Fate/箱庭の英雄達   作:夢見 双月

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正月小話(遅かった分のちょっとした埋め合わせ)

ヤマト
「あけおめ! ことよろ! 初詣行こうぜ!」
バーサーカー
「ハツモウデ……! 早速行くぞ!」
ロマン
「だから、まだ外出はダメだって」
バーサーカー
「……っ!! おみくじ……っ! 屋台……っ!!」
ヤマト
「泣くほどかよ」



エミヤ
「雑煮だ。バーサーカー、食べるか?」
バーサーカー
「……!」コクッ
エミヤ
「しかし気をつけろ。餅はよく噛んで食べ……」
バーサーカー
「かっ、くかっ、がっ……」
エミヤ
「早速か!?待っていろ!ヤマトもこっちに来てくれ!」
ヤマト
「かっ、くかっ、がっ……」
エミヤ
「貴様もか!?」


2日目、白銀の同居人

 俺は白い世界の真ん中にいた。空も、床も、横も、真っ白な世界。

 ただ俺はおぼろげながらも歩き続けた。

 誰かが倒れている。無視して歩き続ける。今の俺にはあまり関係のない些事らしい。見向きもせずに、浮かされたかのような心持ちの俺は歩き続けた。

 

 幾人の死体があり、その悉くを無視し続け、歩き続ける。

 

 しばらくして、俺の足は止まる。気になるものを見つけた。目の前には、木に寄りかかるひとりの男がいた。男が呟く。

 

「––––––––––––––」

 

 俺にはなんと言っているかわからない。いや、聞き取れなかった。それはまるで、俺には言っていないようで。

 

「おい、どこを見ている」

 

 振り返ると同時に、誰かに顔を殴られた。銀色の髪をした美しい女性だった。と、思う。

 

 その時、やっとここが夢だと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここには、まだ来るな」

 

 

 

 銀髪の女性が泣きそうになりながらそう口を開いたのが、酷く印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっつぅ……」

 

 痛い。鼻が猛烈に痛い。顔の上にはバーサーカーの腕があった。バーサーカー本人はスヤスヤと寝ている。

 

 こいつ。寝相で攻撃してきやがった。しかも多分、肘が顔に当たった。大分痛い。

 

 近くの時計に目をやる。まだ五時を回り始めたところらしい。寝るとまた攻撃を食らいそうだから、体を起こす。

 

 昨日の夜に、バーサーカーは「美しい」と言われるのが嫌いということが分かった。冗談で言ったのにボコボコにされた俺が言うんだ、間違いない。横腹とかはまだ痛い。こいつ……。

 

 その後、布団が一つしかないと気付いて、俺が気を使う前に俺を布団に引きずり込んだ。……「寝る場所でちゃんと寝るべき」だったっけか? 妙なところで律儀な奴だ。

 

 バーサーカーの寝顔に目をやる。安らかな寝顔はまだ子供のようだった。なんだか悔しくてほっぺたをつっつく。

 

「んにゅ」

「……おまえは美しいってよりは、かわいい、だろ……」

 

 夢で見た女性。美しいというのはまさしくあんな人の事だろう、と。どんな顔だったかはもう覚えてないが、そんな気がした。

 

 

 ……。

 …………。

 ………………ん? 

 ……なに口走ってんだ俺は!? 

 

「は!? き、聞いてなかったろうな? 目は瞑ってる、寝息は平常……大丈夫か? ……はぁ、朝飯……はなかったな、買ってくるか。あー何言ってんだ俺は」

 

 布団から出て、リビングに向かう。窓のカーテンを開くと、日が昇り始めていたばかりだった。早朝からフルボッコはごめんだ。

 

 バーサーカーがこちらに振り向いていた事に気付くことはなかった。

 

「おはよう」

「おはよーさん、いい天気だな」

 

 あいさつこそしっかりしているが、目をこすりながら言っているので大分寝惚けているように見える。多分、寝起きはいい方なのだろう。目覚ましもないのによく起きられるものだ。俺は普段は目覚まし時計がないと起きられない。今回が特別だろう。

 

「単純なものだが許せよ。今日は食パンだ」

 

 マーガリンを塗ってテーブルに出す。事前にジャムとか蜂蜜を適当に置いておいたが、まさかそのままかぶりつくとは思わなかった。

 

「美味しい–––––!」

 

 目をキラキラと輝かせながら言うんですもん。何というか、ね。やっぱりかわいいんだよね。バーサーカーは嬉しさを言葉にすることはほとんどない分、顔とかに分かりやすく出るんだよね。

 

「これとか付けて食え。美味いぞ」

 

 ジャムとかつけてあげて、反応とか見たくなるよね。

 

「〜♪ 。……ご馳走さま!!」

 

「はいよ。あと、これ。忘れてたけど、これで歯を磨いてこい。洗面所にある歯磨き粉つけてパパッとやっちまえ」

「分かった、ありがとう」

 

 バーサーカーがテテテ、と洗面所に行った後しばらくして、「わ、私は朝からなんて醜態を……」なんて言葉がブツブツ聞こえてきた。完全に目が覚めたのだろう。とりあえず聞かなかったことにしておいた。

 

「今日は何をするんだ」

「お隣さん……はまだいねぇし、下の階に行ってあいさつ回りに行こう。周りの人と繋がりを持たないとな。でも今はまだ朝だし、贈り物も作りたいからしばらくは出かけないかな。あと、夜に俺らの歓迎会があるんだと。お前もちゃんと来いよ」

「分かった。ところでその大きな器はなんだ?」

 

 横からバーサーカーが見てくる。ふと下を見ると、小さなイスを台の代わりにしてた。完全に子供のそれじゃないか……。

 

「贈り物作りだよ。どうせなら手作りをと思ってな」

 

 やっぱり引越しの挨拶だし、贈り物は蕎麦だろう。そう独り言で呟き、木鉢にそば粉と小麦粉を入れて混ぜていく。

 

「こな遊びは楽しいのか?」

「うっせぇぞ。……バーサーカー、そこに水あるだろ。それを半分入れてくれ」

「入れていいのか?」

「ああ」

「分かった」

 

