら嫌でも怒鳴りたくなるわ!! 自由か!! ある意味劇的ビフォーアフターだわ!! 何をどうしたら一時間弱でこんなに散らかすことが出来んだよ!?」

 

「猿が窓から入ってきた」

「通るかそんな嘘!! おいこっちみろやてめぇ」

「こっちを見るな変態。だが、出した物が同じところに全然入らないのだ!? 貴様、どんな魔術を使ってしまっていたんだ!?」

「魔術じゃねぇ、技術だ。収納術っつー整理整頓の為の知識の基礎だこんなもん」

「シューノージツ!? そんな恐ろしいモノがこの世に存在するなど!?」

「話聞いてるかおまえ?」

 

 こんなもん、最近の男子には必須科目ですよ? たぶん。

 

「まぁいい、時間ねぇから片付けながら言わせて貰うけど、散らかすのは構わん。百歩譲ってだ。だが、必ず片付けろ。こんなもんそこら辺の子供でもやることだからな。まず、恥ずかしくないぐらいの常識をだな……」

「……! ……!? ……っ!?!?」

「なぁ話聞いてるか?」

「頭を掴むな! というか、それどころではないだろう!? なんだそのスピードは!? 今の間にかもうほとんど終わってるではないか!」

「長い間やってれば簡単に出来るぞこんなの。見たところリビングとキッチンぐらいしか散らかってなかったな。キッチンは料理と同時進行でやればいいか」

「すごいな……」

「おい、とりあえず初日だし、今日は簡単なものを作るからな」

「ああ、分かった。お前に任せよう」

「出来たぞ」

「早 す ぎ だ ろ う !?」

「そんなことねぇよ。全ての行程を同時進行したらこんなもんだ。よし、食うぞ」

「何者なんだこいつは……」

 

 何者? ただの人間ですよ。英雄様にここまで言われるとは思わなかったけど。

 

「白米と味噌汁、そんで豚キムチ! かなり即席食品に頼ったが、味はなかなかイケるぞ。無論、自分で作った方が美味いけどな。どうだ?」

「……! ……ッ!!! (ガツガツ)」

「言葉に出ないくらい美味いか。てか、お前箸使えるのな」

「……ゴクン! ふぅ、箸は練習済みだ! (ドヤァ!」

 

(日本で騒ぐ外国人とかと同じテンションなんだよなぁ)

 

「って、豚キムチなくなってる!? おい……」

「……(もぐもぐ)」

「……」

「……(もきゅもきゅ)」

「……」

「……〜♪」

「……怒る気も失せた、さっさと食うか」

「?」

 

 

「そういえば、マスターのブタキムチはどこにあるんだ?」

 

「てめぇのハラの中じゃぁぁぁああ!!!」

「蹴るな馬鹿者!」

 

 空気読めやこのバカ!! 

 

 

「ごちそうさまでした」

「ごっそさん」

「む、ちゃんとしろ。ジャポン人は礼に厳しいと聞く。貴様はその程度も出来んのか?」

「感謝さえ伝わってりゃいいんだよ。ジャポンってなんだ。……ところでさ、バーサーカー」

「……なんだ?」

「今、この世界について知りたい事はないか?」

「どういう事だ?」

「なんというか、そのままっつーか……興味あるんだろ? この世界に。俺でよければある程度の事は教えてやるよ」

「ふむ、……今はこれといって聞きたい事はないな」

 

 バーサーカーはそう言い切った。

 

「そうなのか?」

「ああ、自分の知りたい事は自分の目で見た方がいいだろう? そのような自己満足に過ぎんがな。ただ、些細なことでいいのならば、今朝見つけたものでな……」

「なんだ?」

 

 

DVD(コレ)の使い方を教えて欲しい」

 

 

「……なにぃ!?」

 何故ヤツがアレを持っている!? しかも俺の秘蔵コレクションの中の最上級だと!? バカな!? あれだけはバレないように、布団といっしょに寝室の物置に……布団と……!? 

