Fate/箱庭の英雄達   作:夢見 双月

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遅れてしまった言い訳はあとがきにて。

まずはどうぞ。


2日目 明けない夜 中編

「どうした?バーサーカー?」

 

 急に裾を引っ張られ、バーサーカーの方を向く。

 バーサーカーの顔が紅い。すかさずバーサーカーの杯を取り上げて匂いを嗅ぐ。

 

 やっぱり。酒だコレ。

 

「おいバカ。英雄だかなんだか知らんが、ガキみたいなナリで飲んだら、そりゃそうなるだろうよ。もう少し考えろ」

 英雄はどのような状態で召喚されるのだろう?

 周りを見回すと、その殆どが若い頃に分類される姿形をしているのが分かる。だとすれば、例外があるとしても最盛期で召喚されるのだろうか。

 

 だったら、バーサーカーはなんでこんなにちっこいんだ?

「……んぁ」

 酔いどれと化したバーサーカーは最早まともな受け答えすら出来ていないまま、蕩けた顔でニヘラと笑う。胸の奥を何かが貫いた気がした。

「あー、参ったな。ブーディカさーん」

「ん?何?」

「こいつが早々に酔いつぶれちゃって。介抱してくれませんか?」

「いいよ。楽しんで来てね」

「すいません、ありがとうございます」

 そう言って、俺は酒飲み達の輪の中に入っていった。

 

 

 

 

「まったく、悪い子だなぁ。自分のサーヴァントを放っておくなんてね。身近な人ほど大事にしないと」

「ならばこそ、私がそやつを預かろう。ブーディカ」

「アタランテちゃん。いいよいいよ、私に任せて」

「今日は汝のマスターの誕生日なのだろう?そろそろ帰ってくる時間の筈だ。……流石に汝が楽しみにしていた事ぐらい、私でも分かる。行け」

「……」

「身近な人ほど大事にするべき、なのだろう?」

「ありがとう。ごめんね」

「構わん。料理の提供だけでも有難かった。それに見合う返しは必要だろう?」

「じゃあ、任せるね」

「ああ」

 

 

 

 

 

「なんだボウズ、自分の相棒を置いて来たのか。冷たいねぇ」

「いや、そう言われても。なーんというか、一緒に居づらかったんですよ」

 青い装束の男、クー・フーリンは座り方を崩し、近くに置いてあった酒のグラスを煽った。上半身に何も着ていないのは気になっていたのだが、「楽しく遊んでただけさね」と言われた。

 

 楽しく……楽しく……ん?楽しく?

 

 あ!?さっき野球拳やってた人だ、この人!?

 

「恥ずかしいって思ってるだけじゃねぇか。少なからず意識してんだろ?いいねいいねぇ」

「なんだ?男ならやることやって初めて一人前だろう。今からでも誘ってみたらどうだ!?」

「フェルグス、おめぇみてぇに豪胆な奴がそういてたまるかよ」

 

 クー・フーリンの肩に手をかけ、顔を近づけて来るフェルグスと呼ばれた男は、まるで「雄々しさ」の体現者とも言える程の体格と精神の持ち主のようで、開口一番に()()事を提案してクー・フーリンに呆れられていた。いや、クー・フーリンが呆れたのはフェルグスの方ではなく俺たち現代の人の方かもしれないが。

 

「ところで、聞きたいことがある」

「どうしたんですか。えーっと、フェルグスさん」

「タメグチでも構わんぞ。実はな、今回は新たに三人のサーヴァントが入って来たと聞く。なのにだ。紹介されたのはマスター三人とサーヴァント一人……は、お前さんのサーヴァントだな、とまぁ要するに二人のサーヴァントは不参加だったんだ」

「……?つまり何を……」

「そう焦らず聞け。今回ここに入ってきたヤツの中に俺と何か関係あるヤツが来るという直感がビンビンときてな。主に下半身が」

「ちょっと席を外しますね」

「まぁ聞けと」

「グエァッ」

 襟を掴まれて思わず首が締まる。気づいたらフェルグスが後ろにいた。速過ぎる。やや強引に座らされる。

 クー・フーリンの方に助けを求めるが、笑いながら「諦めろ」と言われた。

 

 何が悲しくて他人の色事に首を突っ込まなくちゃならんのだ。俺には居ないんだぞ!何がとは言わんがッ!!