 バーサーカーが入れようとした瞬間にバーサーカーが、ぐらっ、とした。バランスを崩したようで、イスが傾き落ちていくバーサーカー。手に持っていた水はそれぞれの放物線を美しく描き、溢れていく。そばを作っている木鉢へ向けて。

 

「あっ」

 

「えっ」

 

 俺は一拍遅れて状況を認識する。脳細胞がトップギアだぜ。

 

 うん、水が半分以上木鉢に入っていく勢いだ。「半分入れろ」と言ったにも関わらず。このままだと粉がびちゃびちゃのダマだらけになってしまう。嘘だと言ってよ。割とマジで。

 このそば粉は自分の中では結構貴重なので失敗して無駄にはしたくない。木鉢自体も重いので動かして避ける事も不可能だろう。

 

 ならば、どうやって切り抜けるか。

 

 俺の答えは、半分以上の水が入っても問題ない状況を即座に作る。それが最適な対処法と考える。

 

 つまり、水が全て落ちる前に混ぜきる––––! 

 

「うおおおおああああああ!!!」

「がぁぁぁあああ!?!?」

 

 結局、俺は訳のわからないハッスルをする羽目になり、バーサーカーは額をシンクにぶつけて悶絶してた。

 

「おい、ポンコツ」

「……なんだ」

「『なんだ』じゃねぇ。今日の昼飯が大量の蕎麦がきになるとこだったんだが?」

「なんだそれは」

「蕎麦がきに食いつくな。まず言うことがあるだろう」

「……すまなかった」

「よし。そこらへんで暇を潰してろ。料理はあとで教えてやるから」

「分かった……」

 

 なんとか丸まった生地を休ませる。

 本当に危なかった。蕎麦は結構繊細な料理のため、あの一瞬でダメになる事は容易に想像出来る。自分で言うのもあれだが、途中で俺の手が八つまで残像を残してかき混ぜてたのは信じられなかった。まぁとりあえずはこれでいい。疲れた。

 ふと、買い出しで買っておいたあるものが目にとまる。

 

 

 ついでだ、待ってる間にバーサーカーの料理技術をちゃんと見ておこう。

 

 

「バーサーカー」

「どうしたマスター」

「即席麺って知ってるか? カップ麺とも言うが」

「ん? ソクセキ? 麺は分かるが、ソクセキとはなんだ?」

「今時間があるから、作ってみろ」

「なっ!? 出来るわけないだろう!! れしぴとやらもなしに……」

「レシピはいらん。ほら、表面につくりかたは書いてあるだろ。なんも口出ししないから作ってみろ」

「だ、だが……」

「口出しはしないが協力はしてやる。あと、出来たものは俺が食べるからな」

「何故だ?」

「『自分が食べられれば問題ない』ってフォローが出来ちまうからさ。人間、他人のものを作った方が大体は丁寧に作るものだろ?」

「ほぅ……なるほどな」

「作るのはこれだ」

「『カップ焼きそば』か……。お前の作っているものと焼いたそばの違いはなんだ?」

「作ってみれば分かるさ。何事もチャレンジだ、やってみな」

 

 やってみな、とは言ったが、内心とても穏やかではない。不安が渦巻いているけどな! 

 

「ああ。このビニールを切るものを貸してくれないか?」

「ハサミでいいか?」

 

 

 

「色々書いてあるが、まぁなんとかなるだろう。フタを剥がすか」

「あっ」

「……えっ?」

 

 

 

「なんだと!? 半分だけ剥がすとはなんだッ!? ふざけるな!!」

「碌に読まずに全部剥がしたお前が悪い。二個目は頑張れ」

 

 

 

「中に色々入っているな。中身を確認するか。これは粉のようだが」

「……(ずぞぞっ)」←フタが開いた一個目を調理して処理中

 

「……ぬぬぬ」←ソースを開けている

「……」

 

「目がぁ!?」←ソースがかかった

「……」

 

「……ぬぬぬ」←マヨを開けている

「……」

 

「目がぁ!?」←マヨがかかった

「……仰向けになれ。目薬さしてやっから」

 

 

 

 

「くそぅ。かやく? とやらも全部開けて入れてしまえ! マスター、お湯を頼む!」

「ほらよ」

「準備がいいな」

「お湯以外を頼まれたら準備が必要だったがな」

「ほう、偶然というのはすごいな」

(暗に俺が言いたいこと理解してないなコイツ)

 

 

 

 

「サンプン! どうやって測ればいい!?」

「これがゼロになって音が鳴ったらいいぞ」

「こんなのもあるのか……」

 

 

 

 

「ユギリグチを開けて、お湯を出す」

「ここでやるなよ? キッチンのシンクに捨ててこいよ?」

 

「………………分かっている」

(うっわ、わかりやすっ)

 

「アッヅイッ!!!」

(あとで保冷剤でも持たせて、冷やさせよう)

 

 

 

 

「やっと……、やっと! 出来た……! しかし、イメージよりも大分色が薄いな……。味見してみるか?」

 

「……うっわ薄っす」

(知ってた。ソースとか全部入れた後にお湯入れて捨ててたし)

 

「食べろ」

(いや渡すなよ)

 

 

 

 

「……(ずぞぞっ)」←結局食べる

「……(ドキドキ)」

 

「……今度から料理は一緒にやろう」

「本当かっ!?」

「下手くそだから教える、って意味だからな? 何故出来ていると思った?」

 

「!?」

「だからなんでそこで驚く事が出来るんだ」

 

 

「蕎麦の生地も休んだ事だし、チャチャっと終わらせようか」

 

 打ち粉を振り、蕎麦の生地を置き、延しを始める。バーサーカーは隣で大人しく見ている。保冷剤を持ちながら。

 麺棒を二つ使い、さらに延していく。さっさと折りたたみ、切ってゆく。

 

「おぉ……は、早いな……」

 

 小分けにしてビニールに入れ、熱を使って密封。2人前ずつ入れてラッピングをしていく。これで完成。

 

「えっ、……えっ!?」

「10時か、挨拶周りには丁度いいな。そろそろ行くが、お前はどうする?」

「い、行かせてもらう。……何者なんだ私のマスターは」

 普通のマスターだろ? 慣れれば誰でも出来るだろうに。

 

