「え?増えたけど?」
「え?」
「正確には、寝たら戻った。やったぜ」
「えぇ……どう言う事だ……」
「令呪ってカッコイイよな。この模様かなり気に入ってんだよな!後、ジャンヌの令呪の模様もカッコいいんだアレが。背中にびっしりと……」
「ジャンヌの背中の模様を何故知っているんだマスター?見せてくれたのか?」
「……」
「……」
「さらばだ」
「逃すか」
「おはよう」
今日はとても素晴らしい日だ。
俺こと、ヤマトは誰にも邪魔される事無く、普通に起床出来たことに感謝した。
いつもならば、最早恒例と化してしまったバーサーカーのお寝坊さんパンチによって壁に埋まるのがワンセットであった。
そんなことに比べれば今日はなんていい日だろう。
ただ、一つ問題があるとしたら。
「がるるるるる……」
めっちゃ威嚇されてることだろう。
……獣かお前は。
魔力不足。
これは前のスカサハズ・レッスンの事だけではない。以前からバーサーカーに送る魔力量が芳しくなかった。これは致命的な事だろう。
現界は保てる程はもらっている、とバーサーカーから確認が取れたが。
正直、英雄としての武装どころか、自分の服すらまともに発現させられていないという事実は、マスターにとって大変よろしくない事態だ。
今の服?俺の服を自分のものかのように着てる。
なので、今朝早速行ってみるはスカサハさんの部屋。
アドバイスを貰いに行った。
「魔力供給が良かろう」
「あざす」
自室に帰り、早速提案。
「というわけだ。魔力供給しようぜ!」
「何がどういうわけか細かく説明してもらおう。場合によっては意識無くなるまでぶん殴る」
「わかった」
仕方あるまい。これまでのアレコレを含めて完璧に説明してくれる。
「なんでボロッボロになってるんスかね?」
「自分の胸にでも聞いてみろ」
何故だ。「このままだとお前は全裸になるかもしれんぞ」としか言ってないのだが?
「胸ェ……?あ、そういやお前の胸成長してなぁい?前よりもデカくなったような……ブゲラァ!?」
「殴るぞ変態」
「もうなぐってんだろうが!?」
しかし、変態呼ばわりとは心外だ。
ただ、魔力供給とやらをしてみたいだけなのだが。
「マスター。よもや貴様、魔力供給がどんなものか知らないな?」
「ん?……そういや、具体的なもんまでスカサハ先生には聞いてなかったか。どんなのだ?」
聞いた途端、バーサーカーが少し硬直した。「それは……な。……あー、アレだ」と、言葉を濁す。
「?」
「つまりぃ……。モニョモニョ……の事だ……」
「え?なんて?」
「……っ!ええい!貴様の持っている魔術師のマニュアルに書いてあるだろ!それを貸せ!」
「お前……。あんだけ鼻高々にいっていたのに分からんのか?」
「違う!言葉を選ぶだけだ!」
本棚に律儀にしまっておいた、AUOの魔術師マニュアルを手に取って渡す。
そういや、AUOってどんな人なんだろうか。結局、会えてないんだよな。
噂によれば、夏に向けてのレジャー施設の企画を立てるために今はいないとかなんとか。
「目次は……。このページの『魔力について』のところか。ふむ……」
やっぱり、AUOと言うぐらいなのだから、さぞかし立派な王なのだろう。真名こそ知らないが、誰からみても憧れるような人に違いない。
「あったか。魔力供給は……これか。……っ!って!?これはぁ……!!」
案外、真名はアーサー王なのかもな。……でも、アレは確か騎士王……なんだっけか?
「なんだこれは!えっ、待て、こんな事もするのか!?私はてっきり……」
いや、マジに誰だ。AUの部分もかかってるなら、元素の金の表記もauだった筈だし、もしかして金ピカな人なのかも知れんな。
……あれ?歓迎会の時に、金キラキンの人が消し炭になってなかった?
……もしやあの人だったか……?
「………………」
そろそろいいかな?