 

「カンタンに言えば交流兼情報収集よ。お前が知らなかったらそれまでだ」

「……そーですか」

 

「そうだな。この時代の……エロ本だったか?中々良かった物から何冊かを進呈してやろうと考えているが」

「何の情報が欲しいですか?今ならここの酒気に煽られて口が軽くなってるかもしれませんね」

 

 クー・フーリンが飲んでいた酒ごと噴き出した。盛大に。

 何を笑うことがあるんだ。本能には逆らえない。これは自然の摂理だ。是非もないよネ!

 

「しかし、二人のうちのどちらかが分かりませんよ?せめて、特徴とかはないんですか?」

 思い出すのは、拷問ロリと比較的まともなシェ……シェへ(ゴニョゴニョ)さんのどちらかだが、心当たりがなければどちらかすらも分からない。まぁ、直感だけなら勘違いという事もあり得るのだが。

 

「そうだな。少ししか特徴は覚えていないが……」

 

 

 

「褐色で、巨乳で、何かと露出が高い上にそれ以上に内側から溢れ出るエロスがあり、死ぬことを恐れていて、尚且つ数えきれん程の物語を読むことが出来る女だ」

「それでもうほぼ確定出来ませんか?」

「何を言う。抱いた女もこれから抱く女も数十個は特徴を言えんと、男としては失格だろう」

「……」

 

 フェルグスが軽口で言ったにも関わらず、しばらく言葉が出なかった。価値観や考え方が自分とかなり違う上、聞いたら納得する事しか出来ない気遣いだと思った。

 何を考えても「すごい」なんていう陳腐な感想しか持てなくて、そんな自分に少し悔しくて平凡な言葉を呑み込んだ。

 

「分かるか?そいつはそんなヤツさ。実際に精霊とまで色々してたしな。それがフェルグス・マック・ロイっつー男だ。側から見りゃただの女好きだがな!」

「応ッ!女好きは否定できんし、何よりその通りだからな!!」

 二人は豪快に笑った。空気が抜けたように思えて、俺は一人ごちた。

「……いや、やっぱスゲーな英雄ってのは」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんも。それよりさっきのハナシ。心当たりはあるし、というか俺より詳しいそのマスターと繋がりはあるぞ。……そういえば、あっちの変……理沙ってのが多分探しているヤツのマスターなんだが、なんでそっちに聞きに行かないんだ?」

「リサとやらに話をするのは構わんのだがな。実は奴も中々イイ女だと睨んでいる。『あれならば誘わぬ方が男の恥ッ!』ということでな?」

 分かるよな?な?という感じで顔を近づけてくるフェルグス。

 というか、リサとやら、って。歓迎会関係なしに飲み会を楽しむんじゃない。

「つまり、手を出しそうだと?」

「応ッ!だが、ヤツ……サーヴァントの方だが、なにぶん危機察知能力が高いのを霊器が覚えていてな。リサに嫌われでもしたら最後、二人揃って全力を尽くして俺を避けるのは目に見えている。だが、俺はリサと話すなら同時に誘うし、恐らくそれが原因で避けられる。どちらにせよ進展はせんだろう」

「いや、誘わなきゃいい話じゃ……?」

「とにかくだ。完璧なまで避けられるのは弱い。あんな別嬪な彼女らを目にして何も出来ないのは生殺しに過ぎる。かといって動いても、という事だ」

「つまり、俺に動いて欲しいと?」

「業腹だが、そういう事だ。俺が自由に動いていいのなら即!実行するが、今回は相手が相手でな。リサと交流があるのだろう?任せたぞ」

「うーん、上手く行くか……?」

 渋々と、色々不安に思いながらも理沙の方に向かった。

 

 