 高速エレベーターを降りる。一つ下の階の方には行ったことがなかったのだが、思ったより新鮮だった。廊下の配色が俺の18階とはかなり変わっており、俺の階は白と淡い青のツートンカラーで、こちらはピンクとオレンジに変わっていた。構造は変わっていないが、色彩だけで廊下のイメージは大分変わっていた。これなら、興味本位で他の階の廊下がどんな色をしているか気になる。

 

 実はこのマンション、廊下からは外を見る事がほとんど出来ない。小さな窓がいくつかある程度だ。だからこそ、余計壁の色とかしか見るものがないというのはある。絵画とか置くのもいいかもしれない。今度AUOとやらに進言してみようかな。

 

「どこから行く?」

「まぁ、順番に行くか」

 

 S171号室の下、S161号室を訪れる。チャイムを鳴らし、しばらく応答を待つ。

 ドアが開き、姿を見せたのは長身の男性。

 

「なんだ」

 

 と、だけ口を開いた。普通の表情が睨んでいるようにも見える。しかし、不機嫌というわけではなさそうだ。

 

「上に越してきた、ヤマトと言います。周りの皆さんに挨拶をと。こちら、つまらないものですが」

「悪りぃな。……蕎麦か、久しく食ってねぇな。ありがとよ」

「えー! 蕎麦ですか!? 沖田さんも食べたいです!」

 

 唐突に、快活な和服の女性が後ろからひょっこり出てきた。

 

「沖田、おめぇ……」

「今から食べますか? ざる蕎麦ならすぐ出来ますよ」

「本当ですか!? もらいますとも! さぁ、中にどうぞ!」

「……重ね重ね悪いな。上がってくれ」

「分かりました。バーサーカー、入ろう」

「ああ」

「ん? 真名も教えてくれてないのか?」

 

 長身の男性が問いかけてくる。

 

「ええ、本人の事情で」

「そうか……。そうだな、紹介が遅れた。土方だ。で、向こうの馬鹿が沖田だ」

「馬鹿じゃないですぅ! 沖田さんは凄いんですからね!」

「どんな風に凄いんですか?」

「それはもう新撰組ですし、敵の拠点に押し入って敵をバッタバッタ……こふッ!?」

「沖田さんが死んだ!?」

 

 このひとでなし!!? 

 

「何が起きたのだ!?」

「気にすんな。コイツのスキルの『病弱』だ。すぐ起きる。すぐ起きなきゃ俺が切る」

「ふ、復活です! 土方さん! 復活しましたから、その刀を納めてくれませんかねぇ!?」

 

「マスター、シンセングミとはなんだ?」

「ああ、確か江戸時代後期に活躍した、政府にとって良くない相手を切り捨てる人斬り集団のことだ」

「ほう……、剣が上手いのか?」

「そうですよー! 沖田さんは凄いんです!」

「そう考えると凄いな……! あんたは本物の新撰組副長の土方歳三さんか!」

「ああ、そうだ」

 

「あれ、私は!? 私!!」

「沖田さんは……新撰組にいたっけ?」

「いないのか?」

「いますよ!? なんで土方さんだけ分かって、私を知らないんですかぁ! 新撰組一番隊隊長、沖田総司ですよ!」

 

「いいか、バーサーカー。こういうのを偽物、又は詐欺という。史実の沖田総司は男だからな」

「お前は最低なんだな?」

「どうして信じてくれないんですか!? 女の子でも本物ですよー!! かっこいいんですよー!!」

 

「本物なら自分で本物とは言わないだろ」

「お前は最低だな」

「取りつく島もない!?」

 

「はっはっは! 史実がどうあれ、コイツは一番隊隊長の沖田総司だ。俺が保証してやる。沖田ぁ、てめぇも難儀な奴だな」

「全くです……。もー! そばくださいよー!」

「悪かったって。厨房を借ります、ささっと茹でてくるよ」

「私も行こう、マスター」

「茹でるだけなんだが……お前は向こうで談笑でもしてろ」

「む、わかった……」

 

 しゅん、とするな。すぐ終わるから。

 サーヴァント達が話を聴きながらお湯を沸かす。こういう隣人同士の繋がりというのは悪くない。少し顔を綻ばせながら調理を進める。

 

「ところで質問です! バーサーカーさんとヤマトさんはどんな関係ですか?」

「どういうことだ?」

「いやー、結構仲よさそうなんで。てっきり恋人同士の関係かと……」

 

 こういう会話を聞きながらってのは良いな。料理が捗る。

 

「ふむ……裸を見せ合った仲ではあるな」

「ファッ!?」

「!?」

 

 おっと、何かがおかしい。このままだと俺が社会的に死にそうだ。沖田さんは奇怪な声を上げ、土方さんはお茶を噴きこぼしている。

 

「知り合ってすぐにそれって……」

「おい、ちょっと待つんだ、落ち着け沖田さん。それには誤解が「風呂とやらに一緒に入ってくれたぞ」あっ、もうダメだこれ」

 

 諦めた。もう俺は今日死ぬかもしれない。

 土方さんがこっちに来る。茹でているので目が離せないが、さっきと気配が全然違う。怒気と殺気が孕んでいる。こいつぁやべぇや。

 

「士道不覚悟だ。腹ぁ切れ」

「理不尽だぁ!?」

 

 

「なんだ、誤解ですか。びっくりしました」

「マスター? なぜ私を殴るんだ? 頭のたんこぶが痛いのだが」

「事故だけど……風呂を教えるためとはいえ、何やってたんだ俺……」

「やれやれ……」

 

 空気が完全におかしくなってしまったので、さっさとざるつゆも用意して、全員に渡す。

 

「わさびも置いときますね。すいませんがネギはないです」

「ここまでしてもらって、それ以上のことを言う気はねぇ。さっきのも、この蕎麦に免じてやる」

「助かります」

 

 本当に。許されなかったら、切腹以外の謝罪方法が思いつかない。

 

「……マスター、もしかしてこのツユも作ったのか?」

 