「バーサーカー?」
「ああ!?な、にゃ、なんだ!?!?」
「え?いや、どう?分かった?」
「え、あ、ま、まぁ……?」
何か様子がおかしい。顔がかなり赤い。どうしたのだろうか。
まだ開いているマニュアルを見ようとすると速攻で閉じられた。
「お、教えればいいのだな?」
「なんで声震えてんの?……ふむ。いや、言わなくていい」
「え?そうなのか?」
「お前からやってくれ」
「!?!?!?」
「恥ずかしいヤツ感じのやつだったんだろ?リアクション見てたら分かるよ。なら、お前のタイミングでやってくれたらいいさ」
魔力供給と言われて俺が思いつくのは体同士の接触だ。接触する事でより円滑に魔力というものは供給出来るという予想だ。きっと抱きつく程度のものを要求されてるのだろう。基本的には恥ずかしがらずにズバッと言えるタイプのバーサーカーがこうなってるのだから、下手するともっと恥ずかしいところまで行くのかも知れないけど、そこまででもないだろう。
「う、うう、くっ……!」
「目は閉じてるから。勇気を出してやって見てくれないか?」
目を閉じて、胡座を組んだまま待機する。
こうした方がきっと、やりやすいだろう。抱きつくだけだし。
真っ暗な視界の中、後ろにバーサーカーがいるのが気配でわかる。
その気配が。
「うわああああああああ!!」
絶叫と共に消えて行くのを理解するのに、少し時間がかかった。
「助けてくれ!!!」
「「何事!?」」
いきなりチャイムを連打された挙句、涙目で飛び込んで来たバーサーカーに、シェヘラザードと、そのマスターの理沙はひどく困惑した。
「どうしたのバーサーカー!?何があったの!?」
「◯?☆∇¥@!ゑ$%〜〜ッ!!!」
「なるほど。全然わかりませんね……」
「状況よくわかんないけど、今のバーサーカーちょっとかわいい」
お茶を飲みきって落ち着く。まだ、若干涙を浮かべてしまっているが、それも全てあのバカマスターのせいだろう。
何故、あんなことやそんなことを私にやらせようとするのか……!最早屈辱すら生ぬるい拷問のようなものではないか……!
というか……。
(完全にアレは、所謂『薄い本』と呼ばれるものだったぞ……!)
つまり、18禁のそれ。
それが魔力供給の参考書としてマニュアルに載っていたのだ。
言葉を濁して伝えたいのに、何故どストレートにぶつけてくるのか。
……そもそも、何故わたしは、言葉を濁そうとしたのだ……?
「とにかく、ゆっくりして。ホットミルクだけど、飲めば落ち着くわよ」
「す、すまない……」
「いいのいいの!キャスターも飲む?」
「ありがとうございます」
少し啜り、辺りを見回す。
わたしにとっては、この時代の女という物はいささか新鮮に映る。華美な物を着て、優雅に過ごす。脆い存在と言ってしまえば不快に思えるが、争いが少ない現代においては有効な選択肢だったのだろう。
料理を教わろうと決意したのは、より効果的に戦闘へのモチベーションの上昇に影響に関わりがあると踏んだためである。しかし、蓋を開けてみれば、娯楽のように感じる自分もいるのだ。少なくとも、わたしの考え方と料理というものの目的は明らかに違っている。
困惑。わたしにとって、この現代に抱く大部分の感情だろう。
「バーサーカー、ちょっといい?」
「どうかしたか」
「代わりと言ったらなんなんだけどさ、手伝って欲しい事があるの」
「手伝って欲しいこと?」
「あそこの妙に豪華な装飾がしてある扉があるでしょう?」
「……たしかに、場違いなほどだな」
「今朝急に現れてさ。キャスターに聞いても心当たりがなくて。一緒に中を見てもらいたいなと思って」
「そんなことか。構わん。不埒者がいたならば、即座に砕いてやろう」
「ありがとう!流石バーサーカー!」
「よろしいのですか?バーサーカー。わたしは嫌な予感がするのですが……」
「気にすることはない。任せよ」
「いえ、貴女が開ける事が嫌な予感に繋がるのですが……」
「……?お前の直感か?まぁいいさ。障害ならば壊すのみだ」
そう言って、早速取っ手に手を掛ける。
リサはキャスターの後ろに隠れ、キャスターも杖を持って臨戦態勢をとる。
ドアノブを捻り、一気にこじ開け。
「ウェルカムトゥヘヴン」
わたしのマスターが現れた。
「「え?」」