 アタランテと呼ばれた獣耳の女性は、近くにあった飲み物や食べ物を口にしながら、バーサーカーを膝枕していた。

 バーサーカーは二日酔いにでも入ったのだろうか。頭に手を当てて、う〜、と唸っていた。

「しかし、こうしてみるとまるで少女のようだ。やはり子供というのは()()()な」

 唐突にバーサーカーが目を開き、上体を起こした。

「むっ、私の独り言で起きてしまったか。……さて、何故殺気を放っている?」

 その顔には既に、酔いなど無く。彼女はアタランテの目を、かつて憎んだあの男に重ねてしまっていた。

「美しい……と、言ったか?」

 

 

『まぁ、お前に無理は流石にさせん。今回の主役だしな。部屋の番号と名前さえ分かればそれでいい』

 というわけで、何故かパシられた俺は「女性の酒豪」の命名出来るぐらい飲んでいる集まりにいる。てか、女しかいない。

 クー・フーリンに助け(2回目)を求めたが、「スカサハがいるから」と即座に断られた。それでも兄貴か。英雄なら助けろや。

 しかもバーサーカーからも結構離れてしまっている。出会ってから離れた事があまりないから、少し不安だ。正直、近くにいないと何故か嫌な予感がするんだけどなぁ。あ、ケモミミの人が膝枕してる!?いいなー。

 

 そして目的の人は–––––––。

 

「助けてェ!?」

 –––––––少し遠いところで何故か絡まれていた。

 

「デュフフフ!その可憐な脚で……」

 「目指せワールドカップ!!」

「ケブホァァァアア!!??」

 

 偶々近くにいた男の顔を、偶々全力で蹴り出す。

 

 おっと、汚いサッカーボールを蹴ってしまったようだ。

 

 何か喋っていた気がするが、ああいった類いのモノは聞かないに限る。耳が腐る可能性があるからな。

 

「え!?あ、あんたはヤマト!?まさか助けて……」

「そう言う君はッ……!?……え、誰だっけ?」

「理沙よ!!忘れんじゃないわよ!!」

「冗談だ。それより、あまりの気持ち悪さに蹴り抜いてしまったが大丈夫だろうか?」

「きっと大丈夫よ。あの人は……」

「弁償は向こうにめり込んだ人に払ってもらおっと」

「まさかの壁の心配!?せめて黒ひげさんの方を心配してあげて!?」

「あ?んー、黒髭さんねぇ……」

 まさか壁まで蹴り飛ばした人があの黒髭とは。ちょいちょい有名な人が出て来て困る。しかし、なんとなくオタクっぽい雰囲気があったのは気のせいだろうか……デュフフフとか言ってたし。いや、うん。気のせいだろう。

 

「そんな事より、ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「え?何?」

 とりあえず、フェルグスさんの頼みを聞いておこう。さっさと済ませて、そろそろバーサーカーの元に戻りたくなって来た。

 

「突然だが、部屋の番号と名前を教えてくれないか?」

「ちょっと待って」

 急に顔に手を当てて俯く理沙。

 

「ん?どうかしたか?」

「いや、どうかしたかって……」

 

「私の所の部屋番は?」

「S169だろ?」

「私の名前は?」

「理沙って自分で、さっきも言っていたろう」

「で、さっきの質問は?」

「部屋番と名前を教えてくれ」

「もう分かってんじゃん!?」

 

「あ、ほんとだ」

「気づけバカ!」

 バカとはなんだ。うっかりなだけだ。

 

「何のために挨拶に来ていたのよ。大体、なんで今更こんな事聞くの?」

「あー。なんていうか、お前やキャスターと仲良くしたい人がいるから、後日挨拶がしたいそうなんだ。だから、せめて部屋番と名前だけでも教えようかなと」

「ダメ」

「はぁ?なんでさ」

 

「あのねぇ、ここには英雄だけじゃなくて反英雄なんて人達もいるのよ?所謂、悪人って人達。だからってみんながみんな悪い人ではないとは思うけれど、少なからず私達にも危険が及ぶ可能性もあるわけ」

「ほう」

「それだけじゃなくて、英雄の人柄や性格だけでも相性はあるわけで、そのせいで自分のサーヴァントと極力衝突させないようにするのもマスターたる私達の役目の一つだと思うのよ。だから、性格もよく分からない人を部屋に入れる訳にはいかないってワケよ」

「ナルホドな」

「分かった?」

「つまり、教えていいのか?」

「ダメって言ってるでしょうが!!全然理解してないじゃないの!!」

 

「元気だなお前は。だが、こっちも頼まれた手前、そうそう諦めるわけにはいかん。なんとかならんか?」

「えぇー……。なら、せめてどんな性格か教えてくれない?そうでもしないと、私も判断に困るのよ」

「え、めんどくさいな。何より、さっき会ったばっかの人だし……」

「例えば、もし私の部屋に入って来たらどんな行動するを取りそうか……とかそういうのよ」

 

 マッチョな男、フェルグスが理沙の部屋に入ってくると……?