 さっきまでなかっただろう蕎麦つゆに疑問を持つバーサーカー。

 

「いや、流石にそんなことは出来ないよ」

「だろうな。流石にこれは……」

「予め実家で作ってきたやつだ」

「こっちに来てから作ったかどうかは聞いてないぞ!? というか本当に凄いなマスター!?」

「つゆも、って……もしかしてこの蕎麦手作りですか!? 沖田さんてっきり市販のかと……あ、ビニールにヤマト印ってかいてある!?」

「……美味いな。ああ、美味い」

「えっ、本当ですか!? 沖田さんも……うわ、美味ッ!! ナニコレ!?」

「美味しい……。マスター、これは魔法か何かか? あんな粉からこんな美味しいものが出来るとは思えん」

「魔法じゃない、技術だよ。こればっかりは蕎麦を初めて作ったひとが凄いけどな。俺は蕎麦の作り方をしっかりなぞっただけに過ぎんさ」

 

 かなり好評のようで良かった。土方さんに至っては天を仰いでるし。沖田さんとバーサーカーの二人も驚きを隠せていない。

 

「おかわりー!」

「……悪い、頼めるか?」

「多目に作ったんだ。たくさん食べてくれ」

 

 

「美味かった。またよろしく頼む」

「今度はそっちに遊びに行きますねー!」

 

「また今度!」

「行こうマスター」

 

 お土産にもう少し、蕎麦をおすそ分けして後にする。まだ沢山挨拶する人はいるんだ。時間が足りない。

 

「しかし、こんな樽をもらうとは思わなかったぞ」

「俺もだ。しかも中身全部タクアンだしな……匂いがすごい。そういや、お前は蕎麦お代わりしなかったな」

 

「まだ部屋が残ってるからな」

「お前は各部屋で食べるつもりか」

 

 

「S162号室さん、か。すいませーん!」

 

 チャイムを押した瞬間に、

 

「なんぞー!!」

「ぐべぁ!?」

 

 勢い良く出てくる雅で小さな女の子。によって吹っ飛ぶ俺。

 

「ん? お主、何の用じゃ?」

「私は付き添いだ。用があるマスターは今しがたあそこまで吹き飛ばされた」

「えー? ……あ、あれ?」

「あれだ」

 

 一つ前のS161号室まで戻された俺。ドアノブが刺さった。比喩とかじゃなく、マジで刺さった。めっちゃ痛い。肋骨が抉れたかと思った……! 

 

「S……171号室のっ……ヤマトだ……!! 引っ越してきたので、挨拶、をと……!!」

「……そ、そうであったか!? 苦しゅうない、疾く許せ! ……えーっと、ごめんね?」

「……ハ? ユルサン、ハヲクイシバレ」

 

「クタバレェェエ──ー!!」

「痛い痛い痛い痛いー!! 助けてマスター!! いや──!!」

 

 ちっこいサーヴァントの悲鳴を聞きつけて、メガネをかけた無害そうな男性がドアから顔を出す。

 

「どうしました!? あ、こんにちは。うちの茶々が何か粗相でも?」

「私のマスターがドアにぶつかり、吹き飛んだ」

「だから折檻中だ。もうしばらく借りる」

 

「そういうことですか。なら、いいですよ」

「良くないー!! 助けてー!!」

 

 ふんっ、アイアンクローごときで悲鳴をあげるとは情けない。実家周りの悪ガキでももう少し足掻いたものを。次は軽い関節技を極めてやろう。

 向こうでバーサーカーとコイツのマスターが会話している。

 

「上に引越した挨拶だ。これはつまらんものだが蕎麦だ。あとで美味しく食べてくれ」

「あぁ、ありがとうございます。お名前は?」

「今はエルドラドのバーサーカーで通っている。向こうはマスターのヤマトだ」

「僕はマスターの木田です。しがない会社員なのであまり会えないかも知れませんがよろしくお願いします」

「よろしく頼む」

 

「助けてよー! 何で悠長に会話なんかしてるのー!?」

「ふんっ」

「ちょっと待って!? なんかありえない方向に足が曲がったんだけど!? 茶々の足今どうなってるの!?」

「茶々、あまり遊んでないで。今日はわざわざありがとうございます」

「遊んでないよ!? バーカバーカ!! ぜったい伯母上に言いつけてやるからな!! 伯母上にやられてしまえー!!」

 

「なら言いつけないようにもう少し折檻(きょういく)しないとな」

「教育じゃない!? 誤魔化しても茶々にはわかるんじゃけど!?」

 

「オバウエ? おかしな名前だな」

「違うよ、彼女はあの織田信長の姪なのさ。知ってるかい?」

「いや、知らん。こちらに来たばかりなのでな」

「今度会ってみるといいですよ。茶々と一緒で面白い人だ。女性ですけどね」

「元々男性なのか? ……性別が違う英雄多すぎないか?」

 

 

 

「時間をとってすまなかったな。これ返すよ」

「……ウゲェ……」

「ありがとう、ヤマトくん。大丈夫? 茶々」

「あやつヤバいぞ……。わらわの炎をものともしないんじゃけど……」

「……君もなかなかに逸脱してる一般人なんだね」

「ん? そうか?」

 

 俺がバーサーカーに聞くと、

 

「ん? お前はそうだぞマスター」

 

 と言われた。解せぬ。

 

「もう、茶々ふて寝する!! 木田! ぱふぇ買ってきて!」

「はいはい分かりましたよ。それでは僕はこれで」

「こちらこそ。また会えたら」

「よろしく頼むぞ」

「二度と来るなー!」

 

 

「面白い子だったな」

「あれだけボコボコにして何を言う」

「次! S163号室! 行こうか」

「ここだな」

 

「すいませーん、上のS171号室の者です。ご挨拶に来ました」

 

 ぬっ、と出て来たのは、青い髪の美女。

 

「何?」

 

 冷たく言い放たれたその言葉は、まるでつららの様だった。言葉を向けられた普通の人間なら震え上がらせる程だろう。だが、目の前にいるのは、

「つまらない物ですがこちらを。ヤマトと言います。こちらはバーサーカー。これから共々よろしくお願いします」

 