「……嫌な予感が的中しました、のでしょうか」
「な、なな何故貴様が出て来る!?」
「そうよ!説明して!」
「え?だって、隣の部屋じゃん?」
「「そういう事は聞いてない(おらん)!!」」
「そんな事はどうでもいい。なぁバーサーカーよ」
「な、なんだ?」
「魔力供給、しようぜ☆」
「「うわァァァアアア!!!!」」
「脱兎の如く逃げられたな。おかしい、フランクに言うものではない……のか?」
「……魔力供給が何であるか、知らないのですか?」
「バーサーカーのヤツが魔力供給についての本を持って逃げてるからな。把握出来ないんだよ。とりあえず話だけでもしに追いかけねぇと」
「そうですか。頑張ってください」
「ダンケシェーンさんは「シェヘラザードです」……シェヘラザードさんは自分のマスター追いかけなくて平気なのか?」
「貴方は暴力を安易に振るうとは思えませんので」
「……信頼されてる、と思ってイイっすか?」
「ご自由に」
「ところで、何故わたし達の壁に扉を……」
「さらば!」
「「ダズゲデェェェェエエエ!!!!」」
「えぇ!?何、何!?」
「わたしのマスターが……!!」
「ヤマトが……!ヤマトが……!」
「とりあえず上がっていいから!わかったから!」
次に潜り込んだのはライダー・ブーディカの部屋。
二人は麦茶を渡されていた。
「とりあえず、落ち着いてから話を聞くね。少し、キッチンの方にいるから、落ち着いたら教えてくれたらいいから」
「あ、ありがとうございます……」
「ああ、わかった……」
(どうするんですかあの変態……!流石に看過できませんけど……!)
(違うんだ……!あのバカ、魔力供給の手段もロクに知らずに善意で追ってきている……!説明の機会も逃してしまった……!)
(なんて間の悪い……!とにかく、ほとぼりが冷めるまで隠れてましょうか)
(そうだな……!)
「二人とも?」
「「ふぇい!?!?」」
「そんなに驚かれるとは思わなかったなぁ。これ、お茶請け置いとくね」
そう言って、テーブルにお菓子を置いていくブーディカ。
その後ろ、ベランダの左上からこちらを睨んでいるヤマト。
ヤマト。
「「〜〜っ!?!?!?」」
(なんなのだあいつ!?なんでもう居場所がバレてるのだ!?)
(もはやホラーのソレだよ!?入ってきたりしないよね!?)
「あら、チャイムだ。お客さんが来たのかな」
「「駄目ぇ!!!!」」
「えぇ!?なに!?どうしたの!?」
「今は駄目だ!!確実にやられる!!」
「ブーディカさん!!早まらないで!!」
「……何のことかイマイチ分からないけど、今日はお客さんがお茶菓子を配りに来てくれるの。上手く出来たから食べて見てほしい、って。だから、その子を門前払いしたら可愛そうでしょ?ね?」
「たしかにそうですけど……」
「分かった。誰が怖いのか分からないけど、その子以外は絶対にこの部屋に入れないから。お姉さんとの約束っ」
「……すまない、ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ開けてくるね」
「流石に、ブーディカさんの都合は邪魔しちゃいけないし、仕方ないよね」
「そうだな」
「問題はそのお客さんが誰か、だ。そこまで考えられたらよかったのにな」
「そうだね……って、え?」
「は?」
「いつまで逃げるんだ、お前らは?」
「「ワァァァァアアア!?!?」」
「あれ?もしかして、彼女たちが避けてたのって……」
「俺ですね。あっ、この菓子です。渾身の出来だったので是非食べてください」
「あ、ありがとう」
「……くっ!!」
「え、バーサーカー!?ちょ、いやぁぁぁ……!」
「あっ、逃げられたか」
「ベランダから逃げちゃったね」
「で?よからぬことでもしようとしてるのかな?だとしたら許さないよ?」
「あっ、そうだブーディカさん。その事で聞きたい事が……」
「……で?私のマスターの衣服をめちゃくちゃにした挙句、物干しセットを見事に破壊してくれた君らは何をしに来たのかね?」
「我がマスターが……!」
「変態過ぎて……!」
「……大体察した。とりあえずは話し合いの場を設けるべきだが……。先にヤマトを止めればいいんだな?」
「「さすがオカン」」
「やめるんだ」