 

(ま、まさかこいつ……!? 回収していやがったのか!? 召喚で気絶している時に! 布団を出すと同時に!?)

 

 まずい、ヤツを刺激しないように回収しなくては……! 幸い、ヤツはどんなものかまともに分かってはいない。

 ならば! 

 

「そ、そのAVどこにあったんだー? 探してたんだよそれー。どこにあったんだい?」

 

 見つけた場所の話で逸らして、隙を見て回収するッ! あとはうやむやにすれば……!? 

 

「これはエーブイというのか? ますます興味が出てきたな。あとでどう使うのかちゃんと教えてくれ」

 

 しまったぁ!? 知らない単語に興味を持つのは自明の理だったはずなのに! くそっ、ミスった! どうする!? 俺!? 

 

「と、とにかく、どこにあったか教えてくれよ。どこに紛れ込んでいたか知りたいんだ」

 

 時間稼ぎをしなければ。一緒に視聴、なんて事態になったら目も当てられん……!? 

 

「そうか。こっちだ。寝室の物置の隅にあったぞ」

 

 ん? ……!? 背中が隙だらけだ! そうか、後ろから奪えば……! イケるッ! だが、一番の懸念事項はヤツが右手で持っていること。俺はバーサーカーの左側に位置していて遠いし、何より手で持っている場合、ガッチリ持ってて奪えない可能性もある……! チャンスを待つんだ! 虎視眈々と狙っていけッ! 

 

「ここだ。ここに隠されているかのようにあった……」

 

 今だぁ!!! 状況の説明にうつつを抜かす貴様の命取りよ……! 今、AVに注意を向けてはおるまい!! 終わりだ、バーサーカー!! 

 

 

「……!? フン!!」

「くぺっ」

 

 首の骨が折れた。気がした。

 

「……? ま、マスター!? 一体何が起きたのだ!?」

 

 何だ……!? 何が起きた!? バーサーカーが振り向いたと思った途端、顎に強い衝撃が……!? 首がめっちゃ痛いし、意識が飛びかけたぞ!? まさか、俺の狙いが分かった上で、的確に処理しにきたのか!? 

 

「……言わない私が悪かったが、背後に気配を感じると条件反射で攻撃してしまうんだ。すまない、マスター」

 

 どこの戦士だお前は。女王じゃなかったのか!? 

 

「しかし、何故私の背後にいたのだ。まるで私に襲いかかろうとでも……」

「違うんだバーサーカー。近くにいたハエが気になってな。捕まえようとしたんだ。まさか攻撃を食らうとは思わなかったが」

「うっ、それはすまないことをしたか」

 

 チョロイ。怪しまれこそしたが、何とかなった。しかし、ヤツが戦闘民族の中の女王だったのは誤算だ。蝶よ花よと愛でられた上での女王じゃなかった……! そうなると、難易度は格段に跳ね上がる。くっ、どうすればいい!? 

 

「そうだ!! 風呂入らないか!? 既に風呂場は洗ってあるし、そういった諸々を済ませてからにしようじゃないか!!」

「マスター、何か隠してないか?」

「全然?」

「そのトボけた顔をやめろ。風呂……沐浴か。確かに入って見たくもある」

 

 思ったより好感触! やはり女性はキレイ好きな人が多い。入っているスキにAVを回収すればイケる! 

 

「……よし、お前も一緒に入れ」

「おう! ……ん?」

「よし、行くぞ」

「待て待て待てぇーい! 何トチ狂ってんだ痴女!? ダメに決まっているだろう!」

「分かっている! だが、業腹だが現代式の沐浴は分からん! だから貴様に恥を忍んで頼んでいる!」

「恥を忍ぶどころか、吹き飛ばしてるヤツが何も言う! 今の会話に恥じらいなんぞ少しもなかったぞ!?」

「うるさい! さっさと行くぞ!」

「まてぇ! ぐおぇっ」

 

 首! 首が絞まってるからやめろぉ……。

 

「恥ずかしいのはわかるが、何故目隠しをしているんだ?」

「体質の問題だ。気にしないでくれ」

 

 まずい。非常にまずい。本来はバーサーカーが風呂に入ってる間に盗むつもりだったのに!? くそ、落ち着け!! 俺の女を意識しただけで気絶するこの体質は今回においてかなり不利に働く。しかも視認だけでなく、接触さえも過剰ならば失神する……! 未だセーフなのは母親のみのこの体質はバーサーカーだろうと例外はないだろう。

 即ち、この作戦は、気絶せずに風呂の入り方をレクチャーし、先に上がることでやっとたどり着く鬼門……! 