 残念ながら普通の人間ではない(らしい)俺だ。お辞儀をして蕎麦を差し出す。

 

「そう」

 

 しかし、受け取る事もせず、見定めるかのように視線を向ける青い髪の女性。

 

「……おい、なんだ貴様は」

 

 対応の悪さが癇に障った様で、睨むバーサーカーを諌める。

 

「おい、バーサーカー。敵意を見せるな、友好的にしろ」

「……ふん」

「……ちっ」

 

 仕方ない。こういった存在がどういうものか、浅学のバーサーカーに教えるとしよう。

 

「いいかバーサーカーこういう人種は通称ツンデレと言ってな。ツンツンしていても裏の感情では歓迎していたりするもんだ。今のところ、『嬉しいけど、どう歓迎すればいいか分からないわ』という心情だ」

「えっ!? ちがっ……」

 

「こういうのは男女間で本当に顕著でな。マスターが男ならツンで突き放しつつ、デレよ時にはデレデレになったり甘えたりすると相場は決まっているもんだ」

「ちょっ」

 

「なるほどな。気難しくも、心を許した相手には優しくなったり甘えたりするということか」

「あんたたち、一体何を」

「理解が速いな、そういう事だ。こういうのは無理に受け止めずに、遠目でニヤニヤして微笑んでおけばいい」

「ほほう」

「……」

 

「「……(ニヤニヤ)」」

「……死にたいならそう言いなさい」

 

「そんなわけないじゃないですか(ニヤニヤ)」

「死にたがるバカなどいないぞ(ニヤニヤ)」

「殺す」

 

 ドアが全力で開け放たれ、ツンデレが臨戦態勢に入る。それに対する俺たちの反応は対照的だった。

 

「…………私よりもないな。まぁ、元気出せ」

「どこ見て言ってるのよ!! ……というか、そいつは何でもう死んでるの!?」

「マスターのスキルでな、下心=即死だそうだ。お前の下半身のせいだろう。もう少し露出を控えろ。そこまで行ったら、もう全てさらけ出しているのと変わらんぞ」

「あら。私の美が分からないのかしら」

「分かったからマスターは死んでいるのだが……まぁいい、失礼した。蕎麦だ、受け取れ。いわば迷惑料だな。マスターと美味しく食べてくれ。またな」

 女性は蕎麦を受け取り、少しため息を吐いた。その後、思い出したかの様に、ヤマトを担ぐバーサーカーを止める。

 

「あ、そうそう待ちなさい」

「なんだ」

「メルトリリスよ。メルトとでも呼びなさい。そこのマスターは手は器用かしら?」

「知らん。だが、料理には秀でるものがある。それを食べれば分かると思うぞ、メルト」

「……そう、ありがと」

「では、マスター共々よろしく頼む」

 

 

全て遠き理想郷(アヴァロン)が見えた」

「何をバカなことを言っている」

「まぁいいか、次行こう」

「S164号室か。メルトのような性格でなければいいが」

「メルト? ああ、さっきのヤツか。大丈夫だ、きっと隣の部屋とのキャラ被りはないだろ」

「……何を言っているんだ?」

 

「すみませーん!」

「はーい」

 

 出て来たのは小柄な可愛い子だった。もしかすると小学生とも、と思える身長で、風貌から幼さが抜けきっていない様に感じられた。

 

「……なんというか、庇護欲が駆り立てられるな」

「そうだな。S171号室のヤマトと、バーサーカーだ。引っ越してきたから挨拶に来た。つまらないものだが蕎麦だ。受け取ってもらいたい」

「わ、わざわざありがとうございます! マスターの千春です! よろしくお願いします!」

「チハルか……。覚えておかなければ」

「チハルくん。出来れば、君のサーヴァント……だっけか。会わせてもらいたい。どうせなら両方と知り合いになりたいからな」

 

「「えっ?」」

「ん? どうかしたか?」

 

 二人してこっちを見る。おかしい事でも言ったか? 

 

「マスター、今、チハル『くん』と言わなかったか? それはまるで、彼女が男の子みたいな……」

「なんで分かったんですか!?」

「えっ? ……はぁぁあ!? 男なのか!?」

 

 あからさまに驚くバーサーカー。何を驚くことがあるんだ。

 

「男だろう。どう考えても」

「な、何故分かったマスター!?」

「それは……ん? ぶべらっはぁ!?」

 

 答えようとした瞬間、俺の意識は空へ飛んだ。

 

「マスター!? 一体何が……!?」

「あっ、リップ」

「な、あ……!?」

「どうかしたんですか? な、なんで人が倒れてるんですか!?」

「リップ、というのか。お前のせいなのだが……こっちは凄まじいな」

 

 

「……うぐっ、一体何が起きたんだ?」

「起きたかマスター。マスターの目に毒だったのでな、早めに贈り物をして切り上げさせてもらった。リップと言うらしいが、気をつけろ」

「何を気をつければいいんだ。エンカウントするなってことか?」

「凄まじいぞ……あれは」

「何のことなんだ?」

 

 突然のこと過ぎて覚えてないぞ。おい、なぜ遠い目をしている。何が起きたんだ。

 

 

 

 

「……ところで、何でチハルが男だと分かった?」

「体質と性癖」

 

 男の娘は守備範囲ではない。だから体質としても反応せず、憤死することはないのだ。おそらく裸を見ても大丈夫。

 

「おい変態」

「うるさい」

 

 死なないだけマシだろう。ゴミを見るような目をやめろ。

 

 

「S165号室!」

 

『修学旅行いってマース☆ JKセイバー』

 

 ドアの前に、そんな紙が貼り出されていた。

 

「「……」」

 

「JKなら仕方ない。修学旅行だもんな」

「それ以前にサーヴァントだ。マスター」

 

 

「S166号室!」

 

『センパイのところに居ます♡ BB』

 

「JKがいるならセンパイも……」

「いるわけないだろう」

「……何の略なんだろうな?」

「……分からん」

「テキトーにビッグボインとでもしとくか」

 

 

「S167号室!」

 

『隣にいます』

 

「「隣に?」」

「こっちか?」

 