オカンこと、エミヤの部屋にジャンプして乗り移った二人は少し安堵の表情を見せた。
「あの……物干し竿はどう弁償すれば……?」
「気にする事はないさ。皮肉で言ったに過ぎんよ。後でカンタンに作れる」
「投影魔術ってやつですか?」
「ああ、このように弓も魔力さえあれば作れる」
「凄い……って、撃つんですか!?」
「安心しろ。峰打ちで済ませる」
「矢に峰打ちってありましたっけ!?」
「リサ、少々黙るがいい。エミヤ、来たぞ」
「承知した」
バーサーカーとエミヤが二の次も言わずに、合図によって目の色を変える。
エミヤの部屋に呼び鈴が鳴り響いた。
「どうするつもりだ。エミヤ」
「扉を開けた途端に撃ち抜く。他人の場合も考慮せねばならんが、大体は脊椎反射で十分対応出来る。……鍵は開いている!入ってきたまえ!」
ガチャリ、と音が聞こえる。
「おいアーチャー。この手紙どういう風の吹きまわしだ?」
「––––
「なぁっ!?ちょ、まっ、ぎゃあああ!?!?」
「ランサーが死んだ!?」
「このひとでなし!!」
「なっ、ランサーだと!?何故貴様が此処に––––!?」
「戸締りは確認すべし。主夫なら当然だろ?」
「後ろだと!?しまっ……!?」
「もう遅い!」
「三秒殺し!!」
「–––––––––っ!」
「カ、カンチョーされてる……」
「うわぁ……」
「さてと、クー・フーリンをおびき寄せてエミヤを沈めたところで。覚悟はいいか?バーサーカー?」
追い詰めた、と言わんばかりににじり寄る。
二人揃って猫みたいに怯えちゃってまぁ。特にバーサーカー。お前に至っては「くっ殺」にしか見えん。やめとけ。
まったく。
「ほら、その本寄越せ」
「……え?」
「早く」
奪い取るような形で本を開く。
詳しい行為、参考資料。その他、もしもの為の備考などなど。
なるほどね。やっぱり、こういう事か。ブーディカさんに聞いた通りだな。そりゃ口から出るのも憚れるはずだ。
「マスター……」
「なんだよ。性欲でしかものを考えない猿とでも思ってたか?だとしたら見当違いだ。上方修正を頼むぜ」
「そら、帰るぞ」
「ふっ、関係が戻ったようで何よりだ」
「エミヤ、まじごめん。だから尻抑えながらシリアスに入らないでくれ。笑う」
無事に帰って自室。理沙を部屋に送り返したその日の夜。
布団に寝そべっていると、バーサーカーが背中の方から潜り込んできた。
まぁ、布団が一つしかないから仕方ない事なのだが。
そして、不意にバーサーカーが口を開いた。
「……マスター」
「あ?どしたー?」
「すまなかった」
「……いいって言ってるじゃんか」
「その、な。怒らないでくれると助かるが」
「ああ」
「マスターは正直、馬鹿で変態で人を人とも思わない下衆でかつ、最低最悪な女の敵である性欲でしかものを考えられんクソザルだと疑っていたんだ」
「酷すぎねぇ!?思ったよりも俺の評価ってダメだった!?」
思わず振り向く。
彼女は少し目を見開いたが、そのまま言葉を繋げた。
「だが、––––」
「––––少し、な。認めてやろう」
「何をだよ」
「対等なのかも知れん、と思っただけの事だ。まずは私に認められる程度の男になってみせよ」
「そんぐらい、チャチャっとなってやるよ」
「ふん、魔力もまるっきり渡せずに何を言う」
「けっ、魔力供給の話題になった途端にしどろもどろになったヤツのセリフとは思えねぇな」
「……おやすみ。マスター」
「あいよ。おやすみ」
おやすみ……ね。
そういや、今までこんな簡単な言葉さえお前から聞いてなかったんだな。
瞼を閉じる。今日はいつもよりもよく寝れる気がした。
「アルトリアさーん」
「ん。ヤマトですか。どうかしましたか?」
「ちょっと過激なんですけどぉ、コレ見てくれません?」
「?」
「ちょっとだけ確認を、と思いまして……」
「……こ、これは!?な、なんと破廉恥な!?」
「あなたをモチーフにした構図がいくつか。ちなみに、このマニュアルを作った責任者は確かAUOという名前の人だとか……」
「……少し、席を外します」
「ついでに、俺からのお礼もやっておいてくれると助かります」
「エクス……カリバァァァアアア!!」
「待て、急にどうしたセイがぁぁあ!?!?」
「なぁにやってんだか、あの人は……。さて、バーサーカー起こしに戻ろっと」