 そして、タオル二つを目隠しと腰に巻くことで万端な準備をしているにも関わらず、ヤツはちゃんと全裸。……まぁ普段は全裸だもんな。今回の俺のタオルが特別なんだ。そうなんだ。どうしてこうなったぁあ!!! 

 

「は、入るぞ」

「あ、ああ」

 

 お互いにギクシャクしながら入るが、意味合いが異なる。かたや無知による困惑と期待、かたやトラウマによる煩悩との勝負。その火蓋が切って落とされたのだ……! 

「まず、湯船に入る前に身体を洗う。基本は頭にシャンプー、首から下全体にボディソープだ。他にも色々あるがまた今度にして、やっていこうか」

「あ、ああ……」

「どうした? 言いたいことあるなら言えよ。こっちは見れないんだから」

「む……ならいうが、マスターは思いのほかがっしりしているな。鍛えているのか身体が引き締まっているぞ」

「なぁ!? そう言う事じゃねぇ!! 風呂の事で気になることを言え!!」

「す、すまん!」

「……ったく、シャワー分かるか?」

「分からん」

 

「そうか。確かここに……ん。これがシャワーで、身体を濡らしたり、シャンプーやボディソープを流すために使う。ここに確か捻るとこが……あった。あるから、捻って出す」

「おお……」

「最初は冷たいから気をつけろ。日本の風呂はシャワーも湯船も熱いと思うぐらいの温度が普通だ。よし、いい感じの温度になった。頭からやるが、目をつぶっとけ。髪留めとかは取っているか?」

「ああ、取っているぞ」

「簡単な洗い方をコツと共に教えてやる。軽く手で混ぜて泡だて、ゴシゴシと洗う。コツは爪を立てずに指の腹で洗うのと、地肌を洗うイメージを持つことだ。髪も当然洗うがな」

 

「あー。気持ちいいな。いいものだ」

「よし、後は自分でやってみろ。がんばれ」

「ああ、待っててくれ。すぐマスターして見せよう!」

「マスターだけに?」

「死ね」

 

 軽い冗談なのに俺のバーサーカーが辛辣過ぎて泣ける。しかし、案外髪の毛を洗う事で意識することはなかったな。あれか? 子供にやってる感覚か。バーサーカーはちっさいからなぁ……。ギリギリ子供って意識があるんだろうなぁ。

 風呂桶を借りて、身体を洗い流してから湯船に入る。はふぅ、と息が抜けたような声を出してくつろぐ。風呂とは良いものだ。

 

 ちょっとして、シャワーの音がし始めた。

 

 ……。

 

 いや!? 何考えてんだおれ!? 確かに美人ではあるけど! 変な妄想するのはダメだろ! 犯罪案件だぞ!? 思わず悶え、顔が赤くなる。あ、今ちょっとクラッ、とした。やばい。目を隠してるのもあって、慎重に動かないと。

 

「?」

 

 いや、顔が赤いのは風呂があったかいからだ。そうに決まってる。決して変な事を考えてる訳では……

 

「マスター?」

「ホワイッ!?」

「さっきからどうした? なんかこう……気持ち悪いが」

「い、いやァ、何でもない。振りほどきたい煩悩がこびりついて離れなかっただけだ」

「……?? まぁいい、頭が終わったぞ」

「そうか。じゃあ後ろに身体を洗う為のタオルがある。それにボディソープをつけて擦れ。以上だ」

「……」

「ふぅ……」

 