 

 

『B168』

 

「「……」」

「……やめよう」

「マスター、部屋のSとBの違いは……?」

「それは分からん。だが、俺がここに入ると、直感で死ぬと分かるぞ。なんというか……邪悪な性欲の権化みたいなのがいる気がする」

「……やめておくか?」

「そうする」

 

 

「S169号室だ。鳴らすぞ」

 

 チャイムを鳴らそうとした。すると、バーサーカーがそれを手で制した。

 

「どうした」

「しっ。先にS170号室だ。男の悲鳴のようなものが聞こえた」

「……ロマンさんが言っていたが、防音は完璧のはずだ。お前の直感もあるのか?」

「……」

 

 無言で、しかし静かに頷いた。S170号室のチャイムを先に鳴らす。厚いドアが大きく感じた。

 

「……」

「……」

「反応がねぇぞ」

「カギも開いてるみたいだな」

 

 お互いに目をやる。

 

「外で待機。念の為警戒をな。1分経っても戻って来なかったら来てくれ」

「了解だマスター」

 

 

 

 

「お邪魔します」

 

 中に入る。何かしらの問題があったら対処しなければ。部屋全体が暗い紫色になっており、不気味な雰囲気が漂う。

 

「––––––」

「––––––!!」

 

 リビングの方で声が聞こえる。息を殺しながら、ドアを開け様子を伺う。

「にっはっはっは–––––! 次はどの拷問にしようかのー♪」

「テメェ、この拷問ロリ!! いい加減にしろぉぉおお!! 武則天だかなんだか知らんが、一々拷問するんじゃねぇ!! てか! この手下みたいな奴ら毎回いるけどホントになに!? 顔見えないからコワイんだけど!?」

「妾を退屈させるのがいかんのじゃ!! という事で石もう一個追加ねー☆」

「ギャァァアアア!!」

「……」

 

 ロリコンが処刑されていた。俺が頭から崩れ落ちたのは悪くないはずだ。チャイムの音なんか聞こえないワケだ。こんなにはしゃいでいたらな。

 ……どうしようこの中に入りたくない。無関係でいたいと本能で感じた。

 

 たまたまロリコンと目が合う。アイコンタクトをしているようなので会話を試みる。

 

(良いところに来た、助けてくれ!! 礼ならする!! 死にそうなんだ!!)

(そうなのか大変だな)

(他人事だなテメェ!? 頼むよ!!)

(……やってはみるよ)

 

 今度は小さいロリの方を向く。紫の髪が魅力的で可愛い。目が合うとこちらも細い目で何かを言っているようなので何を言っているか読み取る。

 

(其方もコレをやられたいのか? よいぞ! はやくこっちにk)

 

「失礼しました。また後日伺いますね」

「おおぉい!?!?」

 

 すまん。名も知らぬロリコンよ。俺とて命は惜しい。

 

「貴様裏切るのか!? これが人間のやるこt」

 

 

 扉を閉める。……まぁ悪かったと思う。だが、お前のことは忘れない。……あれ、あいつの名前なんだっけ? ま、いっか。

 

 何食わぬ顔で外に出る。

 バーサーカーが怪訝な顔をして聞いてくる。

 

「どうだったんだ?」

「………………うん、取り込み中だった」

「そうなのか。無事ならいい」

 

 二人ともS170号室を後にした。

 

 

「ここで最後だな。S169号室。順番が変わってしまったが」

「ここも何故か開いているな。……少々、全員不用心が過ぎるのではないか? 警戒はしておく」

「行ってくる。待ってろ」

「分かっている、さっきと同じだろう?」

 

 先程と同じ要領でドアを開け、中を覗く。

 

 

「とりあえず土下座をやめて!? 大丈夫だから!! 出かけるだけだから!!」

「すいません死んでしまいます……孤独死してしまいます……」

「かれこれもうこれ二時間だよ二時間!? お腹すいたの! 昼ごはん買いに行きたいの! 孤独死の前に餓死しちゃうんだけど!!」

「それは困ります……でも置いて行かないで下さい。その間にだれかに襲われでもしたら……」

「あーもう!! 足を掴まないでっ!! そんな人居るわけ……」

 

 ないでしょ、と続けようとしたのだろう。俺と目が合い、硬直する。静寂が訪れ、なんとも言えない空間が生成される。

 

「「「……」」」

 

 俺は口を開く。

 

「……うん、趣味は人それぞれですよね。はい。人に言えない何かってみんな持っていると思うんですよ。はい。なので……」

 

 

 

 

「土下座を強要させて悦ぶ変人とは決して言わないので何もしないで下さいごゆっくりッ!!!」

 

「ステイッッ!!!!」

「くっ!?」

 

 目の前の女性の鬼気迫る気迫に体が震え、動きを封じられる。

 くっ、遅かったか……!? 

 

「誤解があるの。話を聞きなさい、いいわね?」

「? ……? 、?」

 

 土下座していた褐色の女性はまだ事態を把握していないようだ。何故だ、貴女は今酷い事をされてるんですよ!? 侮辱されているに等しい事をしているのに何故疑問符を出してるんですか!?!? 

 

「偏見と誤解しかない目でこっちを見ないで。とりあえず、その『11』まで打った携帯をしまいなさい」

 

 ちぃ……! あと少しだったのに……ッ! 警察への通報の道を潰されたか……!! 

 

「まず話を聞いて。違うの。私が彼女から土下座されて困っているだけなの。だからあなたが思っているような誰が電話の子機に手を近づけろと言ったぁ!!?」

「バレたか!? くっ! 往生際の悪いやつめ!! 素直にお縄につけ!!」

「だから誤解なの!! 本当に何もやってないのよ!! 脊髄抜き取るわよ!?」

「そんな脅迫聞いたことないわ!! ってか、怖ッ!?」

 

「あの……」

「何よキャスター!」

 

 彼女(キャスターという名前の人?)が、口を挟んできた。変人女が八つ当たりするかのように叫ぶ。

 

「あなたは入ってきていますが、不審者でしょうか? すいません、死にたくないので……答えてもらえると……」

「……」

「……」

 

 二人ともキャスターを見、それぞれお互いを見やる。再び、静寂が流れた。

 

 

 

 

 ……………………あ。

 

 

 

 

 

 

「「動くなぁッッ!!」」

 

 

「黙れ変人女! 携帯を置け!!」

「うるさい不審者! 携帯を置きなさい!!」

 

 

「警察はやめろ!! お前はくたばれ!!」

「警察はやめて!! あなたは死になさい!!」

 

 

「「違う! 誤解なんだ(なの)!!」」

 

 しまったッ! 普通にチャイム押せばよかった! 前の部屋に毒されて勝手に入ってきてしまっていた……!! 