 

 と、いうことはキャスターと理沙が目の前にいるわけで……。

 

 

 

 

 

「まぁ、襲われるかもしれんなぁ(性的な意味で)」

 

「(攻撃的な意味で)襲われる!?」

 

 

 

 

 

「下手すると食べられるかもしれん(性的な意味で)」

 

「(捕食的な意味で)食べられるの!?」

 

 

「あんた、そんな化け物を私達に合わせようとしているの!?」

「化け物……?ある意味そうかな?知り合いだって言ってたから、すぐ行動には起こさないと思うけど」

「知り合いなのに襲うの前提!?どんな知り合いよ!?」

「女好きだからなぁ。我慢出来ないんじゃない?」

「ただの変態じゃない!!」

 

 ん?……まぁ、変態かな?『男は狼』みたいなイメージを地でいく人だしなぁ。

 

「わかった。せめて、キャスターの名前を教えるんだ」

「まだ覚えてなかったの!?」

 

 あの人の名前、ホントに覚えられない。

 

 ともかく、フェルグスに無理っぽいことを伝えに行くか……って、ん?

 

「おい、銀髪野郎」

 

 理沙と話していると、目の前に怒りを隠しもしていない男が立ちはだかった。ちなみに銀髪は俺のことである。今更だが。

 

「誰かは知らんが、俺にはヤマトっつー名前がある。そっちで呼んでくれ。そんで?何の用だ?」

「ここで会ったが百年目。貴様だけは許さん」

「そうか……って、おい待て。会話が成立してないぞ。そもそもホントにお前は誰なんだ」

「忘れもせん。この俺を見捨て、挙句には何人もの女の人と仲良くしやがって」

 

 女の人と仲良くしてんのはともかく、こいつを……見捨てた?なんかやったか……?

 

 

 ……。

 

 

 …………。

 

 

 …………あ。

 

 

 

 

 

 思い浮かぶは、かつて凄惨な景色を背にして駆け抜けた思い出。

 

 

『お前の事は忘れないっ……!』

 

 

 悲痛な声を背に受けながらも逃げた、あのときの––––––––。

 

 

『あれ?誰だっけ?忘れた、もういいや』

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ!?お前はロリっ子に拷問されてたロリコン!!」

「クタバレェヤァァァアアア!!」

「あっぶねぇ!?!?」

 ロリコンのハイキックが頭のすぐ上を掠める。

 ……って何しやがる!?ブリッジしなきゃまともに喰らってたんだけど!?どんだけ殺気籠めてんだ!?

 

「いいなテメェは!!可愛いサーヴァント連れてよ!!他の女の子とも会話出来てよ!!俺なんかさっきまでアサシン(くそガキ)に変な酒壺の中に押し込まれてたんだぞ!?手品師でもないのに脱出もどきをやって、死ぬかと思ったわ!!誰も助けてくんねぇし、貴様はココでにゃんにゃんやってるし!!余程死にたいらしいな!!」

「だから自己紹介の時に、隣に壺があったのね」

「ちょっと待てって!?それは明らかに八つ当たり……」

「問答無用ォ!!モテねぇ男子の心からの怨嗟を受け取れィ!!!」

 俺は咄嗟に行動出来ず、そのままロリコンの飛び蹴りが命中した。

 

 

 

 エルドラドのバーサーカーはある条件下において、バーサーカーの名の通りに理性を破壊し、狂う。

 その言葉は自体は、なんて事のない言葉。

 

 美しい。

 

 ただそれだけであったのなら。

 顔を顰めるぐらいで、彼女も内心悪く思わなかったかも知れない。

 