「……」

「……」

「……」

「……なんだよ!? 視線感じるなぁ!!」

「いや、やってくれないのか?」

「はぁ!?」

「お手本だ。さっきやってくれたろう」

「頭はな!? 身体は出来るわけないだろうが!」

「安心しろ。私の身体に恥じらうところなどない!!」

「テメェの問題じゃねぇんだっての!! おれの問題なの!!」

「ふむ……、さては貴様童て……」

「いい加減にしろよ!? ちくしょう!! やりゃいいんだろやりゃ!!」

「ヤケクソ気味じゃないか……」

 

「いいか、前は自分でやれ。下半身もだ。おれは背中だけやる。いいな?」

「……それは別に確認しなくても」

「イイナ」

「……はい」

 

 珍しく言うことを聞いてくれるバーサーカー。いくら声が笑ってないからって、そこまで怯えることあるか? ……え? 表情もない? うそー。……マジで女の子はニガテなんです。特に触るのと裸を見るのは。だから無心になるしかないのです。それしか方法がナイノデス。コミュニケーションだけなら問題ないんだけどなぁ……。

 泡立てたタオルをバーサーカーの背中に当てる。背中がビクン、となった。かわいい。

 

「当たってる!? (何これ!? 的な意味で)」

「当ててんだよ(タオルを)。いいから動くな、俺に任せとけ」

「いや、やめ、なにを……!? (タオルがザラザラしてる!? の意)」

「動かすぞ(タオルを)」

「あ、い、……はぁ! いい、気持ち、いいな、これは……!」

「出来るだけ優しくするな?」

「頼む……! はぁんっ! ああ、あ! くっ、うう……!」

「……」

「んっ……! くぅっ、あ、ふぅん……! あ、ああ!」

「終わったぞ」

「ふぅ……、はぁ……」

 

 

「……いや、うるさいんだが」

「んなぁ!?」

 

 すっごいポカポカされる俺。いやさ、そんなに喘ぐような人だと思いませんやん。敏感だと思わないじゃん! 目隠ししてるから視界がない分余計につらいんですよ。さっきから精神的ダメージがきつくて意識が朦朧としてるんですよ。ホント、やめてもらえませんかねぇ……。

 

「頼むからエロい事言うのダメ。喘ぐのもダメ。オーケー?」

「それはマスターが上手いから……」

「貴様ぁ!! ワザとか!? 舌の根も乾かぬうちにぃ!!」

「普通に褒めただけだが!?」

 

 いいからもうヤメロォ!! こいつ天然か! 天然で殺しにきてるんじゃないか!? 

 

「ああもう、あとはやれ! なっ! 自分でやれば変な声も出さねぇだろ!!」

 

 あー、顔が熱い。なんでこうなったんだチクショウ!! 俺のせいだったなコンニャロメ!! 

 

「よし、終わったな。代われ、早急に。肩まで浸かれ、目隠し外すからな」

「わかった。わかったから急かすな」

 湯船から出て、代わる。目隠しをようやく外してバーサーカーの方を見る。うん、横からなら顔しか見えない。やっと落ち着いた。でももう一度隠すけどね! 

 

 色々手早く終わらせて、目的のブツ(AV)を回収しなければ。

 

 髪を洗う。ふと、視線を感じる。至近距離から。洗うのをやめてバーサーカーの方向を見る。すっごいジロジロ俺を見てる気がする。

 

「なんだ? 言いたいことでも?」

「い、いや!! なんでもない、気にしないでくれ」

「お、おう」

 

 髪を洗う。視線を感じる。

 

「なぁ」

「気にしないでくれ」

「……」

 

 髪を水で流す。視線を……

 

「だぁぁ!! なんだよさっきから!! 逆に気にするわ!! やめろ!!」

「気にしないで……」

「出来たらとっくにやってるわ! なに見てんだ!?」

「あまり、男というものを見たことがなくてな」

「変態発言だな」

「違う! 身体の仕組みを見ている。マスターみたいな体型の人間は多いのか?」

「あー、良くも悪くも十人十色、俺みたいに多少は筋肉あるヤツもいれば、太ったヤツや細いヤツ、男なのに女みたいなヤツもいる」

「そうか。マスターは鍛えていたのか」

 