 しかし、それはそうとコイツは一旦ムショに送らなければ……! 人に土下座を強要なんて、やっていい事ではない……! 

 

「こんなすれ違いは、物語でも中々ないのではないでしょうか……?」

 

 キャスターさんが何か呟いているが、何を言っているかはよくわからない。そんなことよりも目の前のコイツだ……! 

 

「どうすればいいんだ……!?」

「一旦落ち着きましょう。その後に私から語ればいいでしょう」

 

「同感だな。やり方は任せろ」

「はい」

 

 ……ん? え、キャスターさん? 誰と会話しているの? 

 

 そう振り向いた瞬間、小さな手が俺の意識を刈り取った。

 

「んへぇ」

「にょひぃ」

 

「喧嘩両成敗だ。悪く思うな」

「少々手荒ではないですか?」

「生憎、これしか方法を知らん。マスター両名共、頭を冷やせ」

 

 朧げな視界で見えたのは、バーサーカーと同じく倒れていく変人女だった。そういえばさっきと同じなら1分過ぎてから入ってきているんだっけ。時間ってすぐ過ぎるんだね。

 

 

 

 いや、俺は今日で何回気絶するんだ。このツッコミに応える者はいなかった。

 

 

 

「「すいませんでした」」

 

 お互いに気に食わない顔で言葉だけの謝罪を口にする。

 

 キャスターの……えーっと、シェヘラザードさん? でしたっけ? が名前とともに経緯を話してくれた。

 

 シェ、シェヘラ……キャスターのマスターである変人女と一緒に何故言わなかったのかと聞くと「二人とも興奮していて、聞く耳持たなかったと思います……」と言われた。解せぬ。これにはバーサーカーも頷いていた。解せぬ。

 

「シェヘラさん。さすがに……」

「シェヘラザードです」

 

「……シェヘラザードさん。さすがにそれはないですよ。こっちの変人女「あ?」見目麗しき女性(笑)ならともかく、俺はちゃんと話を聞いていましたって」

「そうよキャスター。コイツのようなバカみたいな不審者「おん?」紳士的な男の子(爆笑)ごときと違って、ちゃんと理解したのに」

「寝言は寝て言え」

「ぶっ転がすわよ」

「あ?」

「はん?」

 

「ストップだ二人とも。また失神したいなら止めんが」

「お互いの顔の距離が近すぎませんか? ……実は仲が良いのでは……」

 

「「それはない」」

 

「……息がピッタリだな。睨まれてもこれは文句言えんぞ」

「待ってくださいよサダルスードさん!!」

「シェヘラザードです」

 

「待ってくださいよシェヘラザードさん!! こんな女と一緒にしないでください!!」

「こっちから願い下げよ!!」

 

「喧嘩腰だな。なんとかならないか」

「どうすればいいのでしょう……? ……ところでバーサーカー、それはなんですか?」

「これか? ああ、これを渡すのが目的だったのだ。私とマスターのヤマトはこの間に引っ越してきたばかりでな。挨拶回りを兼ねて蕎麦を渡している」

「えっ!? 蕎麦なの!? 貰える!?」

 

 変人女がものすごい勢いでバーサーカーに近づく。これにはバーサーカーも驚いて後ろにのけぞった。近い近い。

 

「あ、ああ……」

「よかったぁー! キャスターったら、外に出してくれないのよ。私はご飯なんて作れないのに、昨日丁度備蓄がなくなっちゃって。それで外に買い物に行こうとしたらこんな事に……」

「なるほど、だからお腹が空いているのか」

 

 相槌を打ちながら、バーサーカーは状況を理解し始めた。

 

「すみませんが……私のマスターの為に早速食べてもよろしいでしょうか?」

 

「待つんだザバーニーヤさん!!」

「シェヘラザードです」

「マスターはそろそろ名前を覚えろ」

 

「待つんだシェヘラザードさん!! へっへっへ、シェヘラザードさんには食べさせるが、貴様はどうかな? 変人女ぁ……!」

「くっ、どういうことよ!? 後、私にもちゃんと名前……」

「そんな事はどうでもいい!! ふっふっふ、貴様にはタダではやらん……! そうだな、『私が悪かったですから許してくださいヤマト様』と言ってくれたら……」

 

「私が悪かったですから死んでくださいヤマト様」

「表に出ろ」

「上等よ」

「やめんか馬鹿ども。マスターもさっさと作りに行け」

「楽しそうで何よりです……」

 

「「楽しくなんかない!!」」

「……お前達は打ち合わせでもしているのか?」

 

 

「生きててよかった……! おいじい……!!」

「こんな物がこの世に……いえ、これを昔から食べることが出来た人たちを羨ましく思いますね」

 

 渋々ここで湯がいた蕎麦だが、ここでも好評だった。というか変人女、お前……泣くほどかぁ? 感情の喜怒哀楽がとても激しいな。

 

「そうだろう。これには私も一目置くぐらいだ。ところでマスター、今日はこれで最後だろう? おかわりだ!」

「はいはい、と」

「出来れば毎日食べたい!! これ、どこで売ってるの!? 教えて!!」

「売ってるって言えば売っているが……それは非売品だ」

「え!? そ、そんなぁ……」

 

 絶望に暮れて落ち込む女。キャスターは疑問があるようで、分かりやすく顔を傾けて聞いてきた。

 

「非売品なら、何故そんな貴重な物をくれたのですか?」

「……ああ、そういう事じゃない。手作りだからって意味だよ」

「へ?」

 