「美しいと、言ったな?」

 

 あの時、自分は戦士だった。

 決して、女を見せようとしたわけではなかったのだから。

 かつての屈辱が、たった今の事かのように蘇る。

 

 沸々と沸き起こる怒りが彼女を変貌させる。

 周りが分からなくなる。何も聞こえなくなる。あの時の怨みが。憎しみが。

 

「う……!うがああ……!!」

 

 理性諸共、全てを消し飛ばす。

 

 

 アタランテは首筋へ当てられた殺気を感じ、すかさず跳び退く。

「っ!?迂闊だったか……!だが、その言葉のお陰で納得は出来た。汝はあの––––––」

「何やってんのさアタランテ!!仮にもバーサーカーなら刺激しちゃダメなのは常識でしょ!?」

「くっ、すまない。だが、汝に言われるとは思わなかったな!」

「予め知ってた僕が注意し忘れてたのはあるけどね!いつでも迎撃出来るように!」

 桃髪の女性らしさを感じる青年、アストルフォが殺気に気付いて、いち早く加勢した。

 

 アタランテが弓矢を取り出し、アストルフォはサーベルを抜く。

「ふむ。アストルフォ、そういった情報は早めに伝えてくれ。……さて、また部屋が荒れてしまうが、私達も慣れたものだな」

「英霊の力なんてもんで荒れる程度なら軽いもんだろ。まぁ、最近体が鈍ってたトコだ。丁度いいじゃねぇか」

 エミヤが双剣を投影し、クー・フーリンが得物の槍と共にアストルフォの隣に立った。二人とも軽口を言っているが、決してバーサーカーから目を離してはいない。

「ところで、エミヤの赤い外套はどこ行ったの?」

「…………今は聞かないでくれると助かる」

 アストルフォの疑問を、エミヤはそう濁した。

 

 

 エルドラドのバーサーカーには、前で戦闘体勢に入っている四人が誰なのかが理解出来ていない。特に、二人の男に向ける目には、全く別の人物を幻視していた。

 

 –––––––あの男だけは許さない。

 

 –––––––今度こそ、コロス!!

 

 

 バーサーカー故に、狂った認識を正そうとさえ思わず。ただ、憎しみを叩きつける。

 前方を睨みつけ、地面を蹴り出そうとした時。

 

 バーサーカーの後頭部にマスターが直撃した。

 

 

「あ」

 

 

 おそらく、迎撃しようとしたサーヴァントの誰かから漏れた声と共に。

 

 

 マスターが。直撃した。

 

 

「痛ァ!?」

「ガァッ!?」

 

 

 マスターとは、もちろんヤマトの事である。

 お互いの頭をぶつけて崩れ落ちる主従は、どこか滑稽に見えた。

 

 

 

 

「あんッの野郎!!容赦なくドロップキックかますとかなんて奴だ!!」

「ウルセェ!!モテるヤツは敵だ!!」

 頭を押さえてしばらく悶えた後、俺はすかさず文句を垂らした。が、ロリコンは聞く耳を持っていない。

 大丈夫か、と声をかけながらバーサーカーを起こす。返事こそないが、手を引いて起こしてやった。無反応なのはきっと、酔いがまだ覚めていないんだろう。

 

「ヤマト、彼女から離れるんだ」

「大体なぁ!!お前、俺がモテる訳ないだろうが!!冗談も休み休み言いやがれぇ!!」

 誰かがなんか言っているが無視をする。先にこっちの話だ。ロクにモテてすらいねぇのに非リアからも妬みを喰らってたらたまったものじゃない!

 

「やかましい!!現にお前は女の子と10m以内に近づいてるじゃねぇか!!」

「テメェの恋愛の評価基準はどうなってるんだ!?」

 口から出る言葉が止まらない。ヒートアップしていって自分が何を言っているかも分からなくなるが、問題ない。

 

 ここで引くわけにはいかないんだ!このまま押し通る!!

 

「どうせ自分のサーヴァントに欲情したりしてんだろ!?」

「こいつのこんな真っ平らでフラットチェストなぺったんこに欲情する訳『ボギンッ』ないだろ、って人差し指の感覚が一瞬にして消し飛んだァァァアアア!?!?」

 

 何が起きた!?マグマに突っ込んだかのように人差し指が痛いぞッ!?