 身体を洗い始める。

 

「そう面白い話でもないがな。剣道部だったんだが、イマイチ合わなくてな。試合には勝ってたんだが、ほとんどのヤツに怪我させちまってたんだ。そのうち、罪悪感で振れなくなって、やめちまった」

「ケンドー?」

「剣での殺し合いを非殺傷のスポーツにしたものだ。ルールもちゃんとあってな。活人剣っつったっけ? そんな感じのスポーツさ」

「剣が上手いのか」

「勢い余るぐらいにはな」

「今度、戦ってみるか?」

「いや、いいよ。お前は女王なんだろ?」

「女王以前に、戦士だ。それとも、私に傷を付けられるというのなら見くびられたものだな」

「……」

「非殺傷の剣と言っていたが、お前には剣で競うよりも剣で闘うのが優れていただけだろう。それになんの問題がある。女王は寛大である。お前が望むなら、応え、成長の機会を与えよう。生憎、今はそれしか取り柄もない」

 

 気づいたら、身体を洗う手は止まっていた。シャワーで流し、目隠し用のタオルを取ろうとして、取れなかった。

 

 バーサーカーの手の温もりが、手首に感じられた。

 

「もういいだろう」

「いやよくねぇよ。取らせろ」

「分かっている。身体を洗うためならともかく、風呂に入るにはタオルは不粋なのだろう? 無理を言っているのは分かる。背中合わせでなんとかしろ」

「……まったく」

 

 仕方なく折れた。タオルを二枚とも風呂桶に置いておき、背中が触れ合い、水かさが増した。バーサーカーの背中は小さいはずなのに、不思議な安心感があった。

 

「ブクブクガボボボ……」

「体勢変えろよ」

 

 肩まで浸かってたバーサーカーの顔が半分沈んだ。

 

 

 

「「……はふぅ……」」

 

 

 

「なぁ、バーサーカー……」

 

 何の気なしに声をかける。

 

「……バーサーカー?」

 

 だが、返事がない。思わず振り返った。

 

「バーサーカー!?」

 

 バーサーカーから返事がない! それどころかなんかぐったりしてる……!? のぼせたのか!? 

 即座に抱え上げ浴室からでる。タオルを適当に掴み、バーサーカーを拭いながらキッチンに向かう。

 

「すまん、急に頭が回らなく……」

「ただの脱水症状だ! 水飲みゃ戻る! ここらへんでもたれてろ!」

「くっ、今更だが、私は受肉していたのか……」

 

 よくわからない単語が出てきたので、とりあえずは聞き流し、コップに水道水を注ぐ。

 

「飲めるか? ほら」

「……んくっ、んくっ…………はぁ、はぁ」

「まったく、焦らさんなよ……よかった」

「助かった。こんな醜態を見せてなんと言えばいいか……」

「困った時はお互い様、昔からあるこの国のことわざだ。気にすんなよ。ありがとう、とでも言っとけ」

「ああ、ありがとうマスター」

 

「ところで、いいかマスター」

 

 

 

「……なんだ?」

 

「もしかして……」

 

 正直……咄嗟に動けたけど……

 

「私もお前も」

 

 そろそろ限界なんだよね……

 

「裸じゃあ……」

 

 バッチリ見ましたし、背中に触れた手の感触も残ってますとも。

 

「あとは、任せたぞ。バーサーカー」

「マスタァァア!? マスターが白目向いて、泡吹いて倒れた!?」

 

 そんな気はしてたんだ。結局、裸拝んでバタンキューエンド。俺に幸運値なんてないに等しいのだから。

 女に物理的に弱い体質。それによる黒歴史がまた増えた。

 

 

「大丈夫かマスター!? マスター!!」

 

 

 

 

 