 女の目が点になる。信じられない、と目で語っているようだ。

 

「ほ、本当ですか……!? 月並みの事しか言えませんが、美味しかったです……」

 キャスターさんからの賛辞に思わず口角が上がる。

「ありがとうな。やっぱり美味いと言ってくれるのは嬉しいもんだ」

「えっ? あなたの手作り? そっちのサーヴァントの方じゃなくて?」

「ん? そうだよ。なんか文句あるか変人女」

 

 

「…………………………結婚してください」

「だが断る」

 

 

「即答!? なんで!? 私はあなたが欲しいの!!」

「完全に料理人としてしか見てねぇじゃねぇか!! そんなのはごめんだ!!」

「せめて私に味噌汁を毎日作って!!」

「最大限の譲歩でプロポーズかよ!? いい加減にしろよお前!?」

 

 マスター二人がギャーギャーと騒いでいた時、蚊帳の外のサーヴァント二人はお互いの思いを知ろうと、二人をロクに止めずにお互いを見据える。

 

 

「それにしてもエルドラドのバーサーカー。あの時以来ですね」

「そうだな、不夜城のキャスター」

「……あなたは、この世界に何の目的があって現界したのですか?」

「……」

 

 バーサーカーは口を噤んだ。しばらく思案したように俯き、ゆっくりと口にしていった。

 

「さぁな、大した目的などはない。強いて言うならアキレウスの奴がいない事だな。ただ、マスターがあれならば退屈はしないだろうよ。貴様は自分のマスターに何を見る」

「そうですね……。彼女は感情が激しいですが、私を見捨てないお人好しでもあります。なんと言えばいいか……彼女のためならば、喜んで語りましょう。そう思える方ですね。死ねと言われるならば別ですが」

「そうか……似たようなものだな。相性とでもいうか、そういったものがピッタリ当てはまっている。そんな感じはある。これが縁による召喚だというならば、聖杯戦争でも気の合う者同士と共に戦えば良いものを。……ふふっ、それと勝つ事はまた別か」

 

「あなたは……。いえ、元は敵同士だったからでしょうね。貴女のその顔は初めて見ました」

「む? ……変な顔だったか?」

「いいえ、いい笑顔でしたよ」

「そうか……」

 

「わぁったよ!! 今度またなんか作ってやるから!! それでいいな!?」

「やだ!! 明日の朝また来てよ!!」

「どんだけワガママなんだよお前は!? 食い意地張りすぎだろ!?」

 

「そろそろお暇しよう。機会はこれから幾らでもあるだろう」

「またいらしてください。その時にはちゃんともてなしますね」

 

 

 

「だー終わったぁぁああ……! 疲れたっ!」

「この程度で疲れるのか。貧弱だな」

「お前は基本歩くか食ってるだけだろ」

「疲れていると言いながら、マスターは何を書いているんだ?」

「さっきの人たちの名前を整理しているんだよ」

 

 土方歳三さん、沖田(偽)

 クソガキ(茶々)、木田さん

 メルト、(マスター?)

 リップ、チハルくん

 JKセイバー 挨拶出来ず

 BB(ビッグボイン) 挨拶出来ず

 邪悪な性欲の権化 挨拶出来ず

 しぇへら……キャスター、変人女

 ロリとロリコン

 

「改めて並べるとヤバイ奴しか居なくない? チハルくんはともかく、木田さんさえ癒しに思えてきた」

「気のせいだマスター」

「本当に?」

「…………多分」

「断言してくれよバーサーカー!?」

 

 

 

 夕陽が眠るかの様に地平に吸い込まれ、空の色が変わる。赤から一瞬だけ緑になったかと思えば、青が深くなっていく。反対側では月が映えてくる頃合いだろう。

 

 様々な人とたった一日で出会い、関わった。しかし、これでもまだ一部なのだ。全体像はいまだ見えない。

 体が震える。

 期待が膨らむ。不安はかき消される。楽しみが抑えられない。

 

 まだ、面白い人達がいる––––––! 

 

 そろそろ、エミヤが言っていた歓迎会が始まる頃だろう。俺たちも向かわなければ。

「行くか、バーサーカー」

「待て。この服でいいのか? まだお前の借り物で……」

「いいだろそのぐらい。かしこまったパーティーじゃああるまいし。半袖で恥ずかしいなら何か羽織るか?」

「いや、いい」

 

「よし、行こうか!」

「……ああ!」

 

 玄関のドアを開ける。

 

 

 この時はまだ二人は知らなかった。

 

 最凶最悪の空間が二人を待っている事に。




ヤマト
相変わらずエロに弱いため、メルトとリップをまともに見ていない残念主人公。快楽天は直感で回避した。実家にて蕎麦を買うことが出来ます。

エルドラドのバーサーカー
ポンコツ。

沖田(偽)
女の子。縮地が凄いのだが、戦いの機会が少ないため病弱スキルだけが目立っている。

土方歳三
新撰組副長。頼れる兄貴。

茶々
ノッブの姪。作者はB三枚目のスペシウム風の攻撃が好き。

木田
人畜無害の社畜。絵に描いたような草食系メガネ男子。

メルト
間桐桜。フルネームはメルトリリス。下がヤバイ方。

リップ
間桐桜。フルネームはパッションリップ。上がヤバイ方。

JKセイバー
ギャル系サーヴァント筆頭。今回は出番なし。

BB
間桐桜。ヤマトのあだ名は案外的を射ている?今回出番なし。先輩とは一体誰だ?

邪悪な性欲の権化
快楽天ビーストの常にヤバイ奴。ヤマトと話すにはヤマトの方のレベルが足りない。

ロリ
拷問大好き。

ロリコン
拷問大好き(名誉毀損)

シェヘラザード
名前が言いにくいのでヤマトは絶対間違える。ヤマトがちゃんと名前を言えた時、それは世界の終わりを意味する。

変人女
名前が出なかった可哀想な人。食い意地は全てに優先するぜ!らしい。

夢見の双月
寝正月に突入し、「月一で投稿したいなぁ、次は年末年始に投稿しよう」という思いを見事玉砕。土下座をしながらこの紹介を書いていた。

ごめんね。

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