 捻れきった上に何故か第二関節から直角に上に曲がってる無残な指が見えてんだけど!?どう見てもモザイク処理案件だよねコレ!?

 

「馬鹿な……!?」

「おいおいマジかよ……」

「あれはどう見ても……」

 

 

 周りの驚愕を他所に、俺の頭がバーサーカーによって鷲掴みにして上に上げられる。

 

 前髪の奥から覗かれている目には狂ったような怒りはなく、ただただ純粋な憤怒があった。

 

 

「私の胸が……なんだと?」

「いやぁ、幼児体形だよねーってイダダダダダダッ!?!?脳が砕けるッ!?片手でりんごを潰す様に破壊しようとしないでェェエエ!?!?」

 

「二度はないぞ」

 

 まさか、こんなことになるなんて……!?くっ、こうなったら仕方がない!俺の一番得意とする説得術を見せるしかない様だな……!

 

 刮目せよ、これが俺の弁舌力だ!!

 

 

 

「貧乳は、ステータスなんだ。希少価値……なんだぜ……」

「……」

「ごめんなさい!!もう一回だけチャンスを!!だからもう片方の手を頭に添えないで!?」

 

「ヤマトはバカだとは思っていたが、ここまでとは」

「だな」

 

 この声!?エミヤだな!?くそっ、テメェだけは道連れにしてやるからな!?覚えてろよ!!

 あとこの声はケモミミの人か!?後で膝枕をお願いしよう。さっき、バーサーカーも気持ちよさそうにしてたし(現実逃避)。

 

「あ……」

 

 思わず声が溢れる。しかし、死にたくない一心で思考の海に潜る。

 

 どうすればいい!?コイツは何を求めている!?落ち着いて考えるんだ!

 

 

 

 求められるものは肯定。

 

 察するべきは胸。

 

 気付くべきはココロのスキマ。

 

 

 

 故に。明確な言葉をここに紡ぐ。

 

 

 

「貧乳こそ、ある意味究極の美しい形だと思う」

 

 

 だからこそ。案の定。地雷をいくつも重ねた上で踏み抜いた。

 

 

 そんな肯定はいらない。

 

 

 クーフーリンが呆れを通り越して笑うのはともかく、理性蒸発を持っているアストルフォすら真顔になれば、この言葉の愚かさが分かるだろう。

 

 

 この後、ヤマトの視界はブラックアウトする。

 どうしてそうなったか。本人を除き、誰の目にも明らかだった。

 

 

 夜は、もう少し続く。




ヤマト
耐久EX。死なない。バカ。

エルドラドのバーサーカー
あなた、狂化はどこへ行った?

ロリコン
耐久EX。死なない。アホ。

理沙
フェルグスコワイ。

アタランテ
知ってる顔?と、思ってたらNGワード言っちゃった。ごめんねバーサーカー。

エミヤ
外套はアルトリア達が美味しくいただきました。

クーフーリン
兄貴肌は健在。次回あたり死にそう。(雑なフラグ)

フェルグス
大体は勘で女が分かる。フェルグスなりに現代に適応しようとしたら、少し女性に対しての見境なさがほんの少しだけなくなった。


〜言い訳タイム〜
ごめんなさい。活動報告で三月末には絶対出すと言っておきながら気づけば半月。埋まりたい気持ちでございまする。しかし、年度末の忙しさや、新年度による忙しさが重なり、さらには「なんかしっくりこない」と文章全体を見直していたら、たまたまハマったバーチャルユーチューバーに時間をとられ、さらには大好きになった人が事実上引退になっておりココロがへし折れるわなんやらで……。
それでも頑張って書き上げようと頑張って、動画見て、文字打つ前に寝落ちして、結局書くタイミング見逃したりして、動画見てを繰り返し……。
でも、でもめっちゃくちゃ頑張ってた……ん?


え?ランサーのカルナさんが来る?……なんで?


欺瞞(嘘)を看破する為に来て、その上で努力していたかを検討する?


……。

…………。

……さらばだ(逃走)。


……すいませんでした。(ボロッ

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