「……あっ」

 

 

 

 

 

「これが人類の神秘……!?」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「……すまないマスター」

 訂正、二つ黒歴史が増えたっぽい

 

 

 

 

「長い……長い夢を見ていたようだ。実はバーサーカーなんて……」

「起きたかマスター」

「……現実逃避を邪魔しないでくれませんか?」

「?」

 

 二度目の(自分の家で)知らない天井。もはや布団が、リスタート地点である。

 

「服持って来てくれ。そんで着替えるから開けるなよ」

 

 裸も同様。うなだれるのもひどく疲れそうだ。なら、前へ進もう。ダサくてもいいじゃないか。ゆっくり進みましょうや。俺も、バーサーカーも。

 

「服はどこだ? どこにある?」

「俺が行くから絶対こっち見んなよ!? 絶対な!?」

「あ、ああ。……もう見てしまったのだが」

「なんか言ったか!?」

「なにも言っていない!!」

 

 

「あ〜、疲れた!! もう動きたくない!!」

「同感だ」

 

 1日で色んな事が起こりすぎだ。

 テーブルをずらし、カーペットの上で寝転がる俺とバーサーカー。バーサーカーは俺の看病と同時に濡れたところを拭いてくれていた。あと、俺の体質を知った。「だから召喚の時に気絶したのか。てっきり魔力がないからだと……」と言っていたが、魔力については俺はよく分かっていない。だから、今度教えてくれそうな人を……ロマン辺り? エミヤさんでもいいかな、時間があったら聞いてみよう。

 

「じゃあ寝るか」

「待て」

「……なんだ脳筋追い剥ぎ全裸痴女。まだアダ名を追加されたいか」

「潰すぞ貴様。もう寝るのか?」

「ああ」

「ふーん、そうか……」

「……なんだよ」

「いや、AV(コレ)の使い方を教えてもらってないと思ってな」

 

 ……あっ。

 

「おやすみ」

「おい待て貴様」

「断る! 今まで忘れちゃってたが、ここまで来たなら奪うことは無理でも視聴させることまではさせるたまるものかぁ!!」

「くっ、貴様ぁ!! 怪しいとは思っていたがそういう魂胆だったか!? 卑怯だぞッ!?」

「はっ、卑怯もラッキョウも大好物だぜぇ!! 隠していたものを見つけたお前が悪い! 中身を見れずに悶々とした日々を送れぇ!!」

「許さんぞマスターッ!! 潰れて死ねぇぇぇえええ!!」

「かかって来いやぁぁぁあ!!! 死んでも死守してやらぁぁぁあ!!!」

 

 

「……」

「……」

「……かわいいな」

「ソッスネ」

「なんで隠してた?」

アニマルビデオ(AV)を持ってるっていうことが恥ずかしくて、つい」

「まぁいい。答えは得た。罰はなしにしておこう」

「これ以上ボコボコにするならテメェは悪魔だ」

「あ?」

「全てにおいて素晴らしいのは貴女です。貴女ほど美しい聖人を見た事がありません」

 

 

「よし、殺す」

「なんでだぁぁぁああ!!!」

 

 

 断末魔は廊下まで響いたと言う。しかし、幸いにも周りに聞くものはいなかった。

 

 夜は更ける。

 今確かに、この状況を楽しんでる俺がいた。




ヤマト
対女性最弱マスター。エルドラドのバーサーカーのマスター。気絶の下りは、「女の子と一つ屋根の下だと絶対数話で間違いが起こる」というR-18への恐怖から泣く泣く設定をつけた。そういうのまだ書けないんです。ごめんね。……だけどこの主人公はトラウマなんかすぐに乗り越えて間違いを起こしそうだよなぁ……。多分大丈夫!(フラグ)

エルドラドのバーサーカー
美しき脳筋追い剥ぎ全裸痴女。美しいと言われると殺意を抱く。

ロマン
心優しきオトン。仕事の疲れは他人には絶対に見せない強靭なひと。
オカンとのBL展開はない(断定)。

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